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エルフの魔石狩り

 キャンサー洞窟がある狩場の調査を終えてから十数日後。

 あれから更にディアボロスの目撃現場を2ヵ所回って調査をした。

 しかし、その2ヵ所で新しい発見はなく、何の成果も得られず。

 そして明日も、次の現場へと向かおうとしていたのだが。


「平八! 私を魔石狩りに連れて行ってほしいんだよ!」


 帰宅後、明日の予定を決めている最中にフリージアがそう声を掛けてきた。

 ほほぉ、まさか自ら魔石狩りを志願するとは。

 フリージア、見所があるじゃあないか!


「おっ、魔石狩りをご所望とな。よし、それじゃあさっそく――」


 と、快く返事をしようとしたのだが。

 すぐに俺とフリージアの間に、銀髪のポンコツ騎士が滑り込んできた。


「フリージア、何を血迷ったことを言っているのでありますか! そんなこと言っちゃいけないのでありますよ!」


「わわっ!? ノ、ノールちゃん! 揺さぶらないで!」


 正気になれと言わんばかりに、ノールはフリージアの両肩を掴んで前後に体を揺さぶっている。

 そんな風に騒いでいると、エステルとシスハも集まってきたので事情を説明した。


「自分から魔石狩りに行きたいだなんて……一体どうしちゃったの?」


「だって私以外皆やった経験があるのに、1人だけやったことがないんだよ? この前話を聞いてから、気になって仕方がない! だから行きたい!」


「フリージア、気になる気持ちはわかるでありますけど、体験しなくていいこともあるのでありますよ……。自分から地獄に行く必要はないのであります!」


「ぶーっ」


 ノールが必死になって説得しているが、フリージアは不満そうに口を尖らせている。

 仲が良いノールが言っても諦めそうにないな。

 俺としてはそっちの方が、非常に都合がいいんだけどさ。


「まあまあ、本人の意思は尊重してやらないといけないだろ。3ヵ所目の調査も終わったタイミングだし、中休みとしてちょうどいい。魔石集めに一狩り行こうぜ! シスハもそう思うだろ?」


「はい、全くもって仰る通りですね。最近は真面目に依頼をしているせいで、ガチャや魔石集めが疎かになっていますから、忘れない為にもやるべきです!」


「依頼を真面目にやることは、良いことだと思うのでありますが……」


「お兄さんとシスハ相手に正論を言っても無駄よ、諦めて」


 正論でこの平八が考えを改めるとでも……うん、依頼を真面目にやるのはいいことだけどさ。

 だけど実際、魔石に余裕があるとはいえ、長期間魔石集めをしていない。これは由々しき事態だ。

 それに依頼とはいえ連続して移動、調査を繰り返して根を詰め過ぎている気もする。


「真面目な話をしておくと、最近休みが少ないだろ? だから休憩も兼ねて、少し息抜きでもしておこう。だから魔石狩りをやるとしても、深夜までやったりはしない。俺としても急に魔石が必要になった時の参考にしたいから、フリージアに体験させておくべきだろ」


「そんな機会がないことを祈りたいのでありますが……」


 そうなった時のことを考えているのか、ノールは二の腕を擦って声を震わせている。

 俺だって別に魔石狩り自体が好きな訳じゃない。ガチャの為に仕方なくやっているのだよ。

 それにフリージアの強さはわかっているけど、魔石狩りをするならどうやらせるかも考えておきたい。

 だから自発的に行きたいと言っている今こそ、魔石狩りに連れ出すチャンスだ。


「ノールちゃん! お願い! 私も魔石狩りをやってみたいんだよ!」


「うーん……フリージアがそこまで言うなら……」


「やった! ノールちゃんありがとう!」


 両手を合わせてお願いするフリージアに、渋々といった様子だがノールは了承した。



 翌朝、さっそく俺、シスハ、フリージアの3人で、久しぶりのゴブリンの森へとやってきた。


「さて、どうやって狩りをしていこうか」


「いつもなら湧き場所に突っ込んで暴れるだけですけど、フリージアさんは弓使いですからね」


「やっぱり森の中じゃ、フリージアは相性良くないかな?」


「うーん、どうでしょうか……」


 魔石狩りの定番場所としてここに来たけど、弓だと接近して戦う訳にもいかないからなぁ。

 そもそもの問題として、弓で効率的な狩りができるのか疑問ではあるけど。

 うーむ、そう考えると開けた場所のレムリ山でリザードマンを相手にした方がよかったか?

 でもケプール相手だと、一気に8体突っ込んで来るし狙撃だけじゃ倒し切れないから相手したくないぞ。

 俺とシスハが頭を悩ましている間、本人はというと。


「あはははは! 森の中って気持ちが良いんだよー!」


 木の上で笑いながら、枝にぴょんぴょんと飛び移ったり、両手で掴まりクルっと回ったりして遊んでいた。

 猿かあいつは……いや、エルフだからこそ森と相性がいいのか?

 普通に俺が地面を走り回るより早いぞ、ジャングルの王者かよ。


「あいつあんなに動けたのか……」


「単純な速さではノールさんやルーナさんの方が上だと思いますけど、森の中ではフリージアさんの方がすばしっこいかもしれませんね」


 うーむ、目の前で見ているはずなのに、気を緩めたら見失いそうなぐらい速いな。

 これならもしかすると、素早く弓でも狩りができそうだが……どうだろうか。

 しばらく動き回った後、フリージアは木の上から俺達の前に飛び降りてきた。


「うんしょ、っと! それで、ここで狩りをすればいいのかな?」


「ああ、一定の場所にゴブリンやオークが湧くから、何箇所かに絞って湧くと同時に倒していくんだ。そしたらブラックオークが湧くから、倒して魔石ゲットだぜ。わかったか?」


「了解しましたなんだよ!」


 ……本当に大丈夫だろうか。

 ビシッと敬礼して良い返事をするフリージアに不安を抱きつつも、どういう風に湧き場所を回るのか教えた。

 そして説明を終えた後俺とシスハは少し離れて、フリージアだけに任せて狩りを見学することに。

 

 まずフリージアは弓を構える……ことはせず、さっき遊んでいたみたいに木の上へと飛び乗った。

 それからゴブリン達がいる方向を見ると、数本の矢を筒から出して手に持ち、弓に番えながら枝の上を移動していく。

 見失わないように付いて行くと、彼女は飛び跳ねると同時に弓を次々と放っていき、徘徊しているゴブリンやオークに当てていく。

 一度に数本番えて放つこともあり、異常な数の矢が飛んでいる。

 勿論1発も外すことなく、的確に頭か心臓に着弾して体を半分近く消し飛ばして瞬殺。


 見難い場所にいたゴブリンなども、弓の軌道が不自然にカーブしてぶち込まれている。

 そのまま止まることなく、フリージアは木の上を移動しながら湧き場所を回っていき、あっという間に魔物を壊滅させた。

 これ、下を走り回って狩りをする俺よりも早いんじゃないか……。


「ふふん、これでいいんだよね!」


 一通り狩り終えたフリージアが戻ってくると、得意げに鼻息を出して胸を張っている。

 うん、文句の付けようがないぐらいだ。素直に賞賛したい。


「ああ……十分だ。これならここでフリージアも魔石集めができそうだな」


「これでフリージアさんも、私達と同じ魔石収集グループの一員ですね」


「わーい! 私もシスハちゃん達と一緒なんだよ!」


 弓じゃ効率的な狩りは無理かと思ったけど、そんなことなかった。

 やはりURユニットは伊達ではないということか……これで大人しかったら言うこと無しなんだけどな。


「よし、それじゃあ早速、今日は日が沈むまで狩りといくか!」


「うふふ、久しぶりのここでの狩りです! 心行くまで楽しませていただきますよ! フリージアさんも頑張ってくださいね!」


「うん! 頑張るんだよ! ……あれ? さっきお日様が昇ったばかりなのに、日が沈むまで……」


「ほら、余計なこと考えずにさっさと狩りを始めるぞ」


「う、うん!」


 フリージアが余計なことに気が付きそうだったが勢いで誤魔化し、俺とシスハも魔石狩りを始めた。

 そして数時間経ち、ノールが作ってくれた昼飯で休憩を取ることにしたのだが。


「うー、平八! もう狩り飽きた! こんなのお日様が沈むまでやるなんておかしいよ!」


 サンドイッチを頬張りながら、片手を挙げてフリージアが抗議してきた。

 さっきは勢いで誤魔化したけど、狩りをしている間に冷静になったみたいだな。

 それでもちょっと音を上げるのが早過ぎるぞ!


「おいおい、まだ半日もやってないじゃないか」


「そうですよ。ようやく体が温まってきた所です。来たいと仰ったのはフリージアさんじゃないですか」


「だって同じ所を何度も行き来して、ゴブリンやオークをひたすら倒すだけなんだよ? ノールちゃんがあれだけ嫌がってた理由もわかったよ……」


 フリージアは昨日のノールの言葉を思い出しているのか、俯いて暗い顔をしている。

 うーむ、かなり気分屋だし、長時間同じ作業をさせるのには向いてなさそうだな。


「まあ、そういうことならフリージアはもう帰ってもいいぞ」


「ええ!? 大倉さんでしたら、ならぬ! 1度付いて来たのなら最後までやれ! ぐらい言いそうですのに」


「俺だってそこまで鬼畜じゃねーぞ……。元々フリージアが魔石狩りできるかの確認だし、来たがっていた本人がもういいって言うならそこで終わりでいいだろう」


「ほぉ、大倉さんにしてはちゃんとした考えをお持ちでしたか」


「一言余計だ!」


 こいつは一体俺を何だと思っていやがるんだ……。

 約束破った罰として連れて来た訳じゃないし、今回はこのぐらいでいいだろう。

 これで約束を破ったらどうなるか、十分にわかったはずだ。


「あっ、でも帰る前に試したいことがある! スキルを使ってみたいんだよ!」


「うん? スキル?」


 昼飯も食べ終わり、フリージアを自宅に帰そうとした途端そんなことを言い出した。


「フリージアさんのスキルはどんなものなんですか?」


「確か広範囲に持続する攻撃だったな」


「弓で広範囲に攻撃ですか……どんな風に発動するのか、想像がつきませんね」


 えーと、フリージアのスキルはインベルサギッタだったか?

 GCでは空から大量の矢が降ってくる感じだったけど……この世界では一体どんな感じになるんだ。


「俺も見てみたいし、フリージアの反動も確認しておきたいから試しておくか」


「わーい!」


 どんなスキルかわかっていないと、いざ使おうって場面で困るかもしれないからな。

 特に戦闘職であるフリージアのスキルは、それだけで戦局を大きく変えてくれる。

 ……ああ、そういえばGCをやっていた頃、フリージアを持っているプレイヤーにスキル使われて、俺の軍団が蒸発した苦い思い出が……くっ!


 フリージアにスキルを使ってもらう前に、地図アプリで周囲の確認をした。


「よし、近くに人はいないから使っても問題ないぞ。やっちまえ!」


「それじゃあ、いっくよ!」


 俺の合図を皮切りに、フリージアは矢を番えて弓を構えた。

 それから元気よく叫ぶと、緑色の矢に光が集まっていき眩く輝き始める。

 上に向かって矢を向け、ミシミシと音がする程に弓の弦を引き絞り、ようやく矢が放たれた。

 放たれた矢は上空へと飛んで行くと、ある程度の高さで急停止。


 どうしたのかと俺とシスハが首を傾げていると……次の瞬間、空中で停止している緑に光る矢から何かが飛び出していく。

 よーく見てみるとそれは矢の形をしていて、その数はどんどんと増えていき、地上に向かって無数に飛来する。


「こ、これは……」


「うわぁ……地図アプリからどんどん赤い点が消えていきますよ」


「私の必殺技なんだよ! どうかな!」


 地図アプリにはかなりの数の赤い点が表示されていたのだが、それがみるみると消えていく。

 新しく湧いたと思われる魔物もいたが、湧いた途端に消えている。

 地図アプリで確認できる範囲の魔物は全部やられてるな……どんだけ範囲広いんだこれ。

 一瞬で魔石が10個以上手に入ったぞ。

 

 なんて感心していると、上空で浮いている緑の矢から、光り輝く物体がこっちに向かって飛んで来ていた。


「って、こっちにも飛んできてますよ!?」


「うおおぉぉ!? 何やってんだよぉぉ! 逃げるぞぉぉ!」


「あはははは! 私のスキル凄いんだよ!」


 急いで回り右して逃げていくと、さっきまで俺達いた場所に次々と緑色の矢が突き刺さって消えていく。

 地図アプリを見た感じだと、ブラックオークも即死する威力……もしこれがフリージアの攻撃力依存だったら、あれ1発が5000近い威力があるのか?

 もはや災害じゃねーか! ノールやエステルよりも凶悪だぞ!

 そのまま走り続けて、ようやくインベルサギッタの範囲外まで逃げ出した。


「ふぅ……こりゃ事前にやらせておいて正解だな」


「まさか無差別の広範囲攻撃とは思いませんでしたね……」


 遠巻きに森の方を見ていると、未だにフリージアのインベルサギッタは継続中で次々と緑の光が地上に降り注いでいる。

 スマホを見るとさらに魔石は10個増えており、スキルを使ってから合計20個以上手に入った。

 1度のスキルでこんなに手に入るなんて……フリージア凄いじゃないか!

 なんて喜んでいたのだが。


「あれれ……あへぇ?」


 急にふらふらと動いたと思いきや、フリージアは横にぱたりと倒れた。


「フリージア!? どうしたんだ!」


 慌てて近寄って抱き上げると、目を回して意識を失っている。


「……気絶、していますね。これがフリージアさんのスキルの反動ですか」


 おいおい……スキルの反動が気絶だと?

 ノールの筋肉痛も問題だけど、使った途端気絶するんじゃ、とてもじゃないけど戦闘中で使えないじゃないか!

 気絶して倒れたフリージアを介抱しつつ、俺達はしばらくの間遠くで降り注ぐ緑の光を眺め続けた。

 あのスキル、いつまで継続するのだろうか……。

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