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狩場の変化

 黒い魔光石を発見してから数日経った。


「やっぱり何も見つからないな」


「結局見つけられたのは、初日の魔光石の欠片だけになりそうね」


 ここ数日、浜辺や洞窟の中を探し回ったのだが、成果は得られず。

 お陰様でルーナにブーブーと文句を言われたけど、毎回何かを発見できれば苦労しない。

 隣を歩くエステルもそのせいでお疲れなのか、頬に片手を当てて溜め息を吐いている。


「エステル、疲れたか?」


「あら、心配してくれるの? なら帰った後、お兄さんにマッサージをしてもらおうかしら。ちょっと足が痛いかも」


「それぐらいお安い御用だが……うん、わかった」


 マッサージならシスハにしてもらった方が良いと思ったけど、それは言わなかった。

 前に俺がマッサージされているのを見ているのにご指名ってことは、俺にやってほしいということか。

 足場の悪い場所でもヒョイヒョイと移動していくノールやシスハ達と違い、エステルは常に歩き辛そうにしていた。

 それでも愚痴も言わずに何日も付き合ってくれてるんだから、感謝も込めてマッサージしないとな。


「そろそろここの調査は切り上げて、一旦協会に報告しに行こうか」


「ええ! もう終わりなのでありますか!」


「せめて蟹味噌の入った甲羅が見つかるまではやりましょうよ!」


「目的が変わっているわね……」


 洞窟の中を探索している最中、ノールとシスハが集まっている場所には大量の甲羅が散乱していた。

 調査のついでにキャンサーを倒しまくり、蟹味噌が入っていないのか探しているみたいだ。

 ノール達に呆れていると、真面目に探索をしてくれていたルーナとフリージアが近づいてきた。


「ようやく終わりか、早く帰りたいぞ」


「平八達は私が召喚される前から、こんなことしていたんだね。大変なんだよー」


「うーん、そうでもないぞ。ずっとこんな感じで協会の依頼を受けていた訳じゃないし」


 狩り主体で協会の依頼はついでな感じだったからなぁ……。

 本格的に冒険者として活動し始めたのは、Bランク昇格辺りだろうか。


「そうでありますね……。大倉殿の魔石集めを手伝う方が大変だったであります」


「この前平八に約束させられたけど、よくわからなかったんだよー」


「知らない方がいいこともあるのであります……。フリージア、大倉殿との約束、絶対守るのでありますよ」


「うーん? よくわからないけど、ノールちゃんがそんなに言うならわかった!」


 哀愁漂う姿で語るノールの姿に何かを感じたのか、首を傾げながらもフリージアは納得している。

 半分脅す形で魔石狩りを約束させたけど、本人よりノール達の方が恐怖を感じているみたいだ。

 この調査が落ち着いてきたら、1度俺とシスハの魔石狩りにフリージアを体験入隊させてみようかな。



 シスハ、ルーナ、フリージアを帰宅させ、ノールとエステルを連れてセヴァリアの冒険者協会へと足を運んだ。

 エステルも帰宅させようかと思ったが、黒い魔光石の件もあったので申し訳ないが一緒に来てもらっている。

 帰ったらお礼のマッサージをしっかりやらないといけないな。


 受付で調査の進展があったことを伝えると、すぐにベンスさんが話し合う場を設けてくれた。


「これが目撃情報のあった狩場で見つけた物です」


 前と同じ2階の部屋に行き、ベンスさんと席についた。

 そしてエステルが封じた魔光石の箱を机の上に置き、魔法を解いて中身を確認してもらう。

 どうやら問題はないみたいで、彼女は片手で小さく丸を作っている。

 ついでに地図を開いて、どの狩場で見つけたのかも伝えておいた。


「これが協会長の言っていた、例の魔物が所持していた魔光石なのかい? 触っても大丈夫かな?」


「ええ、砕かれているからもう効果はないわ。魔力が漏れないように封じ込めておいたけど、箱の中で特に変化もなかったみたい」


 エステルの返事に、ベンスさんは人差し指で何度か欠片を小突いた後、摘み上げてマジマジと眺めている。

 得体の知れない物だからな……触るのに躊躇するのも無理はないか。


「うーん、僕じゃ見てもなんにもわからないかな。こんな小さな石が異変を起こしたなんて、信じられないよ」


「それは欠片でありますから、本当ならもっと大きいのでありますよ」


「なるほど……調査を開始してこんなに早く発見できるなんて、流石は協会長が推薦した方達だね」


「たまたま運が良かっただけですよ。これ以外は何も見つかりませんでしたから」


「そんな謙遜しないで。君達より先に調査をしていた冒険者の方々でさえ、今まで何の手掛かりも見つけられなかったんだ」


 本当に謙遜しているつもりはないんだけどな……。

 ディアボルスが何かしていた証拠ではあるけど、それ以上のことは何もわかってない。

 ベタ褒めされても何とも言えない気持ちになってくるぞ。

 そう思っていると、ちょうどノールがそのことを呟いた。


「でも、どうしてあそこにあの魔物がいたのか、結局わからなかったでありますね」


「そうね。おじさん、あの狩場で特に異変とかは報告されていないのかしら? 私達普段の様子を知らないから、何がおかしいのかわからなかったの」


「キャンサー洞窟がある場所だよね? あの周辺でおかしな報告は今のところないかな。例の魔物の目撃報告があってから、立ち入りも制限していたからね」


 例の魔光石の効果があるなら、あの砂浜周囲で何か異変が起きているはずだよなぁ。

 ディアボルスを見つけてすぐに立ち入り制限をしたせいで、普段から行く人達が行かないから異変に気が付いていないのか?

 おかしな事といえば、シェルキャンサーがいたぐらいだが……その前に一通り質問してみよう。


「洞窟内の様子は普段どんな感じなんですか? この魔光石を見つけたのは洞窟内だったので、中の様子が知りたいんです」


「うーん、様子と言われてもね。あそこはキャンサーがいるだけで、特に変わったところはないよ? 行く人も皆付近の海岸にある海草目当てだからね」


 ぐぬぬ、特に変わったところはなし……ん? キャンサーがいるだけ?


「キャンサー以外に魔物っていないんですか? 希少種とかは……」


「上位種のブルーキャンサーならいるよ。あのキャンサーの甲羅から取れる蟹味噌がまた絶品でね」


「蟹味噌が取れるのでありますか! なら探して狩りに行かないと!」


「うん、今は黙ってような」


 蟹味噌と聞いて、ガタッと音を立てて椅子から立ち上がったノールの肩を掴んで座り直させた。

 真面目な話をしている時に、食欲的反応をしないでくれませんかねぇ。

 青いカニから取れる蟹味噌は俺も色々と気になるけど、今はそれどころじゃない。

 俺達はあの海岸で、ブルーキャンサーなんて1体も見ていない。

 それに口ぶりからすると……。


「貝の魔物っていないんですか?」


「貝? そんな魔物あの狩場にはいなかったはずだけど……。この辺りだと貝の魔物がいるのは、ソルン岬にいるシェルフィッシュぐらいだよ」


 やっぱりシェルフィッシュはいなかったのか。

 どういうことだ? 元々いた魔物が消えて、代わりに他の魔物が出て来るようになった?

 そうなった原因として思い浮かぶのは……目の前にある黒い魔光石、か。


「貝を背負った大きなキャンサーもいたけど、おじさんはその魔物に心当たりはあるかしら?」


「そんな魔物は聞いたこと……あっ、だいぶ昔に、どこかでそんな魔物が暴れた報告があったような……」


 どうやらシェルキャンサーも、普段からお目にかかれる魔物じゃないみたいだな。

 初日に遭遇して以降全く出てこないから、あそこにいたのはあの1体だけのはず。

 どうやら俺達の質問でベンスさんも気が付いたのか、ハッと目を見開いてオドオドし始めた。


「も、もしかして、この魔光石が原因でセヴァリアでも異変が起こっているのかい!? ああ、どうしよう! もうそんな異変が起きていたなんて! 今すぐ協会長に連絡を入れて――」


「お、落ち着いてください!」


「で、でも!」


 あまりの動揺っぷりに驚いていると、ベンスさんは立ち上がって部屋の外へ出て行こうとした。

 慌ててそれを制止しても、青ざめた表情で混乱しているご様子。

 おいおい、このままだと話もできそうにないぞ……。

 そんなベンスさんを見て、落ち着いた声でエステルが口を開いた。


「おじさんは支部長なんだから、慌てずに考えましょうよ。その調査の為に私達が来ているんだから、多少の異変なら対処できるもの。情報をまとめて判断をする人が冷静じゃないと、実際に動く私達まで困っちゃうわ」


「うっ……そうだね。ごめんね、見苦しいところをみせちゃって」


 幼いエステルに言われたせいか、ベンスさんはポケットからハンカチを取り出し、冷や汗を拭いながら椅子に座り直した。

 ふぅ、まさか支部長がここまで動揺するとは思わなかったぞ。

 クェレスの件を知っているんだから異変が起きるのは承知しているかと思ったけど……いざ起きたとなると焦るのも仕方ないか。

 俺だって同じ立場だったら、今頃腹痛に悩まされてトイレに駆け込んでいたかもしれない。

 それから落ち着きを取り戻したベンスさんと話し合いをし、今回の件も踏まえて少しでもおかしなことがあったら、俺達にすぐ連絡をしてもらい現場に向かうことを約束した。

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