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深まる謎

いつもお読みくださり、誠にありがとうございます。

3月30日、明日に書籍4巻の発売と、コミカライズが連載開始されます。

活動報告に店舗特典やプレゼント企画の情報を掲載いたしましたので、興味のある方は目を通していただけると嬉しいです。

 黒い魔光石を見つけた後も、しばらく洞窟の調査を続けた。

 しかし、それ以上の手掛かりは何も見つからず、シェルキャンサーもあれから姿を見せなかった。

 結局カニと貝を大量に倒しただけで、今日の成果と言える物は小粒の黒い魔光石の欠片だけだ。


「さっそくカニ料理を作るのであります!」


「わーい! 私もお手伝いするんだよ!」


 帰宅すると、すぐさまノールが台所へと駆け込み、フリージアもその後を追う。


「あの2人は探索が終わったばかりなのに元気ね」


「元気なのが取り柄みたいなもんだからな」


 エステルは椅子に座り疲れた表情で、頬杖をつきながらを今日見つけた魔光石の欠片を指先で弄っている。

 あの洞窟の中は歩き辛かったし、かなりお疲れのご様子だ。


「あれだけ探し回ったのに、見つけたのはその小さな欠片だけでしたね」


「全くだ。寝る時間を削ってまで私が同行したというのに」


 ルーナはシスハの膝の上に座り、モフットを抱えて撫で回していたが、口先を尖らせている。

 これでも十分な発見だと思うけど、重い腰を上げたルーナからすると不満みたいだ。

 というか、元々寝過ぎてるんだからこれぐらいで削ったと言われても……。


「何も見つからないよりはよかっただろ。これでも十分な結果だ」


「そうね。初日でこれを見つけられたのは大きな収穫よ。これもフリージアのお陰かしら?」


『なになに! 私のこと褒めてくれてるの! 照れちゃうんだよ!』


「……聞こえているなんて、凄い聴力ね」


 エステルが何気なく呟くと、台所からフリージアの大きな返事が聞こえた。

 姿は見えないけど、声色からして間違いなくニヤケ面を晒しているな。

 台所から俺達の会話が聞こえているとは……なんて耳してやがる。

 まあいい、それよりもこの黒い魔光石について話を聞かないと。


「それって例の黒い魔光石なんだよな?」


「ええ、多分そうだと思うわ。相変わらず、どんな魔法が込められていたかはわからなかったけど」


 発見後すぐにエステルに渡して調べてもらっていたけど、やっぱり欠片の状態じゃわかることはなさそうだな。

 これでディアボルスがいるってはっきりしたが、それ以上の成果は特になしか。

 探索をしてもこれ以上の発見はなかったし、これから行く他の場所で何か見つけられればいいが……そう考えていると。


「私にも見せてくれ」


 ルーナが珍しく黒い魔光石に興味を示した。

 エステルから欠片を受け取ると、彼女は手の平の上に載せて眺めている。

 前に見つけた物には特に反応してなかったのに、どうしたんだ?


「ふむ……これを持っていると、なんだか心地が良い。寝る時に持っていってもいいか?」


「駄目に決まってるだろ! 何が起こるかわかったもんじゃないぞ!」


「むぅ、残念だ。ぐっすり寝れそうなのに」


 また口を尖らせて、ルーナは拗ねたように石をエステルに返した。

 魔光石を持っただけで心地がいいとか、どう考えてもヤバイだろ。

 ルーナに注目していて気が付かなかったけど、モフットまで耳を立てて興味津々といった様子で黒い魔光石を見つめている。

 前にこれを手に入れた時には、こんなことなかったのだが……もしかして効果が違うとか?

 そういえば、ルーナがあの洞窟に入った時、居心地がいいとか言ってたよな。

 あれってこの魔光石のせいだったんじゃ……やはりあの中で何かが起きていたのかもしれない。


「モフットも興味があるみたいね……。あまり良い物じゃなさそうだわ。もう効力はないはずだけれど、厳重に保管しておきましょう」


「それでしたら私もお手伝いいたしますよ。ルーナさんに害を及ぼすような物、放っておけません! 2度と外の空気に触れられないぐらい、強力な封印を施しちゃいますね!」


「冒険者協会に渡すかもしれないから止めてくれませんかねぇ……」


 シスハがゴキゴキと指を鳴らして、今にも叩き壊しそうな顔で魔光石を見ている。

 封印という名の物理攻撃しそうなんですけど!

 今にも動き出しそうなシスハを取り押さえて、エステルが持ってきた小箱に黒い魔光石を入れた。

 そして彼女が白い本を片手に軽く杖を振ると、魔法陣が展開されて小箱が眩く輝いていく。

 

「……うん、これでもう大丈夫ね。中の魔力が漏れないように、箱を固定しておいたわ」


 しばらくして光が治まると、エステルは満足気にうんうんと首を縦に振っている。

 前に見つけた魔光石も預けていたけど、俺達の知らないところでこうやって保管してくれていたのか。

 本当にエステルさんには頭が上がらないな。


「それにしても、どうしてあんなところにこの欠片があったのでしょうか。飛び去っていくのが目撃されているので、誰かが倒した訳ではなさそうですし……」


「確かに……」


 今回発見した魔光石は、見つけた時点で既に前回俺達が砕いたような状態になっていた。

 ディアボルスが飛び去っていくのは目撃されているから、倒された訳じゃないと思う。

 だけどそうなると、意図的にあいつが置いていったってことか?

 もしかすると飛び去った個体と別の個体が、誰かに洞窟内で倒された可能性もあるのだが……ああ、もう本当に訳がわからない。

 エステル達も考え込んでいるけど、俺と同様にわからないのか眉をひそめている。

 すると、意外にもルーナが意見を口にした。


「罠だった、とかどうだ?」


「罠?」


「うむ、実際にあの馬鹿が拾い上げた時、突然魔物が襲ってきた」


『ルーナちゃん! 馬鹿なんて酷いよ!』


「……うっとうしい」


 罠、か。思い返してみると、フリージアが欠片を拾ったと同時にシェルキャンサーが襲ってきた。

 まるで誰かが拾うのを待っていたかのような感じだったが……ブービートラップかよ。

 狙って仕掛けていたんだとしたら、他の場所に行ったらさらに強烈な罠があったりするんじゃ……偶然だと思いたいな。

 一応その可能性も考慮して、心に留めておこう。


「そうなると、あのシェルキャンサーって魔物が怪しいですね。今回遭遇できたのはあの1体だけでしたし」


「それに関しては、一度協会に報告してみるしかないわね。もしかするとコロッサスみたいに、滅多に湧かない魔物かもしれないわ」


 シェルキャンサーは、グランディスのように魔光石で発生させられた魔物なのかもしれない。

 だが、あの時と違い周辺に魔物の異常発生などの報告がないから、ただの希少種だってオチもある。

 とりあえず、あと数日あそこを調査してからセヴァリアの冒険者協会に話をしに行けばいいかな。


「まあ、今回の発見でディアボルスがいることは確定したってことでいいか」


「そうね。自分達でその証拠を、実際に見つけたっていうのは大きいわ」


「証拠などではなく、そいつを倒したかった。そうすれば調査も終わりだ。たっぷり寝られる」


「あはは……それじゃあルーナさんが沢山寝られるように、早期解決に向けて頑張りましょうか」


 ジト目でダルそうに言うルーナに、シスハが苦笑いをした後優しい声で答えている。

 色々と憶測を立てて今後どうなるか不安だったけど、いつもぶれないルーナを見てると、そんな気持ちも薄れてきた。

 ……よし、憶測だけで弱気になっていても始まらないし、ルーナの睡眠の為にも頑張るとするかな。

 

 そう決意してからしばらくして、ノール達が作っていた夕飯が出来上がった。


「お待たせしたのでありますよん!」


「早く食べたいんだよ!」


 ノールとフリージアが、それぞれ大きな鍋を抱えて居間へと運んできた。

 6人いるとはいえ、ちょっと多過ぎないか……? 軽く10人前以上ありそうなんですけど。


「随分と大量に用意してきたな……」


「沢山手に入ったので、色々と作りたかったのでありますよ! モフットにはお野菜であります!」


 鍋の蓋を開けてみると、どちらもカニの足やハサミが入っていた。

 足はプリプリの身がむき出しになっているけど、一部分だけ殻が残ったままだ。

 片方の鍋は沢山の野菜が一緒に入っていて、お馴染みの色鮮やかなキノコまで入っている。

 一方もう1つの鍋は、貝やエビ、白身の魚などが入った海鮮形だ。

 良い出汁が取れてそうだな……凄く良い匂いがするぞ。やばい、涎が出てきそうだ。

 これじゃノールになっちまう! ……でも、本当に美味そうだな。締めに雑炊やりたいぞ。

 

 食器を出すのを手伝い、待ちに待った食事タイム。

 モフットも床下で、シャクシャクと葉物の野菜をかじっている。


 器からはみ出す大きさのカニの足を手に取り、半分露出している身を取り出していく。

 ノールがちゃんと調理してくれたおかげで、簡単に取り出せる。

 ポンコツとかいつも思っているけど、料理に関しては感謝するしかないな。

 

 それにしても大きいカニだ……こんなの今まで見たことないぞ。

 だけど大きくても、問題は味だ。どれどれ……。


「うっま!?」


「むほぉ! こりぇしゅごいのでありましゅ!」


 思わず叫ぶほど、口に含んだ瞬間濃厚なカニの味わいが広がっていく。

 恐ろしいほどプリプリとして、肉厚な身。文句1つないほどカニだ。

 ノールも食べた瞬間飛び跳ねて叫んでいる。

 やっぱり魔物の食材は一味違うな……ノールが喜んで狩りに行くのも仕方ない気がしてきた。

 だって美味いもん。

 エステル達も好きな具材を器に移して、食事を楽しんでいる。


「カニの味が染みていて、野菜が美味しいわね」


「うむ、貝も美味い」


「ふごくおいひいね!」


「食べながらしゃべるな」


 フリージアが食べながら喋り、じろりとルーナに睨まれて怒られてからは黙って黙々と口を動かしている。

 その光景を微笑ましいと思いながら、何となくエステルの方に視線を移してみると……灰色のキノコを嬉しそうに頬張っているのが目に入った。

 ……うん、なんだろう。カニより嬉しそうに食べてもらえるのは嬉しいんだけど、何だか複雑な気分。

 そんなこんなで楽しみながら食事をしていたのだが、1名だけ真剣な顔つきで黙り込んでいる奴が……シスハだ。


「……ノールさん、確か胴体も落ちていましたよね? それはどうしたのですか?」


「あー、甲羅でありますか。あれ中身が入っていなかったのでありますよ」


「ええ!? そ、そんな……楽しみにしていたのに……」


「本当に残念なのでありますよ……。カニ味噌、食べたかったのであります」


 シスハは四つん這いになって落ち込み、ノールは顔を見上げながらカニを頬張っている。

 2人共残念がっているけど、目的が違ってやがる……シスハはいい加減酒から離れろ!

 呆れつつもその後もカニ鍋を楽しみ、食べ切れなかった分はノールさんが美味しく召し上がられた。

 不安からちょっと暗い気持ちになっていたけど、こうやって美味い物食べると気分も晴れていくな。

 さて、気持ちも前向きになってきたし、明日からも頑張るとするか。

いつもお読みくださり、誠にありがとうございます。

3月30日、明日に書籍4巻の発売と、コミカライズが連載開始されます。

活動報告に店舗特典やプレゼント企画の情報を掲載いたしましたので、興味のある方は目を通していただけると嬉しいです。

前書きにも書いてしまい申し訳ございませんでした。

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