キャンサー洞窟
2人組のグループ分かれて、この浜辺を半日ぐらい探索したのだが……一向にディアボルスがいた形跡は見つからなかった。
「ふぅ、今の所手がかりはなしか」
「別の場所で何かをした帰りに、たまたまこの辺りを通っただけって可能性もありそうね」
「うへぇ、それだと見つけられる気がしないぞ……」
向かった先は海だから追いようがないし、形跡を探すとしたら内陸側へ行くことになる。
もう数日探してみて何もなかったら、別の目撃現場に向かった方がよさそうだ。
ガチャのアイテムがあるとはいえ、大した手掛かりのない状態で広い内陸を探すのは俺達でも厳しい。
どうしたものかと考えていると、今にも倒れそうにヨロヨロと槍をついて歩くルーナが近づいてきた。
「疲れた……うっ、海面からの照り返しで体調が……」
「もう少し頑張ってくれ。終わったら好きなだけ……いや、2、3日は寝てていいから」
「むぅ、何故言い直した。もっと私を労わって寝かせるべきだ」
ルーナは槍をつくのを止め、頬を膨らませながらじろりとこっちを睨んでいる。
今まで平然と太陽の下を出歩いておいて、今更そんなこと言われてもな……というか、全然元気そうじゃねぇか!
そんな怠惰な幼女様がいる中、今度はノールとフリージアが、カニの足を大量に抱えて戻ってきた。
「むふふー、今回の調査は凄く有意義でありますね!」
「ノールちゃん凄い! カニが大量だよ!」
「お前ら……食材集めるのはいいけど、ちゃんと調べてるんだろうな?」
「勿論、抜かりないのでありますよ! 特に異常なしで――おっとと」
ノールはビシッと片手で敬礼したが、カニの足を落としそうになり慌てて抱え直している。
本当に大丈夫なのだろうか……。まあ、ノールならその辺りはしっかりやってくれるだろうから、信じておこう。
ポンコツでも一応信頼はしているからな。
「フリージアは何か感じたりしていないのか?」
「えへへ、海の風って気持ちがいいね!」
「そんな感想聞いてないんだが……」
「この周辺に異常はないってことでよさそうね」
フリージアなら何かを見つけたらすぐに騒ぎ出すだろうし、この様子だと本当に何もなかったみたいだな。
はぁ、探し回った数時間は完全に無駄だったか……なんて思っていたのだが。
「いえ、1つ気になる点がございますよ」
「……本当か? お前ろくに調べずに、ずっとカニを斬り倒してただろ」
「ふっ、この私がただ魔物を倒しているだけだとお思いなのですか。甘いですね」
チッ、チッと人差し指を立てて、シスハが口端を吊り上げて得意げな顔をしている。
なん……だと。どう見てもカニを斬り倒してばかりだったのに、何がわかったっていうんだ!
「あれだけキャンサーを倒しているのに、一向に希少種が出てこないんです。いつもでしたら、上位種的な魔物が何体も出て来るはずですよ。つまり、あの洞窟の中に何かあるはずです!」
「確かにそうだな……」
洞窟からキャンサーは出て来ているのは見たが、希少種は1体も見ていない。
殲滅する勢いでノール達が倒していたから、普通ならもう出て来てもいいはずだ。
もしかするとここの希少種が湧きにくい可能性もあるけど……少し違和感があるな。
「よし、周辺探索は一旦打ち切って、洞窟の中に入ってみるか」
これ以上外を探しても見つかる気がしないし、怪しいと感じる洞窟を先に確認してみよう。
それで何もなかったら、明日からは範囲を決めてローラー作戦でもやるしかない。
……こういう時5人しかいないのは辛いな。戦いだけじゃなくて、探索も数だよ。
さっそく洞窟の中に入ろうとすると、シュトガル鉱山の坑道と同じく内部は真っ暗だった。
エステルに頼み光魔法で内部に明かりを入れてもらってから、中へと足を踏み入れる。
他の洞窟などと違い海が近いせいか、コケなどで足元がヌルヌルして気を緩めただけで滑りそうだ。
「足場が悪いから、滑らないように注意するんだぞ」
「ええ、わか――きゃっ!?」
後ろを見ながらそう言った直後、俺が滑ると思った辺りでエステルが悲鳴を上げ前のめりになった。
すぐに反応して受け止めてやり、ギリギリ転ばず無事に済んだ。
ふぅ、滑るから転ぶんじゃないかと身構えていたけど、本当に転ぶなんて。
危険予知って大事よね。
「大丈夫か?」
「……うん。お兄さん、ありがとね」
「おう、慣れるまで俺の体に掴まってていいからな」
「ええ、それじゃあ手を繋いでもらおうかしら」
そう言って手を差し出してきたので、握り返しておいた。
すると……ニヤついている表情をしたシスハが目に入る。
「いやはや、大倉さんもだんだんと頼もしくなってきましたねー。自信と言いますか、余裕が出てきたってところでしょうか」
「そうでありますね。前はずっと見守っていないと、不安で仕方がなかったのでありますよ」
「お前らな……」
文句は言いたくなるけど、実際に以前の俺はノール達に面倒を見てもらったばかりだった。
狩場でもまず先行して歩いたりはしなかったし。
これもガチャ産の装備が整ってきたおかげだろうな。
……狩りをし過ぎて、だんだんと感覚が麻痺している気もするけど。
「私が召喚された頃には色々頼りになる奴だったのに、前はそんなだったのだな」
「えへへ、平八もノールちゃんに面倒見てもらっていたんだね! 私と一緒なんだよ!」
「一緒にしないでもらおうか!」
騒いで暴れるフリージアと一緒にされたくはないぞ!
いくら俺だってそんな風に迷惑を掛けたこと……掛けたこと……ないよね?
今までの自分の行いを省みて自信をなくし掛けたが立ち直った。
ノール達を先導して出てくるキャンサーを倒しつつ、下り坂の洞窟内を進んでいく。
すると細い通路が終わり、広い場所へと出てきた。
鍾乳洞みたく天井には尖がった細い岩が伸びており、複数の大きな水溜りが洞窟内を侵食している。
まるで地底湖だな。
「洞窟の中にまで水が貯まっているんだな。移動するのがめんどうだぞ」
「底の方で外の海と繋がっているのかも。魔物が居そうだから、あまり近寄らない方がよさそうね」
地図アプリを確認してみると、地底湖に赤い点がいくつかあった。
どんな魔物がいるのかもわからないし、下手に近づかない方がよさそうだ。
「フリージア、どうしたのでありますか?」
「この洞窟の中、嫌な感じがするんだよぉ……」
ノール達の会話を聞いて振り返ると、フリージアがキョロキョロと辺りを見渡して何かを探している。
この反応を見せるということは……当たりか?
「暗くてジメジメしていて、私は居心地がいい」
「それはただ暗いからルーナと相性が良いだけじゃ……。シスハはどうなんだ?」
「うーん、淀みのような物は感じますけど、そこまで気にするような物でもないですね。普段の狩場と大して差はありませんよ」
フリージアの反応は信じたいけど、シスハ達の反応はいまいちだな。
でも感覚の鋭さなら俺達の中じゃ1番みたいだから、ここはフリージアに期待しておこう。
洞窟に入って早速の反応に胸を躍らせ、水際を避けて奥へと進み始めた。
「ん? なんだあれ?」
「貝、でありますね」
キャンサーを倒しつつ進んでいると、その途中で大きな貝に遭遇した。
俺の背丈の倍近くある大きさで、扇形の湾曲した殻はシャコ貝のような見た目だ。
地図アプリを見ると赤い点で表示されている。
「随分と大きな貝ね。お兄さん、あれも魔物なの?」
「ああ、魔物みたいだな」
「……あの貝も中身が落ちるのでありましょうか」
……よし、なんか呟いてるポンコツは無視して、とりあえずステータスを見ておくか。
――――――
●種族:シェルフィッシュ
レベル:55
HP:5000
MP:0
攻撃力:100
防御力:6500
敏捷:10
魔法耐性:0
固有能力 なし
スキル 硬化
――――――
防御特化ってところか。それでも魔法耐性がないから、エステルさんの餌食だな。
「カニの湧き場所に貝の魔物なんているんですね」
「ゴブリンの森にもオークが湧くし、こういう狩場もあるんだろう」
「大きな貝だ。あれも硬そうだぞ」
「とりあえず攻撃してみる!」
先走ってフリージアが弓を構えて矢を放った。
そしてシェルフィッシュに当たったのだが……殻に浅い傷を付けて弾かれた。
流石にフリージアでも、防御特化の相手には攻撃が通らないか。
それでも浅く傷が付いているのは凄いけどな。
「むむっ、あの貝硬いんだよ!」
「ふふ、硬い相手だったら私の出番よね。魔法抵抗は高いのかしら?」
「いや、魔法抵抗はほぼないな。やっちゃえエステル!」
「任せて、えい!」
今度はエステルが前に出て、杖を掲げる。
魔法陣が杖の先端に現れると、そこから炎が噴射されて貝はあっという間に包まれた。
オマケにその斜線上にいたキャンサー達も、まとめて火炎の中に飲み込まれている。
そして炎の噴射が終わると……ジュージューと音を立てながら、シェルフィッシュは光の粒子になって消えて、丸くて白い物体を落とした。
あ、あれは……もしかして!?
駆け寄って拾い上げると、それは野球ボール程の大きさをした真珠だった。
「あら、綺麗な物が落ちたわね」
「うむ、それはなんだ?」
「真珠ですね。まさか海でも宝石を拾うことになるとは思いませんでしたよ」
「凄い綺麗なんだよ! 私欲しいかも!」
「……食べられないのでありますよ」
す、凄いな……貝の魔物だからって、まさかこんな物が落ちるなんて。
もしかして希少種なんじゃ! とスマホを確認してみたけど、魔石は増えていなかった。
これで希少種だったら、もっと嬉しかったんだけどなぁ。
1名を除いてちょっとした興奮に包まれた俺達は、テンションを高くして洞窟内の探索を続けた。
「倒しても倒しても、希少種らしき魔物が出てきませんね」
「うむ、それに変わったところも見当たらない。ここには何もないのではないか?」
「うーん、どうだろうな……」
「まだ調査を始めたばかりなんだから、空振りしても仕方がないわよ」
キャンサーとシェルフィッシュを倒しながら進んでいくが、今のところ異常は見つからない。
だけどシスハが入る前に言った、希少種がいないのが気になるな。
まさか水の中に潜んでる奴が希少種なんじゃ……。
「フリージア、また何か気になるのでありますか?」
「むむむっ、そんな気がするけど……そんな気がするんだよ」
フリージアがキョロキョロと辺りを見回し始めた。
相変わらずよくわからないことを口走っているけど、本当に何かあるのか?
なんて考えていたのだが……。
「あっ、見つけた!」
「こら! 待つでありますよ!」
急に地底湖に向かって走り出し、慌ててノールが後を追う。
俺達も急ぎ足でそれを追いかけた。
「ほらー! これだよこれー!」
地底湖の近くまで行くとフリージアはしゃがみ、何かを拾い上げた。
そして手を掲げながらこっちを向いて、アピールをしている。
その直後、地図アプリに地底湖からフリージアに向かい、急速に接近してくる赤い点が表示された。
叫んでそれを伝えようとしたが既に遅く、彼女の背面で水しぶきが上がり、巨大な赤い魔物が姿を現す。
見た目はキャンサーに似ているが、背中には大きな巻貝を携え体の半分近くを覆っている。
通常の個体に比べると数倍以上の大きさで、両腕とも巨大なハサミになっていた。
現れた魔物は早々に片腕を振り上げ、目の前にいるフリージアに向かい叩き付けようとしている。
すかさず俺はあるアイテムを取り出して、フリージアを見ながらスイッチを押した。
そのアイテムとは……対象と自分の位置を入れ替えられる、スパティウムだ。
押した瞬間俺は移動し、目の前に振り下ろされた巨大なハサミが迫ってきていた。
予め準備していた鍋の蓋を構え、それを受け止める。
「うおっ――りゃ!」
叩き付けられズッシリとした衝撃が体に伝わってきたが、踏ん張ってそれを跳ね返した。
それで体勢を崩してよろめいていた隙に後退して、フリージアを追って来ていたノールと合流する。
ついでに隙ができている間に、ステータスも確認しておいた。
――――――
●シェルキャンサー 種族:キャンサー
レベル:70
HP:8万4000
MP:3000
攻撃力:2400
防御力:4800
敏捷:65
魔法耐性:10
固有能力 潜伏
スキル 渾身の殴打 硬化 泡吹き
――――――
「大倉殿! 大丈夫でありますか!」
「ああ、それよりもあいつ出てきたぞ! 気をつけろ!」
シェルキャンサーは体勢を立て直すと、地底湖から上がって来る。
そして威嚇をするようにをカチカチとハサミを鳴らすと、口の辺りから勢いよく泡を噴射した。
ノールと一緒にそれを回避すると、俺達がいた場所に着弾して地面が大きく抉れている。
泡吹きなんて名前だけど、そんな生易しいものじゃないぞ……。
それからエステル達とも合流し、俺とノールが前に出て注意を引きながら戦い始めた。
ノールが一気に接近して足を斬り付け、レギ・エリトラの能力で動きを鈍らせる。
その後泡吹きを警戒しつつ、エステルの魔法をぶち込んでいきジワジワと追い詰めていった。
風の魔法で次々と足を斬り飛ばされ、泡吹きをしようと口を開いたところに、フリージアの矢とルーナの槍を叩きこまれて体を仰け反らせてそのまま倒れこんだ。
さらにエステルが追撃で貝に使った火炎魔法を噴射させ、倒れているシェルキャンサーは火に包まれた。
動けないのかその場で苦しみようにもがいているが、容赦なく浴びせられる火にだんだんと動きは弱っていく。
そして力尽きるように掲げていたハサミが地面に落ちると、体の端から光の粒子になって消えていった。
「ふぅ、洞窟内でこんな魔物と遭遇するなんてな……」
「やっぱり水辺には近寄らないで正解でしたね。あれがここの希少種なのでしょうか?」
「そうね。もしかすると、水の底に大量に発生しているかもしれないわよ。雷打ち込んでみる?」
「一気に出てきたらやばいから止めてくれ……」
スマホを確認すると、魔石が1個追加されていた。
あれがここの希少種だったのか……?
俺達なら問題なく倒せる程度だったけど、あんまり相手にはしたくないな。
ここでの魔石狩りは止めておこう。
「狩場は危ないのでありますから、勝手に走ったりしちゃ駄目でありましょ!」
「うぅ、ごめんなさい……」
「だいぶ収まってはきているけど、何かあると反射的に動いちゃうみたいね」
無事に戦闘は終えたものの、先走ったフリージアがノールに怒られてシュンと肩を落としていた。
前に比べたら随分とマシになったけど、突発的に動くのは勘弁してもらいたいな。
「まあまあ、無事だったんだからいいじゃないか」
「そうでありますけど……もっと厳しく言い聞かせた方がいいと思うのでありますよ」
「今まで怒ってばかりいた平八にしては、優しい物言いだ」
ルーナが腕を組んで珍しい物を見る目を俺に向けている。
怒鳴りつけて怒っていても仕方がないからな。
そんな訳で、ちょっと変わった形で反省を促したいと思います。
「フリージア、今回は怒らないけど、今度からは何かを見つけたらちゃんと僕達に知らせるんだよ。お前は良い子なんだから、きっと理解してくれると僕は信じているからね。平八との約束だよ。ほら、指きりしておこう、小指を出すのだ」
「う、うん……」
「指きりげんまん嘘ついたら魔石狩りに連れまーわす、と」
いつも俯いて反省していたフリージアが、青い顔をして俺の方を見て震えている。
ノール達が散々気味悪がっていた口調にしてみたけど……なんか予想以上に怖がられているんだが。
「説教よりよっぽど怖いであります……」
「鳥肌が立ってきましたよ」
「うむ、私を召喚した時みたいな口調だ」
うん、わかっていたけどその反応は傷付くから止めてほしい。
「それで、フリージアが見つけた物はなんだったのかしら?」
「ええっと、これなんだよ」
「えっ、それって……」
フリージアが握っていた手を開くと……砕けた黒い水晶のような物が握られていた。
これってディアボルスが持っていた、黒い魔光石じゃ……。
いつもお読みくださり、誠にありがとうございます。
3月30日に書籍4巻の発売と、コミカライズが連載開始されるそうです。
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ここまでやってこられたのも、読者の皆様のお陰です。
本当にありがとうございました!




