表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
160/409

調査開始

 調査を依頼されてから3日後。

 俺達はディアボルスが目撃されたという場所へとやってきた。


「ここが目撃現場の1つでありますか」


「こんな場所にいたなんて、一体何が目的だったのかしらね」


 今回俺達がやって来たのは、セヴァリエから少し離れた海岸だ。

 砂浜には魔物がうろちょろと徘徊しており、近くにある切り立った崖には横穴の洞窟が空いている。

 あそこから魔物が湧いて出て来るのだろうか。

 

 魔法のカーペットで3日は掛かったから、馬とかで来たら片道5、6日程。

 他の発見場所に比べるとまだ近い方なのにこれだけ掛かるとなると、目撃報告場所を全部回るだけでも骨が折れそうだ。

 さっそくビーコンを設置して、自宅で待機していたシスハ達に連絡を入れて現地に来てもらった。


「うふふ、久しぶりの新しい狩り場です! 今日は張り切っちゃいますよ!」


 シスハはゴキゴキと指の関節を鳴らして、満面の笑みを浮かべ殺る気満々発言をしている。


「今回の目的は調査だからな。魔物を倒すより探索優先だぞ」


「んもぉ、新しい狩場に来たのですから、希少種ぐらいは狩って行きましょうよ。それに調査とか言ってますけど、大倉さんだって新しい魔石狩りの候補地を探そうとしているんじゃないんですか?」


「よくわかっているじゃあないか。その通りだ!」


「なっ、そんなこと考えていたのでありますか!」


「もう、お兄さんはそういうところで抜け目がないわね」


 ノールが驚きの声を上げ、エステルも頬に手を当てて困ったように視線を俺に向けている。

 せっかく調査としてセヴァリア周辺の狩場を回っていくんだ。

 新しい魔石採取の場を探すのは当然じゃあないか。


「騒いでないで調査を始めよう。早く終わらせて帰りたい」


「あっ、すまんすまん」


 俺達の会話を黙って聞いていたルーナが口を開いた。

 調査だけなら俺、ノール、エステル、シスハだけでも十分だったけど、今回の目的はディアボルスを見つけることだ。

 前回は大した被害もなく倒せたが、あれでも強いことには変わりない。

 なので万が一に備えて、ルーナとフリージアも連れて来ていた。


 ディアボルスの発見報告があった場所は協会から注意勧告が出ているみたいで、今は他の冒険者が来る頻度もだいぶ減ったそうだ。

 お陰で安心してこの2人を連れて来られるから助かる。

 まあ、念の為に地図アプリで周囲の警戒もしているけど。


「でも調査と言っても、何をすればいいのでありましょうか。あの魔物を見つけて、倒すのでありますか?」


「まずはここで何をしていたのか、調べた方がいいんじゃないかしら? それとディアボルスを見つけたのなら、今はフリージアもいるのだし、できれば捕まえたいわね」


 確かに海岸に来るなんて、一体何をしに来ていたのだろうか。

 エステルの言うとおり、弓使いのフリージアなら対空のスペシャリストと言ってもいいはず。

 戦うことになったとしても前回より楽に倒せそうだし、余裕があるなら捕まえるのもありだな。

 情報を聞きだしたりするのは無理かもしれないけど、何かわかることがあるかもしれない。

 そんな働きを期待されているフリージアはというと……黙り込んで砂浜の方を見ている。


「フリージア、何を見ているのでありますか?」


「えへへ、あそこにいる魔物を見ていたんだよ。ずっと横に歩いてて面白いよ!」


「あー、カニだもんな」


 俺達の目の前にある砂浜を、人より大きそうなカニが何匹も歩いていた。

 全身真っ赤な甲殻に覆われ、細長い足に右側だけ巨大化した大きなハサミを兼ね備えている。

 見た目的にはタラバガニに近いかもしれない。

 ここにいる魔物は確か……キャンサーだったか?

 こりゃ随分とご立派なカニですこと。


「見た目からして、北の洞窟のサソリと同じぐらい硬そうね」


「ベンスさんも硬いとか言ってからな。まずはステータスを確認しておくか」


 支部長の話だと、キャンサーは物理的な攻撃に強いそうだ。

 そうなるとサソリみたいに、エステルに頼ることになりそうだが果たして……。


 ――――――

●種族:キャンサー

 レベル:50

 HP:2500

 MP:0

 攻撃力:500

 防御力:2000

 敏捷:50

 魔法耐性:0

 固有能力 なし

 スキル 渾身の殴打

――――――


「これぐらいならエステルの魔法以外でも普通に倒せそうだぞ」


「あら、残念。せっかく私の見せ場かと思ったのに」


 レベル自体低いし、防御力も2000程度。今の俺達なら楽々物理で貫ける。

 フリージアの弓でも余裕で貫通するだろうな。

 見せ場がないとか言ってるけど、エステルは北の洞窟で頑張ってくれてるからこういうところで楽をしてもらいたい。


「それで、一体どの辺りでディアボロスは目撃されたのでありますか?」


「えーと、メモによるとこの海岸近くみたいだな。希少な海草を冒険者が採取している最中に見つけたそうだ。どこから来たかわからないけど、海の方に向かって飛んで行ったらしい」


「その報告だと、外にいたのか洞窟内にいたのかわかりませんね」


「両方調べないといけなさそうで面倒だ」


 パッと見たところ、この海岸に不審な点はない。

 異常な魔物がいる訳でもないし、違和感のある物体も見当たらない。

 もしかすると海岸から離れた位置にいた可能性もあるけど……やっぱり怪しいのはあの洞窟の中かな。

 どちらにせよ、まずは外を調べて回るとするか。

 それで何か見つからなければ、あの洞窟の中に入るしかなさそうだ。


「むふふ、あのカニを倒したら、サソリみたいに甲殻とか落とすのでありましょうか? 身が詰まっていたりしないでありますかね。倒したらそのまま残ってくれる方が嬉しいのでありますが……」


「お前はあの魔物まで食うつもりなのか……」


「あはは……ですが確かに、あの大きさのカニがそのまま残れば沢山食べられそうですね」


 このポンコツ騎士はまた食べ物について考えやがって……まあ、俺としてもちょっとだけそのまま残らないかな、という考えは過ぎっていたけど。

 魔物を食うというのは相変わらず思うところがあるけど、散々オーク肉や魔物が落としたキノコを食べているから今更だな。

 あのサイズのカニとなると、一体何人分あるんだろうか……カニ食い放題だぞ。

 確認も終わったところで、魔物を倒しながら海岸周辺の探索を開始した。


「横にしか移動しないから簡単に当たるんだよー。それに殻で覆われているのに脆いね」


「うむ、私の槍でも楽に通るぞ」


「フリージアとルーナだけで十分みたいだな」


「そうね。遠距離攻撃役がいると頼もしいわ」


 近づくまでもなく、ルーナの槍の投擲とフリージアの弓でキャンサーは葬り去られていく。

 彼女達の攻撃が当たると、体が軽々と半分近く消し飛んで光の粒子になっている。

 ルーナは普段引きこもりで、フリージアはじゃじゃ馬で苦労するけど、探索とかで一緒にいてくれると心強いな。

 俺達のパーティもだいぶバランスよくなってきたんじゃないだろうか。


「エステルさんも似たようなこと、できるじゃありませんかー。はぁ、私も遠距離で攻撃できる武器が欲しいですよ」


「シスハは一体どこまで戦闘特化になるつもりなのでありますか……」


「どこまでも、ですよ!」


 ドヤ顔で親指を立て言うシスハに、ノールが言葉を失い呆れている。

 こいつ、既にバーサーカーみたいな状態なのに、遠距離攻撃まで手に入れようとしているぞ……。

 これで神官としても有能なんだからたちが悪い。


 それからしばらく、俺やシスハ達もキャンサーと戦いながら探索を続けた。


「おらっ!」


 キャンサーが大きなハサミを振り上げたところを見計らい、素早く懐に潜り込んでエクスカリバールを胴体に突き刺した。

 その一撃で半分どころか8割近く胴体が吹き飛び、キャンサーは光の粒子に変わっていく。


「……ふぅ、こいつらは動きが単調で攻撃が読みやすいな」


 今の俺ならこいつらの攻撃を受けてもまるでダメージはないけど、そうやって油断しているとまた足元をすくわれる。

 だから一応回避の練習も兼ねて、最近は攻撃をちゃんと避ける意識も始めた。


「初めての魔物相手にタイミングよく反撃できるなんて、お兄さんも随分と進歩してきたわね」


「俺だってそれなりに狩りをしてきたからな。まあ……あいつらと比べたら全然だけど」


 そう言って俺は、細長く光る棒を持って砂浜を爆走している神官様に目を移した。

 シスハに気が付いたキャンサーがハサミを振り上げると、彼女は瞬く間に接近しそのハサミを根元からマジックブレードで切断。

 ついでに足も数本斬り落として、最後は胴体に杖を叩き込んで光の粒子へと変える。

 キャンサーを倒し終えたシスハは、少しだけ不満そうに眉をひそめて戻ってきた。


「ゴブリンよりも手応えない魔物ですね。あの大きなハサミは飾りなのでしょうか?」


「交戦する時、真っ先に斬り落としておいて何言ってんだ……」


「シスハは相変わらずね」


 攻撃する前に斬り落とされてそこまで言われるのは、魔物とはいえ可哀相になってくるぞ……。

 なんて呆れていると、今度は離れた場所にいたノールが叫びながら戻ってきた。


「大倉殿ー! 身、身が詰まっているのでありますよー!」


「えっ、マジ……なんだそれ?」


「足であります!」


 ノールは赤く細長い物体を差し出してきた。

 それは間接があり殻に覆われた真っ直ぐなカニの足。

 大きさは1メートル近くはあるだろうか。

 食えるんだろうけど……足だけっていうのはシュールだな。

 すると今度は、ルーナ達も何かを持って戻ってきた。


「平八、ハサミも落ちたぞ。こっちにも身が詰まっている」


「胴体部分の殻も落ちたよ! 大きい!」


「むふふ、大倉殿! この狩場は絶対ビーコンを配置するべきなのでありますよ!」


 やっぱりハサミとかも落ちるんだな……一体どんな味がするのだろうか。

 それからノールが大興奮しているのを鎮めて、俺達は海岸の探索を続けるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 松葉よりタラバだよね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ