魔法の力
「Fに上がらないと駄目なんて、冒険者ってめんどくさいのね。一気にEランクにしてくれてもいいじゃない」
「まあ規則だからな。ノールは本当に平気か?」
「私はもう元気でありますよ! エステルが魔法を使うところ、私気になるのであります」
次の日、朝早くから冒険者協会に行き依頼を受けることにした。エステルの魔法を見るのと、ランクを上げる為にだ。
ノールは休んでいてもらおうかと思ったが、本人が来たいというので一緒に来ている。
「あら、期待されちゃってる感じ? これは張り切っちゃうわね。ふふ、一発大きいのいってみようかしら」
「普通でお願いしますエステルさん、ホント、頼むから」
長い杖を誇らしげに掲げ、少し得意げな顔をしている。
街1つ水没させられる奴が、本気出したらどうなるかわからないから止めろ。爆発の魔法とか下手したら、余波で俺達が吹き飛ぶかもしれんぞ。
「それにしてもお兄さん、眼鏡なんてかけてイメチェンなの?」
「また違った印象になるでありますな。なんだか知的に見えるのでありますよ」
俺は今眼鏡をかけている。目が悪くなった訳ではないので度は入っていない。
これはガチャで出たSSR、モニターグラスだ。スマホの画面に映された映像を、この眼鏡で確認することができる。
――――――
●モニターグラス
少しナウい眼鏡。スマートフォンの画面をここに映すことができる。
――――――
スマホは今ズボンに穴を空け、カメラが外を映すように向けてる。これで相手に気づかれることなくステータスの確認もできるようになった。
装備も鎧を変え、エクスカリバールと鍋の蓋も重ねたことによりグレードアップした。
――――――
●エクスカリバール☆6
攻撃+990
行動速度+75%
●鍋の蓋☆3
防御+350
●アダマントアーマー
防御+500
――――――
ふふふ、これで大分マシになったな。ただ見た目がバールと鍋の蓋持って、鎧着たスニーカーの変態にしか見えないのが辛い。
「おっ、早速ゴブリンとオークが来たか」
いつもの森の近くに着くと、早速魔物のお出迎えだ。これからエステルの餌食になると思うと、少し憐れだな。
「それじゃいくわよ。え~い」
気が抜けそうな緩い声と共に、彼女が杖を振るう。すると彼女の周りに灰色の魔法陣が出現し、ポンッと音がした。
そしてこちらに向かって来ていたオークの上半身とゴブリンの頭が、何かに押されるように潰れ千切れ飛び散乱する。残った体はその後力無く倒れドロップアイテムへと変化した。
「ひっ!? グロテスクなのでありますよ……」
「お、おいエステル。もう少し、控え目なのはないのか?」
隣にいるノールは怯えたような声を出す。お前も同じようなこと、いつもしているだろうとツッコミたくなる。グロいのは同意だけどな。
それにしても今のはなんの魔法なんだよ。オークの上半身が後方に潰れながら吹っ飛んでたけど何も見えなかったぞ。
「むぅ、これでも風魔法で控え目なのだけど。あっ、じゃあこれでどうかしら、え~い」
森の中から追加の魔物が出現した。
彼女がまた気の抜ける声で杖を振るうと、今度は魔法陣の前に液体のような何かが集まり始めた。
液体がビー玉程になった瞬間、勢いよくオーク達に向かい撃ち出され体に十数個の風穴を開けて絶命させる。
「……今のはなんだ」
「ふふ、凄いでしょ? 水を凝縮して撃ち抜いてみたの。薙ぎ払って斬る事もできるのよ」
「もう何でも有りでありますな……」
無い胸を誇らしげに張り、得意げな笑顔をしている。凄いけど、凄いけどさ……ホントなんでもありだな。
何も無い場所からこれ程の水魔法を……またこいつ1人で全部いいんじゃないか勢か。
「おい、あれはなんだ?」
「あ、あれは……レッドオークでありますよ! レアもレア! 激レアなのであります!」
森の奥から複数の魔物が飛び出してきた。先頭を走るのは、全身が赤いオークだ。
ノールがそれを見て両手をぶんぶん振って興奮している。そんなにレアなのかこいつ。確かに魔石集めの時1体も見なかったな。
「まさかと思うがあれも……」
「そうなのであります! あれも通常の3倍の攻撃力を持つと言われているのであります。近づくのは危険なのでありますよ」
赤かったらなんでも3倍なのかこの世界は? とりあえずステータスアプリで確認してみるか。
――――――
●レッドオーク 種族:オーク
レベル:30
HP:1万
MP:0
攻撃力:1500
防御力:300
敏捷:10
魔法耐性:0
固有能力 無し
スキル 無し
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高いといえば高いが、今の俺達には大したことないな。でも、まだレベルの低いエステルは危険か。
ここはノールと俺で仕留めてしまおう――そう思っていた。
走ってくるオークを相手にしようと、俺とノールは武器を構える。しかし突然竜巻が発生しオーク達を飲み込み、周囲から岩が飛んできて風の中に吸い込まれていく。
しばらくして竜巻が消えると、手足があらぬ方向に曲がり、あらゆる箇所が抉れたレッドオークの姿が。そして動かぬまま、ドロップアイテムへと変化した。
「……おい、何やってるんだ」
「あら? どうかしたのお兄さん? 何か変な物巻き込んだわね、あれ何かしら」
「私が前衛として戦ってる時は、巻き込まないようにお願いするでありますよ……」
気が付かれることなく、エステルに処理されたレッドオーク。俺達が唖然としているのに気が付いて、彼女は不思議そうな顔をしている。
ノールと違いまた別の意味ではっちゃけそうなので、俺はなんだか頭が痛くなってきたぞ。
●
「ふふふ、私もこれでFランクだわね。じゃあ次はEランクの依頼受けましょう」
討伐証明を持って行き、Fランクの証である緑のプレートを受け取りエステルが戻ってきた。
「まあ待て、それはまた今度だ。それよりも1つ提案があるんだがいいか?」
「むぅ~、何かしら?」
「なんでありますか?」
「実はな、シュティングに行ってみたいと思うんだよ。エステルのEランクは王都で受ければいいだろう。あっちならこっちより依頼も多いだろうしな」
依頼主のいる討伐依頼は、大体がどこか他の村など離れた場所でのものが多い。それに依頼もそう多い訳ではないので、その依頼が来るまで待つのも微妙だ。
なのでいっそのこと、この機会に王都に行ってしまおうかと思う。あっちなら依頼の数も豊富だろうし、なにより迷宮など興味がある。
「私はいいわよ。迷宮って所に行ってみたいもの」
「私もいいでありますよ!」
「そうか、それじゃあ今日の残りの時間はシュティングにどう行くか考えるか」
まずシュティングがどの方向にあるのかすら知らない。行くとしたら情報集めから始めないと。
地図アプリは一度行かないとマップが記憶されないので、最初の1回目は敵を見つけるぐらいしか役立たないのがちょっとな。
「シュティング行きの馬車とかあるんじゃないかしら? 私歩くのは嫌よ」
「そうでありますな。長距離の移動になりますし、歩いて行くのはかなり日にちが掛かると思うでありますよ」
馬車、そういうのもあるのか。って有るよなそりゃ。
自分達で行く事だけを考えていたが、他人に頼るのもありか。
「んー、そうだな。とりあえず馬車を探してみるとするか」
●
「いらっしゃいませ」
「すみません、シュティング行きの馬車ってありますか?」
街の人に話を聞きながら、シュティングに行く馬車があるという店までやってきた。
中に入ると若い女性に迎えられる。どこの店も、若い女性を受付嬢にするんだな。
「ございますよ。ただシュティング行きとなりますと、5日後に行く便となりますがよろしいでしょうか?」
5日後か。雇えば明日にでも行けるのかと思ったが、そうじゃないみたいだ。
決まっているという事は、まとめて何台かで行くということだろうか?
「はい、それでお願いします」
「それではこちらをご確認ください。ご確認いただけましたら、こちらの書類にサインをお願いいたします」
受付の女性に書類を渡される。名前などを記入する物と、馬車を利用する際の注意書きが書かれた物だ。
利用料金は1人5万Gか。高いなおい。
食料は各自用意してもらうと書かれている。荷は馬車に乗せることができるそうだ。
シュティングの場合は10数日程の移動期間になるそうで、それを前提に用意してくれと。
まあ問題はないだろう。
俺は書類にサインをして女性に渡した。そして予約したことの証明書を受け取る。当日はこれを提示しないといけないみたいだ。
さて、5日後が楽しみだな。