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セヴァリア支部

 昨日まで観光気分で過ごしていたが、今日はようやく協会に足を運ぼうとセヴァリアにやってきている。

 ノールとエステルだけを連れて来て、フリージア達は留守番だ。

 念の為シスハにディメンションブレスレットを渡しておいたから、フリージアが暴走してもすぐ捕まるから平気なはず。


「うぅ、狩りのない平和な日常が終わってしまうのでありますよ……」


「仕方がないでしょ。元々協会の依頼で来たんだもの、いつまでも観光をしている訳にもいかないわ」


「そうでありますけど……うぅー」


 ノールが憂鬱そうな声を上げて、肩を落とし歩いている。

 まるで日曜日の夜や、連休明けに嘆いている人を見ているようだ。


「安心しろって、魔石集めもちゃんと再開するからさ」


「それで何を安心しろって言うのでありますか! 最近は大倉殿も落ち着いてきて、ガチャのことを言わなくなってホッとしていたのでありますのに……」


「その分しっかり反動が返ってくるから、期待してくれよな」


「もうやだぁ……お家帰るのであります……」


「お兄さん、ノールをからかって遊んじゃ駄目でしょ」


「はは、すまんすまん」


 ノールの嘆く姿を見ていると、ついつい弄りたくなってくるぞ。

 でも実際、フリージアを召喚してから本格的な魔石集めをしていないから、そろそろ再開するつもりだ。

 火力枠として1人増えたし、前よりも効率は上がる! と思っているんだけど……ちょっとした悩みもある。

 弓使いであるフリージアは、どの狩場で活躍してもらえばいいのだろうか。

 ゴブリンの森じゃ木が邪魔になりそうだし、北の洞窟じゃ攻撃が通らない。

 自称雑魚専門のルーナに比べると、フリージアは効率狩りにあまり適してなさそうだ。

 ラピスみたいな擬態している相手なら活躍してくれるのだが……まあ、それは実際狩りを始めてから考えるとするか。

 

 町の人に冒険者協会がどこにあるのか尋ね、入り口から中央へ向けてしばらく移動。

 そして見覚えのある看板が見えてきて、冒険者協会に到着した。

 ブルンネよりは大きいけど、王都の協会と比べると小さな二階建ての建物だ。

 クェレスの協会と同じぐらいだから、主要な町の支部はこのぐらいの規模なのかな。

 早速中へと入り、受付嬢さんに声を掛けた。


「あの、今日初めてこちらの協会に来たんですけど……」


「既に冒険者のご登録はお済でしょうか?」


「はい、プレートをお渡しして書類に記入をすればいいんですよね?」


「そうですね。それではプレートをお預かりいたしますので、その間にこちらへご記入ください」


 プレートを渡し受付嬢さんが奥へ行っている間に、毎度お馴染みの書類に記入をしていく。

 もう4回目になるから、この作業も慣れたものだ。

 記入を終えて少し待つと、受付嬢さんが帰ってきてプレートを返却してもらったのだが……。


「大倉様……ですよね? もしかしてシュティングからお越しの……」


「はい、王都の協会から依頼を受けて、この町へ足を運びました」


「やはりあの大倉様達でしたか。お話がありますので、少々お待ちください」


 書類を確認した途端、俺達を置いて二階へ行ってしまった。


「来たばかりなのに、話ってなんでありましょうか?」


「ディアボルスについてじゃない? あの魔物の発見報告があったから、私達はこの町に来たんだもの」


「あっ、そうでありましたね。えへへ、観光をしていてすっかり忘れちゃっていたのであります」


「どうせ港町って聞いた瞬間から、食べ物のことしか頭になかったんだろ」


「そ、そんなことないのでありますよ! 全く、失礼しちゃうのであります!」


 ノールがブンブンと腕を上下に振って怒っている。

 いやいや、あの様子やこの町に来てからの行動を見てたら、誰だってそう思うだろう……。


 それからすぐに受付嬢さんは戻ってきて、俺達は2階にある部屋へと案内された。

 中へ入ると、そこには小太りのおじいさんが。

 ニコニコと眩しいぐらいの笑顔を浮かべ、凄く歓迎ムードだ。


「やあやあ、君が大倉君か! 話はクリストフさんから聞いていたよ! 大討伐を解決し、迷宮も踏破! さらには異例の早さでBランクになった、期待の新人冒険者パーティだとか! いやぁー、君達がこの町に来ると聞かされてからは、気になって気になって仕事に手が付かなくて……あっ、立ってないで座って座って」


「は、はい」


「凄くよく話す人でありますね」


「割り込む暇もなかったわ」


 いきなりのマシンガントーク、まるで挨拶をする暇がなかったぞ……。

 だけど雰囲気からして接しやすそうな人でありがたい。

 手で促されたので言われるがまま、対面の椅子に俺達は座った。


「おっほん、会って早々に話し過ぎてごめんね。僕はこの協会で支部長をしている、ベンスといいます」


「ご丁寧にありがとうございます。ご存知だと思いますが、私は大倉平八です」


 わかってはいたけど、やっぱりこの人はここのお偉いさんだったか。

 今まで王都以外の協会に行っても支部長に会うことはなかったけど、ちゃんとそれぞれの協会の長がいるんだな。

 ブルンネの協会にもそういう人はいるのだろうか。


「私達にお話があるということですが……それは王都で協会長に言われた件についでですよね?」


「うん、その話だよ。と言っても、君達がクリストフさんからどう言われているのか知らないから、色々と確認させてもらいたいけどね」


「おじさんは例の魔物の詳細は知っているのかしら?」


「空を飛ぶ黒い魔物のことだよね? 冒険者からの発見報告を聞いて、クリストフさんから以前聞いた魔物と似ていたから一応報告しておいたんだよ。いやぁ、魔人が関与しているかもしれないなんて、怖いよね。この歳になってまさか魔人の話を聞くことになるとは思ってもみなかったよ。僕がまだ若かった頃は、昔話で魔人のことを聞いて――」


「あ、あの、お話しのところ申し訳ないんですけど、調査に関して聞かせていただいてもいいですか?」


 最初から口数多い人とは思っていたけど、予想以上かもしれない。

 このまま何も言わず話を聞いていると、どんどん話が脱線していきそうな予感がするぞ。

 気立てがよさそうな人だから少し申し訳ないが、割り込んで話を止めないと。


「ああ、ごめんごめん。えっと、例の魔物については僕もクリストフさんから一通りは聞いているよ。それで君達がセヴァリアに来たのは、その魔物の調査をする為でいいんだよね?」


「はい、ですのでその魔物の発見場所について、詳しくお話を聞かせてください」


「どうやらお互いの認識はあっているみたいだね。僕もその話をする為に君達を呼んだんだよ」


 うんうんと頷いた後、ベンスさんは立ち上がって部屋ある戸棚の中から1枚の紙を持ってきて机に広げた。

 見たところそれは地図のようで、赤い丸が所々付けられている。


「これがセヴァリア周辺の地図で、この赤い丸は現在報告されている発見場所だね」


「10個もあるのでありますよ。こんなにあの魔物は発見されているのでありますか!」


「ここまで多いなんて聞いていなかったわよね」


「王都の協会に報告してからも、どんどん目撃情報が相次いでね。ただ似たような魔物と見間違えた可能性もあるから、これが全部君達の探している魔物とは限らないけど。だけどCランク冒険者パーティがそれらしき魔物と交戦して、逃げ帰った報告もあるんだ。それからセヴァリアの冒険者には、その黒い魔物とは戦わないようにと注意勧告もしているよ」


 おぉう、まさかここまで目撃報告があるなんて。

 見た感じだと、セヴァリアの周辺全域に丸が付いてやがる。

 交戦した冒険者までいるとは思わなかった。

 それだけ活発に活動しているということなのか?

 なのに目立った異変や被害報告がないとなると、逆に怖くなってくるぞ。

 だけどベンスさんの言うように誤認の可能性もあるから、これはちゃんと調べないとな。


「一応この協会でも、Bランク冒険者パーティに調査を頼んでいるんだけどね。発見報告は増えているんだけど、探すとなるとこれがまた見つからないらしくて」


「空を飛ぶ魔物でありますからね。この周辺だけでも探すとなると、なかなか骨が折れそうなのであります」


「そうね。それに単体で動いてる魔物を狩場で探すのは大変そうだわ。あの魔物自体結構強いから、下手な場所で遭遇したら返り討ちにされちゃうかも」


 狩場の魔物と違って、ディアボロスは自由自在に飛び回ってそうだからな……。

 それをピンポイントで探すとなると、俺達みたいにビーコンや魔法のカーペットで高速移動でもしなきゃ苦労するだろう。


「でも、その魔物を実際に倒したことのある君達が来てくれたんだから、とても心強いよ。君達が来てくれたことを、探索中の冒険者にも伝えておくね。もし調査に行き詰る場合には、お互いに情報交換してもらえると助かるかな。勿論協会の方でも新しい情報はバンバン教えるから、何かわかったら報告をしてね」


「はい、わかりました」


 あいつの強さを考えるとCランク辺りの冒険者じゃ危険だろうから、探索する人数も限られる。

 既に調査中のBランク冒険者パーティと情報を交換し合わないといけなそうだな。

 他の冒険者と上手く協力できるかちょっと不安になる……こういう時ディウス達とかが相手だったら、凄く気楽なのだが。


 ……あっ、情報といえば、スカイフィッシュについても聞く予定だったな。

 あれも正体不明の魔物の可能性があるし、情報提供しておかないと。


「あっ、それとお1つ聞きたいことがありました。ここに来る途中、見た目が棒のように細長くて、高速で空を飛ぶ小さな魔物と遭遇したのですが、何かご存知ありませんか?」


「うーん、棒状の空を飛ぶ魔物ねぇ。僕の知る限りじゃそんな魔物は聞いたことないな。一応後で調べておくから、もう少し詳しく特徴を教えてもらえる? 協会に詳細を張り出して、他の冒険者にも聞いてみるよ」


 協会の方にも情報なしか……さすがUMA。異世界でもスカイフィッシュは未確認生物のようだ。

 それからスカイフィッシュの能力などを詳しく説明して、ディアボロスの目撃現場などを教えてもらい協会を後にした。

 セヴァリア周辺の狩場には、キャンサーやプリモー、人型のマーフォークといった海洋系の魔物が数多くいるらしい。

 岬には引き潮になると現れる洞窟などもあり、そういうところを探索する冒険者がセヴァリアには多いとか。

 ロマン溢れる気はするけど、引き潮時にしか入れない洞窟って怖くて入りたくないな。


「支部長は協会長よりも、印象が強い人なのでありましたね」


「そうね。なかなか面白そうなおじさんだったわ。暇があれば話し相手になってもよさそうね」


 確かに面白い話をしてくれそうな人だったけど、付き合っていたら何時間話し続けるかわからないぞ。

 まあ人が良さそうだったから、今後も何かあれば相談はしやすそうな人だとは思ったけど。


「それにしても、こんなに発見報告が相次いでいるなんてな。クェレスの時は隠密にやってたのに、ここじゃ随分と人前に姿を現しているんだな」


「それだけ大掛かりで大胆なことをしようとしている……のかもしれないわよ」


「そもそも何の為に、あの魔物はこんな広範囲で活動しているのでありますかね? ここまで広範囲だと、もしかすると1体だけじゃないのかもしれないでありますよ」


 なるほど、そういう発想もあるのか。

 考えてみればディアボルスがいたとしたら、クェレスのと合わせてこれで2体目。

 1体だけで活動していると考えていたけど、この目撃情報の多さを考えたら複数体いてもおかしくはない。

 ……うわぁ、1体だけでもかなり強いのに、あんなのが沢山いたらたまったもんじゃないぞ。

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