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テストゥード神殿

 翌日、さっそくシスハ達を連れてセヴァリアへとやってきた。


「へぇー、ここがセヴァリアですか。港町だからか活気がありますね」


「うむ、いい風も吹いている。外で寝たら気持ち良さそうだ」


 ルーナは海の方から吹く風に髪を煽られながら、気持ち良さそうな顔をしている。

 新しい町に来て早々に、寝ること考えないでくれませんかね……。


「まず向かうところは、テストゥード神殿ってところでいいのよね?」


「ああ」


 昨日の内に、ローケンさんからテストゥード様が祭られているという神殿の場所は聞いていた。

 1番立派な祠とか言ってたけど、神殿って時点で既に祠の規模じゃないと思うのだが……。

 一体どんな所なのかちょっと行くのが楽しみだな。


「大倉殿、さっきからモフットの様子が少しおかしいのでありますよ」


「ん? モフットがどうかしたのか?」


 今日は皆で観光しようと、モフットも連れて来ていた。

 ノールに抱き抱えられているモフットに視線を移すと、毛玉のように丸まって顔を伏せながら震えている。

 今朝は元気にピョンピョン跳ねて、ノールとフリージアと戯れていたのにどうしたんだ?


「震えていて元気がないね。どうしちゃったのかな?」


「まるで何かに怯えているように見えますが……自宅に帰してあげた方がいいんじゃありませんか?」


「そうでありますね……。モフット、お家に帰るでありますか?」


 ノールがそう聞くと、モフットはプーと鳴いて首を縦に振っている。

 仕方がないので一旦人がいない場所へと移り、モフットをノールと一緒にビーコンで自宅へ送り返した。

 急にあんなに震えるなんて、ちょっと気になるな。


「シスハ、この町に来て何か感じたことはあるか?」


「うーん、今のところ特に何もありませんね」


「けどモフットがあれだけ怯えるなんて、やっぱりこの町には何か特別なものがあるのかしら?」


 確かにまるで何かに怯えるような震え方をしていた。

 魔物はこの近海に近寄って来ないって話だし、守り神関連の不思議な力でも働いているのかと思ったが……シスハは何も感じないのか。

 本当に何もないのか、シスハが神官としてあれだから感じないのか判断に悩むぞ……。

 少ししてノールから着信があったので、ビーコンを使って呼び戻した。


「うぅ、せっかくモフットと町を観光できるって、楽しみにしていたのでありますのに……」


「ノールちゃん、仕方がないよ。モフットにはその分、お土産を買ってあげようよ」


「そうでありますね……」


 ノールは残念そうに肩を落としている。

 今朝からモフットとお出かけだって、はしゃいでいたからなぁ。

 神殿へのお参りが終わったら、お土産探しでも手伝ってやるとするか。

 

 気を取り直して、テストゥード神殿へと向かい始めた。

 テストゥード神殿は海から少し離れた、この町でも1番高い場所にあるみたいだ。

 そこからは海を遠くまで見渡せて、港のとはまた違う灯台もあるとか。

 町の人に道を尋ねつつしばらく歩き、住宅街を抜け中心から少し離れたところまでやってきた。

 すると綺麗に整えられた幅広の白い道が見えてきて、次第に周囲の建物が減っていく。

 そして緩い坂道を歩き続けていくと。


「おお、これが守り神が祭られている神殿でありますか」


「神殿って言われてるだけあって、この前見た祠と比べるとかなり差があるわね」


 大きな真っ白な建造物が見えてきた。

 俺達の家は勿論のこと、王都の協会よりも遥かに大きい。

 大理石のような石で造られた丸い柱に三角の屋根を見ると、まるでアトランティスとかに出てきそうな神殿だ。

 もう祠とかいうレベルじゃないな……。


 俺やノールが神殿に目を奪われていると、傍で唸り声が聞こえてきた。

 見てみるとそれはフリージアで、こめかみに指を当てて考え込んでいる。


「むむむっ……この感じ、この前の気配に似ているんだよ」


「えっ、この前って祠の時のことか?」


「うん! 何かいるような、いないような……でもやっぱり何かいる感じ!」


 また何か感じているのか。

 前回は祠で、今回はこの神殿……守り神と関係があったってことか?


「むぅ、なんだここは。威圧感があって不快だ」


「ルーナまで感じる程なのか。なら気のせいって訳じゃなさそうだな」


 フリージアだけじゃなく、ルーナまで反応を示した。

 眉を八の字に曲げて、彼女はとても不愉快そうにしている。

 ルーナが不快に思う程の威圧感か……吸血鬼だってことを考えると、神聖な物が働いているのか?

 ならばここは本命であるシスハに尋ねてみよう。


「ところで肝心のシスハはどうなのでありますか?」


 ノールも同じことを思っていたみたいで、俺より先にシスハに聞いていた。

 尋ねられたシスハは口端を吊り上げて、自信満々そうに笑っている。

 おお、これは期待してもよさそうだぞ。


「うふふ、全くわかりません」


「駄目じゃねーか! 昨日自信満々そうにしてた癖に!」


「仕方ないじゃないですか! 神官だからって何でもわかると思ったら大間違いですよ!」


「ならあんな自信満々な顔しないでほしいわね……」


 俺もそう思う。こいつはいちいち紛らわしいリアクションしやがって!

 それからしばらくシスハと大声で罵倒しあっていたのだが。


「あの、どうかいたしましたか?」


 不意に声を掛けられ振り向くと、紫色の短髪を揺らし首を傾げている女性がいた。

 長い袖の上着にロングスカートと、ちょっと巫女装束に近い印象を受ける服装をしているが、青を基調としていてまるで別物だ。

 俺達の騒ぐ声を聞いたのか、近くにある小屋から出てきたみたいだ。


「あっ、いえ、なんでもないです。騒がしくしてすみません」


「それならいいのですが……皆様、こちらに礼拝へ来られた方々でしょうか?」


「ええ、そのつもりで来たの。お姉さんはこの神殿の人?」


「はい、私はテストゥード様にお仕えさせていただいている、イリーナと申します。よろしければご案内させていただきますけど……」


「是非お願いするのでありますよ!」


「わかりました。それではこちらへどうぞ」


 そう言ってイリーナさんは神殿の方へと歩き始めたので、俺達もその後を追う。

 神殿の内部へ入ると、空気がひんやりとしていてほの暗い。

 しかし所々に魔導具なのか明かりを発している物が置かれていて、幻想的な雰囲気を漂わせている。

 途中で何人かの男性や女性とすれ違うと、どの人も軽くお辞儀をしてきたので俺も頭を下げておいた。

 うーん……こういう雰囲気の場所、ちょっと息苦しくて苦手だな。


「守り神様にお仕えしているなんて、お姉さんは神官様なのかな?」


「教会などとは無縁ですから、神官とは少し違いますね。ですが一応回復魔法などは使えますので、似たようなものかもしれません」


 守り神に仕える人だけあって、神官と同じような力を持っているのだろうか。

 確かにイリーナさんは見た目も清楚そのもので、神秘的な雰囲気を感じさせてくれる。

 俺達の1番よく知る神官様とは大違いだ。


「……なんです、その目は」


「いや、何でもない」


 チラッと目を向けると、ジト目のシスハと目と目が合い慌てて顔を逸らした。

 こいつ、俺が何を考えていたのかわかっていそうだな……。


「ルーナさん、先ほどからお顔が険しくなっていますけど大丈夫ですか?」


「……問題ない。ただ、だんだん嫌な感じが強くなってる」


「そうだね。この奥に何かいるのをビンビンに感じるよ……」


 この神殿に着いた時不快だと言っていたが、ルーナはさらに眉間にシワを寄せて嫌そうにしている。

 フリージアも入り口辺りまではいつもの陽気さがあったけど、今は真面目な顔つきだ。

 一体この先に何があるのやら。


 それから長い通路を抜け、神殿の奥へと到着すると……そこは大きな広間だった。

 内部はドーム状になっていて、天井には色の付いたガラスが張られている。

 日の光がそれを通して内部を様々な色で照らし、より一層神秘的な雰囲気をかもし出していた。

 しかしその光景も、中心に置かれているある物の存在感に埋もれてしまう。


「こちらがテストゥード様に祈りを捧げていただく祭壇の間です」


「こ、これは……」


 祭壇の間と言われたこの部屋の中心には、表面が岩のようにゴツゴツした謎の物体が置かれていた。

 六角形の鱗のような模様が入っていて、縦と横の幅は10メートルぐらいはある。

 端の方はギザギザに欠けており、厚さはそこまでない。何かの欠片のような感じだ。

 なんだこれ、ただの岩には見えないけど……台座の上にあって奉られているみたいだし、重要な物なんだろうか。


「こちらは遥か昔にテストゥード様から賜ったと伝わっている、御身の一部です。魔法による結界が張られておりますので、不用意に手を出さないでくださいね」


 へっ……御身? それって守り神の体の一部ってことか!?

 想像以上にやばい物があったんですが!


「これが体の一部……本体は一体どんだけ大きかったのでありますか」


「こんな物が残っているなんて、そのテストゥード様って実在したのね」


「勿論です。ですからテストゥード様は、今でも守り神の中で特に人々から信仰されているんですよ。500年ほど前には1度降臨なされ、この町を危機から救った記録だってございます」


「えっ、守り神が出てきたんですか……?」


 降臨……テストゥード様って本当にいるのかよ。

 しかも500年ほど前とか、昔ではあるけど割りと最近のような気もする。


 詳しく話を聞くと、500年程前、この町がまだセヴァリアという名前じゃなかった頃の話。

 ある日突然この町に、魔物を引き連れた魔人が攻め込んできたそうだ。

 人々は必死に抵抗したが、魔人と魔物の強さに圧倒され町は崩壊寸前まで追い込まれたが……そこにテストゥード様が降臨したという。

 山や陸を軽々と粉々にする圧倒的な力の前に、魔物達は怯えて逃げ、魔人は抵抗すらできず塵にされたとか。

 俺達が昨日行ったあの湾になった港は、その時の戦いで守り神が作ったものらしい。

 あれだけ陸を抉るとか、化け物ってレベルじゃねーぞ……。

 

 それからテストゥード様は人々に体の一部を分け与えて、それを奉ったこの町は魔物が近寄らなくなり平穏が訪れたそうな。

 200年前にあったという魔人との争いの時も、魔人達はテストゥード様を恐れたのかこの町に一切関わって来なかったそうだ。


「はぁー、テストゥード様って凄いんですね……」


「はい。ですのでここセヴァリアが今もあるのは、テストゥード様のお陰だと言われているぐらいなんですよ」


 イリーナさんは俺の言葉に、満面の笑みをしている。

 うーん、正直ちょっと胡散臭く感じるのだが、この世界ならそういう存在がいてもおかしくはない。

 だけど、なんでテストゥード様は人の味方をしてくれたのかが疑問だ。

 ……まあ、昔の話だし、当時何があったかは正確にわかるはずもないか。

 とりあえずテストゥード様がこの町を守ってくれたから、神として崇められているってことだな。

 実際目の前に得体の知れない守り神の一部があるし、ここは祟られないよう必死に祈っておこう。



 テストゥード様への祈祷を終え、俺達は神殿を後にした。


「半分ぐらい守り神なんて信じてなかったんだが、あれを見るといたんじゃないかと思えてくるな」


「そうでありますね。あの人の話を聞いていたら、港の漁師さん達があれだけ信じていたのも納得なのでありますよ」


「それに魔人の話まで出てくるなんて、今回頼まれた調査と関係もありそうよね」


 魔物を追っ払ってくれて、さらには港になる湾まで作ってくれたんだから、そりゃ漁師さん達は信仰しちゃうよな。

 それに魔人が昔話に出てきたのも驚きだった。

 だけど仮にその話が事実だとしたら、ちょっと気になる点もある。

 200年前の争いでもこの町に来なかったのに、今更魔人がこの周辺にやってくるのだろうか。

 もしかしたら今回見つかったディアボルスは、魔人が関わっていない可能性も出てきた。

 ……うん、考えてもまったくわかりません。


「それで、祭壇に行ってシスハ達は何かわかったことがあるのかしら?」


「あそこに行くまで何も感じていませんでしたけど、あの祭壇の間に入った途端違和感はありましたね。神聖な物ではありませんでしたが、残留した思念のような……霊的に近い物ですね」


 シスハが顎に手を当てて、珍しく真剣な顔付きをしている。

 残留思念、そして霊的か……見えない何かがあの神殿にいたってことなのか?

 やだ、俺幽霊苦手なんですけど……。


「私もあそこに入ってから感じたけど、崖にあった祠と同じ気配がした。あの気配がしたから、私は矢を撃っちゃったんだよ」


 祭壇の間入ってからは、フリージアも何かを警戒するように黙り込んでいた。

 訳のわからないあの行動にも、ちゃんと意味があったのか。


「……圧迫感があって、凄く不快だった。モフットが震えていたのもあれが原因だ」


 神殿から出た後、ルーナはいつもの無表情だったが少し冷や汗を流していた。

 普段から動じることの少ないルーナにここまでプレッシャーを与えるなんて、守り神は伊達じゃない、と。

 それにこの町に入った時のモフットの反応も、昔話を聞いて納得した。

 モフットも一応魔物ではあるから、テストゥード様の影響をモロに受けたんだろうな。

 神聖なものじゃなくて、魔物や魔人に対して影響力を持つ存在……なんだか神様とかじゃなくて、強大な魔物だって言われた方が納得できそうだぞ。


「降臨なされたなんて言われてましたけど、未だにこれほど影響力があるなんて、そのテストゥード様って今も存在するってことでしょうか?」


「祭壇にあった体の一部だけ見ても、凄く大きかったでありますよね。もし健在なら、一体どこにいるのでありましょうか……」


 あの岩のような欠片が体のどこの部位かわからなかったけど、本体が相当大きいのは間違いなさそうだ。

 今まで戦ったベヒモスやルペスレクスなんかの比じゃない。

 そんなのがこの近くにいるのならすぐ見つかりそうなもんだけど……謎が多いなテストゥード様。

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