頼れる神官?
ローケンさん達に貝をご馳走になった後、港を少し案内してもらい今日のところは帰宅。
市場で買った魚などはさっそく夕食としてノールが料理し、フライとしていただいた。
久しぶりに魚のフライなんて食ったけど、これまた美味かったなぁ……しばらくこれでいいですわ。
そして夕食後。
「んー! この貝美味しいですね!」
「むふふ、そうでありましょ! 漁師さんから美味しい焼き方を教えてもらえたのでありますよ!」
今日の話を聞いたシスハが焼き貝を食べてみたいというので、港から帰る際にローケンさんから安く譲ってもらえた貝を焼いた。
港で食った貝が美味かったし、俺もちょっと食べたかったからちょうどいい。
ノールが漁師さんから教えてもらったという焼き方以外に、俺もバターや醤油などを入れて焼いたりと色々と試している。
ノールも港であんだけご馳走になったというのに、また美味しそうに食べている。
こいつの胃袋は底なしだな……。
俺もなんだかんだでセヴァリアの海産物食べるの楽しんでるし、これじゃノールのこと言えないけど。
「はぁ、これを肴に一杯やりたいぐらいです」
「そうやってすぐに酒を飲もうとするなよ……」
「何をおっしゃいますか。美味い食事を食べ、美味い酒に酔い、ルーナさんを愛でる。こんなに楽しい生活はありませんよ」
人差し指を立てて横に振り、チチチッと言いながらシスハは豪語している。
やりたいぐらいとか言いつつ、既に机の上に酒瓶が置かれているんですが……飲む気まんまんじゃねーか。
さらに焼き貝に舌鼓を打ちながらも、シスハは部屋の隅を見てニヤケ面も晒していた。
「やっぱりルーナちゃん似合う! これでお揃いなんだよ!」
「……うっとうしい」
「それでも一応付き合いはするのね」
「断ると騒いで面倒だ。諦めた」
フリージアに抱き抱えられ、猫耳の付いたフードを羽織った生気のない表情のルーナがそこにいた。
ルーナにもフードを被せる案が浮上した日から、連日着てくれとフリージアにせがまれようやく折れたみたいだ。
うん、やっぱりルーナならフード姿も似合うな。
シスハも頬に手を添えてうっとりした様子で眺めている。
「あはぁ……あんな可愛らしい姿のルーナさんを見られるなんて、今回だけはフリージアさんの我侭っぷりに感謝しないといけませんね」
「……フリージア、シスハも着たいみたいだ」
「えっ! 本当なのシスハちゃん!」
「うぇっ!? あっ、いや、その……すみませんでしたルーナさん!」
ギロリと鋭い目をルーナがシスハに向けると、彼女は慌てて謝罪した。
全く、相変わらずこいつは余計な一言が多いな。
結局ルーナはフード姿を受け入れたのか、特に気にした素振りもなくそのままモフットと戯れている。
流石めんどくさいって理由だけで恥もプライドも全て投げ捨てる幼女様だ。
「明日はシスハも一緒に行けるんだよな?」
「はい、用事があったのは今日だけなので大丈夫ですよ」
「そういえば、今日は一体何をしていたのでありますか?」
「顔馴染みの方々の治療や、教会の方に少しお邪魔させてもらっていました」
「あら、教会に顔を出したりなんてしていたのね」
顔馴染み……ああ、前に町で会った時お爺さんやお婆さんの治療をしてたっけ。
あれからも同じようにマッサージやらしてあげてるってことか。
それよりも教会に行ってるって発言の方が気になるんだが。
こいつに信仰心があったとは……。
「私だって神官の端くれですからね。教会で祈りを捧げたりもするということです」
「酒を片手に言われてもまるで説得力がないんだが」
「それはそれ、これはこれです」
シスハは貝を食べながら、いつの間にかコップに注いでいた酒を呷り頬を赤くしている。
今まで1度もこいつが祈りを捧げているところなんて見たことないんだけど……本当なのだろうか。
まあ俺がとやかく言う筋合いはないし、暇な時は自由に過ごしてもらって構わないんだけどさ。
「明日は例の祠に行くのかしら?」
「まだ観光気分ではあるけど一応な」
「どうせなら今日行けばよかったのに、どうして明日なのでありますか?」
今日のところは守り神を奉っているという、セヴァリアにある中心的な祠には行かなかった。
どうしてかというと……。
「行くならシスハも連れて行きたかったからさ」
「私を連れて行きたいだなんて、大倉さんはそんなにも私を思ってくださっていたのですね! この、このこの!」
ほろ酔い気分のシスハがニヤケながら俺を肘で小突く。うぜぇ!
「そうなのお兄さん?」
「違う、違うから!」
そして今度はエステルが無表情で首を傾げながら俺に尋ねてきた。
怖い、怖いから真顔でこっち見ないで!
「守り神なんて出てきたし、そっち方面に感性ありそうなシスハを連れて行けば何かあるかもしれないからだよ! ……祟られていたら鎮めてもらいたいし」
「なるほど、フリージアも祠で何か感じていたでありますから、シスハなら感じ取る物がありそうでありますね」
フリージアは気のせいだって言っていたけど、ローケンさんの話を聞いた後だとあの時本当に何かあったんじゃないかと思い始めていた。
祠自体に危害は加えてないが、スカイフィッシュが飛んできたタイミングもバッチリだったからどうも引っかかる。
もし守り神が本当にいるんだとしたら、そっち関連に強そうなシスハを連れていけば何かわかることもあるだろう。
今日も神官とは思えない言動をしていたけど、自分で言ってたように一応神官の端くれだ。
むしろシスハなら神様だって平気で殴り飛ばしそうで頼もしい。
「それなら納得できる理由ね。もう、ちょっと妬けちゃったじゃない」
俺の話を聞いたエステルは微笑みながら近寄ってくると、椅子に座っている俺の膝の上に乗っかった。
ふぅ……まさかシスハじゃなくてこっちに威圧が飛んでくるとは思わなかったぞ。
このまましばらく膝を貸しておこう。
「あの……納得しているところ申し訳ありませんが、守り神ってなんです?」
「あっ、そういえば忘れてたな」
スカイフィッシュに襲われたことは話していたけど、今日聞いた守り神の話をしていなかった。
昔から伝わる守り神がいること、各地に祠があること、そのおかげで魔物が寄ってこないと言われていることを伝えると……。
「あー、だから昨日帰って来てから大倉さんの背後に何か取り憑いていたのですか」
俺の後ろ辺りを見ながらシスハがそう呟いた。
はっ……は!? 取り憑いているだとぉ!?
「ちょ、嘘だろ!」
「はい、冗談です」
「おま、ふざけんな!」
「あはは、すみません」
シスハはてへと笑ってぺろっと舌を出している。
またからかってきやがったな……マジで焦ったじゃないか!
「まあそういうお話でしたら、確かにお力になることは出来ると思いますよ。私が祈れば荒ぶる神でさえ鎮まりますし、霊であるなら物理で殴って成仏させちゃいますからね」
「それはまた頼もしい限りで……」
本当にこんな奴の祈りで神が鎮まるのか疑問だが、俺達の中じゃ1番頼れる存在であることに変わりはない。
1番良いのは俺の考え過ぎなだけで、守り神なんて全く関係ないことを祈りたいところだが。
さて、これで明日はシスハを連れて行けるな。
「ルーナはどうするんだ?」
「明日はついて行く」
「ルーナにしては珍しく乗り気ね」
「うむ、知らない町なら1度行ってみたい」
どうやら引き篭もりの幼女様も、一応港町に興味があるらしい。
フリージアを召喚してから全員で出かけたことはなかったけど、もう俺達は6人もいるのか。
改めて思うと随分と人数が増えたもんだ。
「どうせなら明日は船に乗ってみたいでありますね! きっと気持ちがいいのでありますよ!」
「そうだね! 港にいるだけでも風が気持ちよかったんだよぉー」
「お前な……馬車で酔う奴が船に乗るなんて、わざわざ地獄に行くようなもんだぞ」
「あっ……そうだったのであります……」
自分が酔いやすいことを思い出したのか、がっくりと肩を落としてノールは落ち込んでいる。
そこまで船に乗りたかったのか……シスハの回復魔法を使えば乗れそうだがどうなんだろうか。
明日祠に行った後、船に乗ってみるのもいいかもしれないな。




