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セヴァリア港

 市場からさほど移動することなく、大きな灯台のある港へと到着した。


「わぁー、ここが港なんだね! 船が沢山ある!」


「ここからさっきの市場にお魚が運ばれていくのでありますね」


 セヴァリアの港は、四角を描くように海が陸に入り込んだ湾形の港だった。

 木製の船がいくつも紐で繋がれて停泊している。

 小さな物は2人乗りのボートぐらいで、奥の方には大きな輸送船らしき船まで大小様々だ。

 ここの港は貿易と漁、両方を兼ね備えた港なのか?


「凄い大きな船がある! 見に行こうよ!」


「あっ、おい!」


「勝手に行っちゃ駄目でありますよ!」


 フリージアが奥の方に停泊している大きな船に向かい走り出した。

 慌てて俺とノールも後を追ったが、先に走り出した上に速いから追いつけそうもない。

 だが、その途中にあった建物の前をフリージアが通り過ぎた瞬間。


「コラ! 何うろちょろしてやがる! ここから先は立ち入り禁止だ!」


「わわっ!?」


 図太い男性の叫び声が聞こえた。

 それに驚いたのかフリージアはその場で飛び上がり動きを止める。

 その隙にノールと俺も追いついて、フリージアを拘束した。


「この馬鹿! また勝手に行こうとしやがって! 今回は許さん!」


「ふぇ――ふげっ、ひっぱりゃにゃいでー!」


 今日という今日は許さない、絶対にだ!

 拘束したフリージアの両頬を引っ張り揉みしだく。

 ノールと同じぐらい軟らかな触り心地だけど、あいつの方がよく伸びるな。

 なので今度は伸ばす代わりに、頬を押し潰してグリグリと手の平でこねておいた。

 フリージアはタコ口になりながら、やめへーと叫んでいる。


「おぉう……フリージアもついに大倉殿の犠牲に……」


「久しぶりにこういう光景を見た気がするわね」


 フリージアが俺に揉まれているのを見て思い出しているのか、ノールも自分の両頬を手で押さえてプニプニさせている。

 確かに最近はノールにやることもなくなったからなぁ。

 前は何かあれば頬を引っ張ったり、引っ張ろうとして反撃されたりと色々とあった。

 ノールも俺も随分と丸くなったもんだ。

 なんて頬をこねこねしながら思い返していると。


「ん、んん……もうそろそろ終わらないか?」


 がっしりとした肉体の大男が、いつの間にか俺達の近くまで来て咳払いをしてきた。

 腕捲くりをしエプロンを身に着け、見た目だけで漁師さんって感じだ。

 さっき怒鳴ったのはこの人か。


「す、すみませんでした! ほら、お前も!」


「うぅ……ごめんなさいなんだよ……」


「お、おう。わかればいいんだよわかれば」


 すぐに頬をこねるのを止め、フリージアの頭に手を載せて一緒に頭を下げた。

 俺達がアホなことして毒気が抜かれていたのか、意外にもすぐに許される。

 というかちょっと引き気味のご様子。

 俺達が頭を上げると漁師さんは両腕を組みながら、マジマジと俺達を見回していく。


「そのプレート……お前達冒険者か?」


「はい、そうですよ。この子だけは違いますけど」


「大人しくするから放してほしいんだよー。ノールちゃん助けて!」


「今回はフリージアが悪いであります。そのまま大倉殿に捕まって反省でありますよ」


「うぅ……反省」


「ノールは厳しい時は厳しいのね」


 フリージアは解放せず、首根っこを掴んで動かないようにしている。

 ノールにも反省しろと言われ、そのままシュンと肩を落として俯きながらジッとし始めた。

 ふぅ、これでしばらくは大人しくしてくれるだろう。


「わざわざ港に来たってことは、依頼でも受けたのか?」


「いえ、今日この町に着いたばかりなので、見て回っていたところなんですよ」


「だからあんなにはしゃぎ回っていたのか。こんな奇妙な格好してるもんだから、横切って行った時は一体何が走ってるんだって驚いたぞ」


 そう言って漁師さんはフリージアを指差した。

 今日も耳付きのノールお手製フードを被っているもんもんな……こんなのが横切ったらそりゃ驚くわ。


「そういうおじさんは漁師さんなのかな?」


「おう、生まれも育ちもセヴァリアの熟練漁師だぜ!」


「おぉー、かっこいいんだよ!」


 猟師さんが片腕を曲げて力こぶを作って腕を叩くと、フリージアが笑顔で拍手をしている。

 反省していたかと思えば、もういつのも調子に戻ってやがるぞ……。


「市場にあったお魚もおじさん達が捕ってきたんだね! 凄いんだよ!」


「なんだ、市場にも行ってたのか」


「沢山買わせていただいたのでありますよ。どれも美味しそうで、今から料理するのが楽しみなのであります!」


「そ、そう喜んでもらえると嬉しいもんだな。……今貝を焼いていたところなんだが、食っていくか?」


「いいのでありますか! 是非ともお願いしたいのでありますよ!」


「私も食べてみたい!」


 漁師さんは照れ臭そうに顔を赤くして顔を掻き、建物の方へ歩いていく。

 ノールは嬉しそうに声を上げてついて行き、フリージアも俺が首を掴むのを止めるとテテッと小走りで追った。


「……怒られていたはずなのに、すっかり気に入られたみたいね」


「ああ……あいつらのこういうノリは、見習いたくなる部分があるな」



 建物の間を抜けていくと、漁師さん達が集まって酒盛りをしていた。

 俺達もそれに混ぜてもらい、網で焼いた牡蠣に似た貝を食べさせてもらっていたのだが……。


「むっふふ、美味しいのでありますよぉ」


「姉ちゃん良い食いっぷりだな! こっちのもどうだ?」


「いいのでありますか! いただくのでありますよ!」


 ノールの見事な食いっぷりに、周りの漁師さん達は気を良くしてどんどんと食べさせている。

 ヘルムで顔は見えないものの、頬を緩ませて髪を左右にフリフリと振って超ご機嫌だ。

 ……まあ、確かにそれぐらいこの貝美味いけどさ。

 後で市場に売ってたら追加で買ってこようかな。


「ごちそうになってしまってすみません」


「いいってことよ。見ていて気持ちが良い食いっぷりで、誘った甲斐があるってもんさ」


「おじさん良い人だね!」


「そう何度もおじさんって言うのは止めてくれ。俺はローケンって言うんだ」


「あっ、自己紹介遅れてすみません。私は大倉平八です」


 爆食いしているノールを他所に、俺達は最初に会ったローケンさんと雑談をしていた。

 フリージアもノールのペースについて行けなかったのか、こっちに混ざっている。

 ローケンさんの自己紹介に俺達も答えて、さらに会話を進めていく。


「にしてもお前達、かなり高ランクの冒険者だよな?」


「はい、なり立ての新人ではありますけどBランクです」


「はー、その若さで大したもんだな。しかも子供まで混ざっているじゃないか。その格好からして……魔導師か?」


「ええ、そうよ。服装から魔導師だってわかるなんて、おじさん意外に詳しいのね」


「港でも魔導師の世話になることがあるからな。漁師をしていれば見かける機会は結構あるぞ」


 へぇ、港で魔導師を……一体何の為に呼ぶんだろ。

 もしかして魚を凍らせたり、魔物対策をしてもらったりするのか?


「ねぇーねぇー、ローケンさん。なんでここから先立ち入り禁止になってるのかな?」


「ここから先は輸送船が停泊していて、荷を積み下ろしているから危険でな。だから関係者以外は立ち入り禁止なんだ」


 やっぱりあの船は輸送船だったのか。

 物を運んでいる途中にフリージアみたいなのがやって来たら危ないし、禁止しておいて正解だな。

 それにしても輸送船もあって漁もしているなんて、結構発展している港みたいだ。


「あまり海に関して詳しくないんですけど、海にも魔物っているんですよね?」


「そりゃ勿論いるさ。って言っても、沖の方や特定の海域にさえ行かなければ、この辺じゃ滅多に見かけないぞ。輸送船が出る時は、海に詳しい冒険者や魔導師に頼んで護衛をしてもらうけどな」


 なるほど……だから漁に出ても平気なんだな。

 そうなると昨日遭遇したスカイフィッシュは、あの周辺の海で出て来る奴だったってことか?

 一応あの魔物に関してもそれとなく聞いておこう。


「空を飛ぶ魚の魔物とかって、この辺りでは珍しいんですか?」


「空を飛ぶ魚? うーん……トルネードシャーク辺りか? でもあいつらは、海が大荒れした時ぐらいしか出てこないぞ」


 ト、トルネードシャーク? なんだよその物騒な名前。

 空を飛ぶって……竜巻に乗って鮫が襲ってくるとかじゃないよな?

 スカイフィッシュなんかよりも遥かに怖いんですけど。


「もしかしてその魔物を探しにセヴァリアにやってきたのか?」


「いえ、この町に来る途中凄い速さで空を飛ぶ魔物と遭遇したんですよ」


「海の方からやって来たから海の魔物だと思うけれど……知らないってことは違うのかしら。手の平よりちょっと大きい、白くて羽のある筒状の魔物よ」


 エステルも加わって、手で大体の大きさを伝えながらさらに詳しく聞いてみた。

 しかし、ローケンさんは両腕を組んで首を傾げている。

 地元の人ですらスカイフィッシュは知らないのか……もしかしてあの魔物、異変の兆候なのか?

 だけどまだ結論付けるのは早い、協会で確認を取ってからだな。


「やっぱりそんな奇妙な魔物知らないな。どの辺りで遭遇したんだ?」


「切り立った崖にある、石で造られた祠のところですよ」


「なっ!?」


 場所を聞いた途端、大きな声を上げてローケンさんは立ち上がった。

 周囲で聞いていた一部の漁師達まで目を丸くして驚いている。

 な、なんだ? もしかして何かまずいこと言ったのか?


「お、お前ら! まさかあの祠に何かしたんじゃないだろうな!」


「い、いえ! ちょっと気になって近づいただけで、触れてすらいないですよ!」


「……ふぅ、それならよかった」


 ローケンさんは息を吐いて胸を撫で下ろし、周りの漁師達もホッとしたような顔をしている。

 ……あの祠は気になっていたけど、何もしなくてよかった。

 もしフリージアが興味を持っていたら、下手するとぶっ壊されていた可能性も……考えただけで恐ろしい。


「そんなに慌てるだなんて、あの祠って重要な物だったの?」


「あの祠はな、昔からセヴァリアで奉られている守り神、テストゥード様の物なんだ。あの祠があるおかげで、セヴァリア近海は魔物から守られているって言い伝えがあるぐらいだぞ」


「そ、そんな重要な物だったんですか……」


 おぅ……守り神なんて出てきやがったぞ。

 もしかして俺達がスカイフィッシュに襲われたのは、あそこの周りで騒いでいたせい……?

 いやいや、そんなまさか。祠自体に危害は加えてないんだから、たまたま襲ってきただけに決まってる、うん。


「あれれ? でもそんなに大事な物なのに、どうしてあんな場所にあるの?」


「あの祠はセヴァリアの周りにいくつかあるんだ。お前達が見つけたのはその内の1つだな。この町にはその中でも、1番立派なテストゥード様の祠があるだぜ」


 さらに詳しく聞くと、定期的にその祠を見回る為に冒険者を雇うこともあるそうだ。

 各地にあるって聞くとセヴァリアの守り神っていう話も現実味が増すな。

 あっちこっちに祠があるなんて、神社でいう分社みたいな感じか?

 ……もしスカイフィッシュに襲われたのが偶然じゃなかったら怖いし、この町の祠にお祈りに行っておこう。

 

「むふふー、美味しいのでありますよー」


 そんな話を俺達がしている間、最後までノールは貝を食べて幸せそうにしていた。

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