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港町セヴァリア

 スカイフィッシュに襲われた翌日。

 今日も朝早くからカーペットを走らせていると、ようやく遠目に建造物らしき壁が見えてきた。

 その途端、背後から元気な声が聞こえてくる。


「平八! あれ町だよね!」


「ぐおっ!? か、肩に乗っかるな!」


「こらこら、大倉殿の邪魔をしちゃ駄目でありますよ」


「はーい!」


 フリージアが俺の肩に手を乗せてグイグイと身を乗り出してきたが、ノールに注意されてすぐに止めた。

 ったく、こいつは反射的に動いてくるから困る……運転中は邪魔しないでもらおうか。


 港町なので当然海に面した場所にあるみたいだが、入り口は内陸側にあるようで他の町同様に長く高い石の壁が広がっている。

 パッと見ただけでもブルンネより遥かに大きな町みたいだ。

 ここも主要な町の1つみたいだし、国としても力を入れているのかもな。

 ある程度町に近づいて門の位置が確認できたところで、俺はカーペットを止めた。


「よし、それじゃあ後は徒歩で行くとするか」


「わかってはいたけれど、歩きで移動するのはめんどうね。ここからだとだいぶ距離があるわ」


 全員降ろしてカーペットをバッグに仕舞うと、エステルが不満そうに眉をひそめていた。

 俺としても歩きで行くのはめんどくさいが、これ以上近づくと人に見られる可能性があるからな。

 地図アプリで周囲に人がいるか確認はできるけど、クェレスの時みたいに望遠鏡で見てる輩がいるかもしれない。

 初めて来た町だから周囲の様子もわからないし、ここは無難に行くべきだろう。

 そんな溜め息を吐く俺達と違い、ノール達はというと。


「ずっと乗って移動してたから、体がなまっちゃった! ノールちゃん、町まで競争だよ!」


「望むところであります! 私の実力をお見せするしちゃうのでありますよ!」


 元気よく2人で片手を上げて叫びながら、壁に向かって走っていく。

 離れていくノール達の背中を見て、俺とエステルも顔を見合わせて苦笑しつつ歩き始めた。


 ほどなくして門へ到着し、先に着いていたノール達と一緒に簡単な手続きを済ませて町へと入る。

 シスハは用事があり、ルーナは寝ているから今日は俺達だけだ。

 

 初めて見るセヴァリアの町並みの感想はというと……雰囲気はブルンネをそのまま大きくしたって感じだ。

 王都やクェレスに初めて行った時のようにワクワクしていたけど、ちょっと変化が少なくて残念。

 なんて俺は思っていたが、フリージアはキョロキョロと辺りを見渡して喜んでいる。


「わー、これが港町! 船はどこにあるのかな!」


「この付近にはまだ港はなさそうね。灯台がある方に行けばあるんじゃないかしら」


「それじゃあ早く行こう! どんな感じなのか見てみたい!」


 そうだな、ガッカリするのはまだ早かったか。港町なんだから、目玉はやっぱり港だよな。

 そんな訳でさっそく港を見てみようと、海のある方へと向かうことになった。


「むふふ、港に行くのが楽しみでありますね!」


「……お前は魚市場があるかどうか楽しみなだけだろ」


「モチのロンであります! 新鮮な食材が沢山あるに違いないのでありますよ!」


 ノールは体をソワソワと動かして、結わいている髪を尻尾のように揺らしている。

 ……今回は港町のせいか、こいつ最初から食べ物のことしか考えてないな。

 まあ、俺としてもこの世界に来てから海鮮物はあまり口にしていなから、この町に来ること自体は楽しみだった。

 お刺身や寿司なんか久々に食ってみたい。……寿司は流石にないか。

 あぁ、こうやって思い出すとシースー食いたくなるな。自分で作る……のは無理だ。

 こうなったらノールに教え込んで握ってもらったり……いかんいかん、俺まで食べ物思考になってどうする!

 ……ん? そういえば魚を捕るとなると、ちょっと気になることがあるぞ。


「この世界の漁ってどうなってるんだろうな」


「どうなっているって、どういうことでありますか?」


「海にだって当然魔物はいるだろうし、魚なんて捕ってられるのかってさ」


「そういえばそうね。それに港なんだから、他の町とかと交易だってしていそうだわ。だけど海を渡れるのかしら?」


「きっと魔物を倒しながらお魚を捕ってるんじゃないかな」


 そんな無茶な……けどあり得そうだな。

 昨日襲ってきたスカイフィッシュみたいなのだっているだろうし、一体どうやって海上で活動しているんだろ。

 魔物なら船も木製とかだとぶっ壊してきそうだから、鉄製の可能性も……それはこれから港に行けばわかるか。


 疑問をエステルと話しつつ、相変わらずあっちこっちに興味を移すフリージアに注意を払って港を目指し歩いていく。

 そしてようやく、遠くに灯台と思しき建造物が見えてきた。それと同時に海も見える。

 ここに沿って歩いていけば港に着きそうだな。


「町から見える海も良い景色だわ。王都に家を買ったら、セヴァリアにも拠点がほしくなりそうね」


「おいおい……そんなこと言ってたら主要な町全部に拠点が欲しいって話に発展しかねないぞ」


「あら、それはそれで便利そうじゃない。色々と片付いたら検討してみましょうよ」


 うぅん……確かにそうなれば便利そうだけど……。

 せっかくのエステルの提案だし、セヴァリアの調査が終わって王都に家を買ったら考えてみよう。

 そんなこと考えていると、ノールが突然叫び出した。


「むむっ! 大倉殿、あれが魚市場ってやつでありますよね!」


「ん? あー、それっぽいな」


「人が沢山いて凄く賑やかそうだね!」


 ノールが指差した先は大きな広場で、いくつも露店が並んでいて沢山の人混みで賑わっている。


「港に行く前にちょっと寄らせてほしいのであります!」


「全く、ノールは相変わらず食べ物のことばかり考えているのね」


 ノールはブンブンと腕を上下に振って興奮している。

 そこまで興奮するとは……今日は観光目的で来ているからいいけどさ。

 俺達も露店へと向かい人混みに紛れた。


 近くで見てみると、台の上には様々な魚が並んでいる。

 見慣れた銀に近い色や背の青いもの、そして赤い魚などが多い。

 全身が黄色で青い点々があったり真紫になっていたりと、食べられるか怪しい物まで揃っている。……食えるのかあれ?

 サザエやアワビのような貝、硬そうな殻で覆われたエビ、透明なイカなど、魚市場らしい食材が大量だ。

 今のところ見た感じは、魔物の落とす食材っぽいのはないな。

 一体この付近にはどんな海洋魔物が潜んでいるのやら。

 マグロ型の魔物とかいないかなー、この世界なら化け物級の大きさのがいそうだぞ。


「おお! 凄い、凄いのであります! どれも新鮮そうでありますよ!」


「そこの可愛いらしいお嬢さん、ちょっとうちに寄っていかない? どれも今朝あがった新鮮なもんだよ。おまけしてあげるからさ」


「えへへ、可愛いだなんてそんなぁ……照れちゃうでありますね! それじゃあ、お言葉に甘えちゃうのでありますよ!」


 露店のおっちゃんに煽てられ、頭を擦りながら照れくさそうにノールがその店に寄っていく。

 相変わらずチョロイなおい!

 ノールの様子を見て俺が呆れていると、クイッと裾を引っ張られた。

 振り向くとエステルが眉を曲げて困った顔をしている。

 

「……ちょっと生臭くて、私はここ苦手かも。ノールはよく平気そうにしているわね」


「私は大丈夫だけど、確かにちょっと生臭い。平八は大丈夫?」


「ああ、俺は慣れてるからな」


 元の世界でよく魚も食っていたし、このぐらいの臭いならちょっと気になる程度。

 ノールは全く気にしている素振りを見せていないけど、臭いに慣れてないエステルには少々きつい場所みたいだな。

 フリージアも平気そうにしているけど、ここに入ってから俺の傍で妙に大人しいのは臭いのせいかもしれない。

 るんるんで魚を選ぶノールに外で待っていると伝え、俺達は市場から離れた場所に移動した。

 しばらくしてノールが外へ出てくると……その腕の中には大きなかごが。

 入りきらなかったのか、一部の魚がかごから顔を覗かせている。


「むふふ、おまけしてもらっちゃったのでありますよぉー」


「これまた随分と買い込んだな……」


「貝やお魚だけじゃなくて、甲殻類まであるわね」


「ノールちゃんの料理は美味しいから楽しみだよ!」


 どんだけ買い込んでやがるんだこいつは……あっ、青い点々のある魚が入ってる!? だ、大丈夫なのかそれ……?

 エビや貝も結構ある……品物自体はどれも良さそうで美味そうではあるな。


「うーん、どの魚も身がしっかりしていそうだな。おっ、こいつなんて刺身で食べられそうだ」


「……えっ?」


 ノールが声を上げたと思いきや、エステルとフリージアまで声を上げた。

 何事かと彼女達を見ると、ノールはヘルムでわからないけどエステル達は目を丸くして驚いている。


「な、生で食べるのでありますか!?」


「そんなに驚くことか? わさび醤油付けて食べると美味いぞ。元の世界じゃよく食べてたし」


「だからお兄さんは生臭くても平気そうにしていたのね……」


「生で食べるのは怖いんだよ……」


 あぁ……そういうこと。エステル達は生で魚を食べるのに抵抗があるのか。

 うーん、美味いのに残念だな。

 ノールなら気にせず食べるかと思ったけど、驚いていたからそうでもなさそうだ。

 ……クェレスのカラフルキノコを躊躇なく食い、今もピンク色の魚を平気でこれは駄目なのか。

 でも考えてみたら、異世界の魚って生で食えるのか疑問ではあるな。

 また買いに来る時にでも店の人に生で食べられる魚を聞いてみよう。

 買ってきた海鮮物の鮮度が落ちないようマジックバッグに仕舞い、俺達はまた港へ向けて歩き出した。

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