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新たな予兆

 フリージアが外へ出てもある程度落ち着き始めた頃、ようやく俺達は狩りを再開した。

 当面の目標としてはお金稼ぎということで、先日ディウス達と狩りをしたシュトガル鉱山へとやって来ている。

 今回はルーナを除く5人で来ており、鉱山の最下層にあった坑道の中まで侵入しての狩りだ。

 入ってみると坑道の中には掘っていた当時の物なのか、ツルハシや手押し車があっちこっちに散乱していた。

 やっぱり掘っている途中で何かあったのだろうか……。

 

 当然灯りはなく真っ暗だったけど、そこは光のグリモワールを手に入れたエステルさんの魔法で解決した。

 日の光を捻じ曲げて坑道内に入れることで、外と変わらないぐらい明るくなっている。

 魔法っていうのは本当に何でもありだな。こんなことできる魔導師はそうそういないだろうけど。

 

 光魔法には攻撃用のもあるみたいで、試しに見せてもらおうかと思ったのだが……いつもの、えいっ! じゃなくて――集え滅びの光、とか詠唱し始めたので慌てて止めた。

 あのまま撃たせていたら、周囲一体が焦土と化していたかもしれない……。


 そんなことがありながらも、ある程度坑道内を進んで陣地を築き上げて、ここ数日ずっと足を運んでいる。


「ふんっ!」


 ディウス達の狩りの時と同じように、一体だけ通れる穴の空いた岩の壁からガーゴイルが姿を現す。

 すかさず弓を番えたフリージアが矢を放ち、射抜かれたガーゴイルはバラバラに粉砕された。


「また一体倒したよ!」


「おお、頑張るでありますね! 弓矢でガーゴイルを砕くなんて、相変わらずフリージアは凄いでありますよ」


「えへへ、このぐらい当然なんだよー」


 ガーゴイルを倒すとガッツポーズをし、フリージアはノールのもとへと駆け寄っていく。

 褒めてもらうと狼のような耳が付いたフードの上から自分の頭を掻き、ニヘラと口を緩ませて嬉しそうにしている。

 今被っているフードは、ノールが作った狩り専用フードだ。

 人と遭遇することが少ないとはいえ、狩りの最中に他の冒険者とかと出会うことがあるかもしれない。

 そんな訳で本人からの希望もあって、念を入れてノールに狩り専用フードも作ってもらった。

 ノールもノリノリなのか嬉々として作り始め、今でも他のフードを製作中とか言う話だ。


「フリージアはすっかりフードが様になったな。そんなに気に入ったのか?」


「うん! 最初はちょっと慣れなかったけど、今は被っている方が安心する! それにノールちゃんが作ってくれた物だから、お気に入りなんだよぉー」


「むふふ、喜んでもらえて何よりであります。大倉殿達にも作ってあげてもいいのでありますよ?」


「お前な……俺が可愛らしいフード被ってる姿見たいのか?」


 自分で言うのもなんだが、俺が動物の耳が付いたフード被るとか誰得だよ……。

 そんなの誰も望んじゃいないぞ。


「あら、私はそういうお兄さんも見てみたいわね」


「そうですね。おもし……いえ、きっとお似合いだと思いますよ」


「お前ら楽しんで言ってるだけだろ……」


 望んでる方々が近くにいらっしゃいました! というか、ただ面白がってるだけだろ!

 シスハの奴口元を手で隠しながら言いやがって……絶対笑ってやがるぞ。


「ええー、平八は嫌なの? こんなに可愛いのに……せっかくなんだから、皆お揃いがいいんだよ。エステルちゃんとシスハちゃんはどうかな?」


「私はちょっと遠慮しておこうかしら……」


「わ、私も似合いそうにないので……」


 俺だけかと思いきや、エステル達もとばっちりを受けている。

 エステルは似合いそうだけど、シスハはちょっとなぁ。

 もしシスハがフード被らされたら大笑いしてやるんだが……後で仕返しされそうだから止めておこう。


「全く、大倉殿達は恥かしがり屋さんでありますね。フリージア、私が付き合うでありますから、今度お揃いで出かけるのでありますよ!」


「やった! やっぱりノールちゃんは優しいね! 家に帰ったらルーナちゃんにもお勧めしてみるんだよ!」


 ここにいないルーナにまで飛び火するとは……フード姿はちょっと見てみたい気はするけど。

 嫌がりそうだけどここはフリージア達に頑張っていただきたい。

 

 狩場というのに緊張感がないやりとりをしていると、突然坑道を塞いでいた岩の壁が破砕音と共に砕け散った。

 そして土煙の中から姿を現したのは、オレンジ色の物体、コロッサスだ。


「おっ、ようやく出てきたか。よっ、と!」


 出てきたコロッサスはさっそく体が発光して、縮地を使おうとしていた。

 が、その前に俺がディメンションブレスレットで手を転移させてエクスカリバールで頭をぶん殴る。

 その妨害で縮地の発動は止まり発光も治まり、すかさず地面に予め配置しておいた銀の液体、センチターブラに念を送りコロッサスの足に張り付かせて動きを止めた。


「えい、もう1つおまけにえいっ!」


 間髪入れずにエステルが杖を振ってコロッサスを半球状の岩の壁で覆い、今度は前方に向けて杖を振る。

 すると杖の先端に魔法陣が現れて、炎が一直線に伸びていく。まるで火炎放射器。

 岩の壁の中でコロッサスは焼かれてもがき苦しんでいるが、センチターブラが絡み付いているから逃げられない。

 そのままずっと焼かれ続けて、最後には硬そうなオレンジの体にヒビが入って砕け散った。

 ついでに足止めをしていたセンチターブラも砕け散り、光の粒子が俺の肩に付けている水晶へと戻ってくる。


「おっしゃ、これで2体目だな」


「大倉殿は相変わらずエグイ仕掛けを考えるでありますね……」


「センチターブラごと倒すなんて、大胆な考えよね」


「どうせ壊れても勝手に補給されていくからな。だったら有効的に使わないと」


 坑道内での狩りを始めて、既に1体コロッサスを倒していた。

 1回目は縮地を止めるタイミングを掴めずに失敗して、センチターブラで無理矢理足止めして倒したけど、今回は危なげなく狩れたな。

 センチターブラを犠牲にしているとはいえ、2、3日すれば残数も回復するから問題もない。


「それにしてもコロッサスという魔物は、本当になかなか出てこないんですね。10日も狩りをして2体しか出て来ないのは驚きですよ」


「それな。ディウス達と狩りに来た時は2日で出てきたけど、あれは運が良かったみたいだ。中に入って効率も上がってるのにこれだぞ」


「でも遭遇率が低くないとコロチウムだって高くはならないわよ。それにこれぐらいでも十分過ぎるぐらい稼ぎになるじゃない」


「それもそうだな」


 コロッサスが落としたコロチウムをマジックバッグに入れて回収した。

 これで2個目だから単純な稼ぎでも1000万Gだ。さらにアイアンガーゴイルから手に入れた鉄鉱石もかなりある。

 10日間掛かったとはいえ稼ぎとしては十分。不満を漏らすほどじゃない。

 ただもう少しぐらい出てきてくれても……なんて考えていると。


「でしたらもっと奥へ進むのはどうでしょうか? というか私、この坑道の奥に何があるのか気になります」


「私も気になるんだよ! この中を探検するの楽しそう!」


「ですよねですよね! 大倉さん、行きましょうよ!」


「いやいやいや……」


 そこまで仲良さそうに絡んでいなかったのに、シスハとフリージアが妙に意気投合しているんですが……ノリノリじゃねーか!

 俺も気になるけどこれ以上奥へ進むのは躊躇うぞ。奥へ進んでさらにコロッサスが出てくれるならありがたいけど、同時に複数出てきたりしたら洒落にならない。


「それは私も気になるでありますけど、これ以上進むのは止めておいた方がいいと思うのでありますよ。フリージアとシスハもいるとはいえ、ガーゴイルに囲まれたら危険なのであります」


「そうね。これ以上進むのならせめてルーナも連れて来ないと」


「えー、行ってみようよー。ガーゴイルなんて私が一撃で倒しちゃうんだよ!」


 ノールとエステルも俺の考えと同じみたいで、奥へ進むのは否定的みたいだ。

 それでもフリージアは行きたいみたいで、ノールの腕を引っ張ってごねている。


「フリージア、我侭を言っちゃ駄目でありますよ。アイアンガーゴイルもいるでありますし、コロッサスだって遭遇戦になったら危ないのであります」


「けどぉ……」


「魔物の巣窟を探索をするのは危険が付き物とはいえ、油断は禁物なのでありますよ。このまま探索をすれば、誰かが危険な目に遭うかもしれないであります。私も奥がどうなっているか気になるでありますけど、それは嫌なのでありますよ。フリージアならわかってくれるでありますよね?」


「うぅー……わかったんだよ。でも、次はルーナちゃんも連れて探索しようね! 約束なんだよ!」


「ルーナ次第なので私に約束されても困るでありますけど……頑張ってみるでありますよ」


「わーい! 期待しているんだよー」


 フリージアは飛び跳ねて喜んでいる。

 ……またルーナに飛び火しているけど、仕方ないね。

 実際この奥に何があるのか気になるから、ルーナを説得できたら奥へと進んでみるとするか。


「ノールさん、すっかりフリージアさんの扱いに慣れていますね。留守中に面倒を見ていた時は、私が何を言っても言うこと聞いてくれませんでしたのに……」


「2人共気が合うみたいだし、ノールも面倒見がいいものね。けど、シスハだってフリージアとは相性が良いんじゃないかしら?」


「何をおっしゃいますか。私のような淑女には、フリージアさんみたいな元気っ子の相手は務まりませんよ」


 オホホと口に手を当てて言うシスハに、エステルは呆れたような視線を送っている。俺も同じような目をしていると思う。

 普段からまるで淑女とは思えないことしているのに、よく言えたもんだな……。



 2個目のコロチウムを手に入れ、俺達は鉱山を後にした。

 そしてシスハ達は帰宅させ、俺とノールとエステルで王都の冒険者協会へとやって来た。

 ディウスにコロチウムを手に入れたことを伝えるとの、何か新しい情報が入っていないか聞くためだ。

 コロチウムに関してはガンツさんの所に直接持って行けばよさそうだけど……まずは本人達に確認を取った方がいいだろう。

 そう思い協会へと足を運ぶと。


「ディウス様達なら先日スミカさん達がお戻りになったので、護衛依頼に出てしまわれましたよ」


 ウィッジちゃんからそう伝えられた。

 ありゃま……ちょっと来るのが遅かったか。これじゃしばらくはコロチウムを渡せそうにないな。

 後でガンツさんの所に預けに行くか。


「それじゃあしばらくは帰って来れそうにありませんね。帰ってきたらコロチウムが手に入ったって伝えておいてくれませんか?」


「コ、コロチウムですか!? この前狩場をお教えしたので採ってくるとは思っていましたけど、流石に早過ぎますよ……」


 おや、驚くってことはディウス達はコロチウムを手に入れたことは言ってないみたいだな。

 あまりこれは広めない方がいいってことなのだろうか? 余計なことは言わないでおこう。


「ディウス様の件は承知いたしました。それよりも、実は大倉さん達にお伝えしておきたいことがありまして……協会長が少しお話がしたいそうなんです」


「あら、あのおじさんが話をしたいなんて重要なことかしら?」


「何か進展があったのかもしれないでありますね! さっそく話を聞きに行くのでありますよ!」


「ご案内いたしますので、少々お待ちくださいね」


 おおぅ、協会長からお呼びが掛かっているとは。何か新しい情報でも入ったのかな?

 ウィッジちゃんに確認を取ってもらってから、前に案内された応接室へと連れて行かれた。


「わざわざ来てもらってすまないね」


「いえ、問題ありません。それよりお話というのは、やはり例の件でしょうか?」


 中へ入ると今回もクリストフさんと対面するようにソファーへ座らされた。

 うーん、やっぱり協会長と面と向かって話をするのは緊張するぞ。

 それにしてもわざわざ呼ばれたってことは、あの黒い魔水晶やディアボルスに関してだろうな。


「先日君達が倒したという空を飛ぶ黒い魔物だが……それと思しき魔物を発見したという報告が入った」


「あの魔物がまた見つかったのでありますか!」


「でも思しき魔物ってことは、確実にあの魔物だって訳じゃないのね」


 関するどころかディアボルス自体を見つけたって話かよ!

 あいつが暗躍しているとなると、また何か良からぬことが起きる前触れにしか思えないんだけど……。

 だけどエステルの言うように、思しき魔物って言うのはちょっと弱気な言い方だ。

 その証拠にクリストフさんも彼女の言葉に眉をひそめている。


「正体不明の魔物を発見したという報告があっただけで、その魔物かはわからない。発見した冒険者も素材採取の依頼中に見かけただけで、戦ってはいないそうだ。だが大倉君達が以前教えてくれた見た目と酷似し、三又の穂先になった槍も持っていたそうだ」


「それは……あの魔物の可能性が高いですね。十中八九そうでしょう」


「うむ、しかしそれでもその魔物じゃない可能性もある」


 ディアボルスの可能性は高いけど、あいつかどうかわからないってことか……。

 協会にも発見した報告が今までなかったんだから、当然発見した冒険者はディアボルスのことは知らないはずだ。

 そうなるとその確認をする為に……俺達に行ってもらいたいってところか?


「そこで今回も君達に調査を頼みたいんだが……大丈夫かね?」


「……はい、特に忙しい訳じゃありませんので問題ありません」


「そうか、それならよかった。それではさっそく君達には報告のあった港町、セヴァリアへと向かってもらいたい」

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