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平八クッキング

 フリージアの初外出から数日後。

 毎日のように外へ遊びに行く彼女の連れ添いとして、俺達も一緒に出歩いていた。

 正直魔石狩りや金稼ぎに行きたいけど、これもフリージアが外出するのに慣れるまでの我慢だ。

 今日はもう日が傾き始めたので帰路についている。

 

 フードはノールによって改良され、ぴょんぴょんと跳ねても外れることはなくなった。

 今では普段からそれを被るようになり、召喚直後の面影はほぼ消えている。

 GCのプレイヤーにこれが誰かと聞いても、フリージアだってすぐにわからなそうなぐらいだ。


「えへへ、今日も大満足なんだよぉー」


「フリージアは本当に元気でありますねぇ」


「うん! ノールちゃんいつも一緒に遊んでくれてありがとね!」


「むふふ、この程度お安い御用なのでありますよ! 大倉殿との狩りに比べたらへっちゃらであります!」


 ノールめ……ノリノリでフリージアに付き合っていたかと思えば、そんなこと考えていやがったのか。

 今日は散歩中にちょっとした丘まで行ったので、モフットも交えて2人と1匹で走り回ったりなどしていた。

 毎日のように朝っぱらから夕方まで歩き回っているのに、よく飽きないもんだ。

 

「2人共あんだけ走り回ったのにまだ元気がありそうだな。モフットが先にバテてるじゃないか」


「ノールと同じぐらい体力があるなんて、フリージアは凄いのね」


「ふふん! それほどでもあるんだよ!」


 モフットはノールの腕の中に抱き抱えられ大人しくぷぅーと鳴いている。だいぶお疲れのご様子。

 一応魔物であるモフットが疲れているのに、まだまだノール達は物足りないようだ。

 フリージアなんて猿みたいな速さで木を登ったりしていたからな……。

 弓兵だから動きは鈍いかと思っていたけど、全然そんなことはなかった。

 あれならシスハ達に捕まらなかったというのも納得がいく。

 

 自宅に到着して中へ入ると、居間にはルーナがいた。

 椅子に座ってボーっとしていた彼女は、俺達が帰って来たことに気が付くと眉をひそめている。

 

「ルーナちゃん! おはよー!」


「……おはよう」


「相変わらず眠そうだね。家の中にずっといないで、今度一緒に外へ遊びに行こうよ!」


「断る。めんどうだ。それにお前みたいに騒がしい奴は嫌いだ」


「うぅ、嫌いだなんて言わないんでほしいんだよ!」


 あの留守中の騒動以降、ルーナはフリージアに対してこんな感じの態度を取っている。

 完全に無視はしていないが、あまり関わるとしつこく付き纏われて安眠妨害されるから嫌らしい。

 今みたいに外へのお誘いもされるので、ルーナからするとフリージアは天敵に近いようだ。

 だけど噛んだりするほど嫌ってはいないみたいだから、その内機嫌も治るだろう。


 冷たい態度を取るルーナにフリージアがめげずに話掛けていると、奥の部屋からシスハがやってきた。


「あっ、シスハちゃん! ただいまー!」


「はい、おかえりなさい。今日も随分と動き回ったみたいですね。お風呂の準備は済んでいますから、入ってきてはどうですか?」


「うん! いつもありがとうなんだよー」


 フリージアは走り回ったりしたおかげで、服がすっかり乱れていた。

 まるで子供のように汚れなどを気にせずはしゃぐ彼女の為に、帰って来たらすぐ入れるようシスハは風呂の準備をしてくれている。

 シスハも留守中フリージアと争っていたけど、ルーナみたいな態度は取っていない。

 むしろ、次こそはとっ捕まえてやりますよ! なんて張り切っているぐらいだ。

 こいつは相変わらず負けず嫌いだな……まあ、その方が仲も悪くならずに済むから安心だけど。


「さて、それじゃあ私はご飯の支度でもするでありますかね。早く作らないと遅くなっちゃうのであります。ルーナ、モフットを頼むでありますよ」


「うむ、任された」


 モフットをルーナに手渡し、ノールは台所へ向かおうとしている。

 そこである提案をする為、俺は声を掛けた。


「ノール、今日は俺が飯作るからフリージアと風呂でも入ってきたらどうだ?」


「えっ、大倉殿がでありますか?」


「お兄さんが料理をするなんて珍しいわね。最近は殆どノールに任せっぱなしだったのに」


「どういう風の吹き回しですか? 雪でも降ってきちゃいそうですよ」


 俺の提案にノール達は驚いている。

 ノールが本格的に料理担当をするまでは、俺だって多少は作っていたのだが……雪まで降りそうとか言うなよ!


「ノールも動き回って疲れてるだろうし、たまには俺がやるのもいいかと思ってな。久しぶりに食べたい物があるから、フリージアの歓迎も兼ねて作ってみたいんだ」


「平八って料理できたんだ。ちゃんと食べられるの?」


「失敬な。俺はもやし料理のプロフェッショナルだぞ」


「もやし? よくわからないけど、作ってくれるのなら楽しみなんだよー」


 元の世界じゃ一人暮らしをしていたから、俺だってそれなりに料理はできる。

 面倒な時は外食で済ませたりもしていたが……支払いがヤバイ時は自分で作らざるを得なかったからなぁ。

 下手の横好きではあるが、料理にはまって色々と挑戦していた時期もあった。

 ……最終的にはお手軽なパスタ辺りに辿り着いたけど。


「それじゃあお言葉に甘えて……フリージア、一緒にお風呂に入るのでありますよ!」


「うん! 洗いっこしようね!」


 ちょっと迷った感じはあったものの、ノールは俺の提案を受け入れフリージアとお風呂へと向かった。

 いつも世話になっているし、フリージアの面倒を見るのも任せっぱなしだから、他のところで負担は減らしてやらないとな。

 それに作りたい料理があったのも事実だ。

 フリージアは食べられない物もないようだから、今から作る料理は問題もない。


「それで、何を作るおつもりなんですか? まさかもやし料理を本当に作るおつもりですか?」


「残念だが今回はもやし料理を作るつもりはない」


「あら、それじゃあ一体何を作るの?」


「それはできてからのお楽しみ……と言いたいけど、お前達の口に合うかもわからん。一応元の世界で俺の住んでた国にあった定番料理なんだけどな」


「口に合うかわからないと言われると不安になりますが……それを聞くと興味が湧きますね」


「うむ、食べてみたい。けど、口に合わなかったらどうする?」


「へーきへーき、駄目だったら最悪ガチャの食料出すからさ。物は試しにやらせてくれよ」


 今から作ろうとしている料理は、元の世界で住んでいた国じゃ家庭的料理になっていたものだ。

 ノールが作ってくれるこの世界の洋食的な料理も美味しいのだが、たまには元いた世界の料理も恋しくなる。

 白米も食べたいところだけど……ノール達には合いそうにないから今回は止めておこう。

 もし作って彼女達の口に合わなくても、ガチャ産の食料を出せばいいから問題はない。

 その場合は余りはマジックバッグにでも収納して、後で俺1人で食べればいいだろう。


「お兄さん、私も作るの手伝ってもいい?」


「ん? 俺一人でも作れるから平気だぞ」


 今回作ろうとしている料理は、調理自体はそこまで難しい物ではない。

 6人もいるから量が増えて、切ったりするのに多少は時間が掛かるだろうけど。

 だから1人でやろうとしていたのだが……。


「最近料理をノールに教えてもらっているから、私もやってみたいわ。それにお兄さんと一緒に料理をしてみたいの……駄目?」


 両手を合わせ首を傾げながらエステルに上目遣いでお願いされた。

 くっ、久々にこれをやってきたか……一緒に料理をしてみたいなんて可愛らしいこと言われたら、男として断れないじゃないか。


「お、おう。別に構わないぞ」


「ふふ、やった」


 返事を聞いたエステルは嬉しそうに小さくガッツポーズをしている。

 そこまで喜ばれると、何だか照れくさいな。

 気が付けばシスハが無言でニヤニヤと俺の方を見ているけど、気にしない気にしない。

 

 さっそく料理をする為に、台所に置いてある食材販売機の前にやってきた。

 正面に付いている液晶には1万4800ポイントと表示されていて、既に食材を選べるようになっている。

 ちょくちょくゴブリンの牙とかをぶち込んでいて、ノールがこれで食材を購入できるようにしていた。

 今回作る料理で使う、じゃがいも、玉ねぎ、にんじん、しらたきを選択して購入。

 豚肉も必要だけど、代わりにオーク肉を使うつもりだ。……やっぱり未だにあれの肉だと思うと、若干抵抗があるな。

 調味料はこれまたガチャ産である調味料セットがあるから、醤油や砂糖なども揃っている。


 材料は単純に1人前を6人前に増やしてみたけど、これで大丈夫だろうか?

 1人暮らしだと自分の分だけで済んでいたから、こんな大人数相手に作ったことがない。ちょっと心配だな。

 

 材料も揃い料理を始めようと、俺はエプロンを着けた。

 エステルも同じようにエプロンをして、料理の為かいつものツーサイドアップを解いて、短いポニーテールにして髪を纏めている。

 ……ノールはアイマスクであれだけど、こういう姿の女の子は可愛らしいなぁ。

 

 まずはじゃがいもとにんじんの皮を剥いていく。

 6人分だけあってやっぱり量は多いけど、2人でやっているから割と早くこの作業は終わった。


「次は材料を切っていくんだけど……大丈夫か?」


「ええ、任せて。ノールのお手伝いでよく切っているもの」


 皮むきはちゃんとできていたけど、材料を切るのは大丈夫なのか不安だ。

 様子を見る為にじゃがいもを一口大に切ってもらってみたが……問題なかった。

 材料を押さえる左手を軽く握り、親指は人差し指の内側に入れている。俗に言う猫の手。

 ノールはしっかりと教えていたみたいだな。

 あいつの切り方は目で追えない速さで異次元過ぎるから、教え方もぶっ飛んでるかと思ったよ。

 

 任せられると安心したところで、俺も包丁を持った。

 そしてオーク肉を薄切りにしようと包丁を入れてみると……何の力も入れずにストンと、包丁の重さだけでまな板まで刃が通る。


「うおっ!? な、何だこの包丁……めっちゃ切れるぞ」


「ノールがよく研いでいるから切れ味も良いみたいね。この前まな板ごと切ってたわよ」


 まな板ごと切るとか、あいつ料理でもうっかり引き起こしてやがるのかよ!

 これってガチャから出た高級包丁だよな? ノールの手が加わって、恐ろしいことになっているぞ……。

 ちょっとした驚きも束の間で、黙々とエステルと一緒に材料を刻んでいく。

 じゃがいもは切ってからしばらく水に浸す。これやらないと煮崩れしやすいからなぁ。


「……これを切っていると、何だか目が痛いわ」


「玉ねぎ切ってるとそうなるよな。俺が全部やっておくぞ」


「いえ、いいわ。このぐらい任せてちょうだい」


 玉ねぎをくし型に切り始めたエステルが目に涙を浮かべている。

 代わりにやってやろうかと思ったけど、彼女は涙目のまま笑ってまた切り始めた。

 

 うん、なんだろうか。こういうのっていいな。

 元の世界じゃ誰かと料理をすることなんてなかったから、凄く新鮮なやりとりだ。

 ……元の世界に帰ったら、こうやって誰かと一緒に料理することもないんだろうなぁ。


 ちょっとしんみりとした気持ちで隣で頑張っているエステルを眺めつつ、全ての食材を切り終えた。


「随分と大きく切ったのね。これで本当にいいの?」


「ああ、後は肉を炒めて野菜とかを煮込むだけだ」


「これでいいだなんて、結構簡単な物なのかしら」


「うーん、どうだろうな。調理自体は楽だけど、味付けの好みで結構変わってくるんだ」


 材料を切り終えれば、大半の調理は終わったようなもの。

 ただし、この煮込むところが重要だ。

 味付けもそうだけど、煮崩れにも気をつけないといけない。

 俺は濃い目の味付けが好きだけど、ノール達にも食べさせるとなると、あまり尖った味にしない方がいいだろう。

 今回は甘さも味の濃さも控え目な、基本的な味付けにしておくつもりだ。

 

 鍋に油を引いて熱して、薄切りにしたオーク肉を炒めていく。

 次に玉ねぎ、じゃがいも、にんじん、しらたきを投入し炒め合わせる。

 色が変わったところで水や醤油などを合わせた煮汁を入れ、沸騰して灰汁が出てきたら取っていく。

 後は蓋をして煮込んでいけば調理完了だ。


「うし、こんなところか。これで上手くいけばいいけど……」


「結構色々な物を入れるのね。確かに味付けが難しそうだわ」


 醤油や砂糖の分量が本当に難しい。一応計量カップで測りながらやってみたけど、果たして上手くいくだろうか。

 酒も多少入っている。アルコールは飛ぶからないとは思うけど、ノールが酔いそうなのが怖いな。

 

 ある程度煮詰めたところで、じゃがいもと煮汁を小皿によそった。


「エステル、味見してみてくれないか?」


「ええ、任せて」


 これでエステルが駄目そうなら、ノール達の口に合うかも怪しい。

 ちょっとドキドキしてくるな……。


「ん……あら、美味しい。でも、少し味が薄いかも」


「汁の方はどうだ?」


「……ちょっと濃いわね」


 まだ煮汁が染み込んでいないだけだから、1度冷ませばいい感じに仕上がりそうだな。

 ふぅ、よかった。


「なら大丈夫そうだな。もう少し煮たら火を止めて、その間に俺達も風呂に入るか」


「あら、一緒にお風呂にはいるなんて、お兄さんもようやく私を受け入れてくれるのね」


「……別々だからな」


 エステルが頬に片手を当て、恥ずかしそうに頬を赤くしながら言ってきた。

 一緒に入るとは一言も言っていないのだが……まだ俺と入るのを狙っていたのか。

 それからある程度鍋を煮た所で火を止め、俺達も風呂へ入ることに。

 そして風呂から上がると、既に風呂を終えたノールとフリージアが腹が減ったと騒いでいた。


「大倉殿ー、お腹ぺこぺこなのでありますぅー。まだでありますかー」


「平八ー、早くご飯食べたいんだよー」


「おう、そろそろいい感じになってると思うからちょっと待ってろ」


「なかなか良い匂いがしていますね。これは期待してもよさそうです」


「うむ、けど問題は味だ」


「味見では美味しかったけれど……どうかしらね」


 匂いも部屋中に広まって、シスハ達は期待しているようだ。

 鍋を見に行くとある程度冷めたみたいで、じゃがいもを1つ頬張るといい感じに味が付いていた。

 ……よし、これで大丈夫かな。

 

 再度加熱して温めてから、食器に盛り付けて居間へと運んだ。

 ついでに食材販売機で多めに手に入れたにんじんも持っていく。


「ほら、モフットにはにんじんな」


「むふふ、美味しそうに食べているでありますよ」


 机に料理を置く前に、にんじんをノールの膝の上にいたモフットに渡した。

 両手で器用ににんじんをキャッチした白い毛玉は、プウプウと機嫌の良さそうな声を上げて噛り付いている。

 さて、いよいよお披露目か……どういう反応されるか緊張するな。


「お待たせ、これが肉じゃがだ」


 意を決して皿に盛り付けた料理を机に置いた。

 そう、俺が作った料理……それは肉じゃが。


「……お芋でありますか?」


「これはまた大量ですね……。にんじんなども入っていますけど、殆ど芋じゃないですか。少し食べただけでお腹が膨れそうです」


「思っていたより地味だ」


 おほ、見た目の評判はあまりよくないみたいだ。

 美味しさに派手かどうかは関係ないと思うけど……芋料理だから拍子抜けしちゃったか?


「私お芋大好きだよ! 良い匂いで美味しそう!」


「おう、沢山あるから好きなだけ食べてくれ」


「やったー!」


 フリージアだけは嬉しそうな声を上げて、笑顔で美味しそうと言ってくれた。

 何この娘、凄く良い子じゃないか! ここまで嬉しそうにしてくれるなら、沢山盛るぜぇ!

 積み上げられたじゃがいもの山に、フリージアはフォークを突き刺して口に頬張った。


「どうだ?」


「……うん! 美味しい!」


 おお、良かったぁ。エステルに味見してもらっていたとはいえ、食べてもらえるか不安だったからなぁ。

 フリージアの反応を見て、ノール達も肉じゃがに手をつけ始めた。


「……おぉ、これは美味しいであります。甘いのは意外でありますけど、じゃがいもやお肉によく味が染み込んでいるのでありますよ。砂糖とか入れているのでありますかね? こんな料理を知っていたなら、教えてほしかったのでありますよ」


「……ふむ、悪くない。落ち着く味だ」


 ノールから美味しいという評価をいただいた。やったぜ。

 ルーナも悪くないと言いつつ、パクパクと口の中に頬張っている。

 俺の考えた料理じゃないけど、作った物を褒められるのは気分がいいな。

 よく褒められてノールが嬉しそうに飯を盛り上げる気持ちがわかってきたぞ。


「好評じゃない。お兄さん、良かったわね」


「ああ、エステルも手伝ってくれてありがとな」


「ふふ、また料理する時は一緒に作りましょうね」


 エステルも手伝ったからか嬉しそうにしている。

 うん、こういうのはいいものだ。また機会があれば是非やりたい。

 今度はカレーとかでも……市販のルーないかな? 流石にスパイスから作るのはやったことないぞ……。

 そんなことを考えていたのだが、シスハが眉を寄せてなにやら神妙な面持ちをしているのが目に入った。


「シスハ? どうしたんだ?」


「……うーん」


 手にフォークを持っていて、どうやら肉じゃがには手を付けたみたいだ。

 それでも何も言わずに考え込んでいる。

 俺が声を掛けても反応せず少しそのままでいると、急に立ち上がってシスハは自分の部屋に行ってしまった。

 あれ……もしかしてお口に合いませんでした? それとも本当は美味くなかったとか……。


「ノール、本当に美味いのか?」


「本当に美味しいでありますよ」


「うん、凄く美味しいよ!」


 ノールもフリージアも嘘を吐いている気配はない。ということは。


「あいつの口には合わなかったのか……」


 そうだよなぁ。全員の好みに合わせるなんて無理だし、シスハには肉じゃがは合わなかったのか。

 このままじゃ食べる物もないだろうから、ガチャの食料でも出そう……と思っていると。


「いや、違う。シスハならそう思えばはっきり言う」


 ルーナがそんなことを言い出した。

 確かにあいつならあんな反応せず、何ですかこれ! 全然美味しくありませんね! ぐらいは言いそうだ。

 それなのに真剣に悩んでいたあの表情は一体……。

 

 しばらくするとシスハの部屋の扉が開いて、彼女は居間へと戻ってきた。

 だが入る前と違い、その手には一升瓶を持っている。

 またテーブルに着いてコップに一升瓶の中の液体を注ぐと、再度肉じゃがを頬張りコップをグイッと煽った。


「んぐ……ぷはぁ! くぅー、これ、これですよ! お酒に凄く合いますよこれ!」


「お前はおっさんか……。美味かったってことでいいのか?」


「はい、大倉さんが作ったとは思えないぐらい美味しいですよ。こんな物作れるのなら、もっと早く作ってくださいよ。ささ、大倉さんも一杯どうぞ」


 こいつ……あの表情で酒のつまみにしようか考えていやがったのか……。

 ほ、本当にどうしようもない神官だな……喜んでもらえているようだからいいけどさ。

 つまみとして食べる人もいるから、これもある意味正しい楽しみ方かな。

 

 肉じゃがはノール達に好評で、今回作った分は全て食べ尽くされ、また作ってほしいと言われた。

 作った料理を美味しいと言われるのは嬉しいもんだなぁ。また機会があれば、何かしら作ってみようかな。

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