登録
「ふふ、ありがとねお兄さん。こんなに買って貰っちゃって」
「私も買っていただき、ありがとうございますなのであります」
「お礼なんていいぞ。元々ノールが稼いだようなもんだしな」
雑貨屋で服以外にも色々と買い終わり、次の場所へと向かい始めた。
2人にお礼を言われるが、狩りのメイン戦力はノールだからある意味彼女が稼いだようなもんだ。あれ? これって俺ヒモ……いや違う、断じて違うぞ。
「次はどこに行くのかしら?」
「冒険者協会だな。エステルも冒険者として登録しないと」
これから冒険者として一緒に活動するんだ。ならエステルも登録しておかないと駄目だからな。
買取不可だった荷物は、人目が無い場所でバッグに仕舞った。あー、軽いって素晴らしい。
冒険者協会に到着し中へ入ると、気が付いた何人かがこちらを見て凝視している。視線を追ってみると、隣のエステルを見ているようだ。
「いらっしゃいませ、大倉様。本日はどのような……そちらの方は?」
「今日から一緒のパーティを組む事になった娘です。まだ冒険者登録をしていないので、これから登録していただいてもよろしいですか?」
「はい、大丈夫ですが……。もしかして、そちらの方は魔導師でしょうか?」
「そうですよ」
早速受付まで行き、マーナさんに対応をしてもらった。エステルを魔導師だと言うと驚いた表情をして、持っていた筆記用具を落としてしまう。
そんなに驚く程なのか。
「も、申し訳ございません! そ、それではこちらにご記入ください」
動揺した様子で、マーナさんは登録用の紙をエステルに渡した。
俺達は受付から離れ、書類に記入する為別の机に移動する。
「随分と慌てちゃって、どうしたのかしら」
「それほど魔導師が少ないって事だろう。実際見かけないしな」
協会に入ってから今まで、エステルに向かう視線は絶えることなく続いている。格好からして魔導師だ! って感じだし、何より可愛いもんな。
街を移動している間も、時折彼女を見てにやけている男がちらほらと。ハァハァ息を荒くした男もいたし、1人にしたら間違いなく事案になりそうだ。
ノールも素顔だったら間違いなく注目の的になっていただろうな。もしバレたら嫉妬の対象になりそうだな俺。
「それでは、こちらがエステル様のネームプレートとなります。最初はGランクからで、10日以内に1つでも依頼を受けない場合は剥奪となります。紛失した際は1000Gで再発行となりますのでご了承ください」
彼女は黒いプレートを受け取ると、それを珍しい物を見るように表と裏を確認している。そして不思議そうに首を傾げた。
「お兄さん達のと私の、色が違うわ?」
「そりゃな。俺達はEでエステルはGランクだからな」
俺とノールが首からぶら下げているプレートは青色。そりゃ冒険者になったばかりなんだから違うに決まっているだろ。
「私だけ仲間ハズレみたいで悲しいわ。お姉さん、私もEランクにはしてもらえないのかしら?」
「申し訳ございません。規則でどんな方でも条件を達成していただかないと、ランクの昇格は出来ませんので」
エステルは残念そうにしょんぼりとしている。
規則は規則だもんな、仕方ない。それに彼女ならすぐに同じEランク程度にはなれるだろうし、焦ることもないだろう。
「そう……わかったわ。お兄さん、今から依頼を受けて私もEランクになるわ」
「いや、今すぐは無理だろ。もう暗いし、明日以降にしてくれ」
もう夕日が街を照らし始める時間だ。流石に今から移動して狩りをする気にもなれない。
「むぅ~、オークやゴブリンがいる森、今すぐ消し飛ばしても駄目なのかしら?」
「止めろ、絶対に止めてくれ」
「本当にやりそうだから、怖いのでありますよ……」
どうしてこう発想が物騒なんだよ。いいぞって言ったら本当にやりそうだから怖い。ノールも少し怯えているぞ。
●
やる事を終えて、俺達は宿へと戻ってきた。食事とお風呂も済ませ、部屋でのんびりとしている。
ベッドはやはりノールとエステルが2人で寝て、俺は1人で寝ることになった。これでまたズルいとか言われないかヒヤヒヤしたが、そんなことはなかったからホッとしたよ。
「なんだか、狩りもしてないのに異様に疲れた……」
「お兄さん、案外体力が無いのね」
「うぅ、止めてほしいのでありますよ~」
俺の呟きに返事をしながら、エステルはノールの髪をいじくっている。
せっかく綺麗な長い髪が勿体ないわよ、といじり始めたのだ。いつも下の方で結わくだけのノールの髪は今ツインテールとなっている。
ヤバイ、めっちゃ似合っているぞ。素顔を思い浮かべると、俺の下の方が反応してしまいそうだ。
「あら、やっぱりこっちの方が可愛いわ。アイマスクも取ってみましょうよ?」
「絶対に嫌でありますよ! 絶対に!」
アイマスクを押さえ、取られまいと必死だ。できれば俺も取ってみてほしい。
「強情ね。お兄さんは何かリクエストあるかしら?」
「じゃあポニーテールで。あっ、でもツーサイドアップも見たいかも」
いつもの髪型と違うのを見ると新鮮だな。ゲームだと他の髪型なんて見れないから、これは嬉しい。
エステルが来なかったらこんな事も無かっただろうし、彼女が来てくれて本当に良かった。それとカメラアプリを俺は切望するぞ。どうして、どうして爆死祭の時に来なかったんだよ畜生!
「ふふ、それじゃ両方にしましょうか」
「私はおもちゃじゃないでありますよ~」
ツインテールを解き、また別の髪型にしようといじくり始める。困ったような泣き声を出すノール。うん、仲が良さそうでよかったよかった。
さて、エステルがノールをいじっている間にステータスでも確認してみるか。
ベッドに座ったままステータスアプリを起動させ、エステルをカメラに捉える。
――――――
●エステル
レベル 15
HP 600
MP 1500+1000
攻撃力 400+1500
防御力 120+300
敏捷 12
魔法耐性 40+40
コスト 22
固有能力
【魔導師の威光】
出撃時、全ユニットの魔法耐性を10上昇させる。
スキル
【魔力上昇】
魔法の威力を50%上昇させ、相手の魔法耐性を50下げる。再使用時間:1日
B:62 W:48 H63 推定:AAAカップ
――――――
あっ……これは見なかった事にしておこう。見た目通りって事だな、うん。希少価値って奴だ。
それは置いておいて、やっぱりMP高いな。流石は魔導師。その代わりに防御がやや低いか。
魔法耐性は10で魔法の威力を10%減少することができる。魔法は防御無視してダメージを与えることができ、GCで重装鎧など防御力の高い敵を殲滅する際には重宝した。
そしてエステルは高火力に高魔法耐性を備えた凄い奴だ。物理攻撃には弱いが、壁役と合わさった時の殲滅力はやばい。
――――――
●賢者の杖
MP+1000
攻撃力+1500
対象の魔法耐性-50%
●アイオロスの衣
防御力+300
魔法耐性+40
硬直時間-50%
――――――
下にスクロールし装備も確認してみると、やはり専用UR装備がくっ付いていた。
やっぱり性能凄いなぁ……俺もいつかはUR装備が欲しいな。
「お兄さん。何を見ているのかしら?」
「うおっ!?」
いつの間にか目の前にエステルが居た。さっきまでじゃれ合っていたもう片方のベッドは、ポニーテールになったノールが疲れ果てたようにぐったりとしている。
「えっ、いや……アイテム。そう、ガチャで出たアイテム見ていたんだよ」
やばい、ここは誤魔化さないと。今はステータス欄を開いたまんまだ。ここに3サイズ載ってるのバレたら何されるかわからん。
「ふーん。本当かしらね? まあいいわ、えい」
「あっ、ちょっ、おい!?」
怪しそうにジト目で見られ、冷や汗が出てくる。しかし、すぐにジト目を止めるとエステルが膝に飛び込んできた。
「ん~、お兄さん案外体付き良いのね」
俺の膝に頭を乗せすりすりと頬ずりをしている。まるで猫が匂いを擦り付けるかのようにだ。頬ずりするだけじゃなく、体もぺたぺたと触られクスぐったいぞ。
「むぅ、ちょっと気持ち良さそうであります。羨ましいでありますよ」
いつの間にか復活したノールまでこっちのベッドまでやってきた。俺はその混乱中にスマホを布団の中に隠して見えないようにする。
ふぅ、どうにかバレないで済んだようだ。あれ、よく聞いてなかったけど羨ましいとかなんか言ってないか?
「あら、ノールもやってみる?」
「いいのでありますか!」
「俺の意見は聞く気ないのな……」
エステルに誘われ、ノールまで空いている方の膝に擦り寄ってきた。
おい、なんだこれ。女の子2人に俺がなんで膝枕してるんだ。正直言うと悪い気はしないのだが、下の方に血液が滾りそうだから止めてほしい。
そんな考えは叶うはずもなく、俺はしばらく2人にすりすりされるのだった。




