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フリージアの耳隠し

 ディウス達と別れ、まだ日の明るい内に俺達は帰宅した。

 フリージアのことで不安はあったけど、シスハとルーナがいるんだし心配もない……そう信じていたのだが。

 ビーコンで自宅に転移した途端目に入ったものは、椅子や机がひっくり返り、物があっちこっちに散乱し荒れ果てた室内だった。

 そして、床にうつ伏せになって倒れている金髪の幼女の姿も……。

 傍らではモフットがプープーと鳴いて心配そうにしている。


「な、何があったんだこれ……」


「まるで嵐でも通ったかのような惨状でありますね……」


「ルーナ、大丈夫なの?」


 あまりの光景に言葉を失っていたが、すぐに倒れているルーナを抱き起こした。


「へ、平八……ようやく帰ってきたのか……」


「あ、ああ……それで、どうしてこうなった」


「フリージアだ、全部あいつのせいだ……。もう嫌だ……寝かせて……ガクッ」


「寝ちゃったのでありますよ……」


 口でガクッと言いながら、ルーナはそのまま意識を失って寝息を立てている。

 この荒れようはフリージアのせいみたいだな……一体何があったらこうなるんだよ。


「ルーナをほったらかしにするなんて、シスハはどうしたのかしら?」


「そうでありますね……。この部屋の荒れようといい、どこへ行ったのでありましょうか……」


 たしかにルーナが倒れているというのに、シスハがいないなんておかしい。

 あいつがこの姿を見たら、間違いなく大慌てで看病するはずだ。

 それにフリージアもいない。あいつら一体どこへ行ったんだ?

 まさか外へ行ったんじゃ……と考えが過ぎったところで、ノールの部屋からダダダと激しい足音が聞こえ、バンッと勢いよく扉が開いた。


「あはははは、こっちなんだよー!」


「待ちやがれってんですよ! 絶対にぶち転がします!」


 笑いながら楽しそうに走るフリージアと、縄を片手に鬼の形相で追いかけるシスハが飛び出してきた。

 何やってるんだこいつら……。


「あっ、ノールちゃん! おかえりなんだよ!」


「おっと、ただいまなのでありますよ」


 俺達の存在に気が付いたフリージアは、そのままの勢いでノールに抱き付いた。

 追い掛け回していたシスハも気が付いたみたいで、立ち止まると膝に手をついて苦しそうに息をしている。


「はぁ……はぁ……よ、ようやく帰っていらしたんですね……」


「お、おう。随分と疲れているな」


「昨日からずっとフリージアさんを追いかけ回していましたからね……」


「どうしてそんなことしているのよ」


「それがですね……」


 シスハは俺達が留守にしている間のことを語り始めた。

 俺達が出発してから3日間は問題なかったけど、4日目辺りから急にフリージアは外へ行きたいとごねだしたという。

 それでもシスハとルーナが遊び相手をして、気を紛らわせていたみたいだ。

 だが、シスハ達が予想していたよりもフリージアは厄介で、一度相手をしたらとことん付きまとい始めたらしい。

 2人が途中で寝ようとするとフリージアがちょっかいを出して妨害を始め、それが1日中続いたようだ。

 最終的にルーナがぶち切れて追いかけ回し、シスハも加わってフリージアを捕まえることに。

 しかし二人掛りでも彼女を捕まえられず、諦めて無視しようとするとまた妨害が始まり、2日目の途中でルーナは力尽きて倒れた。

 

 それに激昂したシスハが本気で追いかけ始め、モフットの小屋に逃げ込んだフリージアと格闘を繰り広げていたようだ。

 今の今までそれを続けていて、ようやく俺達が帰ってきて終わった、と。


「それがこの居間の惨状か……。というか、よくこの狭い家の中でお前達から逃げ切ったな」


「本気で捕まえようとしたのですが、ギリギリのところで避けられてしまうんですよ。油断させて何度も不意打ちしたんですけど、それもことごとく回避されまして……」


「ルーナちゃんとシスハちゃんとの追いかけっこ、楽しかったんだよ!」


「噛み付かれて酷い目に遭ったのに懲りなかったのね……」


 シスハとルーナがここまで疲れ切っているのに、フリージアはまだまだ元気があるようだ。

 戦いじゃないとはいえこの2人に追い掛け回されて無事でいられるなんて、こいつ化け物だろ……。

 しかし外へ出られないからって、嫌がらせのようにちょっかいを出し続けたのは感心できないな。

 解決せずに家を空けた俺も悪いといえば悪いけど、ここはガツンと言っておこう。

 なんて思っていたのだが……ノールが先にフリージアを叱り始めた。


「フリージア、シスハ達に迷惑を掛けちゃ駄目でありますよ」


「えー、だって……ずっと家の中にいるだけで退屈だったんだよ」


「外に出られない不満はわかるでありますけど、限度というものがあるのであります。シスハとルーナに謝るでありますよ」


「うぅ……ごめんなさいなんだよ……」


 フリージアはしゅんとしながらシスハに頭を下げた。

 ノールの言うことは素直に聞くみたいだな……同類だからか?


「い、いえ……縛り上げて部屋に閉じ込めようかと思っていたぐらいですが、お気になさらないでください」


「本音が漏れてるぞ…………」


「逃げ切れてよかったのかもしれないわ……」


 だから縄を持って追いかけていたのか……。

 捕まってたらグルグル巻きか椅子に縛り付けられて放置コースだったに違いない。


「私は疲れましたので、後は大倉さん達にお任せいたしますね……」


「あ、ああ……ゆっくりと休んでくれ」


「シスハがここまでヘロヘロになっているのは初めて見たわね」


 シスハはふらふらな足取りで自分の部屋へと戻っていった。

 あそこまで疲労しているとは……どんだけ苛烈な追いかけっこをしていたんだか。

 俺も抱き抱えていたルーナを部屋に運んで、ベッドの上に寝かせた。

 すると前のようにもぞもぞと掛け布団の中へ潜っていき、姿が見えなくなる。

 気を失っていてもちゃんと潜っていくんだな……。

 居間へと戻ると、今回の騒ぎの元凶になったフリージアの外出について考えることになった。


「このままにしておけそうもないでありますから、フリージアが外へ出られるように考えないと駄目でありますね」


「えっ、ホント! わーい!」


「ここまで喜ぶなんて、外へ出たい欲求がそんなに強いのね」


「ちょっと甘く見ていたかもしれないな……」


 楽しんでいた部分もあると思うけど、シスハ達にちょっかいを出したのは外へ出られない不満も含まれているはずだ。

 このままじゃ家の留守番を任せるのも不安だから、早急にこれは対処しないといけない。


「で、外へ出れるようにするには耳をどうにかしないといけない訳だが……どうするよ?」


「単純に考えるのなら、何か被って隠すのが1番いいんじゃないかしら?」


「何か被るか……」


 被るとなると、やっぱり帽子とかの類か? だけど普通の帽子じゃ耳を隠すのは厳しそうだ。

 顔の両脇を覆うような形のがあったような……防寒用のやつだっけ?

 だけど、フリージアの場合それでも動いて取れそうな予感も……。

 そう考え込んでいると、ふとノールが視界に入った。

 あっ、もしかしたらいけるかも。

 

「どうかしたでありますか?」


「ヘルムとかちょうどいいんじゃね?」


 ノールが装着しているヘルムを見て、これなら隠せるんじゃないかと閃いた。

 さっそくガチャ産のヘルムを取り出してフリージアに手渡した。

 受け取った彼女は、ヘルムを両手で持って見つめながら嫌そうに眉をひそめている。


「えぇ……これを被るの?」


「お兄さん……普通被って隠すなら、帽子とかフードを考えない?」


「いや、フリージアの場合それだと外れる可能性がある。その点ヘルムなら滅多に外れないだろうから安心できるだろ?」


「そう言われると説得力があるような気はするでありますが……」


 エステルが頬に手を添えて困った視線を向けてきたけど、説明するとノール共々納得はしたみたいだ。

 ヘルムなら顔全体を覆い隠せるし、外れる心配もない。

 これほど耳を隠すのに好条件な物があるだろうか?

 

 フリージアにさっそく被るよう促そうとしたが……彼女はヘルムを見て首を傾げていた。


「平八、これじゃ私は被れないんだよ。耳に当たっちゃう」


「へーきへーき、ガチャ産の装備だから勝手に変形してくれるはずだ」


「あら、そうなの?」


「そういえばエステル達は知らなかったか」


 シスハと宝石選びをしている最中に、ガチャ産の装備は装着する部位の大きさに変わることが判明していた。

 宝石選びに夢中でノール達に伝えていなかったな。

 説明してやると、彼女達は驚いていたが納得してくれた。

 このままだと耳が邪魔でヘルムは被れないけど、ガチャ産の装備なら変形して被れるようになるはず。


「じゃあ被ってみるんだよ! うんしょ……ん?」


 さっそくフリージアがヘルムを被ってみたのだが……ヘルムの形は変わらずに耳に当たっている。


「変形する様子が全くないでありますよ」


「あれ、おかしいな……」


「あまり大きく形は変わらないのかもしれないわね」


 その後も少しそのままにしてもらったが、ヘルムは一向に変形する様子はない。

 まさか大きさは変わるけど、形そのものは変形しないっていうことか?

 フリージアの長い耳を入れるとなると、相当形が変わりそうだもんな……。


「うーん、帽子かフードを被らせるしかないか。エステルの魔法で見た目だけ誤魔化したりはできないのか?」


「一時的にならできると思うけど、長時間は無理ね。それに私から離れても効果がなくなるわ」


「それじゃあ物理的に隠すしかないな……。とりあえず町で探してくるか」


 他にガチャ産で良いアイテムがないか探してみたけど、使えそうな物はない。

 エステルの魔法でも駄目みたいだし、今から雑貨屋にでも行って探してくるか。

 耳を隠すとなると、帽子かフード、それに耳当て辺りかな? 良い物があればいいが……。

 買いに行こうと家から出ようと向かった。だが、その前にノールが叫び出した。


「あっ、ちょうど良いのがあるかもでありますよ!」


「ホント!」


「ちょっと待ていてくださいでありますね!」


 そう言ってノールは自分の部屋へ入って行く。

 良い物があるだと……? 一体何があるというのだろうか。

 フリージアは期待しているのか、目を輝かせながらノール部屋を見つめている。

 俺とエステルも顔を見合わせ、一体なんなのか傾げながらノールの帰りを待つ。

 そんな注目の中、ようやく扉が開いて帰ってきたノールの手には……白い布が握られていた。


「じゃじゃーん、であります!」


 フリージアの前まで来たノールは、自信にその布を広げた。

 それは何の変哲もないフード……ではなく、腰下辺りまである1枚の布で、被る部分にはウサ耳のような可愛らしい物が付いている。


「おお! 可愛いんだよ!」


「あら、本当に可愛いわね。どこで買ってきたの?」


 フリージアは興奮したようにノールからフードを受け取った。

 ウサ耳フードかよ……ホントこんなのどこで買ってきたんだろうか。

 エステルがそのことを聞くと、ノールは腰に手を当てて胸を張りながら笑った。


「むふふ、これは私が自分で作ったのでありますよ!」


「えっ、ノールが縫って作ったのか?」


「そうであります! モフットの可愛さを取り入れたフードなのでありますよ!」


 なんて奴だ……料理だけじゃなくて、こんな物を自作できる裁縫技術があったのかよ……。

 流石は自称乙女というなんというか……。

 俺が素直に感心していると、自作したと聞いたフリージアは途端に喜ぶのを止め、真面目な顔つきに変わった。


「ノールちゃん、せっかく作った物なのに貰っちゃっていいの?」


「いいのでありますよ。フリージアに使ってもらえるのなら、私はそれだけで嬉しいのであります。作ろうと思えばまた作れるでありますから、気にしなくてもいいのでありますよ」


「ノ、ノールちゃん……ありがとなんだよ!」


 またフリージアはノールに抱き付いて喜び始めた。

 自作だって聞いて貰うのを躊躇したのか……そういうところに気を掛けることはできるんだな。

 フリージアは貰ったフードをさっそく羽織った。


「どうかな?」


「似合っているのでありますよ。でも、このままだとフードが外れそうでありますね。後で首留めも付けておくでありますか」


「それにまだ耳が見えそうね。どうせなら髪を解いて、隠れるようにしましょうよ」


 ノールとエステルがノリノリで、フードを被ったフリージアを弄くっている。

 今は上から羽織っているだけみたいだから、留め具は間違いなく必須だ。

 エステルが楽しそうに髪を弄くると、サイドテールだった髪は二つ結びに変わっていた。

 それをフードの両脇から出すようにして、上手く耳が隠れるようになっている。


 うん、無事に対処法が決まったみたいでよかった。

 俺としてはこのフード目立ち過ぎるようにも見えるけど、本人が気に入っているみたいだからいいかな……。

 注目浴びてしまうようなら、また他のフードをノールに作ってもらおう。

 というかだよ。


「ノール、あるんだったらこの前それを出してくれよ……」


「えへへ、フードで隠すって発想がなかったでありますから、使えると思っていなかったのでありますよ」


 ノールは笑いながら頭を擦ってそう答えた。

 戦闘能力もあって女子力も凄く高いのに、こういう抜けた部分あるのがなぁ……。

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