久しぶりの装備屋
村へと戻るまでの間に、なんとかディウス達の疑いを晴らせた。
いやぁ、付き合いがある程度長いとはいえ、流石に今回のはやり過ぎたようだ。
ノール達も説得に加わってくれたおかげで、とりあえず危ないことをしている訳じゃないと納得はしてもらえた。
そして翌朝、コロチウムを運べる荷台を村で売ってもらい、王都へ向けて出発した。
ミグルちゃんとディウスが乗っていた2頭の馬に荷台を繋いでコロチウムを運ぶ。
それにエステルも乗って、俺とノールは行きと同じように普通に馬に乗っている。
だが、いくら運びやすくなったとはいえ、この鉱石は重過ぎて馬が潰れる可能性があった。
なので、アーデルベルさんの護衛の時と同じように、エステルに頼んで馬に支援魔法を掛けてもらっている。
重いコロチウムを乗せているとは思えない速さで馬は進み、移動開始から2日目の昼頃には王都が視界に入るところまで帰ってきた。
「うわー、こんな鉱石引き摺っているのに、もう戻ってこれたんだ。やっぱりエステルちゃんの魔法は凄いんだね」
「ふふ、このぐらい当然。私の支援魔法なら、馬だってそこら辺の魔物に負けないぐらいに強くなるんだから」
「そう聞くと、それはそれで怖いような……」
ディウス達の荷台と並走していると、ミグルちゃんの驚く声が聞こえた。
エステルの支援魔法が掛かるだけで、驚くほど力が強くなるもんなぁ。
今の状態の馬なら、ウルフぐらいは軽く蹴り倒せそうなぐらいだ。
「馬に支援魔法をするなんて、戦闘以外でも君達はめちゃくちゃなんだね……」
「そうか? 俺達以外にも馬に支援魔法掛けて移動する魔導師ぐらいいるだろう?」
「話に聞いたことはあるけど……ずっとそれを継続するのは普通じゃないと思うよ」
「ま、まあ、そのお陰で早く帰ってこられたんだからいいだろ」
やっぱり魔導師なら馬に支援魔法を付加する発想自体はあるんだな。
ただ、移動中常に付加させる魔導師なんていないようだ……そりゃそうか。
エステルはガチャ産の装備でMPの自動回復が早いから、常に支援魔法を使っても消費量より回復量が上回っている。
そう考えると常識外れのことをしていたのかもしれないけど、今回ばかりは仕方がないね。
それからすぐに王都に到着して、馬から降りディウスに言われたある場所へとやってきた。
それはだいぶ前に俺達が依頼を受けた、ガンツの装備屋。
ディウス達だけじゃコロチウムが重過ぎて運べないから、俺が店の中まで運ぶためだ。
「コロチウムを貰ったのに、運ぶのまでお願いしてすまない。僕達じゃこんなのとても運べないからさ……」
「いいってことよ。そういえば、ガンツさんの装備屋に来るのは久しぶりだなぁ」
「最近は装備を売りにきていなかったでありますもんね」
ハウス・エクステンションでガチャ産の装備をポイント変換するようになってから、スティンガーの甲殻を売る時以外はあまり来ていなかった。
最近じゃそれすら減っていたから、本当に久々だ。
馬の紐を近くに繋いでおき、荷台からコロチウムを持ち上げて俺達は中へと入った。
「らっしゃ……おっ、ディウスじゃないか。それに……大倉!? 久しぶりじゃねーか!」
「どうも、お久しぶりです」
お馴染みの強面の大男、ガンツさんが大きな声で出迎えてくれた。
「お前達が一緒に来るなんて珍しいな」
「ええ、今回は大倉と一緒に狩りをしてきたので。それでこの鉱石が手に入ったので持ってきました」
「へぇ、依頼じゃなくて一緒に狩りか。随分と仲良くなったもんだな。で、その石をここに……あっ!?」
ディウスが俺の持っているコロチウムに手を向けてアピールすると、それを見たガンツさんは驚きの声を上げ、俺の方を指差して震えている。
「そ、それ……コ、コロチウムか?」
「はい、シュトガル鉱山で採ってきたんですよ。ほぼ彼らが倒してくれたようなものでしたけどね」
「そう言うなって。協力しないと危ない場面もあっただろ」
「そう言われてもね……」
たしかに倒す大半は俺達だったかもしれないけど、助けられたところもある。
コロッサスが出るまで一緒に粘った仲なんだし、そう一方的に俺達のお陰だと言われるのはちょっとな。
「どっちにしても、コロチウムを持ってくるなんてすげーぞ! おぉ……こんなデカイ状態の見たことねぇ……」
コロチウムを床に置くと、ガンツさんはそれを食い入るように見つめてはしゃいでいる。
スティンガーの甲殻を持ってきた時よりも興奮気味だ。
ガンツさんならそれなりに取り扱ってるかと思ったけど、そうでもなさそうだな。
「ガンツさんでもコロチウムは珍しい物なんですか?」
「当たり前だろ! そもそも一般の市場にすら滅多に出回ることのない物なんだぞ! 出回ったとしても、分割された小さな物ぐらいだ! それをこんな塊で……これを持ってきたってことは、俺に装備を作らせてくれるってことだよな! な!」
「お、落ち着いてください!」
ガンツさんがディウスに詰め寄って、顔を赤くして目を血走らせながら必死の形相で訴えている。
エステル達はそれを見て、若干引いていた。
「す、凄い興奮しているでありますね」
「目が殺気立っているわ。まるであれをする時のお兄さんみたい」
「あはは……ガンツさんって良い素材持ってくるとこんな感じですよ。いつもならポーラが落ち着かせてくれるんですけど……」
俺を一緒にしないでいただきたいのだが。いくら俺でも、ガチャを回す時ここまで必死になっていないぞ。
ミグルちゃんも頬をかきながら苦笑いをして、そんなガンツさんを見ている。
そういえば、今日は娘さんを見ていないな。
ガンツさんが出迎えてくれたし、どこか出かけているのか。
「すまんすまん、つい取り乱しちまった。んで、ディウスはこれで前から言ってた剣を作りたいんだよな?」
「はい」
「よっしゃ、こんな貴重な物を任されたからには、最高の物に仕上げてやるぜ!」
ディウスの承諾を得たガンツさんは、腕まくりをして張り切っている。
こんなに興奮するってことは、コロチウムは職人にとって加工をしてみたい憧れの鉱石なのかもな。
さて、用事も済んだしそろそろ帰ろう……と思っていたのだが、ガンツさんが声を掛けてきた。
「一緒に来たってことは、大倉の分も作るんだよな?」
「いえ、私達はこの鉱石を運びに来ただけなので」
「は? まさか……この鉱石、全部ディウスの分ってことなのか?」
「そうなりますね」
「はぁぁ!? お前馬鹿なのか!?」
「僕達も言ったんですけど、これを丸々くれたんですよ……しかもほぼ無償で」
まさか馬鹿と言われるとは……ガンツさんまでディウス達と同じような反応をしている。
そして無償という単語を聞いた瞬間、興奮していたガンツさんは急に黙り込んだ。
「……大倉、すまないけど言わせてくれ。頭おかしいんじゃないのか?」
「そ、そこまで言わなくても……それに彼らにはある手伝いをしてもらっていますから」
「お前なぁ……見たところちゃんとした武器も持ってないようだし、せっかくだから作ったらどうなんだ? その腰にぶら下げてる奇妙な武器、初めて来た時から使ってるだろう?」
「あっ、いえ。これで私は十分ですから」
「けどよ……よくこんな物で戦えているな」
そう言ってガンツさんは近づいてきて、俺が腰からぶら下げていたエクスカリバールを眺めている。
うーん、貴重なコロチウムを使った武器は興味があるけど、俺達からすれば必要ないしなぁ。
もしかするとレア素材を使った武器なら、ガチャのSSR装備並の性能はあるかもしれない。
しかし、爆死を積み重ねて強化されたこのエクスカリバールは、既に並のSSRやUR装備を凌駕している。
だから今回はディウス達に全部あげて、俺達が作ってもらうとしたらまた次の機会にでもすればいい。
そう考えていると、エクスカリバールを眺めていたガンツさんが、今度は触ろうと手を伸ばしてきた。
そこでハッとなり、俺は叫んだ。
「ま、待ってください! 不用意に触ると危険です!」
「お、おう……すまねぇ。けど叫ばなくったっていいだろ」
「いえ、これ毒を混ぜ込んであるから危険なんですよ」
「はぁ!? ど、毒だと!?」
ふぅ、危ない危ない。もしうっかり刃の部分を触ったりしたら、毒状態になっちまうからな。
見た目よりも切れ味が凄いから、軽く触れただけで即毒状態になる。
今はシスハがいないし、そうなったら万能薬を出して治療するハメになるところだった。
「それってそんなに危険な武器だったのかい……」
「ああ、前に俺が手入れ中に指を切ってちょっとした騒ぎになったからな」
「それはまた……大倉さんって意外と抜けたところもあるんですね」
「あの時は酷かったのでありますよ……」
「あら、そんなことがあったのね。私がいない時かしら?」
騒ぎを思い出しているのか、ノールがしみじみとした雰囲気をしている。
あの時エステルはアンネリーちゃんの家に遊びに行ってたから、俺が勝手に自宅で毒状態になったのは知らなかったのか。
「と、とりあえず、今回はディウスの剣だけでいいってことだな?」
「はい、余った分はミグル達と相談して決めたいので、預かってもらえると助かります」
「私達の分まで考えてくれるなんて、あんたにも良いとこあるじゃーん」
「ぼ、僕はいつもミグル達の分も考えてるだろ!」
「えー、そうだっけ?」
ミグルちゃんはからかうようにニヤけて、それにディウスは少し困った顔で反応している。
スティンガーの甲殻の時もミグルちゃん達の分も考えていたから、普段からそうしているのは事実だと思う。
ただ本当に困っている訳じゃなさそうだから、ちょっとしたおふざけだな。やっぱり2人共仲が良さそうだ。
それからガンツさんと少し話をし、コロチウムを預けて俺達は店を出た。
「大倉、今回はありがとう。機会があったら、また依頼や狩りを一緒にやろう。その時は僕達も、ちゃんと戦えるように頑張るからさ」
「おう、またお互い暇な時にでもな。コロチウムが手に入ったら、協会に頼んで連絡してもらうからさ」
「そう簡単には手に入らないと思うけど、期待しておくよ。次はちゃんとお金は払うからね」
村へ向かう途中の説得で、今回のコロチウムは無料で渡すけど、またコロチウムを渡すことがあればちゃんと代金を貰うという話までしていた。
俺としては全部タダで渡してもいいぐらいだったが、それを言ったら怖がられて逃げられていたかもしれない。
良かれと思っていることでも、過剰なことはよくないね。
手伝ってもらっている理由をちゃんと話せない俺達が悪いのだが、それも仕方がない。
「あーあ、エステルちゃんとまたお別れかー」
「そう残念そうな顔しないで。ミグル達と狩りをするのは楽しかったから、またやりましょうよ」
「エステルちゃんはやっぱり良い子だねぇー」
ミグルちゃんはエステルの頭を撫でて、名残惜しそうにしていた。
だが、またやろうと言われてそれに笑顔で応えている。
「ノールさんも今回は色々とありがとうございました。料理凄く美味しかったですよ」
「むふふ、そう言ってもらえると嬉しいのでありますよ。次はもっと材料も準備するでありますから、楽しみにしていてほしいのであります!」
「こだわり過ぎて目的が変わりそうね……」
「あはは……それじゃあ私も、調味料とか集めておきますね。他の冒険者の女の子達とワイワイ料理することは滅多にないんで、本当に楽しかったです」
ノール達も今回の狩りを通して、ミグルちゃんとだいぶ打ち解けたようだ。
あまり料理に熱中され過ぎても困りそうだが……こんなに楽しそうにしているのなら、それもいいだろう。
ルーナやフリージアは紹介できないけど、機会があれば自宅に招くのもいいかもしれない。
そんなことを思いながら、今回はお開きとなった。またやる機会があれば一緒に狩りをしたいな。
さて、ちょっと長めに家を空けてしまったけど、シスハ達はちゃんと留守番をしているだろうか。