フリージア召喚
夜も遅いということで、昨日はあれからすぐに寝て、翌朝からフリージアの召喚とガチャの装備を整理することになった。
「昨日は夜遅くに集まってもらってすまなかったな」
「全くなのでありますよ。まあ、大倉殿が荒れ狂わなくてよかったでありますけど」
「そうね。あの結果でお兄さんが暴れなかったのは意外だったわ」
「おいおい、俺があの程度で取り乱す訳ないだろ?」
「その割にはかなり叫んでいましたよね……」
今回は魔石の消費量も少なくお目当てのユニットが出てくれたおかげで、爆死をしても冷静でいられた。
まあ、元々そこまで簡単に発狂するような俺じゃないけどな!
「それにしてもルーナが朝早くに起きて来るとは思わなかったぞ」
「新しい仲間が来るんだ、最初ぐらい顔を見せないと失礼だ。それに召喚には興味がある」
昨日夜遅くに起こしたからルーナは起きてこないかと思っていたが、朝早くにちゃんと起きてきた。
普段から大胆にサボる宣言しているのに、こういうところで真面目なのは驚きだぞ……。
「とりあえず装備の整理をする前に、フリージアの召喚が先だな」
「コストの方は大丈夫なのでありますか?」
「ああ、召喚コストは15だから問題ない」
「あら、それならレベル上げをしなくても大丈夫だったわね」
「まあな。だけどこれからもコスト確保は重要だから、先に上げたと思えばいいだろう」
フリージアのコストは15だったから、レベル上げをする必要はなかった。
だけど結果的にそうなっただけだし、次のユニットに向けてまたレベル上げをすることになるから無駄ではない。
さっそくフリージアの召喚石を選択して、召喚を始めた。
「新しい子が来る時は、いつも楽しみなのでありますよー」
「ルーナを召喚してからもう随分と経っているから、召喚を見るのは久々ね」
「そうですね。ああ、今思い返すとルーナさんの冷たい対応も良い思い出ですよ」
「そんなことを良い思い出にするな……」
スマホから溢れる光を見ながら、シスハが思い出に浸るように両手を合わせた。そんな彼女にルーナは呆れたようなジト目を送っている。
最初の頃から比べると、ルーナもだいぶ丸くなった気がするなぁ。当時はどうなるかと思ったぞ。
溢れ出ていた光が収まり、女の子が目の前に現れた。
まず目に入ったのは、横に伸びる特徴的な先端の尖がった長い耳。
服装は袖なしのトップスにミニスカート。ちょっと露出気味かと思えるが、スカートの半分を覆うようにパレオのような長いスカートも身に着けている。
そんな軽装に見える格好とは打って変わり、手には大きな弓を持ち、腰には立派な矢筒をぶら下げていた。
フリージアは目を開けると、碧色の瞳をパチクリさせる。
小さく纏めた茶髪のサイドポニーを揺らし、俺達をキョロキョロと見ていた。
「えーっと、あなた達が私を呼んだのかな?」
「ああ、そうだ。俺は大倉平八だ、よろしくな」
「そうなんだ。私はフリージア、よろしくお願いするんだよー」
フリージアは俺の挨拶に笑顔で応えてくれた。
おお! 初めてまともに返事をしてもらえた! やっぱりいつもの調子で挨拶した方が良かったのか……。
そんなことを思っていると、ノール達がざわついていた。
「大倉殿が初めてまともに挨拶をしたのでありますよ!」
「今回はどんな挨拶にするのか不安だったけれど、普通だったわね」
「面白みに欠けますね。大倉さん、もっと冒険してくださってもよかったのですよ?」
「俺がまともに挨拶をしたらしたで文句言うなよ!」
「平八、安心しろ。私の時は気味が悪かったが、今回は大丈夫だ」
「お、おう……」
ルーナが親指を立ててキリッとした表情で言ってきた。
大丈夫だとお墨付きをもらったけど、凄く複雑な気分なんですが……。
「あはは、よくわからないけど、楽しそうな人達だね」
「これを見て楽しそうと思われるのもどうかと思うが……これからよろしくな」
俺達のやり取りを見て、フリージアが笑っている。
と、とりあえず、最初の挨拶としては成功というところだろうか?
にしても、フリージアは召喚されてからずっとニコニコと笑っている。
GCで俺の知る範囲では、明るい性格のエルフだった。特に何もなければ、エステルと同じぐらいまともそうだ。
それからノール達も自己紹介をして、最初の挨拶は無事に終わった。
「記憶の方は問題ないか?」
「えーっと、魔人的な話と、戦力が足りないとか、そんな感じかな?」
「そ、そうか……一応記憶はあるみたいだな」
「本当にわかっているのかしらね……」
何だか凄く曖昧な受け答えだったんですけど……ま、まあ、大体把握はしているみたいだからいいか。
「さっきからずっと気になっていたのでありますけど……その耳、フリージアって普通の人じゃないのでありますか?」
「うん、私はエルフなんだー」
「なるほど、だからそんなに珍しい耳をしているのですね」
「長いだけじゃなくて、動かすことだってできるよ」
「おぉ、耳が動いている」
フリージアの耳が前後に動いているのを、ルーナが面白そうに見ている。
その耳自分の意思で動かせるのか……。
「うーん、やっぱりその耳は目立つな。どうしたものか」
「私のチャームポイントに、何か問題あるのかな?」
「いやっ、そう深刻な問題じゃないんだけどさ……」
耳をピコピコと動かしたまま、フリージアは首を傾げた。
「もしかして冒険者として登録できなさそうってことかしら? 確か魔人も長い耳をしている話だものね」
「ああ、それにあまり外に出るのも控えた方がいいな。時期が悪い」
「えー、外に出ちゃ駄目なの?」
「無闇に街中に出るのは控えてくれって意味だから、そこは安心してくれ」
以前説明してもらった魔人の特徴に、耳が長いというのもあった。
なのでフリージアもルーナと同様に、あまり外に出すのはよくなさそうだ。
最近は魔人がいるかもしれないって疑惑が出ているから、協会で冒険者として登録なんてとんでもない。
外に出られないのかと眉をひそめている辺り、フリージアはルーナと違って引きこもりではないみたいだ。
そのまま外に出すことはできないけど、上手く誤魔化して出歩けるように考えてあげないとな。
「さてと、それじゃあフリージアも無事召喚できたことだし、装備の整理でもしようか」
「今回は装備に関しては大して収穫がなさそうね」
「SSRもダブりが多かったですからね。ですがその分重ねられるので、それに期待ですね」
今回はフリージアを迎え入れた以外は、殆ど新しい装備は手に入らなかった。
その分シスハの言うとおり、ダブった装備を重ねる方に期待を持つしかない。
フリージアのディバインルクスも重ねられるし、戦力増強としては申し分なさそうだ。
最初に出したのは、今まで見たことがない白い腕輪だ。
――――――
●ディメンションブレスレット
一定領域内の任意の空間に、装着した部分から先を一時的に移動させられる。
――――――
「これは新しい装備か。装着した部分から先を移動って怖いな……」
「腕輪をしている部分より前ってことは……手を移動させられるのかしら?」
「とりあえず試してみるのでありますよ」
移動させるっていうのは怖い気がするけど、ガチャ産のアイテムなら安全なはずだ。
少しビクビクしながら腕輪をはめて、とりあえず離れた場所にあるコップを見ながら、それを掴むイメージを頭に浮かべる。
すると腕輪より前にある俺の手首から先が消え、コップの目の前に手が突然現れた。
い、違和感はないけど、離れた所に自分の手があるっていうのは妙な感覚だな……。
試しに指を動かしてみても普段とまるでかわらないから、それが逆におかしく感じるぞ。
「おお! 手だけが浮いてる! 凄いんだよぉ!」
「奇妙な光景ですね。武器なども一緒に飛ばせるのなら、有効的な使い道ができそうですよ」
「うーん、どうだろうな。コップで試してみるか」
断面がどうなっているのか見ると、真っ黒になっていてまるで異空間だ。
シスハが言うように、武器も一緒に飛ばせたら戦闘するときに活用できそう。
試しにコップを掴んでから戻るように念じると、コップを持ったまま俺の腕も戻ってきた。
「寝ていても物が取れて便利そうだ。私にくれ」
「駄目だ! 明らかに違う用途で使う気満々じゃねーか!」
「ケチ、平八はケチだ」
物を持ってくる様子を見て、めんどくさがりな幼女様が欲しがっていた。
前にスパティウムが出た時もそうだったけど、空間系は楽ができるから欲しいみたいだな……。
これ以上怠惰になられても困るから、渡さない方がよさそうだ。
口を尖らせて不満そうにしているけど、仕方ないね。
次に出したのは、刃に切れ目の入った剣だ。
――――――
●蛇腹剣
攻撃力+950
――――――
「SSRの剣でありますか。奇妙な切れ目が入っているのでありますよ?」
「あー、これ多分刃が分裂して伸びる奴だな。ノールの補助武器として使ってみるか?」
「むむむ、伸びる剣でありますか……。とりあえず後で試してみるのでありますよ」
剣の扱いならノールの右に出る者はいないので、これを一応渡すことにした。
これってワイヤーで繋がれた刃がバラバラになって、剣と鞭両方の性質を併せ持つ的な奴だよな?
男のロマン溢れる武器だから使ってみたいけど、俺が使ったら操作ミスで自分の体に巻き付きそうだから止めておこう。
「新しい装備はこれぐらいか。ニーベルングもグリモワールもダブりしかないし」
「そうね……あれ? お兄さん、このアワリティアってグリモワール、今まで出たことないかもしれないわ」
「えっ?」
他のダブった装備を見ていると、画面を覗き込んだエステルがこれはダブりじゃないと言い出した。
あれ? でもグリモワールって、URになっているグラが最後なんじゃないのか?
既に火、水、風、土、闇は持っているから残りは光だけ。
もしアワリティアを持ってなかったとしたら、残り2つあったことになる。
――――――
● グリモワール『アワリティア』
光属性魔法の攻撃力+100%
攻撃対象を30%の確率で混乱させる。
――――――
出てきたのは表紙に狐の描かれた白い本。
能力を見ると光属性のグリモワールだった。
「光のグリモワールってことは……これで全属性揃ったのか。だけどそうなると、昨日ピックアップされていたグラってグリモワールはなんなんだ?」
「そんなこと聞かれてもわからないわ。引くまでのお楽しみってところね」
エステルは嬉しそうに微笑んで、新しいグリモワールを抱き抱えている。
グリモワール『グラ』がなんだったのか疑問は残るけど、本人が嬉しそうにしているからいいかな……。
「それじゃあ最後はいつも通りダブり装備の強化だな。まずはフリージアの弓からにしようか」
「えっ、私のディバインルクスを強化してくれるの!」
「ああ、前に手に入れたのをこの時の為に残しておいたんだ」
「わーい! えへへ、召喚されたばかりなのにいきなり強化してくれるなんて、嬉しいんだよ」
フリージアが笑顔で喜んでいるけど、前に一瞬でもハウス・エクステンションのポイントに変換しかけたのを思い出すと、胸が痛んでくる。
これから専用URが出たら、バラさずに残しておこう。
――――――
●ディバインルクス☆2
攻撃力+2900
射程延長『大』
命中補正『大』
自動回収
行動速度+35%
――――――
うおぉ……やっぱりURは強化すると性能が跳ね上がるな……。遠距離で攻撃力2900もあるのはかなり強い。
あと2本混ぜたら、地道に強化してきた俺のエクスカリバールもすぐに追い越されちまうぞ
「ついでにもう1つ持っているURを確認したいんだけどいいか?」
「うん、この弓矢だよ」
「元々付属している矢があるのに、専用URの矢まで持っているのね」
ディバインルクスに付属していた矢と別に、フリージアの腰にある矢筒に入った矢がもう1つの専用URのようだ。
彼女が筒から1本取りだして見せてくれた。全体が透明な緑色の矢で、見ているだけで鈍い俺でも、神秘的なものを感じる。
――――――
●ディバインアロー
攻撃力+500
自動回収
命中補正『大』
致命的命中+50%
――――――
おぉ……この矢だけでも相当強いぞ。それに致命的命中まで付いていやがる。
これは簡単にいえばクリティカルヒットで、確率でダメージが一気に跳ね上がるものだ。
遠距離でこんな物まで付いているとなると、ノールにも劣らないダメージを叩き出せそうだな……。
「立派な弓と矢ですね。よくある頭の上に物を乗せて撃ち抜く奴とか見てみたいですよ」
「任せて! ちゃんと額のど真ん中に命中させるんだよ!」
「何の為に頭の上に物乗せると思ってるんだ!」
「あっ、そっか。えへへ、うっかりしていたんだよ」
頭の上の的に当てる話なのに、額に当ててどうするんだ!
フリージアの攻撃力で頭撃ち抜かれたら、スイカのように破裂するどころか消し飛ぶぞ!
まともだって思っていたけど、もしかして天然で危ない奴なんじゃ……。
最後に毎回恒例の、エクスカリバールなどの強化だ。
――――――
●エクスカリバール☆45
攻撃力+4890
行動速度+270%
状態異常:毒(小)
木特効:ダメージ+10%
●鍋の蓋☆33
防御力+1850
●アダマントアーマー☆5
防御力+1700
防御速度+20%
●マジックブレード☆8
攻撃力+550
防御無視攻撃付加
――――――
「やりましたー! 私のマジックブレードも大幅強化ですよ!」
「エクスカリバールが、とんでもないレベルに突入しつつあるのであります……」
「同じ物が50本出ていることも驚きだわ……」
「変な形の武器なのに強いんだね!」
「うむ、私の槍より強いから悔しいぞ」
おぉ……つ、ついにエクスカリバールの攻撃力が5000に到達しそうだ。
まさかSRがここまで強化できるなんて……というか、今まで46本も出ていることに驚きだよ!
鍋の蓋やアダマントアーマーも良い感じになってきた。
シスハ用のマジックブレードもかなり強化されたけど……このままだと、私は神官を止めますよぉ! なんて言って前衛職になりかねないな。
うーむ、今回は戦力強化としては、良い収穫だったかな。これからフリージアも加わってくれるから、狩りも捗りそうだ。