大人の楽しみ
レムリ山でレベル上げを始めて、十数日経った。
地道にリザードマンを狩り続け、目標レベルである82レベルを超えて83に到達。これで余りのコストは19になった。
魔石の方は2115個になり、11連2回分増えている。
コストも魔石も目標数を超え、多少の余裕まで出てきた状態だ。準備としては万全だろう。
今日は既に狩りも終えて、自宅で一息ついている。
「レベル上げも終わったでありますし、後はのんびりできそうでありますね」
「ええ、残りは王都に家を買う為の資金集めをするぐらいだわ」
「リザードマンでだいぶ稼げましたけど、まだまだ資金は稼いでおきたいですよね」
目標を達成し終えたおかげか、最近のノール達はとても活き活きとしている。
レベル上げが終わってからここ数日は、レムリ山でリザードマンの皮、アルデの森でキノコ狩り、ルゲン渓谷で原石集めをして、順調に資金集めに励んでいた。
お陰様で一気に60万Gほどの稼ぎだ。数日でこんだけ稼げるなんて、本当にノール達は頼りになる。
「それで、お兄さんはスマホの前で手を合わせて何をしているの?」
「祈りを捧げているんだ」
これからの話をしているノール達を他所に、俺は机に置いたスマホに向かって、両手を合わせて目を瞑り祈りを捧げていた。
日頃のガチャに感謝をし、次のガチャは勝たせてくださいという願いを込めて。
「そんなことしたって、何の意味もないでありましょうに……」
「わかってないな。日頃から祈りを捧げることで、0.01%でもURの出る確率が上がるかもしれないだろう?」
「それでも0.01%しか上がらないのね……」
「何を言うんだ! 0.01%も上がるかもしれないんだぞ!」
「もはや狂気に身を任せつつありますね……」
祈ってURの確率が上がれば苦労はしないのだが、やらずにはいられない。
元の世界でガチャを引いていた時は、こんな感じで色々と悪足掻きをしたもんだ。
ゲームの再起動、日時の変更、単発に切り替えなどなど、もはや祈りに近いものに期待を寄せていた。
排出の瞬間に画面を隠して音も消したりもしていたなぁ。いやぁ、今思えば懐かしいものだ。
「ふぁ……ん。今日は疲れちゃったから、そろそろ休もうかしら」
「明日も狩りがあるでありますし、私はモフットと少し戯れてから寝るでありますかね」
「はぁ、ノールさんはいいですね。私もルーナさんと真夜中の戯れをしたかったです」
「ルーナは1度寝るとなかなか起きないでありますもんね……」
エステルが欠伸をしたのを皮切りに、ノール達も今日は自室に戻って休む流れのようだ。
ルーナはレベル上げが終わってからというもの、3日に1度ぐらいしか起きてこない。狩りで連れ出した反動でか過ぎだろ……。
エステル達が自分の部屋に戻って行くのを見送り、俺もそろそろ行こうかと立ち上がったのだが……まだ戻っていなかったシスハが声を掛けてきた。
「という訳ですので大倉さん、これから少し付き合ってください」
「どういう訳でだよ……。今日は大人しく寝ればいいだろ」
「そう邪険にしないでくださいよー。ご迷惑お掛けするつもりはございませんので」
シスハは近づいてきて俺の肩に手を置き、満面の笑みを浮かべている。
これ完全に逃がす気がありませんって意味だよな……こんな夜中に何のお誘いだよ。
「別にいいけど、こんな時間に何をするつもりだ」
「寝る前に一緒にお酒を楽しみませんか?」
「酒って……この前言ってた夜1杯飲んでるとかいう奴か?」
「はい、それです」
この前食事の最中に酒を勧められた時、そんなこと言っていた気がする。
うーむ、飲みのお誘いか。あの酒結構美味かったから興味はあるけど、寝る前に飲むのはちょっとなぁ。
「ご安心ください。酔ってしまっても回復魔法ですぐに消し飛ばしますので、明日への支障はございませんよ」
「……そういう回復魔法の使い方はどうかと思うんだ」
「うふふ、せっかく使えるんですから、こうやって有効活用いたしませんとね」
それは有効活用と言うのだろうか……次々と神官として駄目な行動が増えている気がするんだが。
だけど、そういうことなら明日に酔いが残る心配もないし、少しぐらい付き合ってやるか。
「わかった、付き合うよ。シスハがこういう風に誘ってくれるのは珍しいからな」
「ありがとうございます! いやぁ、この前大倉さん美味しそうに飲んでいらしたので、色々お勧めしたくなっちゃいまして。1人で飲むのもいいですけど、誰かと一緒に楽しみたかったんですよ。ささ、私の部屋でじっくりと飲み明かしましょう!」
俺の返事に饒舌になったシスハは、自分の部屋に入れと手で促す。
飲む程度なら別に居間でいいんじゃないかと思ったが、せっかく招いてくれるみたいだからそのまま部屋に向かった。
初めて入るシスハの部屋の中は……特に珍しい物は何もない。
3人掛けぐらいのソファーとテーブルが置かれ、あとはベッドやタンスなどが置いてある程度。
エステルやノールに比べるとだいぶ物が少ない。窓際にある観葉植物らしき物が気になるぐらいだ。
ちょっと感心したかもしれない。普段のイメージから、床に空になった酒瓶ぐらい転がっていても不思議じゃないと思っていたのに。
「へぇー、意外と片付いているんだな。十字架とかは置いてないのか?」
「そんな物置いたら、ルーナさんが来た時に気分が悪くなっちゃうじゃないですか」
「お前な……」
おいおい、こいつ十字架をそんな物扱いしたぞ……。
そういえば最近ルーナと触れ合う機会が多いからか、十字架の首飾りを外していることが多いな。
自分のUR装備でさえそんな扱いしているし、それだけルーナに対する思いが強いということか。
そんなこと考えている間にも、シスハは部屋に置いてあった箱の中から瓶を5本取り出して持ってきた。
「えーと、この辺りが大倉さんにはお手ごろですね」
「……1杯じゃなくて、いっぱいじゃないか」
「せっかく一緒に飲むんですから、1種類だけじゃ味気ないじゃないですかー。酔ったら治しますから、お付き合いくださいよ」
「うーん、それならいいけど……」
複数の種類のグラスも持ってきて、俺はシスハと横並びの形でソファーに腰を掛けた。
今のシスハは寝巻きなのか、胸元や肩が露出した白いネグリジェ姿だ。
そんな姿ですぐ真横にいられると、いくらシスハとはいえちょっとドキドキしてきたな……。
「私の顔を見てどうかいたしましたか?」
「な、なんでもない! ほら、さっさと飲もうぜ!」
「急に慌てておかしな大倉さんですねー」
いかんいかん、また胸元に視線が奪われかけていた。
シスハはそんな俺を気にかけず、酒瓶を開けて口の広いグラスに中身を注いだ。
最初の酒は黒い液体で、注いでもらうと上の方で少ない泡立っている。見た感じビールみたいだ。
匂いを嗅いでみると甘い香りがする。口に含んでみると、若干の苦味と香ばしい風味が口に広がった。
「ちょっと苦いな」
「この前のに比べると、これは苦味が強く感じられますね。大倉さんは苦手でしたか?」
「甘い方が俺としては飲みやすい。だけど、これはこれで美味いと思う」
「うふふ、それなら良かったです」
正直ビールとか苦い酒は苦手だ。だけどこうやってたまに飲んでみると、そこまで悪くない。
この世界に来てからというもの、酒とは全く無縁だったからなぁ。
シスハは勧めてこなきゃこれからも飲むことはなかったと思う。
隣にいる彼女も自分のグラスに酒を注ぎ、グビグビと飲んでプハァー、と息を吐き、たまらねぇぜ! って表情をしている。
豪快に飲んでるな……普段の行いを見ていると、瓶でラッパ飲みしていても不思議じゃない。
「シスハって瓶のまま口にしそうなイメージがあったけど、ちゃんとグラスに入れて飲むんだな」
「私がそんな飲み方する訳ないじゃないですか。そんなのルーナさんに振り向いてもらえなかった時期に、ヤケ酒する時ぐらいですよ」
「してたんじゃねーかよ……」
「いやぁー、あの頃は自室でもいつの間にか床に転がっていましたからね」
床に転がっていたって……ルーナに噛まれるだけじゃなくて、セルフで酔い潰れてぶっ倒れていたのか。
そして回復魔法を使って、次の日には平然としていたんだろうなぁ……。
知れば知るほど駄目な神官な印象が強まっていくぞ。
「ささ、次いきましょ次!」
「そう急かすなって。ゆっくり飲ませてくれよ」
「あっ、すみません。大倉さんと一緒に飲むことができたのが嬉しくてつい」
「お、おう。別に謝るほどのことじゃないから気にするな」
照れくさそうに笑いながらそんなこと言われたら、何も言えなくなる……。
こっちまで照れくさくなってくるじゃないか!
それからブドウみたいな匂いのする透明な酒、水で割って飲む酒なども楽しんだ。
どれもそこそこ度数が強いのか、ちょっと頭がボーっとしてきた。
「あー、酔ってきたかも。そろそろ部屋に戻るか……」
「もう、ノリが悪いですね! こんな美人がお酌をするんですから、もう少し付き合ってくださいよ」
「自分で美人とか言うんじゃねぇ! ったく……ほら、注いでやるよ」
「あっ、ありがとうございます」
シスハも頬を赤く染め俺に肩組みをしながら、さっきよりテンション高めに絡んでくる。
自分で美人とか言っている辺り、彼女もだいぶ酔ってきているみたいだ。
だけど見た目が美人なのは事実。こんな相手が隣に座って飲む機会なんて滅多にないんだから、もう少し楽しんでおくか。
それにしてもだ……飲んで暑くなったのか、シスハがさっきから胸元辺りをパタパタと手で扇いでいる。
上気している顔と合わせて、とんでもなくエロく見えるんだが……いかん、シスハ相手にこんなことを考えるなんて、酔いが回り過ぎたか。
「前から思ってたけどさ、お前の服装って肌露出させ過ぎだろ。恥ずかしくないのか?」
「何をおっしゃるのですか。この磨き上げられた肉体のどこが、見せてお恥ずかしいと言うのでしょう!」
「お前……街中とか歩いてる時、結構男から見られてるんだぞ? せめて胸元は隠すとかさ」
「えっ、もしかして大倉さん……私が他の男の方に見られるのが嫌なのですか?」
「は!? そ、そんな意味で言ったんじゃねーし!」
「うふふ、冗談ですよ。でもまあ、大倉さんがそう言うなら少し考えてみますね」
別に嫌だとかそんなことは思っていない。
ただ俺としては、そういう欲情を煽るような格好は控えるべきだっていう心配から……って、心の中で言い訳してどうする!
誤魔化すようにグビっとグラスを傾け酒をあおるように飲んだ。
それから少しして、強烈な眠気に襲われ始めて体が横に傾く。
そしてすぐに軟らかくて温かい物に当たり止った。
「私の肩に頭を預けてどうしちゃったんですかー? 大倉さん、ちょっと眠くなってきちゃいました?」
「うーん、眠い……かもしれない」
「それなら少し横になりますか? ほら、ここに頭をのせてくださっていいんですよ」
「うーん……」
シスハの声は認識できるけど、自分がどういう状態なのかよくわからない。
ただ、横になって軟らかい物が頭の後ろに当たっているのだけはわかる。
「あー、軟らかい……」
「うふふ……このまま寝てしまってもいいんですからね」
あー、気分が良いな。このまま本当に寝ちまおうか……。だけどそれはヤバイ気も……あー、考えるのがめんどくさくなってきた。
……うん? 何かがズボンの中で動いてるような……。
「あれ、大倉さん。スマホが振動していらっしゃいますよ」
「うーん? 見といてくれー」
「はい、それじゃあ失礼して……あっ、ガチャ通知ですね」
「なんだって!?」
「うわっ!?」
ガチャ通知と聞いて、俺の意識は覚醒した。
おいおいおい、酔いが醒めちまったぞ! ついにガチャが来たのか!
「い、いきなり起き上がらないでくださいよ」
「あっ、すまんすまん」
驚くシスハに謝りつつも、彼女からスマホを受け取る。
そして画面に表示されていたのは……【ピックアップガチャ開催!】の文字だった。
えぇ……マジで?




