目標達成
魔石狩り開始から11日目。
夕方までの狩りを終えて、今はルーナを交えての夜の狩り。
そして星が輝く夜空の下で、ひたすらゴブリンとオークを狩り続けた結果……ついに魔石は2000個に到達。
目標数を超えたところで狩りを切り上げ帰宅した。
「よっしゃぁぁ! 終わったぞぉぉ!」
「おお! ようやく終わりなのでありますか!」
「お兄さん、お疲れ様。ゆっくりと休んでね」
帰宅直後に俺が喜びの雄叫びを上げると、家で待っていたノール達も喜びながら出迎えてくれた。
夕方の時点で残り30個を切っていたから、今日はそこまで遅くならずに済んだ。
終わった、終わったよ……疲れ過ぎて真っ白な灰になりそう……。
「はぁ、もう終わりなのですか。私としては、もう少し狩りを続けていたかったのですが……」
「もう十分だろ……。これからも狩りはするけど、ちょっと休ませてくれ……」
シスハはため息を吐いて、本当に残念そうにしている。
魔石約800個分の狩りをしてまだ満足していないのか……。
シスハにマッサージしてもらったおかげでだいぶマシになったけど、本当に今回の狩りはきつかった。
ルーナも最初は張り切っていたが、今は帰ってきた途端にこの前の俺と同じように、椅子に座り机に顔を乗せてぐったりしている。
「……限界だ。今日は凄く眠い」
「ルーナは毎日のように眠そうでありますけどね……」
「当たり前だ。私は寝ようと思えば常に1秒以内に寝られるぞ」
「それは威張って言うことでもないと……えっ、ルーナ寝ているわよ」
「おい! 起きろ! これから飯だぞ!」
言った直後にルーナは寝息を立て始めたので、慌てて起こした。
今日は早く切り上げたから深夜前に終わったっていうのに……この調子だと明日からしばらく起きそうにないな。
ルーナも眠たそうなので、喜ぶのはここまでにして晩飯にすることにした。
「むふふ、ちょっと遅めのご飯でありますけど、魔石集めが終わったから今日は豪華にいくのであります!」
「豪華と言うか……多すぎないか?」
「今日で終わりだからって、ノールが張り切っちゃったのよ」
夕方の段階で終わりが見えていたからか、ノールが祝う為に割と豪華な晩飯を作ったみたいだ。
肉やキノコやサラダなど、もうバイキング形式なんじゃないかって量の飯が机の上を埋め尽くしていく。
これ、一体何人分の量の飯作ったんだ。肉なんて1ポンドステーキみたいなのがあっちこっちにあるぞ……。
全部食えそうにないけど、俺達が食えなくてもノール1人で残りは平らげてくれるから大丈夫か。
腹も減っていたのでさっそく飯を食べ始めた。
うん、量は多いけどやっぱり美味いな。ノールの味付けは濃くも薄くもない感じだ。俺としてはもう少し濃い目がいいけど、これでも十分美味い。
皆でワイワイ騒ぎながら食べていると、途中でシスハは立ち上がって自分の部屋へ歩いていく。
そしてすぐに見慣れない瓶を持って戻ってきた。
「シスハ、それなんだ?」
「えっ、お酒ですけど」
「お前そんな物持っていたのか……」
「いつも夜に1杯だけ楽しんでいるのですよ。せっかくなので食後にでも飲もうかと思いまして。大倉さんも1杯いかがですか? 口当たりが良くて飲みやすいですよ」
「うーん……じゃあ1杯だけ貰うわ」
あまり酒は得意じゃないけど、お祝い気分だから1杯ぐらいはいいかな。
シスハが持ってきた先が細くなっているコップを受け取り、酒を注いでもらった。
中に入っていた液体は透明な黄褐色。香りを嗅いでみると果物に似た香りが漂ってくる。結構良い匂いだな。
口に含むと果物のような甘みと香りを強く感じた。それを飲み込み喉を過ぎると、良い香りが鼻を昇っていく。
これは……美味い。酒を好んで飲まない俺でも美味く思える。
「おぉ……美味いな」
「うふふ、お口にあったみたいですね。これは私が色々と飲み比べた中でも、特にお気に入りなんですよ」
確かに美味かったけど……神官が酒を飲み比べしているのはどうなのだろうか。
シスハの部屋の中酒だらけになっていたりしないよな……。
「美味しそうでありますね。私にも飲ませて――」
「駄目だ! ノールは絶対に駄目だ!」
「どうしてでありますかぁー。ちょっとぐらい飲ませてほしいのでありますよ」
「お前めちゃくちゃ酒に弱いだろう……。こんなの飲んだら一口でダウンするぞ」
「ノールが駄目なら私も駄目そうね。ちょっとだけ飲んでみたかったかも」
甘くて飲みやすかったけど、これ結構アルコールが強そうだ。
お菓子に入っていた酒で酔い潰れたノールが飲んだなら、一口で酔うに決まってる。
エステルもまだ幼いから、酒を飲ませる訳にはいかない。
「ところで大倉さん。魔石集めは終わりましたけど、明日以降はどうなさるおつもりなんですか?」
「ん? 魔石集めが終わったら何が始まると思う?」
「えっ……一体何が始まるんです?」
「わからんのか。魔石集めだ」
「ぶっー!」
そう俺が口にした瞬間、飲み物を飲んでいたノールが顔を横に逸らして食事に飛ばないよう噴出した。
エステルも食べていた物を詰まらせたのか、胸を叩きながら飲み物を急いで口に含んでいる。
「うおっ!? ど、どうした」
「げっほ、げっほ……お、大倉殿が変なこと言うからでありますよ! 何で魔石集めが終わったのに、魔石集めが始まるのでありますか!」
「冗談、冗談だって。平八ジョークだから」
「けほ、けほ……お兄さん、冗談だとしてもそれは酷いわ……」
「全くだ。噛み付いて床に転がしてやろうかと思ったぞ」
ルーナが牙を露出させて、俺を鋭い目つきで睨みつけていた。
まさかここまでの反応をされるとは……半分冗談だったけど、これはさすがに駄目だったみたいだ。
「それで、本当の予定はどうするおつもりなのですか? 王都に自宅を買う予定でしたけど、それについて考えるのですか?」
「うーん、それも考えるつもりだけど、他にも色々とな」
魔石集めの前に決めたことは、王都に自宅を買うか検討することだ。
だけどその前に、他にも決めておきたいことがある。
「まず狩りに関してだけど、魔石集めはそこそこにして、レベル上げを最優先に切り替える」
「むっ、レベル上げでありますか」
「そういえばコストも結構ギリギリだったものね。今のレベルはどのぐらいなの?」
「今の俺のレベルは79だ」
今の俺のレベルだと、ユニットを召喚できる総コストは93。そして現在の使用コストは76。
「ルーナさんを召喚してからだいぶ上がったとはいえ、もう少しコストがないと次の召喚ができそうにありませんね」
「そういうことだ。次のガチャが来るまで、最低でもコストの余裕が20は欲しいな」
「むぅ、魔石狩りが終わったかと思えば、今度はレベル上げか」
「そう嫌な顔するなって……魔石狩りみたいに朝から晩までやるつもりはないからさ」
余っているコストは17だから、とりあえず3レベルは上げてコスト20まで召喚できるようにしておきたい。
できれば30ぐらいまで余裕がほしいけど……そこまで上げるのはかなり時間が掛かる。
もう俺達もレベルが上がってきたせいで、並みの狩場じゃなかなかレベルが上がらない。
レムリ山かアルデの森で狩りをするのが1番経験値が手に入りそうだが……そろそろ別の狩場を探したいな。
強い魔物相手に疲労状態で戦いたくはないから、レベル上げに関しては1、2時間を目安に狩りをしていくつもりだ。
「狩りの話はいいとして、次は王都に自宅を買うことについてだ」
「おお、待っていたのでありますよ!」
「買うのはいいのだけど、予算はどのぐらいあるのかしら?」
王都に家を買おうか検討しようと言ったけど、今俺達がどのぐらいお金を持っているか確認しないと決めようもない。
なので俺はこの前この話が出てきた時に、一応手持ちの金は数えておいた。
「今俺達の全財産は……金貨764枚、それに銀貨等がもろもろって感じだ」
「金貨764枚……764枚!? そ、そんなに私達稼いでいたのですか!」
「おぉ……そこまで貯まっていれば、今度はちゃんと王都に家を設けられるでありますね!」
金貨764枚ってことは、金貨だけで7640万G分あるってことだ。
それに銀貨等を足していくと、大体7700万Gぐらいが俺達の総資産になる。
ブルンネに自宅を買って以降大きな買い物はしていなかったおかげで、ようやくここまで貯まったみたいだ。
「うーん、確かに凄い金額ではあるけれど、まだちょっと足りないわね」
「そうなのか? 私には十分に思えるが……」
「前に王都の不動産屋で話を聞いた時、4人で住める家を買うとしたら9000万G必要だって言われたのよ」
「9000万……高過ぎるのでありますよ」
エステルの言うとおり、この手持ちじゃまだ王都の家を買うには足りていない。
冒険者協会に近い一戸建てってだけで7000万Gとか言われたからな……。
移動用って割り切れば今の手持ちでも買えるには買える。
しかし今後のことを考えると……どうしたものか。
「だけどすぐに手が届きそうな額でありますね。今ある手持ちで無理して買わずに、お金稼ぎをして貯めてから買った方が良さそうなのでありますよ」
「これからレベル上げもするのですから、高く売れそうな魔物の素材を狙いつつ狩りをしていけば十分貯まりそうですね」
ハウス・エクステンションさえあれば、自由に拡張はできる。だけどいつ出て来るかもわからない。
誰か招くことがあるかもしれないから、可能なら普通に生活できる程度の家は欲しい。
焦って買うものでもないし、シスハの言うようにレベル上げと金稼ぎを兼ねて狩りをして決めていけばいいかな。
「色々とやることがあるけど、魔石集めが終わっているから一応いつガチャのイベントが来ても心配はないわ。お兄さんが真っ先に魔石集めを優先したのは正解だったわね」
「ふっふふ、そうだろう? 俺はいつだって先を考えて行動しているからな!」
俺の言葉を聞いた瞬間、ノールとシスハは黙り込んで顔を逸らした。
エステルは笑顔のまま固まり、ルーナは無視してご飯を食べ進めている。
その反応は悲しいから止めていただきたい。
「あっ、大倉殿。もう1つ予定があるのを忘れているのでありますよ」
「えっ、何かあったっけ?」
沈黙していた空気の中、ノールがまだ予定があるという。
他に何かやることあったか?
「乗馬であります。これで安心して練習ができるでありますね!」
「そうでしたね。私とノールさんが付きっ切りで指導いたしますから、乗れるように頑張りましょうね!」
「なんだ、平八は馬に乗れないのか」
……忘れてた。そういえば乗馬の訓練するとかいう話があったな。
ノールだけかと思いきや、シスハまで絡む気満々なご様子なんですが……し、死ぬ。
この2人に同時に手解きを受けたら、間違いなく死ぬ思いをする!
「ちょっと待ってくれ、この2人はやばいって。エステル助けて!」
「ふふ、お兄さん。私の為にも乗れるように頑張ってね」
「そんなぁー!」
笑顔でエステルに後押しされて、乗馬訓練の予定も完全に決まってしまった。
試練だ。これはガチャの前に立ちふさがった試練だ。
……上等だ! ノールとシスハが相手だろうと、俺はやってやるぞ!