表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
135/409

疲労に癒しを

 魔石集めを始めてから7日目。

 今日も早朝からゴブリンの森で狩りを始め、日が沈む前に止めた。ルーナと狩りをする日じゃないから、本日の狩りはこれにて終了。

 現在の魔石の成果は初日を含めた7日間で、466個だ。元々持っていたのと合わせて、1634個。

 残り約400個……あと少しで目標数に届くけど、この少しが地味に辛い。


「へ、へへ……魔石、魔石が大量だぜ……」


 帰宅してすぐに俺は椅子に座り、机に顔を乗せてうつ伏せになった。

 昨日も深夜まで狩りをして、今日も朝早くから狩りを始めて今に至る。

 森の中を走り回る狩りでこれは、想像していたより体に負担があった。

 今にも瞼の上と下がくっ付きそうだ。スマホで貯まった魔石の数を確認して、辛うじて意識を保っている。


「今日もお疲れさまなのでありますよ。すぐにご飯もできるでありますから、待っててくださいであります」


「ありがとう……」


 ノールは俺達を出迎えると、また夜飯を作る為に台所へと戻って行く。

 家に帰って飯が用意されているのは本当に助かる……。

 眠気に耐えながら風呂にでも入ろうと思っていると、エステルが声をかけてきた。


「お兄さん、大丈夫なの? この数日でやつれた気がするわ」


「……大丈夫だ、問題ない。ちょっと眠くて体が重いけど、この程度で音を上げる俺じゃあないさ」


「ならいいのだけど……無理しちゃ駄目だからね。倒れたりなんてしたら、私の部屋に引き摺りこんじゃうんだから」


「お、おう……注意いたします」


 エステルは目を細めて、まるで獲物を狙うような表情をしている。

 意識のない状態で彼女の部屋に運ばれたら、一体どうなるのだろうか……。


「お兄さんと違って、シスハは元気なのね」


「うふふ、魔物を狩りまくれるのですから、元気が出るに決まっているじゃないですか!」


「聞いた私が間違いだったわ……」


 俺と同じ時間狩りをしているはずのシスハは、まるで疲れを感じさせないほど元気だ。

 心なしか肌がいつもよりツヤツヤしている気がする。

 満足するぐらい毎日狩りをしているから、今のシスハは最高にハイになっているな。

 ちなみにルーナはというと、狩りをした翌日は丸1日起きてこない。

 今は自分の部屋でぐっすりと眠りについているだろう。


「大倉さんも普段からガチャと騒いでいるのに、魔石狩りでやつれるんですね」


「俺は一般人だからな。2日に1回とはいえ、深夜まで駆けずり回ってれば疲れるさ」


 俺をシスハと同じにしないでいただきたい。

 精神が肉体を凌駕する勢いではあるが、それが数日も続けばやはり体は疲れてしまう。

 森の中を1日中走り回って、エクスカリバールを振り下ろしての繰り返しだ。

 色々なソシャゲをこなして単純作業に耐性は持っているけど、足腰がそろそろ辛い。


「大倉さんはこの前からガチャをやりたいとおっしゃっていますけど、次はどんなURを狙いたいのでしょうか?」


「そういえば気になるわね。攻撃役も揃ってきたし、回復もシスハがいるから……足りないのは壁役かしら? それとも何か欲しい装備があるの?」


「うーん……そうだなぁ。ぶっちゃけ俺がガチャしたいっていうのが1番なんだけど……希望を言えばカロンかな。それ以外だとまずは壁役か補助系。重装鎧、呪術師、姫辺りが希望に近いか」


 次のガチャで可能な限り戦力強化をしておきたい。

 攻撃役は十分揃っているから、回復もシスハがいるから大丈夫だ。

 そうなると……前に言ったように純粋な壁役がほしい。

 それか味方のバフに特化している姫や、敵をデバフできる呪術師辺りもいいかな。


 攻撃役が増えたら増えたで、今みたいに魔石狩りを複数で分担できるからそれでもいいんだけどさ。

 カロンちゃんが来たら大勝利ってところか。極端な話、ユニットさえ来てくれれば俺としては満足だ。

 それとやっぱり……装備だよね。


「後は装備だな。いい加減俺のUR武器が欲しい」


「それは……別によろしいのでは? 既に最強のエクスカリバールがあるじゃないですか」


「そうよ。それに今回のガチャを回せば、さらに強化されるじゃない」


「ならぬ! 男たる者カッコいい装備を求めるもの! 使わないとしても持っておきたいんだよ!」


 カッコいい武器というのは、やはり男のロマンだ。

 ノールみたいな立派な剣や、ルーナみたいな槍が欲しい。


「気持ちはわかりますけど……まだ防具のURの方が実用性ありそうですね」


「お兄さんもそういう妙なところで拘るのね……。まずは普段の見た目を見直すべきだと思うの」


「はは……ごもっとも」


 主装備はエクスカリバールで不動だと思うけど、副装備として立派な物を携えたい。

 まあ、エステルの言うように他の見た目から気にするべきか……。

 それにしても本当に疲れた……飯を食べたら今日はもう寝ようかな……。


「大倉さんお疲れのご様子ですね。よろしかったら回復マッサージをしてあげましょうか?」


「なんだそれ?」


 シスハが聞き慣れない単語を口にした。

 回復マッサージ? 言葉通りに想像するなら、回復魔法でやるマッサージだと思うが……。


「回復魔法を掛けながら普通のマッサージをするだけですよ。街の人達によくやっていましたが、結構評判いいんですよ。ルーナさんも気持ち良さそうにしていましたよ」


「へぇ、そんなことしていたのか」


「そう聞くと、ちょっと気持ち良さそうな感じがするわね」


 あー、前に交流していた老人達にやってあげてたのか。

 ルーナにも試していたと……知らない所で色々とやっていたんだな。

 評判が良いなら俺もやってもらおう。美人にこんなことしてもらう機会なんて、滅多にないだろうし。


「じゃあ試しにやってもらおうかな。足の疲れが酷くてさ」


「うふふ、お任せください。それじゃあこちらへどうぞ」


「気持ち良さそうなら私もやってみてほしいわ」


「はい、構いませんよ」


 シスハに促され、俺は背もたれのない椅子に座らされた。

 エステルも興味津々だ。俺よりも若いから必要はなさそうだけど、気持ちがいいならやってみたいよな。

 

「お体に触りますよ」


「ああ……く、くすぐったい」


 椅子に座った俺の体を、シスハが手で触って確認していく。

 ちょっとムズムズするな……。

 それからしばらくされるがままに体を触られた。


「うーん、肩と腰もだいぶ凝っていますね。足だけじゃなくて全身やった方がよさそうです」


「えっ……マジで?」


「お兄さん凝り性なのかしら」


 嘘、俺の体凝り過ぎ? まだ若いと思っていたのだが……地味にショックだ。


「それじゃあ大倉さん。初級、中級、上級、極級、どれがよろしいですか? 大倉さんなら特別に、隠し項目の神級もありますよ」


「はい? ちょっと何言ってるのかわからない」


 マッサージが始まるかと思いきや、意味不明なことを聞かれた。

 初級、中級、上級、極級って……ゲームの難易度かよ! しかも隠し項目の神級ってなんだよ!


「マッサージの強さですよ。この凝りだと……上級辺りですかね。極級なら完全に体の痛みも取れますけど……耐えられるかどうか。神級は途中で失神すると思います」


「マッサージなんだよな? 本当にそれマッサージなんだよな?」


「随分と細かくランクが分かれているのね……」


 失神するマッサージって一体……からかっているんじゃないだろうな?

 だけどシスハの表情を見ると、眉を寄せながら顎に手を当てて真剣に考えている。

 真面目に言っているみたいだな……ここは信じて頼んでみるか。

 失神するほどのマッサージがどんな物か気になるけど、ここは無難に中級をお願いしてみた。


「や、優しく頼むぞ」


「はい、少し痛みますけど我慢してくださいね」


 俺を椅子に座らせたまま、シスハは後ろから肩に手を乗せてきた。

 そしてグッと力を入れて押さえつけたかと思うと、背中にドスッと衝撃が走る。

 あまりの痛さに一瞬体が仰け反ったが、押さえつけられているので動けない。

 そのままグリグリとねじ込むように押され続け、背中が圧迫されて声が漏れて苦しい。


「うおっ……おっ、おっ……ぐっ」


「凄く苦しそうな表情をしているけれど……大丈夫なの?」


「その内この痛みが気持ちよくなってくるんですよ」


 痛いには痛いのだが……不思議と体が和らいでいく気がしてきた。

 押され続けているところから温かくなってきて、それが背中全体に広がっていく。


「あっ、あー……これやばい……」


「そんなに気持ちいいの?」


「最初は痛かったけど、本当に気持ちよくなってきた」


「うふふ、だから言ったじゃないですか」


 しばらく押され続けていると、シスハの言うように痛みが気持ち良くなり始めた。

 俺は今、痛みと快楽の狭間に揺れ動いている。

 なんだか意識がぼんやりしてきたな……これ、寝そべってたらもう寝てるぞ……。


 背中を一通り押し終わると、次にシスハは俺の腕を持ち上げて横に伸ばし、自身の両手を絡ませた。

 そして彼女の体にぴったり密着するほど引き寄せて、力を加え始める。

 これも痛くて気持ちいいけど、色々と気になる部分が腕全体に当たっているのですが……特に軟らかい部分とか。


「な、なあ……ちょっと密着し過ぎじゃないか?」


「仕方ないじゃないですか。回復魔法は密着している方が効果がありますので。大倉さんに頑張ってもらいたくて、私も張り切っているのですよ? 普段はここまでしませんがサービスです。嫌でしたでしょうか?」


「あっ、いや……嫌って訳じゃないんだけどさ」


 嫌どころか、むしろご褒美……そう頭に過ぎると、エステルがジト目で俺を見ていた。

 

「……おにーさん、なんだか顔が緩んでいるわね。そんなに気持ちがいいの?」


「あ、ああ……マッサージが気持ちいいんだ」


「あら、そうなの」


 俺の返事を聞いたエステルは、頬に手を当てていつものように微笑んでいる。

 それから特に追求することなく、黙々とマッサージを進めるシスハと俺を見つめていた。

 見られているだけなのに、妙な威圧感が……眠気が吹っ飛んじまったよ。

 その後もう片方の腕、両足もやってもらいマッサージが終わった。


「はい、一通り終わりましたよ。お体の調子はどうですか?」


「ん……おお、すげぇー、肩が軽いぞ。腰と足の調子も良い。これなら一晩中狩りしても平気そうだ。ありがとな」


「そこまで言っていただけるなら、私も嬉しいですよ」


 腕を回してみると、さっきまでの腰と肩のだるさがなくなった。

 足踏みしてみても、足の裏や太ももの痛みもない。

 体が軽い……こんな調子が良い気分なのは久々だ。これならもう何も恐くないぞ。


「それじゃあ次はエステルさんですね。エステルさんは初級でいきましょう」


「えっ、私は……」


「ほらほら、物は試しですよ」


 次に標的となったエステルは、若干遠慮気味にシスハから距離を取っていた。

 俺の最初の様子を見て、痛そうだったからやりたくなくなったのか?

 

「何をしているのでありますか? ご飯ができたでありますから、食べるのでありますよー」


 ちょうど良いタイミングでノールが晩御飯を作り終えたみたいだ。そこでマッサージの話題は遮られうやむやとなった。

 うーん、本当に気持ちが良かったから、やってもらえばいいのになぁ。

 さて、体の調子もよくなったことだし、目標個数までの400個、頑張って集めるとするか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 疲れているとき、たまにこの回を読みたくなるんですよねぇ。 気持ちよさそうにしている平八を見ていると、こっちまで心地よくなってくるんです。 [一言] あー、誰かにマッサージされたい。
2023/08/25 19:42 アダンソン
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ