夜の魔石集め
魔石集めに集中することを決めてから翌日。
早朝からノール達を北の洞窟に送り、俺とシスハでゴブリンの森へと狩りに来ている。
そして今は、数時間狩りをして軽く休憩を取っていた。
「大倉さん、さっきから何か飛ばしていたみたいですけど、あれはなんでしょうか? なんだか大きな音がしましたけど……」
「ああ、センチターブラだ」
今回の狩りの最中、俺はセンチターブラも織り交ぜて狩りをしていた。
ガチャで戦力を増すのもいいけど、既存のURは早く使いこなしたい。
なので弱いゴブリン達相手ではあるが、自分なりに考えて様々な使い方を試している。
「色々と試行錯誤しててさ。ちょっと考え付いたのを試していたんだよ」
「それは面白そうですね! 見せていただいてもよろしいですか?」
「構わないけど……そんなに面白いものじゃないぞ」
シスハが見せてほしいというので、さっそくセンチターブラを出して変形をさせた。
この前ノール達の前でやったように、薄い円状に広がるよう念を込める。
そしてピザ生地のように薄くなったところで、今度は横にゆっくりと回転をさせていく。
大きさは大体1mぐらい。イメージとしては丸ノコのようなものだ。
さっきからこれをさらに高速回転させた状態で、操りながら飛ばしていた。
何かに当たると金切り音が響く。これにシスハが反応したみたいだ。
まだ操作が不安定でよく木にぶつかって安定しない。森の中で飛ばすのは難易度高いぞ。
離れた敵を自由に倒せればさらに効率が上がると思ったけど……そう上手くはいかないな。
「トレントやグランディス相手にした時、触手の対処が出来なかったから、これで切断できないかと思ってさ」
「薄くして回転ですか……でも、これで切断なんてできるのですか? 大倉さん、センチターブラをか弱い私が破壊できる程度にしか強化できないじゃないですか」
「うん、オークを素手でぶち殺すような奴はか弱くないと思うんだ」
シスハがか弱かったら、俺は一体なんなんだ……。
硬度不足なのは確かだけど、オークも真っ青になって逃げ出すような神官様相手に、少し拘束できただけでも上出来だろ……。
だが、シスハの指摘通り、硬度と回転が不足しているのか、ゴブリンは真っ二つになっても木は切断できずに半分ぐらいで止まる。
最終的には岩でも切り裂くようにしたいところだが……先は長いな。
「この前上に乗ってクルクルと回っていたのは、これの為だったんですね。遊んでいるのかと思いましたよ」
「はは、失礼な奴だな。俺が何の考えもなしに行動している訳ないだろ」
「え?」
「ん?」
お前は何を言っているんだ? という表情のシスハと見つめ合って、お互い沈黙したまま固まった。
「……さて、狩りを再開するか」
「……そうですね」
しばらくその状態が続いた後、特に追及せずに狩りを再開した。
こいつ、俺が考えなしだって思っていやがったな……。
実際あの時はほぼ遊びみたいなもんだったから、こんな風に活用できると思っていなかったけど。
それから昼過ぎまで狩りをして、ノール達を迎えに行き狩りを一旦終えた。
「いやー、お昼で狩りを終えられるっていいでありますね。なんだか得をした気分なのでありますよ」
「そうね。いつも日が暮れるまで狩りをしていたから、明るい内に終わると気分がいいわ」
「あー、その気持ちはなんとかなくわかるな」
狩りを終えて帰宅したノール達は、窓から外を眺めてまだ明るいことに感動している。
普段夜まで掛かっていたことが、早めに終わるとまだ時間があるって得した気分になるもんな。
これから自由時間があると思えば、喜ぶのも当然か。
軽めの昼食を採りながら、現時点で回収できた魔石の数を確認した。
「うーん、昼までで46個か。前回より少し効率が落ちてるな」
予想していたよりも、ちょっと少ないな……。
前回は夜まで狩りをして、大体110個ぐらいは1日で回収できた。そう考えると、今回は回収効率が落ちている。
あの時はコンプガチャを揃えようと必死になっていたから、そこで差が出たのだろうか。
それでも初期に比べれば遥かに効率は上がっている。この辺りで妥協してもいいだろう。
それに今回はルーナとの夜の狩りもある。ノール達に無駄なプレッシャーを与える必要はない……なんて考えていると。
「ひっ――お、大倉殿! 急いでいる訳じゃないのでありますから、ご勘弁してほしいでありますぅ!」
「別に何も言ってないんだけど……」
俺の言葉にノールが反応して、許しを請うように両手を合わせている。
いつもこの流れから、効率化! 効率化! と俺が連呼していたし、深読みしてこの反応をするのも仕方ないか。
随分と怯えられるようになったものだ……ここは優しく接して、信頼を取り戻しておこう。
「今回はそこまで焦ってないから、適度に狩りしてくれるだけでいいぞ」
「あら、いつも魔石集めに必死になっているお兄さんから、そんな言葉が聞けるとは思わなかったわ」
「大倉さんにしては今回は優しいですね」
「はは、何を言ってるんだ。俺はいつだって優しいだろう?」
そう言うと、ノールとシスハは無言で俺から顔を逸らした。
エステルだけは頬に手を当てて俺を見てくれているが、苦笑を浮かべている。
おいおい……冗談気味に言ったのに、割とマジな反応をされるのは辛い……。
●
昼食後、俺とシスハは狩りを再開し、日が落ちてきた辺りでまた一時帰宅。
あれから今日の取得魔石数は68個まで増えた。やっぱり途中でノール達が抜けたから数は少ない。
これで終わりではなく、次はルーナを交えての夜の狩りに出掛けるつもりだ。
「くぅー、疲れたー」
「これから夜の部ですね。うふふ、ルーナさんとの狩りが楽しみですよ!」
流石の俺でも、これは結構疲れてくる。魔石の為とはいえ、この後深夜近くまで狩りをすると思うと気が重い。
だが、それもガチャのためだと思えばやる気は無尽蔵に湧いてくる。
そんな疲れた俺とは違い、シスハは腰をクネクネと動かしてルーナと狩りができることを喜んでいた。
マジで凄いな……微塵も疲れた様子がないぞ。
「本当にやるつもりなのでありますね……。これでも食べて、頑張ってほしいのでありますよ」
「おっ、ありがとう」
「帰ってきたら食べられるように、ちゃんとご飯も作っておくでありますからね」
若干呆れ気味のノールが、赤いジャムを挟んだサンドイッチを持ってきてくれた。
口に入れてみると、甘くて若干酸味があるジャムだ。この味……前にリスタリア学院の護衛で採ったボムミだな。いつの間にジャムにしてたんだ。
あまり腹に入れ過ぎると動きが鈍るから、これなら小腹を満たすのにちょうどいい。
夜食まで作ってくれるみたいだし、至れり尽くせりって奴だな。ありがてぇ!
そんなノールに感激していると、エステルがランプを3つ抱えながらやってきた。
「お兄さん、これに魔力を込めたから、狩りをする時に使って。1度魔力を流せば、手から放してもしばらく最大の明るさで光るように調整しておいたわ」
「おお、エステルも悪いな。ランプ片手に狩りをするつもりだったから助かる」
「大丈夫だと思うけど、ちゃんと注意しながら狩りをしてね」
エステルも夜の狩りを心配してくれているのか、高級ランプに魔力を込めてくれたようだ。
ルーナは平気だろうけど、俺とシスハじゃ暗闇で狩りをするのは危険だからな。
ランプを持ちながら狩りをするつもりだったけど、これでその必要もない。
ノールもエステルも、こんなに配慮してくれるなんて嬉しいぞ。
これで準備万全だと意気込んでいると、扉の開く音がした。
音がした方を見ると、ルーナが顔の半分だけ出してこっちを見ている。
「ルーナさん! おはようございます!」
「……おはよう、そしておやすみ」
「おい! どこへ行く!」
「やめろー、はなせー」
ルーナに気がついたシスハが挨拶をすると、ルーナは返事をしてゆっくりと扉を閉め始めた。
俺は急いで扉まで走って行き、ルーナを中から引き摺り出す。
既にいつもの戦闘服に着替え終わっているから、やる気はあるようだが……何故逃げようとした。
「……やっぱりやるのだな」
「昨日はやる気だったのにどうしたんだ」
「やる気はあった。だが、いざやる直前になると……萎える」
「あはは……さすがルーナさんですね」
「お、おう……だ、だけど頑張ってくれ」
「うむ、約束は約束だ。ちゃんと守る」
この幼女は本当にどうして……あのまま引き摺り出さなかったらどうなっていたやら。
ルーナを徹底的に擁護するシスハでさえ、苦笑を浮かべている。
だけど最終的にはちゃんとやってくれると言うので、さっそくルーナを連れてゴブリンの森へと向かった。
「この時間だと前より暗いな」
「森の外でこれだと、やはり中はランプがないとまともに動けそうにありませんね」
森の外に設置していたビーコンへ移動すると、既に周囲は真っ暗闇だった。
コンプガチャの時にも日が沈むまで狩りをしたけど、今はその時よりも辺りが暗い。
「私からしたら昼間と変わらないがな。それで、どう狩りをする」
「とりあえず森の中へ入ってから決めよう」
こんな暗さでもルーナにとっては屁でもない様だ。さすが吸血鬼……夜はお手の物だな。
普通のランプを片手に持って、地図アプリを頼りにいつもの狩り場所へと森の中を進む。
途中ゴブリンやオークの襲撃はあるが、シスハとルーナが瞬殺しているから問題はない。
そして目的地に辿り着いてから、エステルが用意してくれた高級ランプを設置してみたのだが……。
「うおっ!? エ、エステルが用意してくれたランプ、凄い光だな」
直視するのが眩しいぐらいの輝きをランプは放っている。
夜の森の中だというのに、昼間と変わらないぐらいの明るさだ。
そのせいかゴブリンやオーク達が森の奥から続々とこっちに向かってくるが、待ち構えているシスハに次々と粉砕されていく。
まるでゴブリンホイホイ……これはこれで効率が良くなりそうだな。
「辺り一面昼間のような明るさですね。目が見えなくても気配で十分狩りはできますけど、やっぱり視界がある方がやりやすいですよ」
「えっ……そんなことできたのか?」
「当然ですよ。私は神官ですからね」
「絶対神官関係ないだろ……」
「シスハだから仕方ない。そういうものだ」
シスハも目が見えなければ戦えないと思っていたが……そんな器用な真似までできたのか。
神官ですからね! でいつも済ましているけど、もう突っ込み入れるのも疲れてきた。
ルーナはうんうんと首を縦に振って納得しているし、俺もシスハなら仕方ないということで納得しよう。
ある程度の範囲にエステルから受け取った3つの高級ランプを設置して、狩りの準備は整った。
今回は初回のルーナの為に、まずは狩りのやり方を説明して、一緒に魔物の湧き場所を回っていく。
3箇所ある光が集まって魔物が発生する場所を狩場として、そこをグルグルと回ってひたすら湧いてくる魔物を狩るいつもの奴だ。
「こんな感じでルートを決めて、3つ目を狩り終えたら最初に戻るってやっていたんだ」
「試しに1人で回ってみてもいいか?」
「ああ、回りにくかったら他のルートも考えるから言ってくれ」
とりあえず近い3箇所を選んで、ルーナに狩りをやってもらうことにした。
彼女は赤い槍をブンッ、と大きく回してから、爆ぜるようにゴブリン達に向かって突っ込んでいく。
一突きで数体まとめて貫いたり、横になぎ払ったりしてこれまた数体一気に屠る。
途中で投擲して倒したりもしていけど、槍が戻ってくるまでの間に蹴りでも魔物を倒している。
その調子で木の幹を蹴って飛ぶように移動して、次々と湧き場所の魔物を壊滅させていく。
3つ目の湧き場所を全て狩り終えても、早過ぎたのか1つ目の湧き場所に1体も魔物が湧いていない。
「ふむ、湧くのが遅い」
「マジか……ノールより速いぞ……」
3つの湧き場所を潰したルーナは、湧くのが遅いとぼやいている。
体が小さくて身軽だからか、森の中での移動がノール以上に速い。
それに得物の槍のおかげで、普通に攻撃するだけでも数体の魔物を一気に倒せる。
剣主体で正統派の戦い方をするノールと比べると、色々な点で狩りの速度に差が出ているみたいだ。
俺はエクスカリバールでちまちま倒しているし、シスハも基本1体1体倒すから速さじゃルーナに負けている。
魔法をぶっ放して一気に殲滅するエステルは別として、近接戦闘ではルーナが1番早く多数の敵を倒せるみたいだ。
「さすがルーナさん! 夜はルーナさんの独壇場ですね!」
「任せろ。雑魚専の本領を見せてやる」
「うふふ、それじゃあ私も張り切っちゃいますよ!」
確かにこんな効率的に狩りをできるなんて、雑魚専と言うのも嘘じゃないのかもしれない。……単体相手でも十分強いけどな。
ルーナの戦い方を見て、シスハも張り切ったのか競うようにして2人は狩りを始めた。
やる気がないとか言っていたけど、ルーナはやる時はちゃんとやってくれる。信じてたよ!
結果、この日は張り切ったルーナとシスハのおかげで、最終的に106個の魔石が手に入った。
ふふふ、この調子ならあっという間に、目標の2000個なんて貯まってしまうな。