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戦力不足

 クリストフさんの話を聞いてから帰宅すると、先に帰っていたシスハが飯の支度をしてくれていた。

 そして夕飯を食べながら、彼女とルーナにも協会で聞いた話をする。


「魔人なんて存在がいらっしゃるのですか」


「むぐっ、んっ……めんどうそうな話だ」


「そうでしょうか? 聞いた限りだとお強いみたいですので、是非1対1で戦ってみたいです」


「おいおい……いくらシスハでも無理だって。全員で相手しても無事じゃ済まないと思うぞ」


 シスハが目を輝かせて拳を握り締めている。

 俺達全員で相手にしても危険かもしれないのに、1人で戦うなんて無謀もいいところだ。


「そこまで魔人って強いのでありますか?」


「私達全員で戦っても倒せそうにないのかしら?」


 どうやらノール達もそこまでの相手なのか疑っているようだ。

 今の俺達は攻撃役、防御役、回復役、とバランスもだいぶ良いパーティになった。

 それに俺を除いて、1人でもそこら辺の魔物が束になって相手をしても瞬殺できるような実力者だ。

 並の相手なら全く問題なく対処できる。しかし……。


「俺の知っている魔人はレイドボスだったからな。最上位にもなると……友軍合わせてユニット15人以上は必要だったと思う」


「じゅ、15人以上でありますか……」


「それは確かに、相手にするのは難しそうね」


 俺がやっていた頃に出てきた最上位の魔人は、最低15人以上のユニットで戦わないと勝てなかった。

 だけど、これはSRやSSRユニットを含む編成だったから、ユニット次第で数は前後する。

 URユニットだけの編成なら、倒すだけなら恐らく10人以下で可能だろう。

 俺達はガチャ産装備による強化もある上、全員最初から専用UR装備を2つ所持している最高の状態だから、人数が少なくても倒すことはできるはずだ。


「これは俺が知ってる魔人の話だから、実際の強さがどうなのかわからないけどな」


「ですが、現状はその魔人と戦うのは避けた方がよさそうですね」


 GCでさえ魔人によって強さはピンキリだった。

 初期の方で相手にする最低クラスの魔人なら、今のレベル差だけ考慮すれば俺1人でも勝てると思う。

 だからといって弱いと想定して、GCと同レベルの最上位クラスだった場合最悪の結果になる。

 なので今は、出会ったとしても魔人の相手はしない方がいいだろう。


「強い奴とは戦いたくない。私は雑魚専だ」


「自分で雑魚専だって言うなよ……」


 話を聞いていたルーナが、確固たる表情で雑魚専と豪語している。

 自分で雑魚専だとか言う奴初めて見たぞ……いや、俺もできれば強い奴の相手はごめんだけど。

 ただ、これからも冒険者協会には協力をするつもりだし、不意の遭遇が起きても対処できるようにしておきたい。

 だからいつその時が来てもいいように、俺達も準備をするべきだ。


「つまり問題としては、戦力不足という事だ」


「確かにそうだけれど……」


「それって要するに、大倉さんがガチャを回したいってことですよね?」


「その通り! さすがシスハ、心の友よ」


「またガチャなのか。平八はガチャのことばかりだ」


 俺の説明を受けなくても、皆ガチャだと察してくれたみたいだ。

 うんうん、だいぶお互いを理解しあってきたということだな。


 そんなエステル達を他所に、戦力不足だと言った瞬間、ノールは無言で立ち上がって食器を手に流し台へと移動していた。

 食器を置くと、テーブルの近くでご飯を食べ終わり満足そうにプーと鳴いていたモフットを抱き上げ、俺達の方を見ずに自分の部屋へと向かう。

 そこで俺も立ち上がって、後ろから彼女の肩に手を置いた。


「どこへ行こうというのかね」


「あっ……モ、モフットと散歩にでも行こうかと……」


「そんなに急がなくてもいいだろ? 食後なんだから、ゆっくり椅子に座って話をしようじゃあないか」


 ノールも十分察していたのか、逃走するつもりだったようだ。

 俺の目の前から堂々と逃げようとするその度胸は賞賛するよ。


「うっ、うぅ……嫌なのであります! 私はお部屋に帰るのであります!」


「まだ何も言っていないんだが」


「どうせまた魔石集めをするとか言うんでありましょ! 嫌なのであります!」


 ノールは体と結わいた髪を左右に揺らして、話を聞きたくないと嫌がっている。

 やっぱりこうなったか。


「まあまあ落ち着けって。確かに魔石集めをするつもりだ。だけど今回はちゃんと考えがある。安心してくれ」


「大倉殿が言うと、全く安心できないのでありますが……」


「嘘じゃないよ。この曇りのない瞳を見ろ」


「曇っているのであります……」


「くっ……ガチャに誓って今回は大丈夫だ。ほら、椅子に座ろうな」


「うぅ……嘘だったら徹底的に乗馬の訓練してもらうでありますからね……」


 どうにか説得して、また席についてもらったが……徹底的なノールの訓練とか怖いんですが。

 だ、だけど大丈夫。今回はその辺りはちゃんと考慮している。

 俺も椅子に座り直して、両肘を机について顔の前で手を組んだ。


「で、今後の方針なんだけど……まずは目標だった魔石2000個を目指そうと思うんだ」


「……あれ? 魔石の目標って2000個でありましたっけ?」


 勘の良いノールは嫌いだよ。

 覚えていやがったか……ゴリ押そう。


「……で、まずは2000個目指そうと思うんだけど」


「ちょ、スルーしたでありますよ!?」


「そもそも今何個魔石は集まっているの?」


「えっと……1168個だな」


 目標2000個と聞くと凄い量に思えるけど、既に半分以上は集め終わっている。

 これも地道にシスハと狩りを重ねた結果だ。戦闘狂で困る部分はあるけど、魔石的にはとてもありがたい。


「確かに最初は魔石1000個が目標だって言った。しかし、前回のボックスガチャの悲劇は繰り返してはならぬのだ! だからこそ、意識を高くして2000個集めるべきだと思うんだよ!」


「そんなに気合を込めて言われても困るのでありますが……」


 俺の熱弁にノールは若干引いたご様子。

 この前のボックスガチャで悲しみを背負ったから、今度こそ確実に仕留められる量は確保しておきたいんだ。


「俺としてはできるだけ早く集めてはおきたい。だからって無茶をするつもりもない。ノール達の負担は最低限にするから、協力してくれよ」


「うーん、そこまで言うのなら話だけは聞くでありますよ……」


「お兄さんの頼みなら仕方ないわね」


「ありがとうございます!」


 目標まで残り約800個程度なので、今まで程過酷溢れる魔石集めにはならないと思っている。

 ノール達もそれを理解し、さらに俺の言葉を聞いて、乗り気ではないが協力の意思は見せてくれた。


「それでまず集め方なんだけど、ノールとエステルは2日で1回でいいから北の洞窟で狩りをしてもらいたい。時間は昼過ぎぐらいまでで構わない」


「えっ、そんなに短くていいのでありますか!」


「前に比べると随分と短いわね。それで本当にいいの?」


「ああ、大丈夫だ」


 ノール達なら半日でも最低30個程度は稼いでくれるはずだ。

 主な魔石狩りは俺とシスハでやるつもりでいるから、ちょっとした数を補ってもらえればいい。


「で、シスハは俺と一緒にゴブリンの森でオーク狩りだ。時間は……どれぐらいがいい?」


「日が沈むまでで構いませんよ」


「あっ、はい。本当にいつもありがとうございます」


「いえいえ、大倉さんがどうしても、と言うのなら仕方ありませんよね」


 凄く良い笑顔で即答された……さすがシスハ、本当に頼れる神官様だな。

 そして次は1番問題児のルーナだが……。


「ルーナは……日没から深夜ぐらいまで、俺と一緒にオーク狩りを頼みたい。ルーナも2日に1回ぐらいで……やっぱり嫌か?」


「構わない。冒険者として働かない代わりにそこで頑張ろう」


「よっしゃ! ありがとな! 終わったら好きなだけ寝てていいからな!」


「うむ、そのつもりだ」


 すんなり了承してくれて驚いたけど……やはり引き篭もるつもりだったか。

 狩りに協力してくれるだけ感謝しておこう。

 そんなルーナの返事に満足していると、ノールが声を掛けてきた。


「大倉殿、そんなに長い時間狩りをして大丈夫なのでありますか?」


「そうよ。いくらお兄さんでも危ないわ」


「へーきへーき。俺もそこは考慮して2日に1回にしてるんだからな」


 2日に1度はフル稼働で狩りをするつもりでいるけど、それも致し方ない。

 ガチャを回したいと言っているのは俺だし、ここは1番働くべきだと思うんだ。

 ゴブリンやオークならもう軽く狩れるから危険はない。

 適度に休憩しながらやればそのぐらいは平気だろう。

 そう考えていると、シスハが声をあげた。


「私も夜にご一緒しますよ! 大倉さんだけルーナさんと狩りをするなんてズルいですよ!」


 ズルい……気遣って夜は休んでもらおうと思っていたのに、ズルいなんて言われた。

 せっかくのルーナと狩りをできる機会を逃したくないみたいだな。


「あ、ああ……ならシスハも頼む」


「むっ、シスハも一緒か。それならもっとやる気が出る」


「一緒に頑張りましょうね!」


 シスハに抱き締められたルーナは、むっふんと鼻息を出してやる気になっている。

 おお、これならだいぶ魔石集めの効率も良くなりそうだぞ。

 2人を仲良くしておいたシナジー効果って奴だな。助かる。


「むぅー、それなら私も一緒にやるわ」


「えっ……いや、無理しなくてもいいんだぞ」


「いいえ、お兄さん達にだけ夜まで狩りをさせるなんて駄目よ。パーティなんだから、せめてもう少し皆で負担を減らすべきよ」


 机に肘をついて膨らませた頬に手を当てたエステルが、一緒にやると言い出した。

 負担を減らしてくれるのは嬉しいけど……急にどうしたんだ?


「……そうでありますね。昼過ぎぐらいまでなら、私達も毎日やるでありますよ」


「いいのか? 急いで貯めたいとは言ったけど、別にノール達が無理する必要はないんだぞ」


「いいのでありますよ。皆で負担すればそれだけ早く終わりでありますしね」


「……本当にすまないな」


 ノールも渋々といった様子だが、毎日狩りをしてもいいと言う。

 いやー、俺のわがままに付き合ってもらって悪いな。


「その代わり、終わったら乗馬の特訓でありますからね」


「……マジで?」


「マジであります」

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