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仲間外れ

 エステルに宝石を渡してからしばらくの間、俺は自分の部屋のベッドに転がってゴロゴロしながらさっきの出来事を思い返していた。

 まさかエステルが頬にキスをしてくるとは……いつも大胆にくっ付いてきていたが、ここまでしてくるとは思っていなかったぞ。

 最後なんて顔赤くしながら、そそくさと部屋に入っていくなんて……可愛いじゃないか。元々可愛いとは思っているけど。

 あれは宝石を貰って嬉しさのあまり、ついキスしてしまったと考えておこう。

 ……あのまま告白でもされていたら、コロッと墜ちていたかもしれないけど。


 なんだか最近、こういうことが増えている気がしてくるぞ。

 シスハの胸を触ろうとした時もそうだったし、俺の理性が危うくなってくる。

 一応元の世界に帰る手段を探しているんだから、手を出すなんてとんでもない。

 それでも耐え切れなくなった時は……どうしよう。

 まだ帰るかどうかも決めてないんだぞ……理性をしっかり保つよう注意しないとな。

 

 その後もあれこれと考えたが、とりあえず風呂に入りスッキリして頭を落ち着かせた。

 ふぅ……今は考えても仕方ないし、一旦保留にしておこう。


 風呂に出た後居間へ行くと、いつも通り椅子に座ったシスハが膝の上にルーナを乗せていた。

 そしてルーナは黄色く輝いている宝石を手に持って、機嫌が良さそうにしている。


「おっ、シスハも無事渡せたみたいだな」


「はい! 大倉さんの方はどうでしたか?」


「あー、うん。無事に渡せたよ」


「うふふ、良かったですね。エステルさんのことですから、大はしゃぎしていそうですね」


「まあ……はしゃいでいたかもな」


 俺の想像していた反応とも違ってはいたが、テンションは相当高くなっていたと思う。

 抱き付かれて頬にキスされたなんて知ったら、シスハはからかってきそうだ。


「なんだ、平八も同じような物を渡したのか」


「ああ、シスハに話を持ちかけられてな。そんなにジッと眺めているなんて、気に入ったのか?」


「当たり前だ。シスハから貰った物を気に入らないはずがない」


「もう、嬉しいこと言ってくれますね!」


 シスハはよっぽど嬉しかったのか、ルーナを抱き締めながら頭を撫で回している。

 ルーナは表情に特に変化はないが、頬を赤くして照れているようだ。


「あれれ、大倉殿とシスハ、今日はお早いのでありますね」


「おう、ノールは小屋の中で遊んでいたのか?」


「そうでありますよ! モフットが元気過ぎて遊ぶのも大変なのでありますよ、むふふ」


 ノールが自分の部屋から出てきた。

 腕の中にモフットも抱き抱えられていて、俺達を見てプーと鳴いていたので頭を撫で回しておいた。

 本当にあの小屋の中で遊んでいたのか……。

 ノールが小屋から出てくる瞬間を思い浮かべると、少し笑ってしまいそうだ。


「ふぅん、いいだろう? シスハから貰った」


「おお、シスハからの贈り物なのでありますか」


「はい、ルゲン渓谷の原石を加工した物ですよ。こんなに喜んでもらえるなんて、大倉さんと頑張った甲斐がありましたよ」


 ルーナが自慢げに宝石を見せると、それをノールは食い入るように見つめている。

 食い物のことばかり考えているノールの興味を惹くほど、今回プレゼントした宝石は綺麗みたいだ。

 本当にあの宝石店で頼んでよかったわ。


「大倉殿も手伝ったのでありますか?」


「そうだぞ。俺もエステルに渡そうと思ってな。もうさっき渡してきたけど」


 そう返事をすると、ノールは口を尖らせ始めた。

 うん? 何か不満な点でもあったのか?

 アイマスクのせいで表情は分かり辛いけど、雰囲気と口が不満ですと訴えているようだ。


「むぅー、私だけ凄く仲間外れな気がするのでありますが」


「そ、そんなことないと思うぞ? な、なあ?」


「えっ……ど、どうでしょうか……」


 誤魔化すように返事をしたが、思い返してみると、確かに今回ノールはまるで関わりがない気がする。

 1人だけ除け者扱いみたいなのが不満なご様子だ。

 ノールは両手の人差し指を合わせながら、さらに話を続けた。


「私だって……その、乙女……なのでありますから、そういうことに関わりたかったのでありますよ」


「……まだ乙女とか言ってるのか。えーと……ほら、これでもやるから元気出せよ」


 どうやら自称乙女として、今回の件は関わりたかったことらしい。下を向いて気落ちしている。

 少しかわいそうに見えたので、居間に置いておいたリュックから、原石集めの時に大量に拾った岩塩をノールに差し出した。

 これでも渡しておけば、とりあえず元気になって……。


「……大倉殿、私には食べ物を与えておけば、誤魔化せるとでも思っているのでありますか?」


「えっ!?」


 な、なんだって!?

 これで話を濁せると思っていたのだが……そこまで単純ではなかったようだ。

 ノールの返事にシスハとルーナまで、目を見開いて驚いている。


「なんでシスハやルーナまで驚いているのでありますか!」


「べ、別に……」


「お、驚いてなんていませんよ?」


 俺と同じ反応をしたシスハ達は、アイマスク越しのノールの視線を受け、気まずそうに顔を逸らしている。

 それを見てノールはプルプルと震え始めた。


「うぅ……皆して酷いのでありますよ……。もうやだぁ……お部屋に帰るのであります!」


「あっ、ちょ、待てよ!」


「放すのでありますよー!」


 ノールは俺の手から岩塩を引ったくり、そのままモフットと共に自分の部屋に逃げ出そうとした。

 慌てて腰に抱き付いて止めると、それでも無理矢理抜け出そうと左右に体を振って前に進んでいく。

 コイツ……相変わらずなんて馬鹿力だ! まともに競り合ったら俺じゃ止められん!

 このまま逃がしたら部屋に閉じこもりそうだし、なんとか引き止めないと。

 ノールは結構根に持つタイプだから、その場で解決しておいた方がいい。


「わかった、わかったから! 俺達が採ってきた原石の中から、好きなのをやるよ!」


「それじゃいやんなのであります! 自分で採りに行きたいのでありますよ!」


「わかった! 今度ノールも一緒に、ルゲン渓谷で原石採取しに行こう!」


「本当でありますか!」


「あ、ああ……」


「やったのであります!」


 今度原石を採りに行こうと言うと、無理矢理進むのを止めて声も明るくなった。

 やれやれ、なんとか治まってくれたか。

 それにしても、自分で採りに行きたいみたいだけど、拘りでもあるのかね?

 採りに行ってどうしたいのかわからないが、その程度で満足してくれるなら助かる。

 落ち着いたノールを椅子に座らせて、ようやく一息つけた。


「そういえばエステルはいないみたいでありますけど、どうしたのでありますか? 大倉殿があげた宝石も気になるのでありますよ」


「まだ部屋にいるんじゃないかなぁ。本人の方から出てくるまで近づかない方がいいと思うぞ」


「一体どんな喜び方をすればそうなるのでしょうか……」


「エステルは平八のことになると怖い。関わらない方がよさそうだ」


 宝石を渡してから結構時間は経つけど、未だにエステルは居間の方へやってこない。

 多分今も自分の部屋で気持ちを落ち着かせているのだろう。

 もういつもの調子を取り戻してはいるが、俺としてもエステルと今顔を合わせたら、さっきのことを思い出してしまいそうだ。


 そんな心配をしていたが、結局エステルは部屋から出てくることはなかった。

 夕食にしようとノールが声を掛けに行ったけど、扉の前に置いといてくれと言われたようだ。

 そこまで出て来られないほど興奮しているのだろうか……今日のところは顔を合わせない方が良さそうだな。



 翌日、いつも通り朝早く起きて居間でノールと話していると、エステルが起きてきた。


「おはよう、お兄さん、ノール」


「お、おう、おはよう」


「おはようございます、なのでありますよ。朝ごはんできているでありますから、すぐ準備するでありますね!」


「ええ、ありがとう」


 エステルは俺を見て軽く微笑むと、何事もなかったかのように椅子に座る。

 その後シスハも起きて来て、朝食をとり始めた。

 何かしらリアクションがあるかと思って身構えていたのだが……特に何もないな。


「エステルさん、大倉さんの宝石はどうでしたか?」


「凄く綺麗だったわよ。とても嬉しかったわ、ええ、本当に」


「羨ましいでありますねー。後で私にも見せてほしいのでありますよ」


「ふふ、いいわよ」


 食事を取りながら話をしているが、エステルは詳しく話すつもりはないみたいだ。

 いつもなら、ふふ、嬉しくてキスまでしちゃったわ、なんて言い出しかねないのだが……もしかしてエステル自身も、あれは恥ずかしかったのかな。


「大倉さん、今日はまた宝石店に行くんですよね?」


「ああ、ルーナとエステルも一緒に……」


 今日は宝石を装飾品に仕上げる為に、エステルとルーナも連れて宝石店に行くつもりだ。

 そう俺が言いかけると、凄く視線を感じ始めた。

 その方向を見てみると、パンを口に含んで動きを止めているノールがジッとこっちを見ていた。


「……ノールも行くか?」


「んぐっ……行く、行くのでありますよ!」


「あら、私がいない間に何かあったのかしら?」


「あー、ノールがちょっと拗ねてな」


「す、拗ねてなんていないでありますよ!」


 パンを慌てて飲み込んだノールが、手を挙げて行くと言っている。

 完全に拗ねていたと思うのだが……岩塩を渡した俺も悪いとは思っているけど。

 今日は宝石店に行った後冒険者協会に行こうと思っていたから、ノールが来てくれるのはちょうどいいか。

 そろそろディアボルスの持っていた黒い魔光石について、進展があったか聞きに行かないと。

 朝食を終え、それからルーナを少し早めに起こした。


「ルーナはどんな装飾品にするか決めたのか?」


「うむ、ブローチがいい」


「やっぱり何が良いのか聞いてみて正解でしたね」


 クェレスへ向かう前に何にするのか聞いてみると、ルーナはブローチにするようだ。

 それを聞くと、やはりサプライズで完成品を渡さなくて良かったのかなと思ってしまう。

 昨日の反応を聞いた感じじゃ、他の物でも喜んでくれただろうけど。


「エステルは何にするつもりなのでありますか?」


「一晩中考えてみたけど、私は首飾りにしておくわ」


「えっ、首飾り!?」


「あら、何かおかしいことでもあるのかしら?」


 ノールがエステルに聞くと、予想外にも首飾りにすると言う。

 指輪が欲しいって言うと予想していたのだが、完全に外れた。

 思わず声を漏らすと、エステルは不思議そうに顔を傾けている。


「いやぁ、私と大倉さんは、エステルさんなら指輪辺りを欲しがるじゃないかと話していたので……」


「んー、それはそれでいいのだけど……」


 エステルは頬に手を当てながら、難しい表情をしていたかと思うと……。


「指輪はお兄さんから貰える日まで、楽しみに取っておくわ」


 満面の笑みを浮かべながら俺にそう言った。

 おほ……それはどういう意味なんですかねぇ。

 言葉の中に何か含まれている気がするのですが……。


「……お、おう」


「期待されていますね大倉さん! 頑張ってくださいよ!」


「煽るな!」


 何を頑張れって言うんだ!

 本当にシスハはこういう時に余計なツッコミを入れてくるな……そのお陰で助かることもあるのだが。

 話題を変える為に、俺はノールに話を振った。


「行きたそうにしていたけど、ノールは宝石に興味はあるのか?」


「失礼でありますね。私だって女の子なのでありますから、興味ぐらいあるのでありますよ」


「その割りにはルゲン渓谷で岩塩ばかり集めて……」


「そ、それはたまたまなのであります!」


 本当に興味があるのだろうか……原石に目もくれずに岩塩集めしていたノールが言っても説得力がないぞ。

 カットされた宝石を見て気が変わったのか?

 エステルやシスハと最近は色々とあったけど、こういうノールの変わらないところは微妙に癒されるな。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 宝石パート長くなりましたね こういう回もありかも
[一言] 結局、シスハには何もプレゼントしなかったのか。 これまでいろいろ付き合ってくれたんだし、何かあげればいいのに。 これだからどう…
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