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宝石店巡り

「さっそく宝石加工所に行くつもりなんだが……どこにするよ?」


「そんなこと聞かれましても……どこにしましょうか?」


 協会から出てさっそく向かおうと意気込んだのはいいのだが、結局どこに行こうか悩んで足踏みしていた。

 道具を使って加工する店と、魔法を使って加工する店の違いを教えてもらったけど、どう違うのか詳しくわからない。


「聞いただけではよくわかりませんでしたから、いくつか実際に行ってみるのがいいんじゃないですか?」


「……そうだな。とりあえず回ってみるとするか」


 結局教えてもらった所に行ってみるしかないか。

 その店の品物を見比べれば違いもわかるだろうし。

 いつもの戦闘用の服だと場違いなので、ディメンションルームを使って2人共私服に着替えてからお店に向かうことに。


「それにしても、俺が宝石の原石から選んでアクセサリーを作ることになるとは……」


「大倉さんってそういうことに無関……いえ、ご縁がなさそうですもんね」


「おう、悪かったな! ご縁がなさそうで!」


 全くもって図星なのだが、それを口にされると悔しい!

 しかしそんな俺がシスハに促される形だったとはいえ、こういう機会ができるとは思わなかったぞ。


 そんな無駄口をお互いに叩きつつ、ようやく最初の宝石店へと到着。

 店内に入ると少し薄暗く、オレンジ色の光のみで照らされていた。

 そして、さらに強い光でライトアップされた、木台の上部に透明なケースがあるショーケースがいくつも並んでいる。

 中には輝く宝石の付いたネックレスや指輪が入っていた。

 うおぉぉ、さすが宝石店。あまり興味ない俺でも、これを見るとなんかビビッと来るぞ。


「凄い、凄いですよ大倉さん! 原石と比べると輝きがまるで違いますよ!」


「そりゃ加工前と加工済みのじゃ比べ物にならないだろう」


「はぁー、私達が取ってきた物もこうなるかと思うと、今から楽しみです」


 シスハも興奮気味に目を輝かせてショーケースに張り付き、中の指輪などを眺めている。

 宝石自体には興味ないとか言ってたけど、実物を見るとそうでもないのかもしれない。

 欲しいとか言い出したら、シスハの分も頼んでみようかな?

 そのまましばらく店内を見て回っていると、女性の店員さんが声をかけてきた。


「本日はどのような物をお探しでしょうか?」


「あっ、えっと……こちらで原石から加工して装飾品を作ってもらえると聞いたのですが……」


「原石からですか……今お手元にございますか?」


「はい。これと、これなんですけど……」


 いかんいかん、展示されている物に気を取られて忘れていた。

 さっそく鞄から赤と黄色の宝石を出して店員さんに渡す。


「質の良さそうな原石ですね。こちらをどのような物に?」


「赤い方は指輪にして、黄色の方は……どうする?」


「ブレスレットがいいです!」


「だ、そうです」


「はい、それではこちらに……」


 ショーケースに張り付いていたシスハに聞くと、ブレスレットがいいと答えた。

 首飾りは止めて、ブレスレットにするのか。

 返事をすると店員さんはさっそく俺達を机のある所へ移動させようと促してくる。

 まだここだと決めた訳じゃないので、俺は慌ててそれを断った。


「す、すみません。聞いてもらったところ申し訳ないんですけど、まだ他の店も見回りたくて……」


「いえ、大丈夫ですよ。原石からの加工となりますと、お店選びに慎重になるのも仕方ありませんので。ですが軽くお話だけでも」


 結局断り切れず、この店に頼むかは一旦置いといて、宝石についての話だけを聞くことになった。

 この店では宝石を裸石にして、そのまま指輪などの装飾品にまで仕上げてくれるようだ。

 どのような裸石にするかは、原石の状態によるからなんとも言えないとか。

 デザインなども相談しながら決められるみたいだ。

 サプライズで贈ろうとしている俺としては、それはハードルが高いような気もする……。

 今回は宝石の持込だからそこまで高くないようだが、指輪に使う金属次第で10万から20万Gと言われた。

 その程度ならお安いもんだな。

 

 1軒目の店を後にして、それから違う宝石店も見て回ることに。

 そして2軒目の店でも、シスハはジーっとショーケースに張り付いて、装飾品を眺めている。


「随分と真剣に見てるな。もしかして欲しくなったのか?」


「いえ、違いますよ。これからルーナさんのを作るんですから、参考に色々と見るのは当然です! 大倉さんもエステルさんの為にちゃんと見ておいた方がよろしいのでは?」


「……確かに」


 欲しいとかじゃなくて、そういう理由で見ていたのね……。

 言われてみると俺も装飾品に関しては疎いんだし、参考として色々見ておくのは重要か。

 それからシスハと一緒にあれが良いこれが良いと店の商品を見て回った。


「うーむ、どの店も違いがよくわからんかった……」


「どのお店も綺麗に作られていましたね。良い参考になりましたよ」


 4軒ほど回ってみたのだが、デザインの参考にはなったけど、どの店も加工に関しては似たり寄ったりで、実際に回ってみてもどこにすればいいのか全くわからない。

 どこも作りは良かったから、どの店で頼んでも良いような気はするのだが……どうしましょ。


「次の店は……魔法で加工しているって所か」


「道具で加工するお店とどう違うのか楽しみですね」


 とりあえず悩んでいても仕方ないので、次は魔法で加工をしてくれるという店に向かうことにした。



 他の店からしばらく歩き、ようやくその店に到着。


「今までと比べると小さい店だな」


「でも雰囲気はそれっぽいですよ」


 前に回った4軒に比べると少し小さな店だった。

 外から中は見えず、パッと見てなんの店なのかわからなかったが、看板にアクセサリーの絵が描いてあるので間違いないようだ。

 中へ入ると暗く、ランプのようなもので僅かに店内を照らしている。

 その店にも同じようにショーケースが並んでいたのだが……今までの店に比べると、そこに飾られている装飾品の輝きが段違いだった。

 特に宝石の輝きが凄くて、この僅かな光でも宝石全体がめちゃくちゃ輝いている。

 こ、これが魔法で加工された宝石か……。


「彼女さんの贈り物をお求めですか?」


「えっ……彼女って……隣の人のこと言ってます?」


 店内の宝石に目を奪われていると、ここでも若い女性の店員さんに声を掛けられた。

 待て、今彼女さんとか言ったよな? もしかして……この隣にいる神官さんのこと?


「彼女だなんて……もう、照れちゃいますね。大倉さん、このお店にしましょうか」


「いやいやいや、違う、違います! 俺達恋人とかじゃないんで!」


「そんな必死になって否定しなくてもいいじゃありませんかー」


 シスハは体をクネクネとさせながら頬を赤くしている。

 こいつ……誤解されるような発言と態度は止めろと言うに!


「ご、ごめんなさい。男女の2人組だったからてっきり……」


「い、いえ、大丈夫です。こういう時にからかうのは止めろ、ていっ」


「あうっ、す、すみませんでした」


 まあ男女2人で見て回ってたら、そう勘違いするのも無理は……はっ!?

 もしかして今までの店でもそう見られていたんじゃ……ま、まあ大丈夫か。

 とりあえずシスハに軽くデコピンをしてその場を収め、さっそく宝石について聞くことにした。


「この宝石とかって、魔法で加工しているんですよね?」


「はい。当店では宝石だけじゃなくて、金属も魔法による加工品になっています」


 宝石だけかと思いきや、宝石の付いている指輪とかも魔法の加工品なのか。

 それから何を探しているのかと聞かれたので、他の店と同じく原石から作ってほしいと話した。


「原石からの加工がご希望ですか……」


「はい、これなんですけど……」


「少しお預かりしてもよろしいでしょうか?」


「はい、大丈夫ですよ」


 店員さんに宝石を渡すと、カウンターの方で透明な板の上にさっきの原石を置く。

 すると板は赤い原石の時は濃い赤に発光して、シスハの黄色い原石の時は薄い黄色く発光した。

 何をしているんだろ。もしかして……あれは魔導具か?


「うーん、こっちがルビーで、こっちがトパーズですね。随分と質の良い物ですよ」


 あれに乗せただけで何の原石なのかわかるのか……さすが魔法で加工するお店ってところか。


「これってルゲン渓谷のラピスから採取したものですよね?」


「はい、何体も倒して自分達なりに厳選してみたんです」


「えっ、倒したって……冒険者の方なんですか?」


「そうですけど……」


「もしかして他にも原石などお持ちでしょうか?」


「ありますよ。えっと……」


 何故聞かれたのかはわからないが、特に不都合もないので10個ほど鞄から大小様々な原石をカウンターに置いていく。

 5個ほど出した辺りで店員さんの顔が少し、ん? っと言いたそうなものに変わり、最後の方に手の平サイズの物を出したら目を見開いて口を開け固まっていた。


「えっ、ちょ……えぇ!? ど、どうしてこんなに原石持ってるの!?」


「厳選してたらなかなか決まらなくて……なぁ?」


「正直もっと厳選したかったんですけどねぇ……。あれ以上やってもきりがないとは思いますけど」


「じゅ、十分! 十分過ぎるって!」


 店員さんの口調が崩壊しているけど、そこまで凄い量なのか? 全部出さなくて良かった。

 なんか凄く欲しそうな目で見ているし、エステル達のプレゼントが出来上がったら残った原石は売っちゃおうかな。

 お金に困っている訳じゃないから、どっちでもいいんだけどさ。


「と、取り乱しちゃって申し訳ありません。そ、それにしても、ルゲン渓谷からこの量の原石を取ってこられるなんて……高名な冒険者の方でしょうか?」


「高名……ではありませんけど、一応Bランクです」


「び、Bランクですか……」


 確かになかなか原石も落ちないし、あそこから採取してくるのは割とめんどくさいもんなぁ……。

 ビーコンがなきゃ俺達だって毎日のようにいけなかっただろう。

 それにしても話が逸れてきたから、一旦話を戻さないと。


「えっと、ここの宝石は道具を使って加工した物に比べると、やっぱり輝きが凄いですね」


「あっ……はい。魔法での加工は輝きが増しやすいんです」


 店員さんも興奮が治まったのか、落ち着いた様子で答えてくれた。

 魔法での加工は輝きが増すとは聞いていたが、ここまで違うとは思わなかったぞ。

 暗闇でもマッチぐらいの光があれば、めちゃくちゃ発光しそうなぐらいには光っている。

 小さな面がいくつも組み合ったカットがされているけど、この輝きと透明度はそれだけで出るようなものじゃなさそうだ。

 まさに魔法の賜物って感じだな。


「他にも何か違いとかってあるんですか?」


「そうですね……。これは魔力のある方のみのお話なんですけど、魔法で加工することによって、最後に魔力を込められることです。なので魔導師の方々は、魔法で加工された装飾品を選ぶことが多いんですよ。ただ魔光石と違って、魔力を込めて魔法が使える訳じゃないので、気持ちとして込めるようなものなんですけどね」


 気持ちとして魔力を込める、か。プレゼントするにはピッタリだな。

 俺もMPがあるから魔力持ちのはずだけど……それ以外のところで不安になる。


「それって魔力を込めて色が変わったりしますか?」


「いえ、どの方の魔力でも色が変わるようなことはありませんよ」


 はぁ、よかった。どうやら魔力の色で宝石とかは変色しないみたいだ。

 アルデの森のキノコみたいに、灰色になったらせっかくの宝石が台無しだからな。

 俺が安心していると、今度はシスハがおずおずと手を挙げて何かを聞こうとしている。

 んー? 何か不安になることがあるのか?


「あの……宝石に魔力を込めたら何か力があふれ出すとかはありませんよね? 神官だったら癒しの効果があるとか……」


「いえ、そのような話も聞いたことがありませんね。もしご不安でしたら、こちらの石でお試しになることもできますよ」


「ぜひください!」


 シスハは店員さんから透明な白い石を凄い勢いで受け取った。

 あー、もしかして魔力を込めたらルーナに何か悪影響があるかもしれないから不安になったのか?

 せっかく作ったのに、身に付けたら気分が悪くなるブレスレットになったら最悪だもんな……。

 話も聞き終わって、さっそく俺達は話し合うことになった。


「どうするよ? 俺はここで良いような気がしてきた」


「そうですね……。私もここで頼んでも良いと思います」


 どこにしようか迷っていたけど、ここで良いんじゃないかと俺は思う。

 品物を見る限りデザインも悪くないし、何より魔力をこめられるってところが大きい。

 シスハも同じ考えみたいで、特に揉めることなくあっさりとここにしようと決まった。


「すみません、こちらでお願いしてもいいですか?」


「はい! 喜んでお引き受けいたしますよ!」


 ここに決めたと言った途端、店員さんがテンション高く返事をしてきた。

 元気のある店員さんだなぁ。

 決めたということで、さっそくどんな物を作るかの相談を始めたのだが……ここで問題が発生。


「指輪ですか。贈り物ということですが、サイズの方はおわかりでしょうか?」


「えっ……あっ、わかりません……。調べてくるので、明日とかでも大丈夫ですか?」


「はい、大丈夫ですよ」


 やべぇ……サイズなんて知らないぞ。

 首飾りとかなら平気だけど、指輪となるとそれがわからないと、どうしようもないじゃないか!

 一旦話は保留にして、今日のところはひとまず退散することにした。


「うおぉぉ……サイズのこと忘れてた……」


「凄く今更の疑問でしたね。そういえば、ガチャ産の物でサイズとかに困ったことありませんよね」


「そういえばそうだな。なんでだろう?」


 ガチャ産の物とかサイズを気にせずホイホイと配っていたけど、普通だったらサイズが合わないとか騒ぐはずだよなぁ?

 腕輪も指輪も靴も、それで揉めたことは1度もないし。

 というか、ウォールシューズなんてルーナが履いてたのに俺も履けていたよな……絶対におかしい。


「俺のスカルリングとか付けられるか? ほら」


「……入りますね。私のはどうですか?」


「……ぴったりだな。他の指も試してみよう」


 試しにシスハに俺のスカルリングを渡して付けてもらった。

 すると彼女の指にぴったりと指輪は納まる。

 次にシスハの慈愛の指輪を俺がはめると、これまたぴったりだ。

 明らかにおかしいので、今度は小指などにはめ直してみたのだが……全部ぴったりだった。


「今まで気が付かなかったけど、ガチャ産の奴ってサイズ変わるのかよ!」


「驚愕の事実って奴です……今までよく気がつきませんでしたね」


 装着する指に応じて、指輪の大きさが変化してやがる!

 ガチャ産の魔導具だからそれぐらい不思議じゃないけど……マジで凄いんだなガチャ産の装備って。

 改めてガチャの凄さを思い知らされた気分だ。


 ガチャ産の驚愕の事実はさておき、それよりもこれからどうするかの方が重要だ。

 エステルの指の大きさがわからないことには、どのサイズの指輪を作ればいいのやら。


「うーん、参った。どうしようか」


「そうですね……。今日お店を見て回って思いましたけど、装飾品って色々あるんですね。サプライズも良いですけど、せっかくなら喜んでもらえる物を贈りたいですし、本人に確認するのも考えてみた方がいいかもしれません」


 サプライズは俺も良いかなと思ったのだが、こうなってくると本人に何かしら確認を取らないといけないかもしれない。

 それにシスハの言うとおり、実際に今日見て回って思ったことは、想像よりも色々なデザインの物があった。

 急にあげて驚かせるのもいいけど、本人が気に入ってくれる物をあげるのも重要だし、どうするかシスハともう一度考えてみるべきか。

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