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宝石選び

 ルペスレクスを倒してから十数日経った。

 あれからルゲン渓谷までの往復する日にちを考えて、不自然にならないようにまだ協会に魔元石を渡してはいない。

 あの大きさだから持ち帰るのにも普通なら時間もかかるだろうし、少し多めに期間を空けている。


 その間はもちろんゆっくりと……している訳もなく、魔石収集の狩りやシスハと一緒にプレゼントの為の宝石集めをしていた。

 魔石は既に950個以上貯まり、最低目標の1000個まであと僅かだ。

 そして今日も魔石集めをする前に、宝石の原石を手に入れる為にシスハと2人でルゲン渓谷に来ている。


「ラピスを狩るにはやはりマジックブレードが最適ですね。手応えがあまりしないのは不満ですが、これはこれで楽しいですよ」


「格闘や杖だけやなくて、剣まで扱えるんだな」


「実体のない魔法の剣ですからね。いくら神官の私でも、実体の剣はやはり扱い辛いですよ」


 大きなラピスを相手にする場合、物理で殴るだけだと攻撃が通り辛いので、重ねて強化したマジックブレードをシスハに持たせていた。

 剣系の武器だからあまり使い慣れていそうになかったのだが……今ではブンブン音を鳴らしながら、綺麗にラピスを次々と切り裂いている。


「大倉さんも最近は、狩りでセンチターブラを使う機会が増えていますよね」


「ああ、せっかくのUR装備なのに全く扱い切れていないからな……。もっと慣れる為に積極的に使おうかと」


「それでもラピスとか相手なら既に十分そうですけどね。2つ以上動かせるよう頑張ってください」


「ぐっ……前向きに努力いたします……」


 ルペスレクスを相手にした時、当たっただけでセンチターブラが砕けたのは凄くショックだった。

 URという最高装備だというのに、砕き散らせてばかりだというのはあまりにも悲惨。

 だからあれから俺も頑張ろうと積極的にセンチターブラを使って狩りをしている。

 お陰様で硬度や攻撃速度は増し、ゴブリンやオークやラピスぐらいなら軽く処理できるようにはなった。


 だけど本来ならセンチターブラは同時に5つ運用できる。

 1つ操るのにもこんなに苦戦しているようじゃ、全部同時に操るのはいつになるのやらか……。


 そんな悩みを抱えながらも今日のルゲン渓谷での狩りを終え、休憩をしながら今まで手に入れた宝石の原石を見ていく。


「うーむ、色々と手に入ったが、この中から選んでいいのかわからない」


「むむむ……私も同じくです。これなんか良さそうな気はするんですけど……もっと良い物がありそうで……」


 数もだいぶ集まり、全部で50個近くの原石が集まった。大きい物は拳程度の大きさはある。

 明日にはクェレスの協会に魔元石を届けに行くので、そのついでに宝石の加工を頼む為にそろそろどれにするか選ぼうと思う。

 あるかわからないけど、宝石の産地に近い場所なんだから、宝石を加工する店ぐらいはある……はず。


「やっぱり大きい方がいいよな? となると……この拳サイズの奴か?」


「いやぁ、装飾品ですからね……。あまり大き過ぎるのもどうかと思いますよ」


 やっぱり拳サイズは大き過ぎるか。

 身に付ける物としてはこんな大きな物は邪魔になりそうだしな……それに微妙に重いし。


「宝石選びも重要だけどさ、どんな装飾品にして渡すかも問題だよな。シスハは首飾りにするのか?」


「最初はそう思っていたんですけどね。髪留めやブレスレットの方がいいような気もしてきまして……」


 シスハは両腕を組んで、頭を傾げながら悩んでいる。

 宝石選びだけじゃなくて、どんな物をあげれば喜んでもらえるのか。

 女の子に贈り物なんてしたことがない俺としては、宝石選びよりもこっちの方が悩みどころさんだ。

 ……まあ、何をあげたら喜ぶか予想はついているんだけどさ。


「エステルに何を渡せば喜んでもらえると思う?」


「指輪ですね」


「即答だな」


「それは……大倉さんだってわかっているのでは?」


「いやまあ……そうなんだけどさ」


 やはり指輪か……。

 ガチャ産の指輪を渡した時、凄く嬉しそうにしていたからなぁ。

 また婚約指輪だとか騒がれるような気もするけど、喜んでもらえるのならそれを渡すのが1番なのだろうか?

 だけど既にガチャ産の指輪も持っているし、あまり喜ばれないような気もする。

 本人に何が欲しいか聞いてみるのが良いとは思うのだが、シスハはサプライズで渡したいそうなので俺も同じくサプライズで渡そうと思っているから聞いていない。


「ちなみにシスハだったら何が欲しい?」


「えっ、私ですか? そうですね……ナックルダスターとかでしょうか」


「それ武器じゃねーか!」


「うふふ、冗談です。私としては普通に首飾りとかがいいですね」


「既にガチャ産の奴があるだろう?」


「もう、大倉さんはわかっていませんね。それとこれとは別物ですよ」


 シスハなら本気で武器が欲しいと言いそうだから信じちまったぞ……。

 それよりもガチャ産とこういう贈り物は違う、か。

 ガチャ産の装飾品は綺麗で造りも良い物が多いから、プレゼントするにしても被らない方がいいと考えていたが、どうやらそうでもないらしい。


「そんなものか。ついでにノールだったら何を欲しがると思う?」


「ノールさんですか? えーと……食べ……ごほん。髪留めとかですかね?」


「今食べ物って言いかけただろ」


 同意、俺としても全く同意だ。

 装飾品とかあげたら喜んではくれると思うけど、美味い食べ物をあげた方がノールは喜ぶ気がする。

 自称乙女にその扱いは酷いかもしれないが、イメージとして定着しているから仕方ないね。


 それからしばらく宝石と睨めっこした結果。


「……決めましたよ。私はこの黄色い宝石を選びます!」


「おっ、ついに決めたのか。なら俺はこの紅い宝石にしておくかな」


 シスハは縦横3cmほどの黄色い宝石を選び、俺も同じぐらいの紅い宝石を選んだ。

 エステルはよく火の魔法使うし、やっぱりイメージ的に赤だな。

 それにこの宝石はエステルの瞳に近い色をしているから、たぶん……いや、きっと似合うはず。



 宝石を選び終わった翌日。


「今日はシスハと協会に行くのでありますか?」


「ああ、毎回ノールに付き添いを頼むのも悪いからな」


「別に私は構わないでありますのに……シスハ、大倉殿を頼んだでありますよ」


「お任せください。大倉さんは私が責任を持って面倒を見ますので」


「どうして毎回俺は心配されないといけないのか……」


 今日はクェレスの協会に魔元石を渡しに行く日。

 いつもはノールに付き添ってもらっているけど、今日はその後に宝石を加工してくれる店に行くつもりだからシスハを連れて行く。


「お兄さん達最近は本当に仲が良さそうね」


「そ、そんなことないと思うぞ。なぁ?」


「そ、そうですよ! たまたまですよ、たまたま!」


 椅子に座っていたエステルがジト目で俺とシスハを見て呟いた。

 確かに最近はシスハと2人で行動することが多い。

 あのおっぱい騒動のこともすっかり忘れつつあったのだが、あの日以降エステルが妙に怪しんでいる気がする。

 宝石をプレゼントすることがバレないようこそこそしていたのもあって、そう思われるのも仕方ないとは思うが。

 

 これ以上下手な反応するとバレそうなので、その前に俺達はクェレスへビーコンで移動をした。

 町の外でマジックバッグから大きな魔元石を取り出して、それを用意していた荷車に乗せて中へと入っていく。

 わざわざこんなことするのは手間だけど、目の前でバッグから出す訳にもいかないからな。


「やっぱりこれでか過ぎるだろ……」


「道行く人達が皆見ていますよ。魔元石じゃないとしても、この大きさはやはり目立ちますね」


 クェレスの中に入ると、荷車を引いて歩く俺達に視線が集まる。

 そして乗せている白い石版を、物珍しそうに全員見ていた。

 これが魔元石だと知っている人は殆どいないだろうけど、こんな大きな石をわざわざ運んでいるのは奇妙に見えるだろうな。

 だけどこれを自分で持ち上げて運ぶよりは全然マシなはず。

 普通に持ち上げられるとはいえ、そんなことしたら目立つとかいうレベルじゃなくなる。

 

 そのまま多少の視線を浴びつつも、俺達は冒険者協会へと到着した。

 この大きさだと協会の中に入れると邪魔になりそうなので、一旦シスハに魔元石を見張ってもらい、俺は中に入り受付嬢さんを呼んだ。


「な、なんですかこれ。こんな大きさの魔元石、見たことがありませんよ……。よく運んで来られましたね」


「あはは……運んでくるのに苦労しましたよ」


 バッグに入れていたから運ぶのになんの問題もなかったけど、苦労したことにしておこう。

 それにしても、見たことがないぐらい大きいって、やっぱりこの魔元石レア物なんだな。


 魔元石は荷車ごと職員さんに運んでもらい、俺達は報酬を受け取るため協会の中へと入った。

 そして何事もなく報酬を貰えると思ったのだが……。


「依頼達成お疲れ様でした。さっそく報酬のお渡しをしたいのですが……その前に1つご確認していただきたいことがあります」


「はい? もしかして……何か問題がありましたか?」


 なんだろう? ちゃんと魔元石を持ってきたんだけど、ダメなことでもあったのかな?

 大き過ぎるからこれじゃダメ……なんてことはないよね?


「最初に300万Gとしてこの依頼を受けてもらいましたよね?」


「はい、そうです」


「なので報酬は300万Gのお渡しとなりますが……それは通常の大きさの魔元石の場合の話なんですよ」


 あっ、やっぱりこれ大き過ぎたのか?

 これで普通のサイズの魔元石じゃないとダメだとか言われたら心が折れるぞ。

 シスハと宝石集めでそれなりにあそこで狩りをしていたけど、ルペスレクスが湧くことはなかった。

 最初に見つけた場所には足を運んでいないのでそこに湧いているかもしれないが、そうじゃなかったらまた探すのはきついなぁ。


「大き過ぎるということでしょうか?」


「そういうことになります。ですが、大きいからいけないということはありませんのでご安心ください」


 よかった……どうやらまた探しに行く必要はなさそうだ。

 でもそれなら、一体何の話をするつもりなんだろうか。


「通常の依頼なら必要分だけ渡すことになります。しかし今回は研究所の依頼ですので……数に制限はありません。もし2つ回収できたのなら、報酬は600万Gとなります」


「……つまり、この大きさに応じた報酬をいただけるということですか?」


「はい」


 うっほ! マジかよ!

 そういえばクリスティアさんも魔光石はあればあるだけ欲しいって感じだったし、これも同じ様な物なのかな。


「ですが協会の方では、この魔元石でどのぐらい報酬をお渡しすればいいのかわかりません。なので今回は300万Gだけお渡しして、残りは研究所から話を聞いた後ということになってしまいます。それでよろしいでしょうか?」


「はい、大丈夫ですよ」


「ありがとうございます。それではこちらが報酬の300万Gとなります」


 なるほど、複数個じゃなくて1つの大きな塊だから報酬額が把握できないってことか。

 別にお金はそこまで気にしていないし、後からでも多く貰えるっていうならありがたい話だ。


 ようやく話もまとまり、金貨の詰まった袋を受け取る。

 そして次の目的である加工所を探しに行こうとしたのだが……探す前にここで聞けばいいんじゃないかと閃いた。


「あっ、すみません。お聞きしたいことがあるんですけどいいですか?」


「はい、なんなりとお聞きください」


「宝石を加工してくれるお店ってこの町にありますか?」


「えっ、宝石ですか! もしかしてルゲン渓谷で取ってきたんですね! それでしたら……」


 受付嬢さんは宝石と聞いた途端、目を輝かせて俺達に説明してくれた。

 やっぱり宝石の産地が近いこともあり、クェレスには複数の宝石を加工してくれるお店があるようだ。

 普通に道具を使って加工する店や、魔法を使って加工する店など色々とあるらしい。

 道具を使った手作業の方がカットが良い、魔法の方が透明度と輝きが増すなんて熱く語られたけど……よくわからん。


 とりあえず一通り説明を聞いてから、お店の場所を地図で教えてもらい協会を後にした。


「よし、宝石加工所についても聞けたし、さっそく頼みに行くとするか」


「はい! うふふ、待っていてくださいねルーナさん! 私の愛情たっぷりの贈り物をお届けしますからね!」


 ようやくプレゼントができると、シスハのテンションが上げ上げ状態になっている。

 今日持って行ってすぐ出来る訳じゃないと思うけど、俺としてもこの宝石がどんな風になるのか楽しみだ。

 エステルに喜んでもらえるといいが……。

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