ルペスレクス
岩山の探索を始めてから数時間。
そこら中の岩を攻撃しながら奥へと進んでいたが、未だに目的のルペスレクスは見つからない。
「はぁー、全然見つからん」
「これだけ倒してもまだ見つからないのね……」
既にラピスを100体以上は倒している。
俺よりも大きな個体もいたが、それも結局普通のラピスだった。
比較的大きい岩を優先して攻撃しているはずなんだけどなぁ……希少種なんだろうけど、ここまで出てこないのは初めてだ。
「しんどい……うっ、そろそろ寝ないと体が……」
「まだ全然寝る時間じゃないだろ」
「今日は動いたから疲れた」
「終わったらたっぷり寝ていいから頑張ってくれ」
「うぅ……」
ルーナがぐったりとしながら俺に寄り掛かってきた。
朝早くに起きてもらったとはいえ、寝るにはまだ早いはずだ。
いつもと違って地道な探索作業のせいで疲れるのかもしれないけど、もう少し頑張ってもらいたい。
「むふふー、また岩塩でありますよー。使うのが楽しみなのでありますー」
「はぁ、私の方は全然宝石が落ちません。これでようやく3個目ですよ……」
元気のないルーナとは違い、ノールとシスハはまだまだ元気満々に狩りをして戻ってきた。
食べ物が関わった時のノールのやる気は本当に頼もしい。
シスハも宝石の為に狩りをしてはいるが、今度は小さなオレンジ色の原石を指先で摘まんで、ため息を吐いている。
今のところ宝石の原石は俺が1個、ノールが4個、シスハが3個入手した。
食べられないのであげるでありますよ、とノールは全部俺に渡してきたけど、今のところ小指の指先程度のサイズ物しか落ちていない。
エステルにプレゼントをするのなら、俺としてはもう少し大き目のにしてあげたい。
それと似合う色の宝石を選んであげたいのだが、一体どの色がいいのだろうか。
シスハはルーナに黄色か赤色の宝石をあげたいと言っていた。
エステルに似合う色となると……透明なダイヤか赤色辺りか?
そういうことには疎いから、よくわからんぞ!
そんな風に俺が悩んでいると、寄りかかっていたルーナがシスハ達を見て口を開いた。
「ノール達はこんな地道な作業をしても余裕があるのだな。私は辛いぞ」
「あぁ……私達は色々あってこういうのには慣れているでありますから。あれに比べれば、ドロップアイテムを楽しめるこういう狩りは楽なのでありますよ」
「そうね。そういえば、ルーナが召喚されてからはあれをやっていないものね」
「ん? あれとはなんだ?」
あれと言われて気になったのかルーナが聞くと、ノール達は魔石強行軍について語り始める。
その話を興味津々と聞いていたルーナだが、聞き終わる頃には青い顔をして震えながらシスハに抱き付いていた。
そ、そんな反応をするほどなのか?
「なんて恐ろしい……朝から晩までそんなことしたら、私は1日で倒れる自信がある」
「そこは自信あるって言わないでくれよ……。まあ、今はあれをやらないで済むように努力はしているから安心しろって」
「そうですね。最近は暇があれば、私と大倉さんで魔石集めをしていますからね」
「シスハ、平八、私の為にも頑張ってくれ」
「それで本当にやらずに済むなら、ありがたいでありますけど……」
「そう願うしかないわ。私も協力はしてあげたいんだけどね……」
いくらガチャをやりたいとはいえ、ノールもエステルも1度やばい状態にまでなったからな……。
俺としても可能な限りあれはしたくないから、今は普段の狩りに加えてシスハと狩りをしているんだ。
BOXガチャの無念もあることだし、次のガチャこそは必ず目玉を引いてみせるぞ!
「魔石のことはいいとして、まずは目先の問題を終わらせるでありますよ」
「ああ、そうだな。それにしてもこれだけ倒して見つからないなんて、もしかして今は湧いてないのか?」
「そういえば、いつもみたいに光が集まって魔物が湧いてこないわね」
「ここの魔物は湧くまでに時間が掛かるのかもしれませんよ」
「ほぉ、そんな風に魔物が湧くのか」
ノールの言うとおり、今後の魔石集めに集中する為にも、まずはこの依頼を終わらせないと。
しかしこの岩山をだいぶ探し回ったのに、まだルペスレクスは見つからない。
まだ探す場所は残っているし日没まで時間もあるけど、今日中に探し出せるか怪しくなってきた。
このままだと明日もルペスレクスを探しに来ないとダメかもしれない。
そうなったら向こう側の山に行ってみるかな……。
●
それからもしばらく岩山を探し回ってみたけど、結局ルペスレクスを発見できずに日が暮れてきた。
これ以上の探索はもう無理かと思い始めたが、最後にやってきた場所で奇妙な物を発見した。
「あれ? 大倉さん、登ってきた場所にあった跡と同じようなのがありますよ」
「ん? おお、たしかにあるな。こんな奥の方でも戦っていたってことか?」
「むっ、あっちにも跡があるでありますよ。随分と派手に暴れたみたいでありますね」
平坦な場所に四角い岩の小山が点々としていて、その小山はどれも表面があっちこっち崩れていた。
何かが物凄い強さでぶつけられたのか、クレーターができ上がって周囲はヒビ割れている。
「な、なんだこれ? あっちもこっちも穴だらけだぞ」
「凄い数ね。あれなんて殆ど崩れちゃっているわよ」
中には高さが10mはありそうな岩が、半分ぐらい崩れてヒビだらけになっている。
あんなデカイ岩がこんなになるなんて、相当強い力で攻撃したってことか……。
「こんなになるほど激しい戦いがあったのでありましょうか?」
「もしかすると、ここがルペスレクスの湧き場所なのかもしれませんよ」
「それなら早く探そう。私は明日も来るなんてごめんだ」
ここがルペスレクスの湧き場所かはわからないが、どうせもう時間切れだ。
今日はこれ以上移動して探す時間もないし、この周辺を探索してルペスレクがいなかったら帰ろう。
そう考えて探し回った結果……。
「うーん、やっぱりいないな。というかこの周辺、ラピス自体が少ない気がする」
「ここに来るまでは沢山いたのに、どうしたのでありますかね?」
結局見つからなかった。
むしろ岩を叩いても、擬態しているラピスすらいない。
完全に大外れな場所じゃないか……はぁ、今日のところは諦めて、また明日だな。
「平八、あれ、あれはどうだ?」
「ん?」
もう帰るかと提案しようとしたのだが、その前にルーナが服の裾を引っ張りながら声をかけてきた。
指を差していたのでその方向を見てみると、高さが7、8mぐらいある地面から盛り上がった岩の小山が。
「いやいや、岩どころかもう小山じゃん。しかも地面と一体化しているし流石に違うだろ」
「ですがあれだけ無傷なのは気になりますね。魔物か試してみてもよろしいんじゃないでしょうか?」
「うーん、それじゃあ一応試してみようか」
他のボロボロの四角い岩の小山も地面から盛り上がって岩山と一体化しているのだが、ルーナが指差した小山は一先傷がない。
言われてみると怪しいには怪しいけど……受付嬢さんの話じゃルペスレクスはそこまで大きくはない。
大き目のラピスより若干大きい程度だから、せいぜい3m程度のはずだ。
まあやってみる価値はあるから、最後にこの小山を確認しておくとするか。
そんな訳で確認をする為に一旦目標の岩から距離を置いて、俺のセンチターブラを起動させて攻撃をすることに。
肩の水晶から溢れ出した銀色の液体を長細い四角い形にまとめ、硬くなれと念じながら射出する。
勢い良く飛んで言った銀の塊は岩の小山にぶつかると……弾けた。バラバラになって液体を撒き散らしながら弾け飛んだ。
……えっ? なんで? と全員が顔を見合わせる中、目の前の岩山は振動し、岩の地面を砕きながらトランスフォームを始め足と手が飛び出てきた。
「ちょ、マジかよ!?」
「少し大きいどころじゃないわね……」
「グ、グランディス並でありますよ……」
センチターブラがまた壊れた、この人でなし! って叫びたくなったけど、それどころじゃねぇ!
ラピスよりちょっと大きいだけなんて嘘じゃないですか!
と、とりあえずまだ動き始めたばかりで鈍いから、今の内ステータスっと。
――――――
●ルペスレクス 種族:ラピス
レベル:65
HP:4万5000
MP:0
攻撃力:3500
防御力:9000
敏捷:90
魔法耐性:30
固有能力 擬態
スキル 地ならし
――――――
聞いていた情報と完全に違うんですが……まさかこれ、またいつもの異常って奴か?
どうしてこう俺達の行く先々に、こんな奴がいるんですかね……まあ、体力も少ないし十分倒せる範囲ではあるけど。
このまま困惑していても仕方ないので、さっそくこいつを討伐する為に俺達は動き出した。
ルーナがいつもどおり問答無用の速攻で槍を投擲する。
だが、槍は表面に当たると弾かれて、クルクルと回転しながら彼方へと飛んで行く。
「チッ、硬い。私の槍が通らない」
「なら私の出番ね。えーいっ!」
スキルを使えば別だけど、今はステータス的に物理でこいつにダメージを与えられない。
なので頼みになるのはやはりエステルの魔法だ。
さっそく彼女は本を開いて杖を掲げながら、火の魔法である炎の球体を打ち込み始めた。
それが1発着弾し爆発すると、ルペスレクスはその巨体を大きく仰け反らせる。
やっぱりエステルの魔法は半端ない……魔法抵抗の低い相手なら、大きいと逆に的だからこれならすぐに終わりそうだ。
そう思った直後、仰け反った状態のルペスレクスは、そのままの体勢で近くにある3mぐらいの岩を手で持って、俺達に向かってぶん投げてきた。
「うおおぉぉ!? 避けろぉぉ!」
俺はエステルを抱き上げてその場から離れると、その後すぐに背後で凄まじい音が辺りに響いた。
ノール達も散らばって回避をしたみたいなので無事だ。
落下地点を見てみると、投げられた岩もぶつかった地面も両方割れ、周辺の小山と同じような傷が出来上がっている。
この岩山にあったこの傷、やっぱりコイツが原因かよ!
「い、岩ぶん投げてきやがったぞ!」
「鈍くて的かと思っていたけど油断できないわね」
俺達が回避していた間に、またルペスレクスは岩を拾い上げて次々と俺達に向かって投げつけてくる。
特にダメージを与えたエステルを狙っているのか、走り回っている俺を追うように岩がドンドン飛んできていた。勘弁して!
このままじゃエステルも狙いが付けられないから攻撃ができんぞ。
ダメージが通るのはエステルぐらいだし、どうにかしないと……ノール達にスキルを使ってもらうという案もあるが、それは最終手段として、まずは大物を相手にする時の王道パターンで行こう。
「ノール! あいつを斬り付けてくれー!」
「了解でありますよー!」
ノールのレギ・エリトラによる行動速度遅延で動きを止め、そこから一気に仕留める。
俺の呼び掛けに応じ彼女は勇ましく岩を投げまくっているルペスレクスに向かっていく。
しかし、向かってくるノールに気が付いたのか、岩を投げるのを止めた。
そして手足を引っ込めて丸まると、全身に赤いオーラを漲らせ、その場で急に回転し始めて一気に加速して転がってくる。
向かっていたノールは慌てて急ブレーキを掛け、クルリと回れ右をして逃げ出し始めた。
「こ、転がってきたのでありますぅぅ! 潰されちゃうでありますよー!」
「回避! 回避だ!」
標的はまだエステルなのか、転がったまま俺達の方へと向かってきた。
途中に岩があろうと構わず粉砕しながら、そのまま突き進んでくる。
ついでに逃げてきたノールと合流して、そのまま赤いオーラを纏ったルペスレクスに追い掛け回された。
エステルが途中で石の壁を魔法で作って止めようとしたが、ぶつかった途端粉々に砕かれて足止めにすらなっていない。
やばい……もうそろそろ日没だっていうのに、このままだとしばらく倒せそうにないぞ。
ここはノールかルーナのスキルを使ってもらって一気に……そう考えが過ぎった瞬間、叫び声が聞こえた。
「私に任せろ!」
ルーナの覇気のある声が聞こえると、俺達と離れた場所から紅い閃光が放たれた。
そしてルペスレクスにぶつかり、その巨体が大きくぶれたかと思うと閃光が右から左に突き抜ける。
貫かれたルペスレクスはそのまま転がっていたが、赤いオーラが消えてフラフラと進み始め、最後には岩の小山にぶつかってその動きを止めた。
「今ね! えーいっ!」
そこをチャンスとばかりに、エステルは俺に抱き抱えられたまま杖を振って、次々と火の玉を撃ちこみ始めた。
10発ほど撃ち込んだところで、丸まった状態のルペスレクスにヒビが入っていき、次の瞬間にはバラバラに砕け散り光の粒子へと変わっていく。
「ふぅ、おどかしやがって……」
「うぅ、お役に立てず申し訳ないのでありますよ……」
「無事に倒せたんだからいいじゃない。それにしても、あんなに大きいとは思わなかったわね」
そこまで手こずりはしなかったけど、なんか一気に疲れた……。
やっぱり図体のデカイ魔物に追いかけ回されるのは生きた心地がしないな。
息をついて無事に倒したことに安堵していると、離れた場所にいたルーナが近寄ってきた。
そして人差し指を口に当てて、物欲しそうな目を俺に向けている。
「どうしたんだ?」
「平八、血、ちょうだい」
「お、おう。洗うからちょっと待ってくれ」
おほ……スキルを使ったからその分血の要求か。
狩りで汚れたので水筒から出した水で手を流した後、ルーナに指先を差し出して血を吸わせる。
この前と一緒で俺に上目遣いを向けながら吸っている……やっぱりいけないことしているような気分になってくるぞ。
「むぐぐ……お、大きいでありますねこれ……」
「おっ、それが魔元石か。抱き抱えられる程度の大きさだって言われていたけど……」
「凄く大きいわね。ルペスレクスも個体差があるのかしら?」
「こんな大物に遭遇できるなんて、苦労した甲斐がありますね!」
俺が血を吸わせている間に、ノールがルペスレクスのドロップアイテムを回収してきたみたいだ。
真っ白な大きな石版のような形をした石……これが魔元石か。
両手で抱えられるサイズって話だったけど、縦は1m以上あって横幅もそれなりの大きさはある。
魔元石もルペスレクスの大きさで変わるのか……ある意味運が良いのかもしれないけど、俺としては普通の大きさでいいからもっと早く見つけられた方が嬉しかったぞ。
とりあえずお目当ての物は回収できたから、今日のところは帰るとしますか。