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岩山の上

 坂道を登り岩山の上に到着すると、さっきまでの森と打って変わり草木の全くない灰色の光景が目に入った。

 基本的に平坦な地面なのだが、ところどころ盛り上がったり下がったりしてでこぼこしている部分もある。

 それに加えて大小様々な大きさの岩や石が無数に転がっていて、この中に魔物がいると言われてもパッと見て判断できそうにない。

 川の流れている谷を挟んだ向かい側も同じような光景が広がっていて、ルゲン渓谷は一体どこまで続いているのかと気になるぐらいだ。


「広いけど岩ばかりで殺風景だな」


「でもここからの景色は良い眺めでありますよー。私達はあの辺から来たのでありますかね?」


「あそこからここまで登ってきたと思うと、感慨深いものがありますね。イヤッホォー、って吼えたくなりますよ」


「止めろ! 魔物が寄ってきたらどうするんだよ!」


 シスハが手をラッパのように口に当て始めたので慌てて止めた。

 岩山の上は殺風景だが、ここから見渡す下の森や川の風景は色鮮やかで綺麗だ。

 まるで砂漠とオアシスかって思うぐらい違う。

 つい山に登った時叫ぶという定番をやりたくなる気持ちはわかるけど、余計な魔物が来てめんどうなことになっても困る。


「おにーさん達はまだ元気があるわね。私は疲れちゃったから、少し休憩させてもらってもいい?」


 しゃがみながら頬に両手を当ててエステルが俺達を見ていた。凄く疲れた様子だ。

 そして休憩したいと言うと、それを聞いていたルーナが反応した。


「うむ、それがいい。休憩だ休憩だ」


「凄く嬉しそうだな……。まあ、そのまま狩りをするつもりはなかったからゆっくり休んでくれ」


 ルーナはそそくさと近くの岩の上に腰をかけて、生き生きとした表情をしている。

 まだまだ余裕がありそうだな……さすがは幼女とはいえ吸血鬼。

 元々岩山に到着したら休憩をするつもりだったし丁度いいかな。

 奥へと進む前にその場に留まり、ノールが持参してきた弁当で昼食に取ることに。


「むふふー、美味しいのでありますよぉー。山の上で食べるご飯は最高でありますね!」


「相変わらずよく食べるなぁ」


「景色をオカズにして食べるのは格別なのであります! つい食が進んでしまうのでありますよぉ」


「いつも同じぐらい幸せそうに食べている気がするけれど……」


 サンドイッチをどんどん平らげていくノールを見て、エステルが呆れた顔をしている。

 この景色を眺めて食べる飯は確かに気分的にいいが……ノールの場合それで食が進むとか関係ないと思う。


「ウマウマ……んっ、細かいことは気にするな」


「それもそうね。ノールの言うとおり、景色でも楽しみながら食べましょうか」


 サンドイッチに噛り付いているルーナの一言にエステルも頷き、3人とも下の景色を眺めて食事をしている。

 俺も一切れ貰って食べようかと思ったのだが……シスハがいつの間にかいなくなっているのに気が付いた。

 辺りを見渡してみると、歩き回って近くの岩場をキョロキョロと興味深そう見ている姿が。


「ウロチョロして何やってるんだ? ほら、これでも食っておけよ」


「あっ、ありがとうございます」


 もう一切れサンドイッチを貰ってシスハのところへ行き声を掛けた。

 見た感じ何の変哲もない岩場だが……何か気になるところでもあったのだろうか?


「それで、そんなに辺りを気にしてどうしたんだ?」


「いやぁ、これから宝石が獲れると思うと体がウズウズしてしまいまして……。実はルゲン渓谷に来るの楽しみにしていたんですよ」


「おっ、シスハは宝石が好きなのか?」


「いえ、別に好きという訳じゃありませんが……なんかこう、ロマンがあるじゃないですか」


「うんうん、そうだよな。同志よ」


「えっ? ……あっ、はい」


 おぉ、シスハが俺と同じようにロマンを感じてくれているなんて。

 つい嬉しくなって手を差し出すと、戸惑いながらも握手を仕返してくれた。


「それにしてもこの岩山広いですよね。そこら中に岩がありますし、ルペスレクスを探すのは骨が折れそうですよ」


「最初に発見し辛いって言われていたから覚悟はしていたけどな。ここまで広いとは思ってはいなかったが……」


 登る前からかなり大きい山だとは思っていたけど、岩山の上がこんな風になっているとは……。

 平坦面が多いから移動はしやすそうだが、奥はどこまで続いているのかわからないぐらい広い。

 そして魔物が擬態していそうな岩が無数に転がっていた。

 足元サイズから俺の背より大きいものまである。


「あれ……あそこは崖崩れでも起きたのでしょか? 妙な崩れ方をしていますけど……」


「ん? ……確かになんか変な崩れ方しているな。前に冒険者が来て魔物と戦った跡とかじゃないか?」


 シスハが指差す先を見ると、盛り上がった小さな岩山の一部が削れていた。

 中間部分が半円状になくなっていて、まるで強い力で抉り取られたかのようだ。

 大きさとしては半円で4m以上はあるように見える。


「その可能性が高そうですね。あれをやったのが魔物なのか冒険者なのか気になるところです」


「あれを魔物が起こしたとなると、やったのはルペスレクスか? 谷間や尖っている部分もあるし、戦う時は周囲に注意した方がいいな」


 冒険者だとしたら、ここまで来るぐらいだしディウス達と同じかそれ以上の強さははありそうだ。

 岩を抉り取るって結構凄いような気はするけど……そのぐらい出来ても不思議じゃないか。

 魔物がやったんだとしたら、それなりに強そうだから警戒はするべきだな。

 直接やられないとしても、吹き飛ばされて崖の下に落ちたり尖った岩に刺さったらヤバイし。


「さて、お腹も満たされたので頑張って探すでありますよ!」


「やる気になったのはいいけれど、この中からどうやって探すつもりなの? お兄さん、地図アプリには反応はないのかしら?」


「残念ながら反応なしだ。擬態しているみたいだし、たぶんトレントと一緒だろ」


「うーん、とりあえず1個ずつ叩いていくでありますか」


「地道な作業になりそうですね」


 食事も終えてルペスレクスを探す為に岩山を移動し始めた。

 予想はしていたけどやっぱり地図アプリに赤い点は表示されない。

 この無数の岩を1つ1つ叩いて行くのはちょっとなぁ……。

 エステルに爆撃してもらうこと案もあるけど、一斉に動き出されたらそれはそれでめんどうだから最終手段として考えておこう。


 とりあえず協会で聞いた助言を元に、大き目の岩を遠距離攻撃しつつ進んでいく。

 だけどなかなか動き出す岩はなく、本当に擬態しているのかと疑問を抱き始めたのだが……。


「うおっ!? な、なんだ!?」


「石ころが走り回っているのでありますよ!」


「逃げるとはめんどうな。とりあえず、ていっ!」


 不意に俺の足が当たったサッカーボールサイズの丸い石が、コロコロと転がりだした。

 そして離れたところで変形するように手足が出てきて、二足歩行になり俺達から逃げようと走り出す。

 キノコやたけのこの魔物にも手足があったから今更だけど、本当に奇妙な光景だな。

 逃げる石ころ目がけてルーナが槍を投げたので、刺さる前にステータスの確認をしないと。


 ――――――

●種族:ラピス

 レベル:10

 HP:1500

 MP:0

 攻撃力:100

 防御力:500

 敏捷:40

 魔法耐性:0

 固有能力 擬態

 スキル なし

――――――


 これはまた随分と弱い魔物だな。

 確認をした後すぐにルーナの槍が突き刺さり、一撃で石ころは砕け散って光の粒子に変わった。

 ここまで登ってくるのはめんどうだったけど、上に居る魔物はこんなに弱いのか……。


「あれが宝石の原石を落とすって魔物か? ドロップアイテムは……」


 ラピスが消えた場所まで行くと、そこには何の変哲もない石ころが転がっていた。

 えぇ……宝石の原石が落ちるんじゃないのか?


「ただの石……でありますよ」


「なんだ、せっかく倒したのに石か」


「宝石を落とすのは珍しいのかもしれないわね」


「それならどんどん狩らないといけませんね! さあ、バキバキ石を砕いていきますよ!」


「ルペスレクスが目的だからほどほどにな」


 ぐぬぬ、宝石の原石が落ちるのかと思っていたけど、そこまで甘くはないのか。

 落とすまでじっくりと狩りをしていきたいが、ここに来た目的はルペスレクスが落とす魔元石だ。

 見た目は真っ白で大きさは両手で抱えるほどだって言う話だから、その分大きい魔物のはず。

 狙うなら俺達の背より大きな岩だな。

 

 それから出来るだけ大きな岩を狙いつつ、俺はエステルと一緒に、ノール達は少し離れ手分けして探索を始めた。

 そして様々なサイズのラピスの相手をし、ステータスを見てみるとある違いが判明。

 これはさっき相手にしていた1mぐらいはありそうな石の魔物のステータスだ。


 ――――――

●種族:ラピス

 レベル:40

 HP:1万4000

 MP:0

 攻撃力:600

 防御力:2400

 敏捷:50

 魔法耐性:0

 固有能力 擬態

 スキル 転がる

――――――


 見た目は大きくなっただけで一緒なのだが、全ステータスが高くさらにスキルまで追加されている。


「ここの魔物はサイズがどれもこれも全然違うな。しかも強さまで違うぞ」


「しかも全部擬態しているなんて、慎重に進まないと。魔法も控え目にしておくわね」


「そうだな。誘発して一斉に動き出されたら面倒だ」


 ここまで個体差が激しい魔物だったとは……大きくなるほど強さも変わってくるのか?

 落とす物は相変わらず石なのだが、大きさに比例して落ちる石も大きくなってきている。

 大きなラピスから宝石の原石が落ちれば、その分大きくなる可能性もあるな。

 そう思うとワクワクしてくるぞ。


 早く落ちないかなーと狩りを続けていると、ノールが声を出しながらこっちに向かってきた。


「大倉殿ー、落ちたのでありますよ!」


「おっ、本当か!」


「はい、なのであります」


 ノールが嬉しそうに俺に見せてきたのは、赤っぽい色の握り拳サイズの塊。

 表面の手触りはざらざらしている。

 おおー、これが宝石の原石か。

 食べ物がいいとか言っていたけど、喜んでいる辺りやっぱりノールも興味があったんだな。


「これが宝石の原石なの?」


「いえ、これは岩塩であります!」


「えっ、これ塩なのか!? よく岩塩だってわかったな」


「なんかビビッと来たので少し舐めてみたのでありますよ」


「お、おう……」


 やっぱりノールはノールだった。

 これを見て普通舐めてみようと思うのか?

 無駄なところで勘が冴えているな……本能のなせる業なのかもしれない。


「本当に岩塩まで落ちるのね……冗談で言ったのに」


「これでやる気が出てきたのであります! どんどん手に入れるでありますよ!」


「全く……エステル、ノールが変な物を口に入れないよう見張っておいてくれ」


「ええ、任せて」


 ノールなら食べられる物と食べられない物の区別はできそうだけど、不安なのでエステルに監視してもらうことにした。

 シスハもいるから腹を壊しても回復はできるから問題はないが……一応な。

 

 そのまま1人続けて俺が狩りをしていると、今度はシスハがやってきた。


「大倉さん、大倉さん」


「ん? どうしたんだ?」


「ふふぅ、ついに落ちましたよ」


「本当か? 見せてくれよ」


「はい、どうぞ」


 さっきのノールみたいに、また宝石じゃなくて別の物なんじゃ……。

 そう俺が疑っていると、シスハは少しもったいぶった後、握り込んでいた手を開いた。

 そして手の平の上には、指先ほどの大きさをした緑色の石。

 少し濁ってはいるけど、中が透き通って日の光で輝いている。


「うおぉ!? ようやく落ちたのか!」


「うふふ、流石は私ですね。ガチャ運はありませんけど、こういう運に関しては結構あるみたいです」


 1番最初に手に入れたからか、シスハは満足そうなドヤ顔を浮かべている。

 ぐっ、ちょっと悔しいなぁ……でもこれで本当に落ちるってわかった。


「だけどこの宝石じゃ、小さくて色もルーナさんに合いそうにありませんね。また別の宝石を探さないと……」


「なんだ、プレゼントにでもするのか?」


「はい、できたら装飾品にしてルーナさんにお渡しできればいいなー、なんて思っています」


 自分用じゃなくてルーナの為に宝石を欲しがっていたのか。

 相変わらずシスハのルーナ好きは治まりそうにないな。

 その当人は離れた場所で、めんどくさそうに槍で岩を突いているけど……。


「大倉さんもエステルさんにプレゼントしてみてはいかがですか? その首飾りのお返しをすれば、きっとお喜びになると思いますよ」


「……確かにそれもいい気がするな。よし、俺も気合入れて狩るか」


「その意気ですよ! 満足いくのが採れなくても後日また一緒に来ましょう! 私も厳選したいですからね!」


「そうだな。今回の目当てはルペスレクスだし、あまりそっちに集中するのもよくないし」


 エステルから前に魔光石の首飾りをもらっているから、俺もお返しとして何かプレゼントしておくべきか。

 今回の目的は宝石じゃないから時間を掛けられないが、シスハも一緒にやってくれるって言うし、今度厳選しに狩りにでも来ようかな。

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