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新たな依頼

「大倉さん、お願いしたい依頼があるのですがよろしいでしょうか?」


 いつものようにクェレスの冒険者協会へ向かうと、受付嬢が開口一番にそうお願いしてきた。

 前回の竹林探索からだいぶ経っているから、依頼を頼まれるのは久々だ。

 あれから顔を出すだけで、魔石集めに集中していて依頼自体受けていなかった。


 うーむ、既に魔石は600個以上貯まっているから多少は余裕がある。

 だけどまだ魔石は集めたいから、内容次第じゃ断らせてもらおうかな。


「どのような依頼でしょうか?」


「はい、この前大倉さん達が持ち込んだ魔光石に関する依頼です。解析している研究所からの依頼なんですよ」


 研究所からか……それで俺達に依頼をしてくるってことは……。


「あの魔光石の解析するのに使いたい素材があるようで、その入手を大倉さん達にお願いしたいんです」


「素材、ですか」


「研究所に素材がないなんて、珍しい物なのでありますか?」


 やっぱりあの魔石関連か。

 預けてからなかなか解析が進んでいないようだし、色々な手段を使ってみようとしているのかもな。

 クェレスなら魔法関連の物は揃っていそうなのにわざわざ依頼するなんて、ノールの言うようにあまり出回らない物かもしれない。


「そうなんですよ。クェレスの北に位置するルゲン渓谷にいる魔物、ルペスレクスから手に入る魔元石が必要らしいんです」


「魔元石……初めて聞きました」


「やっぱり聞きなれない物ですよね。研究所などでしか使わない物で、冒険者でも知らない人の方が多いんですよ」


 また石か。魔導師関連って石系が多い気がする。

 まあ魔光石の為のものだし、不思議でもないか……。

 それにしても渓谷とな。また随分と険しそうな場所じゃないか。

 ルペスレクスとかいう魔物も名前がなかなか強そうだ。


「あのバラバラになった魔光石の解析には、1個丸々使いたいみたいなので……。報酬は300万Gでご依頼したいのですが、よろしいでしょうか?」


「さ、300万Gですか……。わかりました、それでお受けいたします」


 協会から研究所に魔光石の解析を依頼してもらったのに、それに必要な素材を取ってきて報酬まで貰えるとは……しかも300万G。

 一応俺達にも関係ある話だし、そこまでしてもらえるのなら引き受けるべきだろう。

 それに俺達なら移動だって2、3日もかからない。ぱぱっと行ってルペスレクスを倒せばいいだけのこと。

 依頼を受けることにして、受付嬢さんからルゲン渓谷とルペスレクスについて聞き、渓谷までの地図を受け取って協会をあとにした。


 受付嬢さんから聞いた話をもとに、ルゲン渓谷について考えているとノールが声をかけてきた。


「そんな不安そうな顔をして、どうしたのでありますか?」


「いやぁ、素材1つ取ってくるだけで300万Gも報酬が出るって、魔元石はそんなに入手するの難しいのかってな」


「うーん、そうでありますね。話を聞いた限りだと、ルペスレクスというのはなかなか厄介そうなのでありますよ」


 ルゲン渓谷はクェレスから馬で途中の村まで行き、その後徒歩で移動して行くのが1番早いらしい。

 それでも片道10日以上はかかるようなので、王都からレムリ山に行く距離よりも遠そうだ。

 

 岩山に挟まれた川の流れる渓谷で、その岩山にルペスレクスは湧き出すみたいだ。

 ルペスレクスは岩山の一部に擬態していて、発見するのが難しい上に倒すのも骨が折れるという。

 動きは遅いけど防御力が高くて、倒せる冒険者がなかなかいないらしい。

 転がってくる攻撃だけは速いみたいで、十分注意してほしいと言われた。

 

 渓谷には他にも岩に擬態する魔物がいて、宝石の原石なども落とすそうだ。

 そいつらも岩の魔物みたいだから硬そうだけど、倒せるのなら割と良い稼ぎになる場所かもしれないな。


「まあ、倒すのは問題ないだろう。さすがにグランディスとかよりは弱いだろ」


「そうでありますねー。最近はまた魔石集めばかりでありますし、気分転換にはちょうどよさそうでありますな」


 渓谷となると広いだろうし、擬態もしているから戦うよりも探すことの方が大変そうだ。

 ルペスレクスを探すには、少し大きめの岩を叩いていけば比較的見つけやすいと教えてもらえた。

 俺達なら遭遇さえしちゃえば倒すのは簡単だから、どうやって早く探すかだけ考えておけばいいだろう。



 1度自宅に帰ってエステル達に今回の依頼を伝え、さっそくルゲン渓谷に向かって出発した。

 長距離移動になるので前と同じようにシスハとルーナには自宅で待機してもらい、俺とノールとエステルの3人で移動をしている。

 魔法のカーペットで2、3日ぐらいだろうから、ビーコンを置いて夜になったら帰宅して、また朝になったら戻ってきて移動するつもりだ。


 長距離移動で数日魔石集めをしないと言ったら、ルーナが凄く良い笑顔をしていたな……。


「久しぶりの依頼だけど、今回はまた随分と遠そうな場所ね」


「ああ、馬と徒歩で10日以上かかるみたいだ。カーペットで移動すれば2、3日程度だろうけどな」


「渓谷っていうぐらいでありますから、到着した後も移動するのが大変そうなのでありますよ。エステルは大丈夫でありますか?」


 言われてみると岩山の渓谷を探索するなんて、エステルは大丈夫だろうか。

 斜面や歩きにくい場所もあるだろうし、体力的に持つか心配だな。

 でも硬い魔物が相手だから、魔法で攻撃できる彼女は欠かせない。

 どうしたものかと心配していると、俺の膝の上に座っているエステルが振り向いてキリッとした横顔を見せた。


「私だってそれなりに鍛えられているもの。ゆっくり移動してくれるなら大丈夫なはずよ」


「……そうか。でも無理そうだったら遠慮せずに言うんだぞ?」


「ええ、わかっているわ。その時はお兄さんに抱っこしてもらうわね」


「おう、任せろ……俺も途中でヘバりそうだけど」


「そこは最後までカッコつけるべきだと思うのでありますが……」


「ふふ、お兄さんだもの。そういうところも私は好きよ」


 普通の道なら平気だけど、山道みたいな場所だと軽いエステルとはいえ俺でもヘバりそうだ。

 そうなったら可能な限り頑張るつもりではいるけど……無理そうだったら支援魔法をしてもらうかノールに任せるか。

 無理なことは正直に無理だって言うのが俺のポリシーだからな!


「それにしても、ルゲン渓谷に行くのは少し楽しみだな。宝石の原石を落とす魔物がいるらしいぞ」


「あら、お兄さんは宝石が好きなの?」


「そういう訳じゃないけど……なんかこう、ロマンがあるというか」


「私としては食べ物を落とす魔物の方が嬉しいのでありますが……食べられる岩とか落とさないでありますかね?」


「あるとしたら岩塩ぐらいじゃないかしら?」


 宝石の原石を落とす魔物がいると聞いて、俺はワクワクする気持ちを抱いていたのだが……ノール達はそうでもないようだ。

 女の子なら光り物が好きそうだと思っていたんだけどなぁ。

 ノールは相変わらず食い物しか興味がないのか。食える岩がないのかとか言ってるし。

 エステルも宝石と聞いても特に興味ありそうな反応はしていない。

 魔光石とかの方が喜びそうだな。

 

 それから数時間、雑談をしながら進んでいると……。


「そういえばお兄さん、ちょっと聞きたかったことがあったの」


「ん? なんだ?」


「最近シスハと何かあったのかしら?」


 エステルが不意にドキッとするような質問をしてきた。

 えっ……な、なんで? なんでそんなこと聞いてくるんだ?

 まさかこの前のシスハとのあの出来事を知って……いや、それはない。

 さすがのシスハでもあのことは言わないはずだ。

 

 あの後帰るまでにどういう意味か聞こうと何度か聞いたけど、結局最後まで教えてはもらえなかった。

 本気で触るつもりはなかったとはいえ、胸を揉むぞと迫ったことをエステル達に知られたくないから、俺もあれから特に触れずに過ごしていたのだが……。


 何故勘付いたのかは置いておくとして、とりあえず無難な返事をしておこう。

 変に反応したら怪しまれそうだからな。


「ないよ」


「本当に?」


「うん、本当にないよ」


「あら……そう」


 俺が真顔で短く答えると、エステルも短い返事をした。

 なんだか逆に怪しまれているような気がしてきたんだが……いや、平気だ、絶対大丈夫だ。


「何か気になることでもあるのでありますか?」


「いえ、ちょっとね。最近お兄さんがシスハを見る時、ちょっとした癖があるのよね」


「き、気のせいじゃないか? どんな癖なんだ?」


 く、癖だと!? まさかシスハを意識して何か変な反応をしていたのか……?

 そういえば、エステルはお兄さんウォッチングをしているとか前に言っていたもんな……まさかそれでバレたのか?

 

 つい俺がどんな癖なのかエステルに聞くと、彼女は微笑みながら答えた。


「ふふ、秘密。でも何もないのなら、私の気のせいかも」


「そうに違いないのであります。私も毎日大倉殿達を見ているでありますが、いつも通りでありましたよ」


「う、うん、そうだな。気のせいだよ気のせい」


 ノールが気のせいと言ってくれたので、それに便乗して俺も気のせいだとごり押しすることにした。

 いやぁ、助かる。


「……そうね。気のせいよね。ごめんなさいね、変なこと聞いちゃって」


「いや、気にするなって、ははは」


 エステルは少し間を置くと、どうやら流されてくれたのかそれで納得してくれた。

 俺も笑いながらそれを誤魔化して、また他愛のない雑談を続けて目的地に向けて魔法のカーペットを進める。

 誤魔化してから、なんだかエステルがグッと力を入れて体を密着してきた気がするけど、これもたぶん気のせい……のはず。

いつもお読みくださりありがとうございます。

早いところではもう販売されているみたいですが、ついに明日は2巻の発売日です。

今回も加筆をそこそこしているので、webを読んでくださっている方でも楽しめる……と思います。


それでは今後ともよろしくお願いいたします。

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[一言] 書籍販売おめでとうございます
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