爆死の果てに
最終日。
日付が変わりGCのトップ画面にUR排出率2倍キャンペーン開催中と表示された。
キャンペーンは本日のみとかなり鬼畜だ。10日前に告知されてなきゃ発狂していたぞ。
「やっど、やっど終わっだでありまずよぉ……」
「よくやってくれたなノール。しばらくはお休みでいいぞ」
「わーいなのでありまずぅ。うっ、うぅ……辛かったでありまず」
目標である500個を超え、506個の魔石が手に入った。ノールは本当によく頑張ってくれたな。
あれからなんとか持ち直し、彼女はやり切ってくれた。抱き締めて頭を撫で回してやりたいぐらいだ。ノールも泣いて喜んでいる。
今日は夕日が沈むギリギリまで狩りをしてこの数までなんとか届いた。今は宿でのんびりとしている。ガチャのキャンペーンはあと数時間残っているので、今からゆっくりと引こうと思う。
「さて、それじゃあ平八カーニバルを開催するか」
「まだ平八カーニバルなんて言うのでありますな」
お風呂も済ませ、ノールはベッドの上で寝っ転がっている。勿論アイマスク着用状態だ。
彼女にも見える位置で、俺はスマホを取り出しGCのガチャ画面へと切り替える。
「さぁ、いくぞ!」
俺は勢い良く11連ガチャをタップした。
画面に宝箱が映し出される。そして宝箱は、銀、金。金で止まった。
【R食料、Rポーション×10、R万能薬、R鉄の鎧、R鉄の靴、SRエクスカリバール、SR鍋の蓋、R寝袋、Rぬいぐるみ、SR賢者の石、SR慈愛の杖】
「まあまあまあ、初手だから。これ初手だから」
「これは微妙でありますな」
出鼻を挫かれた。ノールですら微妙と思える結果。てかエクスカリバールまたかよ。ぬいぐるみまで……嫌がらせか!
まだ9回はある。最低でもUR1個は出るはずだ。再度11連ガチャをタップした。
画面に宝箱が映し出される。そして宝箱は、銀、金、白。白で止まる。
【Rポーション×10、R鉄の剣、R鉄槍、SSRアダマントアーマー、R食料、Rクロムアーマー、Rナイフ、Rハサミ、R栄養剤、SRニケの靴、Rアイスロッド】
「ま、まあ、まだ2回目だし?」
「SSRが出たでありますな。めでたいのであります」
なんだ、雲行きが怪しくなってきたぞ。しかしSSRの鎧が出たな。しかもニケの靴もある。
これは流れ来てるかもしれない。もうこうなったら連打をしちまうぞ。
【R食料、Rポーション×10、SSRパワーブレスレット、SR守護の指輪、R薙刀、R刀、R万能薬、R斧、SRスカルリング、Rぬいぐるみ、SRプロミネンスロッド】
【SRエクリプスソード、Rクロー、Rグローブ、R食料、Rブーツ、SR命の宝玉、Rバール、SR水筒、Rホットリング、Rボーガン、SRビーコン】
【Rアイスリング、SSR魔法のカーペット、R食料、Rポーション×10、R鉄の剣、SRエクスカリバール、R金塊、R万能薬、Rボーンナイフ、SR慈愛の杖、Rコンロ】
【SSRモニターグラス、Rマジックポーション×10、R万能薬、SRニケの靴、Rウィンドロッド、Rブーツ、R籠手、R望遠鏡、Rマジックペーパー、Rマジックダイナマイト、R消臭剤】
【SRビーコン、Rトランシーバー、Rサンダーロッド、R食料、Rポーション×10、SR幸福の指輪、R消臭剤、R煙玉、SRサーモグラフィーアプリ、R万能薬、Rお守り】
【SR赤外線アプリ、R食料、Rマジックポーション×10、Rホットリング、SRエクスカリバール、Rクロムアーマー、R栄養剤、SR鍋の蓋、SRニケの靴、Rマジックダイナマイト、Rバール】
【Rボーンネックレス、Rウィンドリング、Rホットリング、Rアイスリング、SRニケの靴、SRエクスカリバール、Rマジックダイナマイト、SSRウィンドブレスレット、Rぬいぐるみ、Rサンダーリング、R食料】
「あっ、ああぁぁぁぁ!? なんじゃこらりゃぁぁぁ!?」
俺は床に崩れ落ちた。なんだこれ、なんだこれは。悪夢か? 夢なら覚めてくれ。
確率を遥かに下回っている結果。こんなのって……こんなの絶対認めんぞ!
「お、落ち着くでありますよ大倉殿!」
「おま、だって、おおま、お前! これなんだよ!? 99回でこれって、おい、これ」
「ま、まだ最後の1回が残っているでありますよ! 私は大倉殿を応援するであります!」
ノールが俺の肩に手を乗せ、励ましてくれる。でもさぁ……これは辛い。
俺はこのガチャの為だけに10日間、頑張ってきたんだ。ノールにも手伝ってもらってこの結果。あまりに悲惨過ぎて、手伝ってくれた彼女に面目が立たない。
「頼む……頼むぅぅ!」
俺は最後の魔石を投入し、11連ガチャをタップした。
画面に宝箱が映し出される。宝箱は、銀、金、白、そして虹――にはならず。白、結果は白だった。
【R食料、Rトランシーバー、Rビーコン、SRエクスカリバール、SR鍋の蓋、Rぬいぐるみ、SSRインビジブルマント、Rランプ、R栄養剤、SRニケの靴、Rマジックポーション×10】
「あっ――あああぁぁぁぁ!?」
俺の中で何かが弾け飛んだ。両足に力が入らず、全身が震えてくる。
手の震えも凄くスマホを落とし、血の気が引いて目の前のノールがぐにゃぐにゃと歪んでいるような視界。
何故だ、何がいけなかったんだ。俺の信仰心が足りなかったのか? もっと魔石を割るのですしなきゃ駄目だったのか?
「お、俺の、俺達の苦労が、一瞬で……あんまりだ、こんなのあんまりだぁ……」
目から大粒の涙が零れる。悔しい、これは悔しい。もし元の世界だったら、今頃俺のスマホは地上から消滅していただろう。
そのぐらい俺は悔しい、情けない。あの10日間はなんだったんだ。俺は……一体なんの為にガチャを回したんだ。返金してほしい。
「大倉殿……」
「ノール?」
床にぶっ倒れた俺の頭に、ノールが手を乗せ撫でる。
「大倉殿、大丈夫でありますよ。今回は残念でしたが、次頑張ればいいのであります。私もまた手伝いますから……もうあんな狩りは止めてほしいでありますが……」
これが人の温かみというものか。ガチャで荒んだ心が癒されるようだ。後半はちょっと何言ってるかわからなかったが、前半部分はとても同意出来た。
そうだな、また頑張ればいいんだ。貯めよう、貯めればまた引ける。
「ところで大倉殿、まだ6個魔石有りますがこれで引かないのでありますか?」
「単発なんてどうせ出ないさ……」
立ち直った俺は起き上がった。ノールは、床に落ちたスマホを拾いあげる。
爆死した500個の魔石。そして残りは6つだ。単発ガチャは1回5個。回したところで焼け石に水だな。
「じゃあじゃあ! 私が引いてみてもいいでありますか?」
「あっ、おう。今回頑張ったのはノールだし、11連も引かせてやればよかったな。すまん」
両手をぶんぶんと上下に振り、ガチャを回したいと彼女は言う。
そうだな、引いてもいいだろう。そもそも最も頑張ったのは彼女だ。俺1人で爆死して、すまないことをしてしまった。
「いえいえ、1回だけでも十分なのでありますよ。ではいざ!」
ノールはスマホをタップし、画面をじーと見ている。はは、随分と初々しいな。
俺にもあんな頃が……1回のガチャで、どんな物が出ても喜んでいた時期があったはずだ。それが、いつの間にかジャブジャブ課金したくなるような射幸心に煽られて……。
「お、大倉殿! 虹! 虹が来たのであります!」
「うっそ!?」
と感傷に浸っていたらノールが大声を出して、俺の肩をバンバン叩いてきた。
嘘だろ!? 単発でURかよ! ビギナーズラックとかいうレベルじゃねーぞ!?
画面に映る宝箱は虹色に輝いている。そして、宝箱が開いて中身が出てきた。
【URエステル】
「お、おぉぉぉぉ……ノール!」
「ぴゃ!? 大倉殿!?」
嬉しさのあまりに、俺はノールに抱き付いてしまった。今は鎧を着ていないので、思いっきり体が密着している。
しかし、これは下心とかそういうのはない。彼女が居てくれて良かったと、本当に思い抱きついてしまっている。
「よくやった! もうお前大好き、愛してる!」
「えっ、あっ、な、何言ってるんでありますか!? は、離してほしいでありますよ! イタタ、痛いでありますよぉ~」
アイマスクの上から、ごりごりと頬ずりをする。興奮が収まるまで、俺はしばらくの間ノールを抱き締め続けた。