意地の張り合い
ハウス・エクステンションで風呂を追加してからしばらく経ったある日のこと。
早朝から魔石集めをする為に、シスハと一緒にゴブリンの森へ狩りに来ていた。
「おーい、そろそろ休憩するぞー!」
「はーい! 少々お待ちくださいー!」
森へ入って数時間狩りをしたところで、1度休憩をしようとまだ戦っているシスハに声をかけた。
すると彼女は元気良く返事をして、目の前にいたゴブリンの頭をワシ掴みにする。
その直後、シスハの装着している手袋であるプロミネンスフィンガーが赤く発光して爆発した。
頭どころか、体の半分以上その爆破で消し飛び、光の粒子になってゴブリンは消えていく。
「ふぅー、お待たせいたしました!」
「相変わらず良い笑顔するなぁ……」
「はい、やっぱり自分で魔物を倒せるのは気持ちが良いですからね。ゴブリンやオークが相手だと少し物足りませんけど」
「そ、そうか」
シスハは一仕事終えたと言いたそうに、額を手で拭いながら満面の笑みで俺の方へとやってきた。
やっぱり狩りをしている時のシスハは凄く生き生きとしている。
今日もオークを頭から地面に投げ飛ばして、地面に付く前に前蹴りで頭を粉砕したり色々凄まじい倒し方をしていた。
プロミネンスフィンガーの爆殺まで追加されているし、本当に神官のような何かになりつつあるな。
そんなシスハに呆れながらも、とりあえず森の外へ移動して休憩がてら昼食をとることに。
ガチャの食料でもよかったのだが、家を出る前にノールが俺とシスハの分を作って持たせてくれたものだ。
ピンク色の可愛らしい袋に包まれた弁当箱を開けると、白いパンにレタスのような野菜、卵、肉など挟まれた物が沢山入っていた。
これは……サンドイッチか。
2人で食べるにしては少し多い気がするサンドイッチを、シスハと分けて食べ始めた。
「ん……これ、美味しいですね。少し量が多い気はしますけど……」
「ノールが自分を基準にして作ったなこれ……まあ美味いからいいか」
シンプルに見えるけど、どれもちゃんと味付けされていて美味い。
3人分ぐらいありそうな量にシスハと苦笑しつつも、動いて腹が減っていたのかすぐに食べ切ってしまった。
そして食後の休憩に、このまま彼女と少し他愛のない話を始めたのだが……。
「ノールさんは最近よく料理してくれますね。お陰で私と大倉さんが作ることも減りましたので、助かりますよ。それにノールさんの料理は美味しいですし」
「まあ、あれでも自称乙女だからな。シスハも見習って乙女に……いや、お前の場合は淑女を目指したらどうだ?」
「失礼なことを言う人ですね。私は今だって立派な淑女ですよ。大倉さんの方こそ、もう少し男らしくした方がよろしいんじゃないでしょうか?」
「なっ!? お、俺はいいんだよ!」
見た目だけならそうかもしれないけど、中身を考慮したら全く淑女じゃないだろ。
しかも反論に男らしくないとまで言ってきやがった。
別に俺は男らしくなくてもいいですしー、気にしませんしー。
「はぁ……そんなだから薄い本ばかり使うことになるんですよ」
「か、関係ないだろそれ! そういえば、よくもこないだは暴露してくれたな! あれからエステルに問い詰められて大変だったんだぞ!」
この前の薄い本発覚事件の後は大変だった。
没収されたりすることはなかったから、俺としてはよかったのだが……。
「お兄さんは男の人なんだから、仕方ないものね」
とエステルは薄い本に理解を示してはくれた。
だけどその後、参考にどんな本を集めているのか読ませてほしいと言われて参った。
薄い本を読んで一体なんの参考にするつもりなのか……あの時は何故か物凄く不安になったぞ。
女の子に見せるもんじゃないとなんとか説得して、一応引き下がってはくれた。
その騒ぎのせいで、シスハが薄い本の存在を告発したことがうやむやになっていたのだが……この機会に俺は謝罪を要求するぞ!
「あの件に関してはつい口が滑ってしまいまして……本当に申し訳ないと思っていますよ」
「本当か? 本当に反省しているのか?」
「本当ですよ。なんでしたらお詫びとして、ここを触ってもらったって構いません。大倉さん、胸がお好きみたいですので」
「ぐっ……こ、この野郎……」
シスハはニヤケながら、大きく開かれた胸元を俺の方へと見せてくる。
俺の秘蔵のコレクションは、表紙に胸が大きい娘が描かれた物が多かった。
実物を見たシスハは、それで俺が胸好きだって思っているようだ。
こいつ……俺が触れないと思って完全にからかってやがるな。全く反省しとらんぞ。
前もわざと胸元を見せて、その反応が楽しかったとか言ってやがった。これもそれと同じか。
毎度毎度余裕ぶったその態度、許せん! 俺がヘタレだと思って調子に乗りやがって!
ここは1度この俺が本気になったらどんな目に遭うか、体験させてやろう!
その余裕ぶったニヤケ面、引っぺがしてやる! 恨み晴らさでおくべきか、平八の怒りを知れ!
そう決意して、俺は反撃の言葉を口にした。
「じゃ、じゃあ、触らせてもらおうか」
「……えっ」
手をワキワキさせてシスハに迫ると、ニヤケ面をしていた彼女は目を丸くして驚いた表情に変化する。
そして晒していた胸元を急に腕で隠して、俺から少し距離を取った。
「おっ? 胸を隠してどうしたんだ? もしかして怖気づいたのか?」
「あっ……えっと、その……」
まさか触ってやると言われると思っていなかったのか、俺から目を逸らして凄く戸惑っている。
ふぅー、やったぜ。思惑通りだ。
それにしてこの程度でここまでしおらしくなるなんて、意外と可愛らしいじゃないか。
いつも強気なあのシスハがこんな姿を見せるなんて、なんだかゾクゾクしてくるな。
「ははっ、止めてほしいなら今すぐ謝ってもらおうか」
「ぐっ、ぐぬぬ」
「ほらほら、どうした! 本当に触っちまうぞ!」
「……わかりました」
「……ん? なんだって?」
勿論触るつもりなんてないので、ここで謝れば許してやろうと思っていたのだが……シスハが突然何か言い出した。
「わかったって言ったんです。言い出したのは私の方ですからね。さあ、どうぞ! 遠慮はいりませんよ!」
「えっ」
「さあ、どうぞ!」
シスハは隠していた胸元を晒して、腰に手を当てて胸を張るように突き出してきた。
息を荒くして若干興奮気味だ。
まさかそうくるとは思ってもいなかった……マジかよ。
で、でもここで引いたらまたいつもと同じ! もしかしたらただの虚勢かもしれない!
「い、いいのか? 俺は本気だぞ? 謝るのなら今の内だぞ?」
「ええ、構いませんよ! 神官に二言はありません!」
本当に触るぞと胸の前に手を出してみたが、シスハは揺るがず逃げる様子はない。
やべぇ……追い詰めた結果自暴自棄にでもなったのか?
「触れるものなら触ってみやがってください! 大倉さんにそれができるのならですがね!」
「……で、できらぁ! そこまで言うのならやってやんよ!」
こいつ、さらに煽ってきやがった!
畜生、ここまで言われちゃ俺だって引き下がれないだろうが!
ああ、いいよ触ってやる。俺がヘタレじゃないってところを証明してやろうじゃあないか!
すぐ目の前にあるたわわに触れてやろうと手に力を込める。
そして手を前進させようとしてみたのだが……動かない。いや、動けない。
まるで腕が自分の体ではないように言うことを聞かない。
どうして!? 動け、動け、動いてよ! 俺はヘタレじゃないんだ!
「ど、どうしたのですか? 顔が真っ赤になっていますよ。うふふ、やっぱり大倉さんには無理なんですよ」
「そういうシスハも耳まで真っ赤になっているぞ。本当は無理しているんだろう? ほら、謝ればこの手は引っ込めるぞ?」
「そ、そんなことありませんよ!」
いつまでも動かない俺を見て、シスハは耳まで真っ赤になった顔でニヤけていた。
そしてどうやら、俺も顔が真っ赤になっているらしい。
言われてみると顔が熱くて、心臓の鼓動も早く、息も若干荒くて喉が渇く。
どうやら自分でも気が付かない内に、凄く緊張していたみたいだ。
その後もお互い顔を真っ赤にしながら、無言でしばらく見つめ合った。
俺はその間いけ! いってやれ! と頑張っていたが、無意識にストップがかかっているのかどうしても手が進まない。
そしてだんだんと頭が冷えてきて、俺は何をしているのだろうかと思い始めた。
「あのさ……止めない?」
「……そうですね」
シスハも同じ気持ちだったみたいで、見つめ合うのを止め肩を下げて2人で息をついた。
「私、少し調子に乗り過ぎたみたいです。すみません」
「いや、俺もすまなかった。シスハは元々自爆するぐらい口滑りやすいもんな。あれは事故だ、うん、事故」
「うぐぐ……言い返す言葉もありません。今度からは見つけても絶対に口にはしないことを誓いますよ」
「うん、まず探すのを止めようね?」
シスハは自爆してエステルに怒られるぐらい口が緩くなる時があるからな。
あれは事故ということにして、今回のところは許すことにしよう。
争いは醜い、寛容な心で許してあげるのが大事だ。
争いも収まり一安心かと思っていたけれど、それからしばらくシスハとの会話はなく無言のまま。
さっきまであんなことやっていたせいかどうも気まずい。
どうしたものかと困っていたのだが……その沈黙をシスハの方から破ってきた。
「そ、それにしても、大倉さんも随分と良い動きするようになりましたよね」
「うん? それって戦闘に関してか?」
「もちろんそうですよ」
急に俺のことを褒め出してきた。
ノール達と比べたら天地の差があるだろうけど、一応今までかなりの数の魔物を倒してきたから、一般人だった俺でも多少は動きも改善はされていると思う。
それに装備もどんどんよくなっているし、これで動きが良くならなかったら逆におかしいぐらいでしょ。
「大倉さんもご立派に盾役をこなせるようになり、ルーナさんもパーティに加入してからは、正直私が直接戦うことが減ってしまいましたね。私はもう、大倉さん達の背中を見守るばかりになってしまうんでしょうか?」
「あー、うん……? それでいいんじゃね?」
「チッ」
なんだか物悲しい顔をしてシスハが言いだしたけど、神官だからそれでいいんじゃないだろうか。
そう言うと彼女は表情を一変させて舌打ちをした。
「おまっ、舌打ちするなよ」
「慰めたくなるような雰囲気を作って、そんなことないよ! って言わせるつもりでしたが駄目でしたか」
「いくら俺でも、そんな手に引っかからないからな」
もしそう俺が慰めたら、それじゃあ私も突撃できるよう頑張りますね! とでも言うつもりだったのだろうか……。
「でもまあ、パーティ中に私が戦う機会が減っても、大倉さんとこうやって狩りに来れますもんね。大倉さんと2人きりだと、いつもよりも気楽な気分になれますよ」
「シスハは普段からフリーダムだと思うが……ルーナの時も十分酷かったけど、俺と2人っきりだと色々遠慮ないよな」
「そうでしょうか? でしたらこれからは、大倉さんには慈愛に満ちた声と仕草で語りかけることにしますね。はい、にこー」
「うわっ!? そ、それはそれで怖いから止めてくれ」
シスハが両手を胸の前で握り、俺に笑顔を見せてきた。
彼女を召喚した直後にみせてくれたような、懐かしい微笑だ。
あの時は凄く良い人そうに見える笑顔だったけど……今見ると背筋がゾッとしてくる。
中身を知ってしまったせいだろうか。
「私の渾身の笑顔でそんな反応しないでくださいよ!」
「お前だって俺が同じことしたら同じ反応するだろ? ほら、にこー」
「うわっ!? そ、そんな顔でこちらを見ないでください!」
俺がお返しにニヤッ、と歯を見せたスマイルを見せてやると、シスハは二の腕を擦りながら立ち上がって距離を置く。
その反応に俺はこの野郎! と軽く怒って追いかけ、狩りをすることも忘れて2人で追いかけっこを始めてしまった。
少しして本当に馬鹿なことしているなと2人で笑いながら、また魔石集めの狩りへと戻った。
「そういえばさ、あそこで本当に俺が触ってたらどうしたんだ?」
「別に何もいたしませんでしたよ? 本当に嫌だったら触ってもいいなんて言うはずないじゃないですか」
「……えっ? ちょっ、それってどういう……」
「うふふ、どういうことかはご想像にお任せします」
活動報告にて特典に関する情報を掲載いたしました。
興味のある方は目を通してくださると幸いです。
GCノベルス様の公式HPにて2巻の試し読み&挿絵の一部が見れますので、良かったら目を通してくださると嬉しいです。




