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新しいお風呂

 ディアボルスのことを冒険者協会に報告してから十数日経過した。

 あれから協会には毎日顔を出しているが、今のところトレントの異常発生している報告はない。

 ディアボルスに関してはどの程度の魔物なのか鑑定も終わり、報酬として60万G受け取った。

 さらにこの魔物のことをもっと調べたいみたいで、角と三叉槍を80万Gで譲ってもらえないかと言われたので引き渡した。

 あの魔物だけで140万Gとか、めっちゃ良い稼ぎですわぁ。

 

 受付嬢さんから報酬を受け取る時、この魔物もグランディス級だったんですね……と、もう驚くのも疲れたという反応をされた。

 まるで王都の協会にいるウィッジちゃんのような反応だったぞ。

 

 黒い魔光石に関しては、やはり砕けているせいでクェレスの研究所でも解析は難航しているそうだ。

 解析は続けるみたいだけど、このまま続けてもどのような物か判明するかは、わからないと言われた。


「ふぅ、何事もなくて平和でいいなー」


「そうでありますね。竹林からもすっかりトレントがいなくなっているのでありますよ」


「そうね。これで安心して狩りができるわ」


 今日も狩りを終えて、自宅に戻り一息つく。

 一応俺達の方でもトレントが発生していないか竹林などの見回りをしたけど、今のところは何の異常もない。

 迷宮がないかグランディスのいた場所とかも調べてみたが、結局何も見つからなかった。

 やっぱりあの騒動の原因は、ディアボルスだと思っていいのだろう……たぶん。


「大倉さんの話を聞いて、私はてっきりこれから大きな戦いでもあるかと思っていたのですが……」


「ん? 黒幕がいるかもしれないとは言ったが、そんなことは一言も言ってないだろう? まあ、可能性がない訳じゃないけど、もし俺が相手の立ち場で考えるとしたら……」


 黒幕がいるかもしれないとなると、これからそいつを倒す為に何かするのだろうと考えるのは普通だ。

 だけど情報も全くないから、俺達からできることを考えたら見回りをする程度しかないだろう。

 それに相手になって状況を考えたとしたら……。


「自分の手下がやられた時点で即逃げる」


 俺の言葉を聞いたシスハは、凄く微妙な顔をしてきた。

 膝の上に乗っているルーナもそれを聞いて、ジト目で俺を見つめている。


「それは平八だからじゃ……」


「失敬な! そもそも眷属使ってコソコソやっている様な奴なんだぞ? いるとしたら、臆病な奴に違いない。あれからトレントの発見報告がグッと減ったのが何よりの証拠だ」


「そう言われると、なんだか説得力があるように聞こえますね……」


 あんな人目がない森の奥で、手下を使ってまで密かに行動をしていた奴だ。

 あれが実験だったのかそれともクェレスに何かをする為のものだったのかは知らないけど、相当慎重な相手だろう。

 ディアボルスが持っていた魔光石も、俺達の攻撃で砕けた可能性は否めないが、もしかしたらディアボルスが自分で砕くように命令されていたというのもあり得る。

 

 眷属だとしてもそれなりに強い魔物だったし、それがやられたとなれば一旦逃げても不思議じゃない。

 というか俺だったら、その時点でこの周辺から逃げ出す。

 目的がよくわからないからそうとも限らないけど、トレントの異常発生が治まったからその線は十分に考えられる。


「どちらにせよ、一旦はクェレス周辺での異常が治まったみたいだからいいじゃない」


「そうだな。……結局ガチャの報酬貰えなかったのが残念だが」


「積極的に問題解決をしようとしていたのは、そういう動機だったのでありますね……」


 まあ今のところは、騒動が解決したと安心しておけばいいだろう。

 今後何かあるかもしれないから、注意だけはしておかないといけないけどさ。

 ただ、解決はしたけどコストダウンや魔石が貰えなかったのがとても残念だ。

 もしあれが大討伐扱いで、魔石が100個ぐらい貰えていればボックスガチャもあんな結果にならなかったかもしれないのに……くっ。


「それで、今後はどうするんですか? クェレスの問題が一旦解決したのですから、またガチャに向けて魔石集めでもいたしますか?」


「うーん、そうだな。とりあえず次のガチャまでに、最低1000個は魔石を貯めよう。いけるなら2000個は超えたい」


「今は何個あるのでありますか?」


「163個」


「最低でも……あと837個は集めないといけないのね」


「そういう具体的な数字を言われると、気が滅入るのでありますよ……」


 正直1000個でも少なく感じているけど、あまり目標を高くするとノール達が精神的に参っちゃうだろうからな。

 ノール達にはそれなりに狩りを手伝ってもらいながら、俺は暇があればシスハを上手く扇動してゴブリンの森にでも行ってこよう。


「ところで今はディウスさんやグリンさん達から、どのぐらい魔石が送られているんですか?」


「えーと……毎日じゃないけど、数日おきに3、4個ってところかな。多い日は6、7個くる時もある」


 一応どのぐらい入っているのか記録は付けているけど、毎日魔石がディウス達から送られてきている訳じゃない。

 俺達と違って毎日狩りに行くとかはしていないだろうから、それは当然だろう。

 殆どはディウス達が狩ってくれていて、多い時はグリンさん達も狩ってくれているのかもしれない。


「あら、結構送られてきているじゃない」


「やっぱり協力してもらったのは正解でありましたね。私達の為にも、もっと協力者を増やすのでありますよ!」


「そう簡単に増やせれば、苦労はしないんだけどなー」


 地道ではあるけど、1個でも他から魔石が送られてくるだけでもありがたい話だ。

 ノールの言う様に協力者をもっと集められたら助かるけれど、条件的にそう簡単に増やせないから厳しい。

 俺がもっと話術が上手ければ楽だったかもしれないが……自覚しているぐらい俺は口が下手だからなぁ。


「さてと、それじゃあそろそろお風呂でも入りましょうか。ね、ルーナさん」


「そうだな。今日も狩りで疲れたぞ」


 話が一旦落ち着いたところで、シスハがルーナを抱き上げながら立ち上がって、風呂に入ると言う。

 風呂か……。


「風呂といえばさ……そろそろ風呂欲しくない?」


「何を言っているのでありますか? お風呂ならもうあるのでありますよ?」


「いや、ハウス・エクステンションで追加の風呂欲しくない?」


 最近はハウス・エクステンションの機能を使っていなかったし、そろそろ何か追加してみたい。

 そしてせっかくだから、俺としてはお風呂が欲しいところ。


「別に今のままでも困らなくはないけど……できるのなら欲しいかも。ハウス・エクステンションのお風呂なら、今よりも使いやすそうだもの」


「そうですね。今のままでもルーナさんと一緒に入ることはできますけど、もう少しぐらい大きい方が入りやすいかもしれません」


「うむ、あの丸い風呂に2人で入るといつもギュウギュウだ」


 今俺達が使っている風呂は、木製で作られた大きな桶のような物だ。

 ここにお湯を沸かして入れて使うんだけど、そこはエステルに頼んで魔法でお湯を出してもらっている。

 足を完全に伸ばして入れる大きさじゃないから、2人で入っているシスハとルーナは若干狭い思いをしているみたいだ。


「でも追加するにしたって、ポイント足りるのでありますか? たしかお風呂は5000ポイント必要なのでは……」


「だから使わないSSRの、アダマントシールドと液晶モニターを分解しようかと思っているんだ」


「たしかに出てからずっと使っていないわね」


 出てからずっと使うこともなかったし、少し惜しい気はするけどこの2つを使って今回は風呂を追加しよう。

 アダマントシールドは鍋の蓋のせいでもう使いそうもないしな……。

 SRはこれからディウス達に渡す機会もありそうだから、今回ボックスガチャから出た分は念の為残しておくつもりだ。

 よし、ノール達もノリ気みたいだし、さっそく追加して……。


「あっ……でも先にノールとシスハの新しい部屋を作らないと駄目か」


「いえ、私はお風呂優先で構わないのでありますよ。今の部屋も居心地がいいでありますし、なによりハウス・エクステンションのお風呂は気になるのであります!」


「私としてもお風呂を優先してほしいですね。5000ポイントも消費するのですから、きっと豪華に違いありませんよ」


「そうか……それじゃあすまないけど、今回は風呂を作らせてもらうぞ」


 ノールとシスハがまだハウス・エクステンションの部屋じゃなかったのを忘れていた。

 だが、彼女達はそれよりも風呂を優先してほしいと言ってくれたので、今回はそれに甘えて風呂を作らせてもらう。

 次のガチャがきたら、今度こそ新しい部屋を作ってやらないとな……。


 許可も下りたので、さっそくスマホからハウス・エクステンションを起動した。

 そしてSSRであるアダマントシールドと液晶モニターを選択して分解。

 SSRは1つで2500ポイントに変換されるから、これで風呂の必要ポイントである5000ポイントを確保できた。


 それから拡張機能を使い、俺の部屋へ続く廊下の奥に風呂を設置し、さっそくノール達と確認しに行く。


「おっ、男女で分かれているのか。まるで銭湯みたいだな……」


「中はどうなっているのでありますかね? さっそく入ってみるのでありますよ!」


「それじゃあ着替えを取ってきませんとね。ルーナさん、一緒に入りましょう!」


「うむ、今日も狩りで疲れたからな。ゆったりできる風呂だといいが……」


 廊下の奥へと行くと、新しい扉が追加されていた。

 そして扉を開いて中へ入ると、青いのれんと赤いのれんで仕切られている2つの入り口があった。

 すげぇ……まさかそこまで配慮されているとは思わなかった。これ相当大きいだろ。

 今日は狩りも終えて帰ってきたところだったし、さっそく入ってみようと各自着替えなどを取りに戻った。


 着替えを持ってきて青いのれんの方から入ってみると、透明なガラスのスライド式の扉。

 そしてその奥には、とんでもなく大きな浴槽のあるお風呂が。

 10人……いや、それ以上に人が同時に入ったとしても大丈夫なぐらい大きい。

 シャワーとかも完備されていて、まるで俺の世界にあった銭湯だ。

 浴槽にどこから来ているのかわからないお湯がドバドバと流れ込んでいるけど、今更気にすることでもないだろう。


 入り口の横には黒いパネルがあって、どうやらこれで温度調整ができるみたいだ。

 モップが描いてあるボタンもあるけど……これは掃除が自動でされるってことか?

 本当にガチャ産の物は至れり尽くせりだな……さすが5000ポイントだ。


「おぉ……これは凄いな」


「えぇ、そうね。これなら大人数で入っても狭くなさそうだわ」


「久々に足を伸ばして湯船に浸かれそうだ。俺、結構風呂入るの好きだからこれは嬉しい」


 これからこんなに広い風呂に入れるのかと思うとウキウキするなぁ。

 男は俺だけだから入るのは1人で少し寂しいけど、貸切状態だって思うとのんびりと入れそうだ。

 銭湯行くの割と好きだったし、これからずっとこの風呂に入れるかと思うと気分が高揚する。


「あら、そうなの? 私も結構好きよ。2人でゆっくりと入りましょうね」


「ああ、そうだな。……ん?」


 銭湯のように棚が置いてあって、そこに服を入れるようになっていたのでさっそく脱ごうと服に手をかけた。

 そこでようやく俺は、エステルが侵入していることに気が付く。


「……なんでこっちにいるの?」


「えっ、駄目かしら?」


「駄目です」


 いつの間にかいたエステルが、俺の隣で首を傾げて不思議そうにしている。

 自分のシャツの第2ボタンに手を掛けて、既に第1ボタンを外して脱ぐ気満々なご様子。

 あ、あまりに自然にいたから気が付かなかった……。


 俺が駄目だと言うと、エステルは真剣な表情で俺を見つめて話だした。


「……お兄さん、そろそろ私達の仲をもっと深めるべきだと思うの」


「……うん?」


「だから、この機会に裸の付き合いって奴をしましょうよ?」


「仲を深めたいって気持ちは嬉しいけど却下だ!」


「むぅー」


 エステルに着替えを持たせて、抱き上げて女湯の方へと連れて行く。

 頬を膨らませて凄く不満そうにしていたけど、一緒に入るのは流石にな……。

 

 男湯へと戻り、服を脱いで今度こそ中へ入る。

 そして浴槽へと入る前に軽く体を洗っていると、風呂の中に声が響いた。


『おお! 凄く広いのでありますよ!』


 えっ……どうしてノールの声がするんだ?

 体を洗うのを一旦止めて辺りを見渡すと、四方白い壁で囲まれている壁の一辺と天井の間に大きな隙間があった。

 この風呂……完全に分かれているんじゃなくて、真ん中に仕切りがあるだけなのか。

 壁1枚挟んだ向こう側がどうなっているか考えると……うっ。


 ……いかんいかん。なんて想像をしているんだ俺は。

 一瞬ウォールシューズでも持ってこようかと思ったけど、そんなことするのはいけない。犯罪的だ。


『ノール……まさかとは思っていたけど、お風呂の中でもアイマスクをするのね』


『こ、これは違うのであります! 1人で入る時はしていないのでありますよ!』


『私達相手でもまだ素顔を見せるのが恥ずかしいのですか?』


『1対1なら平気なのでありますが、2人以上だと駄目なのであります……』


『はぁ、これでもだいぶ良くなってきているけど、まだアイマスクから離れるのは無理みたいね』


 ノールは風呂の中でもアイマスクを着用しているらしい。

 1対1なら平気になったみたいだから、前に比べると随分マシになってきたみたいだけど。


 どうやらノール達は俺に声が聞こえていると気が付いていないみたいだ。

 意地が悪いかもしれないけど、せっかくだしこのまま黙って会話を聞いておこう。


『はぁー、広いお風呂に入るのは気持ちがいいでありますねぇー』


『そうね。今までこんなに大きなお風呂に入ったことがないから新鮮だわ』


 ノール達も体を洗い終えたのか、湯船に浸かり始めたみたいだ。彼女達もこの風呂にはご機嫌なご様子。

 

 俺も既に体を洗い終えて、湯船に肩までじっくりと浸かっている。

 いつも風呂には入っていたけど、こう開放的な広さだとまた違うな。しかも貸切状態。

 これで風呂上りに瓶の牛乳やフルーツオレでもあると嬉しいんだけど……そこまで完備されてないか。


『あー、いいなー。足を伸ばして入れるのは楽だー』


『うふふ、ルーナさんが気持ち良さそうなのは私も嬉しいです』


 ルーナの幼女とは思えない渋い声まで聞こえてくる。

 吸血鬼って流水が苦手とかいう話があったはずだけど……この極楽を味わっているような声からは、そんな感じは微塵もないな。


『うむ、シスハのクッションもあるし快適だ』


『そう喜ばれますと、照れてしまいますね……』


 シスハのクッション……それって一体何のことなのだろうか。


『だけど私達は4人で入っているのに、大倉殿が1人なのは少しかわいそうなのでありますよ。一緒に入れたらよかったのでありますのに』


『私が一緒に入ろうとしたのだけど、追い出されちゃったわ。本当に残念だわ……ええ、本当に』


『スケベな大倉さんでも、そう堂々と一緒にお風呂には入れませんよね』


『なんだ、平八はスケベなのか?』


『はい、そうですよ。大倉さんの部屋に置いてある空箱に、薄い本が隠されていましたし。底板を二重にして隠していましたから、相当用心深いみたいですよ』


 紳士たるこの俺をスケベ呼ばわりだと!

 と叫びたくなったが、それよりも次のシスハの発言で心臓が跳ね上がった。

 な、なんで……なんで俺の秘蔵のコレクションの隠し場所を知っている!?

 わざわざ空箱の底に隠して、上に板を被せて完全にカモフラージュしたはずなのに……部屋の掃除をした時に探しやがったな!


 黙って聞いていたことも忘れて、俺は慌てて叫び始めた。


「ちょっと待ちやがれ! お前何勝手に探してやがるんだ!」


『き、聞こえていたのですか!?』


『あら、それよりもどんな本なのか気になるわ。ちょっと見てくるわね』


「ダメェェ! おい! エステルを止めるんだ!」


『……もう行ってしまったのでありますよ』


「畜生! うおおぉぉ!」


 ペタタと聞こえる足音を追って、俺も急いで湯船から立ち上がって外へと向かう。

 体をタオルでパパッと拭き、パンツだけ着用して急いで外に出ると、体にタオルを巻いたエステルが外へ出ようとしている場面に遭遇。

 急いで取り押さえて、なんとかその場を治めることはできたが……その後薄い本についてかなり追求された。

 現物を見せるのは勘弁してもらえたけど、今後は隠し場所をもう少し考えないと駄目そうだな……。

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