謎の行方
装備の整理を終え、クェレスの冒険者協会へ昨日のことを報告するため、ノールと2人で足を運んだ。
そしていつもの受付嬢さんに、竹林にもグランディスがいたことを話した。
「やはりグランディスが発生していたのですか……。それをまた単独パーティで倒してくるなんて、実は大倉さん達……Aランクだったりしますか?」
「び、Bランクです! そ、それよりも、これを落とす魔物はご存知ありませんか? グランディスを討伐した際、一緒に襲ってきたんですよ。ゴブリンみたいな大きさで、似たような凶悪な顔面をしていて、黒い皮膚をした翼で空を飛ぶ魔物でした」
グランディスの討伐証明を渡して、さらにディアボルスが落とした黒い角と三叉槍を見せた。
見た目も大体こんな感じだと伝えてみたが、受付嬢さんは角と三叉槍を手に取って見ながら首を傾げている。
「ゴブリンに似た空を飛ぶ黒い魔物ですか……私には心当たりがありませんね。それにこんな物を落とす魔物の報告も受けたことがないです。調べてみますので、少しお待ちください」
そう言うと受付嬢さんは、ディアボルスのドロップアイテムを持って奥へと消えていく。
はたして協会にあの魔物の情報はあるのだろうか。普通の魔物とは思えなかったけど……一体どこから湧き出したのやら。
「すぐにわからないってことは、この周辺にいない魔物なのかもな」
「なかなか手強い魔物だったのでありますよね? グランディスと同じように、遭遇するのも稀な魔物なのかもしれないのであります」
ノール達のおかげであっさり倒せたけど、グランディスとディアボルスを同時に相手したのは、コボルトの大討伐より危険な状況だったと思う。
特にディアボルスなんて、一方的にボコッたせいで弱く見えたけど、ステータス的には迷宮のボスにも肉薄する強さだった。
そんなのがほいほい外にいるとは思えないし、やっぱりあれは特別な魔物だったのかもしれない。
しばらくノールとあれこれ話していると、受付嬢さんが戻ってきた。
「過去に似たような魔物の報告や落とした物の確認をしたのですが……この協会の資料に記録はございませんでした。この魔物に関しては、今回討伐報酬をお渡しできそうにありません。角の解析などをおこない報酬を決めるので、少しの間預からせていただいてもよろしいでしょうか?」
「はい、それで構いません」
やっぱり情報なしか。
それに前例がない魔物は、討伐報酬がすぐに出せないのかな? そういえば王都の協会で頼んだベヒモスの結果聞き忘れていた。今度聞きに行かねば。
だけど解析すれば出せるっていうのは、どの程度の魔物かわかる道具でもあるのだろうか。
武器や防具の質がわかる装備屋もあるみたいだし、魔物の素材を見て判断できる人もいそうだ。
ついでだからディアボルスが持っていた、黒い魔光石についても聞いてみようかな。
「すみません、これもその魔物が持っていたものなんですけど、どんな物か協会の方で何かわかることはありませんか?」
「それは……魔光石ですか? 魔光石の詳しい解析は、冒険者協会ではおこなっておりません。詳しく調べるのでしたら、この街の研究所などに頼んだ方がいいと思います」
「そうですか……」
うーむ、冒険者協会じゃ魔光石に関しては全くわからなそうだな。
研究所に頼むって言っても、どこに持ち込めばいいのかよくわからないし……クリスティアさんにでも相談すればいいか?
どうしたものかと悩んでいると、受付嬢さんが話を続けた。
「もし不都合がないようでしたら、協会の方でその魔光石を預かり研究所に解析を依頼いたしましょうか? 魔物関連の物ですので、協会としても可能な限りご協力いたしますよ」
「本当ですか! それならお願いします!」
おお、冒険者協会の方で手配してくれるのか、助かる。
魔光石に詳しい研究所を選んでくれるだろうから、任せちゃおう。
この魔光石は今回のトレント発生に関係がありそうだし、解析できるのならした方がいいはずだ。
17分割ぐらいにバラバラになったせいで、エステルでも詳しくわからない状態だけど、専門でやっている研究所なら何か掴めるかもしれない。
●
黒い魔光石の欠片を預け、グランディス討伐と調査依頼の報酬、600万Gを受け取って俺達は冒険者協会をあとにした。
またトレントの目撃情報が出た時のために、しばらくの間は毎日協会に顔を出すつもりだ。
ついでに周辺地域で何か異変がないか調べて回るつもりでもある。……特に迷宮とか探したい。
「あー、収穫なしか」
「冒険者協会にも情報がないなんて、迷宮のベヒモスみたいな魔物ってことなのでありますかね?」
「どうだろうな。ステータスを見たおかげで多少の情報は得られたけど、結局訳がわからなかったし」
「そういえば詳しく聞いていなかったであります。どんなステータスだったのでありますか?」
あっ、グランディスとディアボルスのステータスについて説明していなかったか。
グランディスは名前の横に仮が付いていたこと。レベルも最初の個体より低くて、ステータスも全体的に下がっていた。
ディアボルスの方は状態という項目があって、そこに眷属と表示されていた。
この2つのことをノールに教えると、彼女は両手を組んで考え込んでいる。
「うーん、たしかに謎って奴でありますね。グランディスの仮表記にステータスの低下、ディアボルスの眷属でありますか」
「ディアボルスの方はまだわかりやすいけどな。まあ、それはそれで違う問題があるんだけどさ」
眷属っていうのは、たぶん何者かに従わされている状態だと考えていいはずだ。
となると、ディアボルスを従わせて今回の騒動を引き起こしていた奴が裏にいるかもしれないってことになる。
ここまで得た情報から、今回の騒動のことを簡単に予想するとだ。
ディアボルスにあの魔光石を持たせて、魔光石に付加されていた何かしらの魔法でグランディスを発生させる。
グランディスが発生したことにより、周囲にトレントが異常発生してそれが散らばってあっちこっちにいた。
2体目に戦ったグランディスは、発生させたばかりの成長途中だったので、レベルもステータスも低い個体になった。
ってところだろうか。
俺達が行くのがもう少し遅かったら、グランディスは完全に育ってディアボルスもあの場からいなくなり、別の場所で同じことを繰り返していたかもしれない。
もし予想通りディアボルスが原因なら、追加の個体でも出てこない限りはトレント騒動も終息するはずだ。
以上の考えを俺はノールに話した。
「あれほどの魔物を使役して、さらには意図的に大討伐級の魔物を発生できる術を持っている……。そんな真の犯人がいるってことでありますか?」
「考えたくないけど、その可能性はある。魔物に影響を与える魔光石なんてそこら辺にあるとは思えないし、ディアボルスが自分で作れるとも思えないからな」
ディアボルスのスキルを見た感じだと、魔物を発生させるようなものはなかった。
わざわざグランディスの中に潜っていたのは、何かやっていたってことだろうし、考え付くのはあの魔光石しかない。
そんな魔物に干渉できる魔光石がその辺に落ちているとも思えないから、やはりあれを作れる何者かが用意したと考えるべきだろう。
コボルトロードもスキルで眷属召喚を持っていたし、似たような感じでディアボルスを召喚でもしたのだろうか。
あの強さの魔物を召喚できるなんて、そいつはどれだけ強いのか想像もつかないぞ……。
「まあ、まだ憶測の範囲の話だ。ただこれからも何か起こるかもしれないから、警戒はするべきだろう」
「そうでありますね。いつ何が起きてもいいように、心構えをしておくのでありますよ!」
予想は立てたけど、結局全て俺の想像に過ぎない。
実際どうなのかは、あの魔光石がどんな物なの判明しないとわからない。
研究所で調べてもわかるとも限らないから、それもあまり当てにはならないけど。
色々と考えてはいるけど、別に俺達がこの問題を解決しないといけないって訳でもない。
だけど俺達が力になれることがあるなら、解決に向けて可能な限りは協力をするつもりだ。
そんな危なっかしいのがいたら、今後俺達の狩りにも支障が出るかもしれないからな。不安の種は早い内に取り除かないと。
それに解決すれば、またガチャの報酬が貰えるかもしれないし……へへっ。
●
「お帰り、お兄さん、ノール」
「おう、ただいま」
「ただいまなのでありますよー。モフットもお出迎えしてくれたのでありますね!」
報告を終え帰宅すると、エステルが笑顔で出迎えてくれた。
モフットも足元でノールに向かってプープーと鳴いて出迎え、さっそくノールに抱き上げられた。
「昨日の件についてはどうだったの?」
「一切収穫なし。その代わり魔光石に関しては、欠片を預けて研究所で解析してもらうように頼んでおいた」
「そう……。私が解析できればよかったのだけど……ごめんなさい」
エステルは頬に手を当てて、少し落ち込んだ様子で下を向いている。
今回の魔光石が何なのかわからなかったことに、責任を感じている様子。
魔法に関しては自信があるだろうし、解析できなかったことにショックも受けていそうだ。
「エステルだってなんでもできる訳じゃないんだから、そう気にするなって。専門でやっている人に頼めるのなら、その人達にやってもらえばいいんだからさ」
「うむ、そうだな。やってもらえることは、可能な限り人に任せるべきだ」
「うふふ、そうですねー」
俺がエステルに気にするなと言うと、ルーナとシスハも会話に入ってきた。
椅子に座っているシスハの膝の上にルーナは乗り、こないだ取ってきた果物を食べている。もちろんシスハに口に運んでもらってだ。
ルーナに果物を食べさせているシスハは、だらしなく顔を緩ませて幸せそうにしている。
「……ルーナはもう少し自分でやろう。というか、最近シスハはルーナを甘やかし過ぎじゃないか?」
「何を言うんですか! 全然足りないぐらいですよ!」
「そうだぞー、余計なことを言うなー」
「シスハもルーナもお互いにべったりでありますね……」
仲良くなってからというもの、シスハによるルーナの甘やかし具合はエスカレートしていた。
最近じゃ寝起きの服の着替え、ご飯も今みたいに食べさせて、風呂も一緒に入って体を洗っているという。
仲が良いことは素晴らしいと思うけど、このままだとルーナが完全に駄目な娘になってしまいそうで不安だ……。
「……ふふ、そうね。わからなかったのは少し悔しいけど、仕方がないものね」
「うんうん、それでいいんだぞ」
「だけどその代わり、お兄さんに慰めてもらうわね、えい!」
「えっ、うおっ!?」
会話を黙って聞いていたエステルは、顔を上げて微笑んだ。
どうやら吹っ切れたみたいだな。と、安心していたのだが……彼女はその後俺に抱き付いてきた。
おいおい、どうしてそうなるの! 慰めるのは構わないけど、なんで抱き付いてくるんだ!
「エステルも大倉殿にべったりでありますね」
「ふふ、今朝ベッドに潜り込んだ時は逃げられたから、その分たっぷり甘えさせてもらうわ」
「えぇ!? またベッドに潜り込んだのでありますか!」
「あはー、ベッドにですかー」
「ほぉ、ベッドにか」
今朝ベッドに潜り込まれたことは話していなかった。
そのことをエステルが口走ると、ノールはまたかと驚き、シスハはにやけた表情で俺を見て、ルーナも興味ありげに俺の方を見ている。
も、潜り込まれた側なのに、どうして俺がそんな目で見られなければならないのか!
「べ、別にやましいことは何もしてないぞ! すぐにベッドから転げ落ちたからな!」
「それはそれでどうなのでありますかね……」
「添い寝された程度で転げ落ちるなんて大袈裟だ。まるでど……いや、そういうことか」
「何に納得したんだ? ……おい、なんで顔を背けるんだ!」
「……別に」
ルーナは何か口に出しかけて止まると、少しして勝手に頷いて納得していた。
それから俺が声を掛けると、顔を背けてそっぽを向いている。
おい、この幼女今何を言おうとした? さすがの俺も、幼女にあれを言われたら傷つくぞ!
そんな感じでからかわれながらも、ワイワイとその後も会話が続いた。
爆死の翌日ということもあり憂鬱な気分だったけれど、ノール達と話しているとそんな気持ちも薄れるなぁ。
2巻の情報②を活動報告に掲載いたしました。
今回は各キャラクターのキャラデザの公開になります。
興味のある方は目を通してくださると幸いです。