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ボックスガチャ

 ディアボルスとグランディスを倒し、俺達は帰宅した。

 冒険者協会への報告は明日行こうと思う。

 既に外も真っ暗で、通知されたガチャも期限が今日までだからだ。


「ふひひ、きたきたきた! ついにまたガチャがきたぞ!」


「楽しみですね! 今回は一体どんなガチャなんですか?」


「おう、ボックスガチャだ!」


 さっそく今回通知されたボックスガチャを引くために、居間に集まって机を囲んでいた。

 新しいガチャの登場に、俺とシスハはハイタッチをして喜び合う。

 やっぱりシスハはノリが良いな!

 

 一方ノール達はというと。


「大倉殿もシスハも、騒ぎ過ぎでありますよ」


「仕方ないわよ。久しぶりに本格的なガチャなんだもの」


「……2人共元気だな」


 騒ぐ俺とシスハを、ノール達は椅子に座って呆れたように眺めていた。

 だってガチャなんだぜ? 興奮するなって言う方が無理がある!

 

 ルーナもノール達に混じって呆れた顔をしているが……呆れているのもあるけど、若干顔色が青くて調子が悪そうだ。

 特に血を吸わせてくれとは言っていないけど、我慢しているのかもしれない。


「ルーナ、ちょっと顔色が悪いな。本当に大丈夫か? 吸血衝動があるなら、俺のを吸うか?」


「むぅ……」


 ディアボルスとの戦闘の後、駄目そうだったら血を吸ってもいい約束したしな。

 それにこれからガチャをするっていうのに、気分が悪いままじゃかわいそうだ。

 

 しかしルーナは渋い顔をして、素直に首を縦に振らない。

 俺の血を吸わせてもらうと言っていたのに、遠慮しているようだ。


「あっ、それなら私もいいのでありますよ。大倉殿1人に任せる訳にはいかないのであります」


「じゃあ私も立候補しようかしら? 分担すれば少なくて済むものね」


 続いてノール達も血を吸ってもいいと言い出した。

 ノール達も優しいところがあるからなぁ。こういう時に協力してくれるから本当にありがたい。


「ありがとう……それなら甘えさてもらう。実は喉の渇きが治まらなくなり始めていた」


「全く、今度からは我慢せずに言うんだぞ?」


「うん、わかった」


 俺達3人に言われようやくルーナは首を縦に振った。

 すると、ドンドンと近くで何かを叩く音がし始める。

 何事かと音のする方を見てみると……シスハが四つん這いになって泣きながら床を叩いていた。


「うぅ……どうして、どうして私はこんな時にお力になれないんですか! どうして私は神官なんですか!」


「どうしてとか言われてもなぁ」


 神官であることを悔しがる神官って一体……。

 泣きながら床にへばり付いているシスハは無視して、ルーナに血を吸わせる為に俺は首元を露にした。


「や、優しくしてね」


「むぅ……その反応は止めてくれ。鳥肌が立つ。それに首から吸うつもりもない」


「あら、それじゃあどこから吸うつもりなの?」


「指からだ」


 なんだ、首から吸わないのか。

 正直な話、首をあの鋭い歯で噛み付かれるのかと思ってビクビクしていた。

 指で良いというので人差し指を差し出すと、ルーナは両手で俺の腕を握って口の前へと運んだ。


「それじゃあ吸うぞ。痛みはないと思う」


「お、おう! どんとこい!」


「大倉殿、怯え過ぎでありますよ」


「でも私もちょっと怖いかも……」


 ルーナが口を開くと、細長く尖った犬歯が2本見えた。

 顔を逸らしながら、俺はチラチラと片目でルーナが指を噛むのを見る。

 痛くないと言われても、これからそれで指を噛まれると思うと怖いぞ。

 

 徐々に歯が俺の指に近づいて、そのままばっくりと噛まれる……と思い気や、片方の歯を少し押し当てるだけで終わった。全く痛くない。

 そして指先から牙を離して、小さなぷっくりとした半円上の血が出てくると、ルーナは指先を咥えた。

 血が出ている部分を生暖かい軟らかな舌で舐めながら、上目遣いを俺に向けて血を吸い始める。

 

 な、なんだろう……指を舐められているだけなのに、なんかいけないことしている気分になってきたぞ……。

 ちょっとドキドキしながら少しの間そのままでいると、ルーナは口を離して最後に指を軽く舌で舐めて腕を掴んでいた手を離した。


「どうだ?」


「ん……うむ、少し治まった。平八はそれなりの味だな」


「それなりの味って……」


 血を吸い終わったルーナは、さっきよりも顔色が良く明らかに元気になっていた。

 指先から吸うだけでいいなんて、そこまで血の量は多くなくてもいいみたいだ。

 それよりも、俺の血の味が微妙って感想はなんだ……血液ソムリエかな?


 次にノールが血を吸わせることになり、俺と同じように指先を出してルーナに血を吸わせている。


「ん! ノールは美味いな!」


「えっ、私美味しいのでありますか?」


「うむ、野性味溢れる濃厚な味わいだ。首からカプッといきたくなる」


「や、やっちゃダメでありますからね!」


 血を吸い始めたルーナが、目を輝かせてノールのことを見ている。

 首から吸いたくなるほどの味か……俺は美味しくなくて喜ぶべきなのか。

 

 そして最後に、エステルがルーナに血を吸わせた。


「エステルの血も美味いな」


「あら、私も美味しいの?」


「魔力が豊富でまろやかな味だ。ノールと同じぐらい吸いたくなる」


「褒められているような気はするのだけど……なんだか複雑な気分ね」


 どうやらエステルの血も美味しいらしい。

 褒められた彼女は、俺と同じようにどう反応したら良いのか迷っているみたいだ。

 

 3人分の血を吸い終えたルーナは、頬が緩んで満足そうな表情をしている。

 さっきまでの顔色が嘘のようだ。血色も良く、なんだか肌がすべすべしているように見えるぐらいだ。


「さ、さて! ルーナの体調も良くなったところで、ガチャの時間だ!」


「そうでありますね。それで、ボックスガチャってどんなガチャなのでありますか?」


「お兄さんの様子からして、そこまで酷いガチャじゃなさそうね」


 ちょっと逸れ始めていた話を戻して、さっそくガチャを始めようと思う。

 ボックスガチャがどんなものかまだノール達に説明していなかったので、まずは説明をすることに。

 

「ふふ、このガチャはな、決まった数の中から引くという奴だ。そしてその中には、確実に入っている指定された物がある。引けば引くほどそれが当たる確率は上がるし、最悪引き切れば確実に手に入るというガチャなのさ!」


 まあ簡単に言えば、ボックスガチャはよく店に置いてるカプセルに入ったガチャみたいなものだ。

 箱に決められた数入っていて、その中から景品を引いていく真っ当なガチャ。

 それがボックスガチャ。


 そしてこのガチャは、目玉としてかならず良い物が混入している。

 さらにさらに、このガチャは総数が決まっているから、底まで引けば確実にその目玉の物が手に入るという、とっても精神的にリーズナブルなガチャなのだ。


「それはたしかに良心的ですね。ある意味確定ガチャじゃないですか」


「そんな都合の良い物なのか?」


 いつの間にか復活したシスハも、しれっと会話に混ざっていた。

 ルーナは俺の話を聞いて、疑わしそうに首を傾げている。


「母数にもよるんだけどな。それでも青天井系に比べたら、まだ上限があるだけマシって奴だ」


 やっぱりゴールが見えているのと見えていないのとじゃ、精神的苦痛が違うからねー。

 まあ総数決まってるし半分ぐらいで出れば勝ちだ! なんて思いながら、最後まで引けないとか笑えないパターンもあるけど。


「本当にそうなのでありますかねぇ……。大倉殿が言うと、嫌な予感がするのでありますよ」


「はは、それは母数を確認してからだな。さて、ガチャ、オープンッ!」


 まだガチャの目玉と総数は確認していなかったので、まずはその確認をしよう。

 いつものガチャ画面を開くと、単発、11連の横にボックスガチャが追加されていた。

 さっそくボックスガチャを選択し、中を見てみる。


 ――――――

 ボックスガチャ

 残り 275/275

・URカロン 1/1

・URエクスカリバー 1/1

・UR【ランダム】 3/3

・SSR【ランダム】 15/15

・SR【ランダム】 100/100

・R【ランダム】 155/155

 ――――――


 ほぉ、総数275か。って、うおっ! カロンちゃんが目玉じゃん! やばっ! それにエクスカリバーまで確定であるぞ! ルが付いていない、本物のエクスカリバーだ!

 うわー、やばい。超豪華なんですけど。これは引くしかないじゃない。


 ……あれ? 総数275? えっと、11連が1回魔石50個で、275ってなると……底引きに必要な魔石は……うえっ!?


「ちょ、待てよ! 275!? 上限275って!?」


「急に慌ててどうなさったのですか?」


「さっきまでの余裕がまるでないぞ」


 275ってことは、20回以上11連をしないと底まで引けない。つまり1000個以上は魔石を使うことになる。

 しかし俺達が今持っている魔石の数は……804個。足りない、圧倒的に足りない。


「ぐへぇ……これじゃあ底引きまでいけないぞ……」


「えっと、今何個魔石あるんでありましたっけ?」


「800個ぐらいかしら。底まで引けないわね」


「確実に引けないなら、今回は見送りか?」


「ぐっ……そういう訳にもいかない。今回指定されているカロンちゃん……この機会を逃す訳にはいかない」


 カロンちゃんはGCにおいて最強のユニット。もしここで召喚石を手に入れられたとしたら、最高の戦力増強になる。是非ともここで仲間に加えたいところ。

 だけど、底引きできない状態でボックスガチャに手を出すのは非常に危険だ。

 もし全て魔石を使い切ってお目当てが出てこなかったら、普通のガチャよりも心にダメージを負う。

 引き切る覚悟のない者は手を出すなと言われる程のガチャだからな……中途半端が一番いけない。

 

 しかし今日までだから今から魔石集めるをするのも無理だし、かといって諦められるかというと……無理だ。俺にこれを我慢するのは無理だ。

 くっそ、魔法のカードさえあれば……。


「URエクスカリバーもあるのでありますよ。これはたしかに、退くのは勿体ないかもしれないであります」


「そうね。それにいつものに比べたら、まだ当てやすそうな気がするわ」


「私でもURが引けるだろうか……」


「ルーナさんなら絶対引けますよ! 安心してください!」


 思い悩む俺とは違い、ノール達はスマホを見てこれから引くガチャを楽しみにしている。

 ……まあ、悩んでもしかたないか。それにいつも割となんとかなってるし、案外これも出ちゃったりしそうだ。

 運の良いノールやモフットもいるんだから、ここは強気でいこう。


「よし、それじゃあ挑戦といくか! 今回は16回引けるから、ノールとモフットとルーナは3回にして、俺とエステルとシスハは各2回ずつガチャろう。目標は勿論カロンちゃんだ。もし最後の1回まで引けなかったら……誰が回すかはその時考えよう」


「あら、ノールとモフット推しなんてお兄さんにしては弱気ね。いつもみたいに、俺が引くぜ! って言わないのかしら?」


「さすがにこれを逃したくないからな……ノールとモフットに多く引かせるのが無難だろう。ルーナはちゃんとしたガチャ初体験だからおまけだ」


 今は5人と1匹だからな。各2回ずつにするのが公平だが、このボックスガチャを逃すのはあまりにも惜しい。

 余った4回分をまずノールとモフットに優先して振り分け、前回のステップアップガチャしか体験していないルーナにも配慮して1回多くしておこう。


「それじゃあまずは、俺から引くぞ!」


「お兄さん、頑張って」


「ちゃんとしたガチャを見るのがこれが初めてだ。どういうものなのか、じっくり見させてもらおう」


 全員に見えるようスマホを机真ん中に置いて、ボックスガチャの11連ボタンをタップした。

 画面に宝箱が映し出される。そして宝箱は、銀、金、白、虹。虹で止まった。

 うひょぉー! まさかの1回目でUR! すげぇ! 俺すげぇ!


「きましたわー! 1発URツモですわー! ふぅぅ、気持ち良いぃぃ!」


「お、大倉さんが1発でURを引き当てるなんて……」


「これはこれで、後が怖いでありますね……」


 シスハとノールが不安そうな雰囲気で俺の方を見ている。

 なんだ、俺が1発でUR当てるのがそんなにおかしいか? ふっ、まあそれはいい。

 さっそく中身を確認しないとな。もしこれがカロンちゃんなら、1発終了の大勝利だ。

 

【Rぬいぐるみ、SRトマホーク、SRニケの靴、Rボーンネックレス、URディバインルクス、Rエストック、Rカトラス、Rクロムガントレット、Rお守り、R斧、Rチャクラム】


「うげっ!? これ、弓のURじゃん……」


「せっかくURが出たのに、嬉しくなさそうだな」


「いやまあ、嬉しいけどさ……これ、弓の専用URなんだよ……」


「あら、それじゃあ今は誰も使えないってこと?」


「そういうことだ」


 ディバインルクスは、弓兵のURユニット、フリージアの専用UR装備だ。

 つまりフリージアがいなければ持っていても全く意味がない。

 今までダブったことは何度もあったけど、使えないURが出てくることはなかった。

 だからと言ってハウス・エクステンションで使うのも勿体ない気がするし……一応残しておかないと。

 今後フリージアが仲間になってくれる可能性もあるしな。


「いつもダブっていたけど、こうやって誰も使えないURが出てくるってこともあるのね」


「ある意味、今までは運が良かったのでありますね。もしかしたら、ずっと使えない可能性もある訳でありますし」


「まあ、1発目からURは運が良いことに変わりはない。これは神が俺にガチャをもっと回せと囁いているんだな!」


「そんなこと言うなんて、邪神の類でありますか?」


「ちげーよ!」


 幸先良いスタートだというのに、邪神だなんて失礼な。

 ふふ、しかし本当に1発目からURが引けるとは運が良いぞ。

 今日は俺のガチャ運は絶頂を迎えているのかもしれない。

 この調子で2回目もURを引き当ててやる!

 

 このビックウェーブに乗って、俺は勢い良く再度11連ガチャをタップした。

 画面に宝箱が映し出される。そして宝箱は、銀、金。金で止まった。


【Rグローブ、R鉄の靴、Rジャンクリング、SRエクスカリバール、Rボーンナイフ、Rアニマルビデオ、Rおやつ、SRビーコン、SRコロナリング、SR守護の指輪、Rショルダーバッグ】


「ちくしょう……さすがに2連続は無理だったか」


「さて、次は私ですね! 大倉さんが当てられたんですし、私だって当てちゃいますよ! なんたってコンプガチャの最後を当てたのは私なんですからね!」


「シスハ、頑張れ。良いのを引くんだ」


「はい! お任せください!」


 シスハにスマホを渡すと、彼女は自信満々な顔をして11連ガチャをタップした。ルーナもそれを見て応援している。

 画面に宝箱が映し出される。そして宝箱は、銀、金。金で止まった。


【R釣竿、R食料、Rポーション×10、Rぬいぐるみ、SR祝福の首飾り、SRプラチナプレート、SRゴージャスシューズ、SRプロミネンスロッド、Rショートスピア、Rサンダーロッド、SR鍋の蓋】


「うぐっ……まだ、まだですよ!」


 1回目は微妙な結果だったが、シスハは続けて2回目も回し始めた。

 画面に宝箱が映し出される。そして宝箱は、銀、金。金で止まった。


【Rおやつ、SRエクスカリバール、Rメタルウィップ、R大剣、SRビーコン、R丸太、SR高級まな板、SRエアーロープ、SRツインサーベル、R籠手、R布の服】


「うっ、うぅ……どうして、どうしてなんですか……」


「よしよし、そう落ち込むな」


 2回とも微妙な結果で終わり、シスハは机に顔を伏せて泣いている。

 ルーナは泣くシスハの頭を撫でながら慰め、スマホを受け取った。


「それじゃあ次はルーナだ」


「ふむ、この前と違って沢山引けるのだな。私もURの1つぐらい引いてみたいぞ」


「はは、引けると良いな。でも、URを引くのは簡単なことじゃないぞ? 俺みたいな強運がないとな!」


「大倉殿の場合、強運なのでありますか……?」


「ある意味強運だと思うわよ」


 ルーナがスマホをまじまじと見つめて、URを引いてみたいと言っている。

 この前のステップアップではSSRだったもんな。

 けどそう簡単に出るほど、ガチャは甘くないぞ。

 

 画面に宝箱が映し出される。そして宝箱は、銀、金、白、虹。虹で止まった。

 あっれぇ……うっそん。

 

「むっ……ふふん、どうだ? 私は強運か?」


「ぐっ……ま、まさかルーナも1発でURを当てるなんて……おめでとう。運が良いな」


「さすがはルーナさんです!」


 ルーナは目を細めて得意げな表情をしながら、虹色の宝箱が表示されているスマホを俺に見せてきた。

 ぐぬぬ……素直に賞賛するべきなんだろうけど、なんだか悔しい。

 あれだけ強運じゃないとな! とか言っておいて、簡単に当てられちまったよ。

 俺の返事にルーナは満足したのか、スマホをタップして中身を確認し始めた。


【SR爆裂券、SRハイポーション×10、URブラドブルグ、SRビーコン、R刀、Rウィンドロッド、SRプロミネンスフィンガー、Rロングソード、R革手袋、Rボーガン、Rクロー】


「私の武器だ……これがダブりなのか? ハズレなのか?」


「そ、そんなことありません! ダブっても重ねられますから、ハズレなんかじゃありませんよ! そうですよね、大倉さん!」


「えっ……う、うん。そうだね」


「そうか。ならよかった」


 シスハの剣幕に押されてそうだと言ったが、実際俺の使えない専用装備に比べたら重ねられるダブりは遥かに当たりだ。

 ハズレじゃないと聞いてルーナは微笑むと、次のガチャを引くために調子良く11連ガチャをタップした。

 URを引いたからか、ノリノリなご様子。ガチャの喜びを知ってしまったか。


 画面に宝箱が映し出される。そして宝箱は、銀、金。金で止まった。


【SRエクスカリバール、R食料、Rぬいぐるみ、Rハサミ、SRウエストポーチ、R薄い本、SRタワーシールド、Rリンスー、Rゴム、R金塊、R消臭剤】


 そしてさらにもう1回ルーナはガチャを回す。

 画面に宝箱が映し出される。そして宝箱は、銀、金。金で止まった。


【SR鍋の蓋、R眠り薬、SR癒しの宝玉、Rランプ、SRスタビライザー、SR金のメイス、、R鋼の鎌、Rティアラ、Rサンダル、R催涙玉】


「むぅ……1個しかUR出なかった」


「いやいやいや、1個出るだけでも凄いからな!」


「ここまで結構良い調子かしら? 3つしかないURの内、もう2つも出てきたわよ」


「中身もだいぶ減りましたし、もしかしたらUR全部引けてしまうかもしれませんね」


 ここまで11連7回。そしてURが2つも出ている。

 出た物が微妙だったのは置いとくとして、レア度だけを考えるとかなり良い流れだ。

 11連を9回も残しているし、これならカロンちゃんも当てられるかもしれない。

 いや、かもしれないじゃなくて、引かなくちゃ駄目だ!


「よし、それじゃあ次はエステル! 頼んだぞ!」


「ええ、任せて。私だって運が良いところ、見せちゃうんだから!」


「おう、その意気だ」


 4番手はエステル。

 ルーナからスマホを受け取ると、小さくガッツポーズをしてやる気を見せてくれた。

 シスハで1度流れが途切れかけたが、このまま継続して高レアを引いてもらいたい。


 エステルは軽く11連ガチャをタップした。

 画面に宝箱が映し出される。そして宝箱は、銀、金。金で止まった。


【Rクロムナイフ、Rハードカバー、SRエクスカリバール、Rバール、Rハタキ、Rキャンドル、SRオートガードスフィア、SR幸福の指輪、Rキャンプセット、Rポーション×10、Rシャンプー】


「あら……」


「へーき、へーき! 次だ次!」


 SR止まりでエステルは眉を寄せて微妙な表情をしたが、気にするなと次を促す。

 

 エステルは少し押すのが怖いのか、んっ、と声を出しながら目を瞑って11連ガチャをタップした。

 画面に宝箱が映し出される。そして宝箱は、銀、金、白。白で止まった。

 

【SSRドレインアーマー、SR守護の指輪、R食料、Rおやつ、Rククリナイフ、Rシューズ、SRマジックシールド、Rキャンドル、SSRグリモワール【ルクスリア】、Rランプ、Rマジックポーション×10】


「……ごめんなさい。UR、引けなかったわ……」


「だ、大丈夫だ! SSRが2つも出たし、問題ないって!」


 エステルはしょんぼりと俯きながら、ノールの抱えているモフットの前にスマホを置いた。

 いくら流れが来てるからって、やはりURは手強い。

 残りは指定の2つにランダムが1つだし、総量が減ったとはいえ出にくい。

 URが出なかったとしても気にすることではない。むしろSSRを出しただけでも褒めるべきだ。


「よし、次はモフット! 期待しているからな!」


「モフット! 頑張るでありますよ!」


 ここからは運が良いと定評のあるモフットのターンだ。

 ノールに頑張れと机の上に乗せられたウサギは、鼻息をフンッ! と出して意気揚々と歩みを進めスマホへと向かう。


「おお、モフットが張り切っている。やる気だ」


「モフットさんは幸運の象徴ですから、きっと良いのを引いてくださいますよ」


「そうね。それにその後にはノールも控えているし、ここからが本番ね」


 ルーナ達もそんなモフットに期待を寄せ、皆からの視線を浴びながらモフットは11連ガチャのボタンを押した。


 まずは1回目。

 画面に宝箱が映し出される。そして宝箱は、銀、金、白。白で止まった。

 

【R食料、R興奮剤、SRビーコン、SSRウィンドブレスレット、Rヒノキの杖、R木の盾、SSR水蜘蛛、SRゴージャスガントレット、Rヘルム、Rショートボウ、SR鍋の蓋】


 次に2回目

 画面に宝箱が映し出される。そして宝箱は、銀、金。金で止まった。


【SRエクスカリバール、Rポーション×10、R固形燃料、R葉巻、SR高級布団、Rペンダント、SRクルクスイヤリング、Rシルバーブレスレット、Rローブ、R王冠、SRビーコン】

 

 そして3回目

 画面に宝箱が映し出される。そして宝箱は、銀、金、白。白で止まった。

 

【Rおやつ、R望遠鏡、SSRスパティウム、R寝袋、Rシャツ、Rネックレス、SRハイポーション×10、R草鞋、Rスピーカー、Rマジックダイナマイト、SRフランシスカ】


「げっ……モ、モフットでもURが出ないだと……」


「中身も減ってだいぶ絞られているはずなのに、モフットが外すなんて驚いたわ」


「やっぱりガチャは恐ろしいですね……」


「モフットが外したとなると、次は……」


 やばい……1番期待値の高いモフットがURを出せなかった。

 残りは4回、ノールの3回と余りの1回のみ。

 これはもしかして……と思うと、胃がなんだか痛くなってきた。

 だ、だけどあのノールのことだ。ノールならきっとやってくれるに違いない!


 スマホを手に取ったノールをじろりと見つめると、ノールはビクンと体を跳ね上げた。

 俺に合わせてエステル達も彼女に視線を向けている。


「ひぃ!? ど、どうして皆私を見るのでありますか!」


「だって……ねぇ?」


「最後の1回があるとはいえ、ここまで来るとほぼノールさんに全てが掛かっているようなものですからね」


「うむ。ノール、頑張ってURを引くんだぞ」


「俺はノールのことを信じているからな! ノールなら絶対カロンちゃんを引いてくれるって、信じているから!」


「だ、だから、こういう時にそういうことを言うのは止めるのであります! 無駄に緊張させないでほしいのでありますぅ!」


 俺達の期待の声に、ノールは泣きそうな声で叫んで答えた。

 ノールならやってくれるんじゃないか、そう期待しているのは俺だけではないようだ。


「うぅ、そ、それじゃあ、いくでありますよ」


「おう、ノールなら引ける、絶対引けるって!」


「がんばれ、がんばれ」


 俺とエステルの声援を受けながら、恐る恐るスマホを手に取り、11連ガチャをノールはタップした。


 まずは1回目。

 画面に宝箱が映し出される。そして宝箱は、銀、金。金で止まった。


【R靴下、Rぬいぐるみ、R香水、SRビーコン、Rマジックポーション、Rカトラス、R薄い本、SR水筒、R手投げナイフ、R手裏剣、SR脱出装置】


 2回目。

 画面に宝箱が映し出される。そして宝箱は、銀、金、白。白で止まった。


【SSRパワーブレスレット、SRビーコン、R食料、Rボーンリング、Rハードカバー、Rボディソープ、SRプラチナシューズ、R鉄槍、Rチャクラム、Rキャンプセット、SRウォーハンマー】


 そして……3回目。

 画面に宝箱が映し出される。そして宝箱は、銀、金、白。白で止まった。


【SRエクスカリバール、SR鍋の蓋、SSRアダマントアーマー、Rおやつ、Rトランシーバー、Rリンスー、SRエクリプスソード、Rマジックペーパー、SSR破城槌、Rマジックダイナマイト、SRゴージャスイヤリング】


「あうっ……も、申し訳ないのでありますよぉ……」


「マ、マジか……マジか……」


 ノールのガチャを終えて、俺の声は震えている。

 15回ガチャを回し、ボックスガチャの中身は残り110個。

 そして俺達が回せるのは、11連ガチャ1回のみ。


「さ、最後は、誰が回すのでありますか?」


「今回のガチャ運的に考えたら、URを出したお兄さんかルーナが適任かしら?」


「わ、私か? 正直、最後の1回を任せられても荷が重いぞ……」


「なら私が引きましょうか! コンプガチャの時の運をお見せいたしますよ!」


 最後のガチャを誰が回すのか、それを巡ってノール達が話し合っている。

 シスハは相変わらずこの状況でも、前向きにガチャを引くつもりのようだ。

 ……負けてられないな。


「俺が引いてみてもいいか?」


「あら、お兄さん、挑戦するつもりなのね」


「ああ、コンプガチャの時、シスハに教えられたからな。最後までガチャを信じる者にこそ、ガチャは微笑んでくれるってさ」


「うふふ、私を見習うだなんて、大倉さんもわかってきましたね!」


「駄目な方向に進んでいる気がするのでありますが……」


 諦めた者にガチャは微笑んでくれない。

 最後の最後、破滅の寸前まで頑張る者にこそ、ガチャは微笑むんだ!

 だからこそ、俺は今ここで、自分の殻を打ち破る!


「さあ、これが勝利へのラストアタックだぁ! うおおぉぉ!」


「……何故叫ぶ」


「お約束って奴ね」


「相変わらずなのであります……」


「意気込みは良しですね。結果が伴えばいいですけど」


 俺は最後のガチャを回す為に、叫びながらスマホをタップした。

 この魂と怨念を込めた渇望の一押し、必ずやURを当ててみせる! さぁ、来たれURよ!

 

 画面に宝箱が映し出される。そして宝箱は、銀、金――金。金で止まった。


「あっ」


 画面に金色の宝箱が表示されると、誰とはなしにその声が漏れた。

 金、金だ。金はSRの証。

 目を瞑って、チラッと少し目を開けて画面を見ても、やっぱり金の宝箱が映っている。

 あれれ……おかしいな? どう見ても金の宝箱が映っているよ?


【SRエクスカリバール、R食料、Rぬいぐるみ、SR鍋の蓋、Rポーション×10、R煙玉、R栄養剤、R弁当箱、SRビーコン、R革のベルト、Rスリング】


 そのまま何事もなく宝箱の中身が排出されて、俺はただ呆然とそれを眺め続けた。

 全てが排出され終わると、部屋の中はモフットの悲しむブーという鳴き声以外しなくなる。

 しばらくして、その沈黙を破りノールが俺に声をかけてきた。


「あ、あの……大倉殿?」


「……ふふっ、ふふふ]


 やっちまった、やっちまったよ……やっちまい過ぎて笑えてくる。

 はは、破滅の寸前じゃなくて、破滅しちゃったよ。

 笑おう、笑って全てを忘れるんだ。この悲しみ、苦しみの全てを。


「あは、あはは、あっははははは! ひひっ、うひひひ!」


 目を覆いながら、俺は立ち上がって腹の底から笑いを捻り出す。

 手の隙間から液体がこぼれ、頬を伝ってポタポタと床に流れ落ちていく。

 現実を見たくない、いや、認めたくない。


「な、なんなんだ一体……平八はどうしたんだ?」


「わ、笑いながら泣いているのでありますよ!?」


「お兄さん! しっかりして! 意識をしっかり保って!」


「あ、頭に回復魔法を施して……ああっ、効果がありません」


「と、とりあえず押さえつけるのでありますぅ!」


 俺はノール達に押さえつけらながらも笑い続け、だんだんと意識が遠くなると、目の前が真っ暗になった。

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[良い点] 見事な平八のガチャ廃人ぶり 漢です
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