竹林の探索
エステルがアンネリーちゃん達と遊んだ翌日から、俺達はまた狩りを続けていた。
現在魔石は802個まで貯まり、俺のレベルは78になった。
そして今日も狩りを終えて、冒険者協会に行く前に帰宅して一息ついている。
「へへへ、だいぶ魔石も貯まってきたなぁ」
「レベルも随分と上がったであります! それに今回の魔石集めは、なかなか楽しかったのでありますよ!」
「ノールの場合はキノコ集めていただけじゃない……」
日を跨いで地道にこつこつ貯め、ようやくここまで貯まった。
ディウスやグリンさん達も希少種を倒してくれているのか、ちょくちょく魔石が入ってきているのもやはり大きい。
頼み込んでグループを組んでもらったのは正解だったな……今度会ったら何かお礼をしておかないと。
「うふふ、これで次のイベントガチャが来ても存分に回せますね」
「シスハと平八はガチャになると浮かれているな。そんなにあれが楽しいのか」
「当たり前だろ! ガチャを回すのが俺の生き甲斐だからな!」
「もう少し別の生き甲斐を探すべきだと思うのであります……」
「お兄さんだもの。仕方ないわよ」
喜んでいる俺とシスハを見て、ルーナは首を傾げている。
前回のステップアップガチャは残念な結果に終わったからな……次はガチャの喜びを教えてあげられるようなガチャが来て欲しいぞ。
少し休んだ後、ルーナとシスハをそのまま自宅に残して、俺とノールとエステルでクェレスの冒険者協会に討伐証明をしに向かうことに。
ビーコンでクェレスに移動して協会の中へ入り、いつもの受付嬢さんに声をかけた。
「あのー」
「あっ、大倉さん。丁度良い時に来てくださいました」
「丁度良い時……ですか?」
「はい、お願いしたい依頼があるんですよ」
またしても依頼か……やっぱりBランク冒険者になると、こうやって依頼を頼まれることも増えるんだなぁ。
とりあえず話だけ聞いてみると、クェレスの西にある竹林でトレントが十数体も確認されたから調査を依頼したいという。
さらにそこにあるという魔光竹という輝いている竹を採取してきて欲しいと言われた。
調査は魔光竹を発見した時点で終了していいそうだ。
光る竹って……昔話にでも出てきそうだな。
「グランディスを単独パーティで狩れる大倉さん達なら大丈夫だとは思いますが、ご不安でしたら複数パーティも可能です。どういたしましょうか?」
「……単独パーティでお引き受けいたします」
もしかするとまたグランディスが発生した可能性がある。
普通なら他のパーティと一緒に行くのがいいんだろうけど、俺達の場合は色々と隠し事が多いから単独パーティの方がやりやすい。
受付嬢さんに単独パーティで受けると言い、詳細の書いてある依頼書を受けて取り俺達は協会を後にした。
「またトレントの異常発生か……どうなってやがんだ」
「そうでありますね……もしかしたらどこかに迷宮があるんじゃないのでありますか?」
「あるとしたら、アンゴリ遺跡の時みたいな状態なのかもしれないわね」
今度は西の竹林で大量発生ね……あっちこっちでトレントが溢れかえってるじゃないか。
ノールやエステルの言うように、これじゃアンゴリ遺跡の時に似ているな。
「うーん、それなら喜んでデストロイしに行くんだけどなぁ。トレントの出現範囲が広くてどこにあるのか見当も付かんぞ」
「そうね。ありそうな所を考えると……この前グランディスがいた所が怪しいぐらいかしら」
「今回の依頼が終わったらまた見に行ってみるのでありますよ」
アンゴリ遺跡は遺跡内に迷宮があったからあの周辺だけ魔物の異常が起きていたけど、クェレスはかなり広範囲に散らばって異常が起きている。
今まで異常が起きていた場所を考えると……クェレス周辺の地下に超巨大な迷宮でもあるのか?
……いや、さすがにそんなのありえないだろう。一体どうなっているんだ。
●
翌日、さっそく依頼対象の竹林へとやってきた。
今まで中世のヨーロッパみたいな感じだったのに、まさか竹を見ることになるとは……。
そんな元の世界を思い出す竹林を見ていると、竹の中に混じって不自然に生えている数本の太い木を発見した。
「……あれ、トレントじゃね?」
「竹林にいるせいで全く擬態できていないのでありますよ」
「あの木がトレントか? とりあえず串刺しにしてみよう。ていっ!」
さすがのトレントでも、竹の中にいたら全く擬態になっていない。平原に生えているよりも不自然だ。
もしかしたらただの木かもしれないけど、怪しいのでルーナが槍を投げて確認してみることに。
彼女が投擲した槍は見事に1本の木のど真ん中を貫く。
すると貫かれた木は苦しそうに枝を揺らしてもがき始めた。
「おぉ、動いたぞ」
「見事に当てましたね! さすがルーナさんです!」
「不意打ちされないっていうのはいいわね」
トレントだと判明した木はさっそく処理して、視界に入る木をルーナに槍で貫いてもらいながら先へ向かう。
発光している竹を探しながら奥へと進み、その途中10本ほど普通の木を見つけた。そしてその全てがトレントだ。
どんだけこの竹林にいるんだよ……見つけた木は全てトレントだって思った方が良さそうだな。
そんな感じでトレントの数に呆れながら進んでいると、地面が盛り上がり何かが飛び出してきた。
マタンゴと同じぐらいの大きさをした……タケノコだ。
「今度は歩くタケノコかよ……」
タケノコには両手と両足があり、手には先端にタケノコのような尖った物が付いた槍を所持している。
見た目はマタンゴより大きくてちょっと鈍足に見えるけど、武器を持っている分少し強そう。
「大倉殿、あれは食べ物を落としそうでありますか?」
「えっ……うん。一応タケノコは食材だから落とすとは思うけど……」
えぇ……魔物を見て最初に聞くことがそれなの? ノールが大丈夫か少し心配になってきたぞ……。
こいつも倒したらマタンゴみたいにタケノコを落とすのだろうか。
キノコもそうだったけど、元の姿知っていると何か食べる時に抵抗があるな……例によってこいつも美味いんだろうけどさ。
とりあえずステータスを確認しておくか。
――――――
●種族:バンブス
レベル:55
HP:1万5000
MP:300
攻撃力:800
防御力:1300
敏捷:10
魔法耐性:30
固有能力 急成長
スキル 刺突
――――――
それなりの強さだな。脅威になるほどじゃないけど。
「むふふー、さっそく倒して食材ゲットでありますよ! 最近の魔物は食べ物ばかりでニッコリしてしまうのでありますよ!」
「クェレスは食材があっちこっちにあるのだな。あの果物も美味かった」
「うーん、その解釈でいいのか俺としては非常に悩む……」
「細かいことは気にしたら駄目よ」
食べ物を落とすかもしれないとわかったノールは、喜々としてバンブスに向かい駆けて行った。
タケノコは槍を構えて迎撃しようとしようとするが、その槍を突き出す前に彼女の剣が槍の先端を斬り飛ばす。
そのまま斬り進んで行き、一瞬にしてバンブスはノールに切刻まれてバラバラになり光の粒子に変わる。
そして光が消えると、そこには立派なタケノコが転がっていた。
「さっそく収穫してきたのであります!」
「タケノコは普通……じゃなかった」
「微妙に色が違うところがありますよ。これもキノコと同じみたいですね」
ノールが持ってきたタケノコを見ると、先端の普通なら緑の草っぽい部分が銀色に変わっている。
さらに下にあるブツブツの部分も、普通なら赤いはずだが銀色だ。
これも誰が倒したかで味が変わるのか……またノールが喜びそうだな。
今回は狩りが目的じゃないので、バンブスの稀少種は探さずにまた魔光竹とトレント探しを再開。
ノールが凄く不満そうにブーブーと文句を言っていたが、今度じっくり狩りをしに来ると言って今日のところは諦めてもらった。
それから次々とトレントを見つけては倒し、たまに出てくるバンブスも倒しながら進む。
すると、ようやく竹林の奥から眩しいほどに輝く光を発見した。
「うおっ、本当に竹が光ってるぞ」
「あれが今回の納品対象の魔光竹ね。あの竹に魔素が沢山貯まっているわ」
根元から天辺まで発光している竹。3メートルあるかないかぐらいの竹にしては短い部類だが、この竹林の中で圧倒的存在感を放っている。
これが魔光竹か……アルデの森の魔光石と違って、なかなか見つからなかったから結構希少なのかな?
とりあえあず根元から切り落とし、六等分にして持ち帰ることにした。
これで目的の1つは達成だな。
「さてと、魔光竹見つけたからもう帰ってもいいんだけど……」
魔光竹を発見した時点で調査も合わせて終了なのだが……このまま帰っていいのだろうか?
ここに来るまでにトレントを30体近くも倒した。あきらかに異常発生している。
この様子だと、この竹林のどこかにもグランディスがいるかもしれない。
一応いるのかだけでも探しておいた方がよさそうだ。
「そうね……とりあえずトレントを倒しながら、グランディスがいないか探してみましょうよ」
「あれがまたいるのかもしれないのか……この前縛られたから少し嫌だぞ」
あの時のことを思い出しているのか、ルーナはげんなりした様子。
それを見たシスハが、鼻息を荒くしながら頭が痛くなるようなことを言い出した。
「ご安心ください! 今度は私が絶対に守りますからね! 最初に突撃してみせますよ!」
「お前は一番突撃しちゃ駄目な立場だろうが!」
ふざけるな! 回復役なのに真っ先に魔物に飛び込んで行こうとする神官とか、どうなってるんだよ!
相変わらずのシスハに頭を抱えつつ、気を取り直して竹林の探索を始めた。