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エステルのお出かけ

 今日はこの前マイラちゃんと約束した、エステルがアンネリーちゃんに会いに行く日。


「本当にお兄さんは一緒に来てくれないの?」


「んー、やっぱり俺が行くのはちょっとな」


 待ち合わせ場所であるクェレスの冒険者協会前へエステルを送る途中、彼女は眉を寄せて俺に一緒に来てくれないのかと尋ねてきた。

 今日は協会まで見送りをした後、俺は帰るつもりでいる。せっかく同じ年頃の女の子達と遊ぶというのに、俺が行くのはどうかと思うし。

 だけど俺が傍にいなくなるのが不安なのか、昨日一緒に行かないと言ってからずっと複雑な表情をしていた。初めて友達と遊ぶことに対する喜びと心配も混じっているのか、ソワソワと落ち着かない様子だ。

 今までエステルが1人で外へ出ること自体なかったからな……これで少しでも1人で出かけることに慣れてくれるといいんだけど。


「そう不安そうにするなって。初めてだから気持ちはわかるけど、ただ遊ぶだけなんだからさ」


「そうなのだけど……なんだか魔物と戦うよりも緊張しちゃうわね」


 魔物と戦う方が気楽というのはどうかと思うんですが……聞いてる俺の方が不安になってくるぞ。

 まあ俺としても人と会うよりは、普通に狩り三昧している方が気楽だとは思う。

 口には出さないけどな!


「エステルならすぐ馴染めるって。いつもどおりの自然体で楽しんでこいよ」


「……そうね。せっかく会えるっていうのに、不安そうにしていたら失礼だものね」


「そうだ、その調子だぞ」


 協会が近くなってようやく決心したのか、エステルは小さくガッツポーズをして少し引き締まった表情に変わった。

 この調子なら大丈夫そうだな。まあエステルはしっかりしているし、そこまで心配するようなこともないか。……戦闘さえしなければ問題も起こさないだろうし。


 エステルが気を持ち直したところで、ようやく冒険者協会が見えてきた。

 そして既に協会の前にはマイラちゃんが待っていた。


「あら、遅かったかしら。待たせたようでごめんなさいね」


「いえいえ、私も今さっき来たところですよ。それにまだ迎えの馬車も来ていないので大丈夫です」


 待たせたら悪いと俺達も少し早めに来たつもりなんだけど……まさか先にマイラちゃんがいるなんて。

 エステルに声をかけられると、この前と同じように頬を赤くして嬉しそうに微笑みながら返事をしている。

 うーん、本当に敵意を向けていた時とは別人のように反応が変わっているな。

 それほどエステルの魔法が強烈だったんだろうか……。


「今日はエステルのことよろしく頼むよ」


「た、頼まれるなんて恐れ多いですよ!」


「あはは……まあそんな畏まらないで、仲良くしてくれると助かるよ」


 マイラちゃんにお願いをすると、慌てた様子で両手をブンブン振っている。

 なんだか少し大袈裟過ぎる気はするが……まあまだそんなに話したりしていないし、これから改善されることを願うよ。

 エステルもその様子を見て少し苦笑しつつ、適当に雑談を始めた。


 それからしばらくして、協会の前に一台の馬車が。

 そして中から人が飛び出し、エステルとマイラちゃんの間に入って2人を抱き寄せた。


「エステル、マイラ、お待たせ!」


「きゃっ!? も、もう……急に抱き付かないでよ」


「えへへ、ごめんねー」


「アンネリーはいつもこんな感じですから……」


 アンネリーちゃんに抱き付かれて、エステルが頬を赤くして戸惑っている。

 おぉ……珍しい。エステルが本当に恥ずかしそうにしているぞ。

 平気な顔して俺とかには恥ずかしいこと言うのに、同じ年頃の子にはこんな感じになるのか。

 マイラちゃんはもう慣れているのか、苦笑しつつそれを受け入れている。

 アンネリーちゃんはよく抱き付く子なんだなー。


 そんな感想を抱きつつ、俺は馬車の御者をしていたエゴンさんに声をかけた。


「エゴンさん、お久しぶりです」


「ああ、久しぶり。今日は普通の格好なんだな」


「あはは……今日は依頼とかもないので」


 狩場に行く訳じゃないから、今は鎧を着けていない。

 普通の格好をしている方がおかしいとでも思われているのだろうか……。

 軽く挨拶を終えると、さっそくエステル達は馬車へと乗り込んだ。


「それじゃあ夕方前にはまたここで待っているからな。何かあればあれで連絡してくれ。もし俺がいなかったら協会内で待ってるんだぞ」


「ええ、わかったわ」


 帰りもアンネリーちゃんの馬車で協会前に送ってもらうことになっている。

 日が落ちる前にはまたここにエステルを迎えに来るつもりだ。

 何かあったらトランシーバーで俺に連絡をしてくれと伝えて、発車した馬車を見送って俺は自宅に帰った。



「おかえりなさいでありますー」


「おう、ただいま」


 家に入ると、居間でモフットのブラッシングをしていたノールが出迎えた。

 布の上にべたりと倒れこんで、プーと鳴きながらモフットは気持ち良さそうにしている。


「エステルどうだったでありますか?」


「大丈夫そうだったぞ」


「そうでありますか。よかったのでありますよ」


「なんだ、ノールも心配だったのか?」


「予定が決まってから不安そうにしていたでありますからねー。心配ないようなら安心したのでありますよ」


「あー、そうだったのか。昨日から気がついたけど、そんなに前から不安そうにしていたのは気が付かなかったわ」


 まさかそんなに前から不安そうにしていたなんて……そういうのには鋭い方だと自負していたのに。


「それで、エステルがいない間はどうするのであります? 狩りにでも行くのでありますか?」


「いや、狩りに行くかは後で考えて、まずはじっくり合成機でも弄くろうと思ってる」


「おぉ! 本格的に合成を始めるのでありますね!」


 エステルがいないから今日は本格的な狩りをするつもりはない。行くとしてもちょっと魔石集めに行くぐらいになりそうだ。

 それよりも、せっかくだからそろそろまた合成機を使ってみよう思う。


「って言っても良い素材がない訳なんだが」


「トレントの丸太を合成してみるのはどうでありますか?」


「そうだな。大量にあるし混ぜてみるか」


 やってみようと思ったけれど、前回毒を付加してから目ぼしい素材を手に入れていない。

 ベヒモスの角は勿体ないからまだ使う気になれない。

 そこでノールがトレントの丸太を使ってみたらどうだと言うので混ぜてみることに。

 護衛依頼を終えてからも魔石集めを続けて、現在625個貯まっているから合成機の消滅防止用に少し使うなら問題ない。

 という訳で、エクスカリバールに混ぜ込み12回目で成功したのがこちら。


 ――――――

●エクスカリバール☆29

 攻撃力+3290

 行動速度+190%

 状態異常:毒(小)

 木特効:ダメージ+10%

 ――――――


「どうなのこれ?」


「木特効……木こりにでもなるのでありますか?」


「ならねーよ! まあトレントを倒すのには使えるか……」


 うーん、木特効って……トレントに対してダメージが増えるならいいけど、その前に触手で絡み取られるからあまり嬉しくないような……。

 まあないよりはマシか。これ以上魔石を消費して付けるか悩ましいところだけど。


「いやー、それにしてエクスカリバールも随分と立派になったもんだ。見ろよこの輝きを」


「輝きは変わってないと思うのでありますよ……確かに性能的には立派でありますけど」


 改めてエクスカリバールを見ると、本当に幻想的な金の輝きを放っている。

 ノールは気のせいとか言っているけど、最初に比べたら絶対輝きが増してるってこれ。なんだか愛着が湧いてきたよこのバールに。

 いつもお世話になっている感謝を込めて、モフットの手入れをしているノールに近くで俺もバールの手入れを始めた。

 そして先端の刃のようになっている部分を弄くっていると。


「イテッ!?」


「大丈夫でありますか!」


「ああ、ちょっくら指先切っただけだ。掠っただけでこれって……バールなのに先端の切れ味半端ないんですが」


 ちょっと指をスッ、と通しただけなのに指先が少し切れた。

 さすがは強化を28回も繰り返しただけはあるな……。


「あれだけ強化されてるでありますからね……って、落ち着いてる場合じゃないのでありますよ!」


「ん? どうしたそんなに慌てて」


 自分のバールの切れ味に少し感心していると、急にノールが騒ぎ始めた。


「毒! それ毒付加されてるでありますよね!」


「あっ……あっ!? やべぇ! シスハ、シスハ来てくれー!」


 そういえばこれ毒付加してあった! 小とはいえ、そのままにしておくとやべぇ!

 俺も慌てて叫び、家のどこかにいるシスハを呼び出した。


「全く……急に呼ばれて何事かと思いましたよ。まさか自宅で毒状態になる人がいるなんて」


「ホント参ったよ。誰だよエクスカリバールに毒付加した奴」


「大倉殿でありましょ……手入れをする時は注意しないと駄目でありますよ」


 シスハは自分の部屋にいたみたいで、呼んだらすぐに出て来てくれた。

 そして呆れながら俺に状態異常回復の魔法をかけている。

 いやー、この世界に来てから初めて毒状態になったわ。小だったから大してダメージはなかったけど危なかった……今度から手入れをする時は注意しないと。


「んー、それじゃあそろそろ狩りにでも行こうかな」


「エステル抜きでどこに行くのでありますか?」


「うーん、そうだな……後で迎えに行かなきゃいけないから、軽くブラックオークでも行くか。あれぐらいなら俺だけでも狩れるから、ノール達はそのまま好きなことしてていいぞ」


 やることも終えて、ようやく狩りに行くか考え始めた。

 エステルを迎えに行くから疲れるような魔物は相手にしたくない、

 そうなるとやはり相手はブラックオーク。

 さすがに毎度毎度つき合わせるのは悪いので、今回は俺だけで行ってくると言ってみたのだが……。


「駄目でありますよ! 大倉殿1人で行くなんて危ないのであります!」


「そうですよ。それに1人で殺りに行くなんてズルイです。私もお供いたしますよ」


「そ、そうか? じゃあシスハと一緒に行くよ……」


 ノールとシスハがそれぞれ違った主張で駄目だと言った。

 ……シスハの方はなんか物騒なこと言ってませんか? ま、まあ一緒に来てくれるなら助かるけど。



 シスハと一緒に軽く狩りをして、魔石を30個ほど集めて今日の狩りは終了。

 そして帰宅した後、俺はクェレスにビーコンで移動して協会でエステルを待つことに。

 しばらくしてまたエゴンさんが御者をしている馬車がやってきて、笑顔で楽しそうにしているエステルとマイラちゃんが降りてきた。

 最後にまた軽くアンネリーちゃんはエステル達に抱き付くと、手を振りながら馬車に乗って帰っていく。

 そしてその場でマイラちゃんとも別れて、俺はエステルと帰宅した。


「ふふふ、お兄さんが言ったとおり杞憂だったみたい」


「だろ? 遊んでくるだけなんだから、そう緊張することじゃないってことだ」


 行きの不安そうな表情が嘘のように、帰ってからもずっとエステルは嬉しそうに微笑んでいる。

 どうやらアンネリーちゃん達とは仲良くやれたようで、とても満足しているみたいだ。


「……平八はその状況になったらガチガチに緊張していそうだ」


「う、うるさい! 余計なことを言うな!」


「図星でありますか」


「本当に大倉さんはわかりやすいですねー。相変わらず見ていると面白いです」


 夕方前に起きてきたルーナが俺の言葉を聞いていらぬことを言っている。

 ず、図星に間違いはないが……今はそんなこといいだろう! というか俺を見てシスハは楽しんでるんじゃあない!


「マイラからリスタリア学院の授業の話とか聞いたけど、面白そうなことをしているみたいね」


「へぇー、エステルが興味持つほどのことなのか」


 エステルが面白そうって言うなんて、結構リスタリア学院って凄いことしているのか?

 気になって聞いてみると、簡潔に彼女は聞いたことを説明してくれた。

 まずリスタリア学院は軍を目指す魔導師と、魔導具などを作ったり研究をする魔導師で分かれるらしい。

 マイラちゃんは魔導具を作ったりする方の進路で、魔光石を加工したりポーションなどを作ったりしているそうだ。

 だからこの前クリスティアさんの研究所で見学をさせてもらっていたとか。

 

 そして軍の方はと言うと、そこまで詳しくはないみたいだけど魔法による戦闘や、ワイバーンっていう空を飛ぶ魔物に乗る訓練をしているらしい。

 ワイバーンって言ったら竜みたいなあれだよね……。

 

「……なんで魔導師がワイバーンに乗る訓練なんてしてるんだ」


「ワイバーンに乗れるなんて楽しそうでありますね! 私が乗って竜騎士なんて……むふふ」


「でもそれだとノールは攻撃手段がないじゃない」


「あっ……そ、そこは気合でありますよ!」


「気合でどうにかなる問題なのでしょうか……」


 ノールが想像しているのか怪しい笑いをしている。

 まあ乗りこなすのは問題なさそうだけど、剣が武器のノールじゃ乗ったところで何もできないじゃないか。

 

 それにしても……もしかしてこの国の軍ってそれなりにしっかりしているのか? 空の戦力まで整えているなんて……。


「私なら槍で攻撃できるからワイバーンに乗るのも良いな。自分が動かずに攻撃できるなんて最高じゃないか」


「選ぶ基準はやっぱり楽ができるかどうかなのか……」


「無論だ。動いたら負けだと思っている」


 凄いなーと感心していると、またルーナが気が抜けるようなことを言ってきた。

 シスハと仲良くなったのは良いけど、怠惰な性格は治ってくれないんだな……。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ルーナと書いてニートと読むのかな
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