ガチャの狂気
「作戦会議をするぞ」
「一体何が始まるのでありますか……」
俺達は宿へ戻ると早速いつもの部屋を借りた。そして、テーブルで向かい合い今後の作戦を話し合う。
全ては先ほど出た告知【URユニット排出2倍キャンペーン】が原因だ。キャンペーンは明日から10日後に開催とバナーに書いてある。
それまでに可能な限り魔石を集めなくてはならない。
「そういう訳で計画を言うぞ。反論は認めない、おーけー?」
「おー……けーはしないでありますよ! 反論言われるような計画なのでありますか!?」
「いや、大丈夫だよ。ちょっと無茶するだけだから」
「全然大丈夫な気がしないのであります……」
不安そうな声を出すノール。俺だってそんな無茶は言う気ないさ。
「まあ簡単に説明するとだ。まずいつもの森に行ってブラックオーク狩りをする」
「いつもと変わらないでありますな?」
魔石を落とすのはブラックオーク。なので、こいつを狩ることは確定している。
「しかしだ、いつもの狩りだと10時間狩ったとしても、1日辺りの魔石効率は10から11個。これじゃ駄目だ」
「と、言いますと?」
1回11連するのに、50個必要。今までのペースでやっていたら1回引くのに5日近くかかってしまう。
今までの1日の狩りはだらだらと森に行き、帰りの時間も含めて2時間程使っていた。さらに狩りは2、3時間と緩く、暗くなる前には帰っていた。
だから1日に稼ぐ魔石の量も多くて5個ぐらい。こんなペースじゃお話にならない。
「なので、この1日の効率を50個近くまで上げる画期的な案を思い付いた」
「おぉ~、それは凄いでありますな。5倍でありますよ。で、どんな方法でありますか?」
効率を上げるにはどうしたらいいか。効率を上げる、つまりはブラックオークを狩る速度を上げるということだ。
現状でもブラックオークはノールが一撃で倒すことができる。ならどこで時間を短縮するか。
「リポップ場所に突っ込む」
「……へ?」
「だからリポップ場所に突っ込むんだよ」
そこでこの俺は考えた。今までは奴らが森から出てくるまで待っていた。倒すのが一撃ならば、あとは遭遇する時間を縮めるしか無い。
ならば最短はリポップする場所を探せばいいんだ。魔物は自分達の領域から一定以上普段は出てこない。だが、領域の近くに人が通ると出てくるのだ。
森で狩りをしている時に、その範囲はよくわかった。例外としては一定以上の数になると、群れとなり出てくることぐらいだろうか。
「森の中に入るつもりなのでありますか!?」
「そういうことだ」
「危険なのであります! 無茶なのであります! 迷子になるでありますよ!」
「そこでこの地図アプリの出番。これで迷子にもならん。一度行って場所を指定しておけば、リポップ場所もすぐに行ける。さらに敵の位置も分かる」
スマホをノールに見せる。この地図アプリ、敵の場所を赤い点で表示してくれるのだ。地図上に印を残すこともできるので、一度行ってしまえば後は簡単。
森の中だと視界も悪く、敵の接近に気が付き難いかもしれない。しかし、これさえあればそれもわかる。
「戦闘に関してはノール。お前に頑張ってもらう」
「ひっ、お、鬼でありますか大倉殿!」
「俺に一生付いてくるって言っただろう?」
「そ、それとこれは話が……」
困ったような声で、ノールは人差し指を合わせてもじもじしている。
彼女がいなければこの計画は成り立たない。
「頼むノール、お前だけが頼りなんだ」
「う、うーん……わかったでありますよ……」
「その言葉が聞きたかった」
納得いかないといった様子だが、首を縦に振らせることができた。
これでもう嫌だとは言わせんぞ。
「で、1日の狩りは50個を目標とする」
「ご、50!? それ例えじゃなくてノルマだったんでありますか!?」
「安心してくれ、休憩はちゃんと取る。それに帰りはこれを使う」
1日50個、10日間で10回分引ける数を集める。GCの確率と同じならばURは1%。2倍なら確率的に11連5回に1回はURが出るのだ。
帰りの時間も惜しいので、帰りにはこないだ引いたビーコンを使用する。本当は部屋に設置しておきたいが、そうする訳にもいかないので街の外にある人気の無い草むらに隠しておく。これで帰りは一瞬だ。
「繰り返すぞ。1日の目標個数は50個。可能な限り魔石を集めるんだ」
2、3時間で10個近く取れる。つまりは10時間ぐらいやれば50個ぐらいはいけるのだ。
朝ちょっと早く起きて、少し長めに狩るだけだ。うん、問題ないな。
●
魔石回収1日目。
俺とノールは早朝から森へと向かった。森の付近にまで来ると、当然ゴブリンやオークが中から出てくる。
いつもならここで待ち構え、出てきた奴を狩っていく。しかし、今回はそいつらを瞬殺して森の中へと入っていく。
森の中はそこまで視界は悪くなく、日の光は入るので問題は無かった。オークが通るから草木が踏み潰されているのか、歩ける道のようなものもあった。ノールはいつでも対応出来るように近くにいる。
俺がスマホでマッピングしながら先へ進む。その間も魔物が襲ってくるがノールが瞬殺してくれる。
ドロップアイテムはリポップ場所が分かるまではスルーするつもりだ。マジックバッグを俺は前に回し肩に掛けている。これで拾って即入れる準備も万全。
「おっ、湧いたな。つまりあそこがリポップ地点か」
「魔物ってああやって湧くんでありますな」
木などが生えていない、少し広めの場所が見えた。そこには魔物を倒した時に光って消えるように、光が集まって魔物が誕生していくのが見える。
ここが魔物達のリポップゾーンね。早速地図アプリ上に印を付け足す。
「よし、次行くぞ次」
「えっ、あそこに留まって狩りをするんじゃ?」
「馬鹿言うな。誰が1つのリポップ地点で狩りするって言った?」
「鬼畜なのでありますよ……」
リポップ場所は間違いなく複数存在するはずだ。効率を考えるなら1つのリポップ場所だけじゃなく、複数のリポップゾーンをハシゴした方がいい。湧く時間を待つ間に、別のリポップ場所に移動し無駄を減らす。理想は湧き待ちの時間が無い状態での狩りだ。
「ふぅ、今日はこんなもんで終わるか」
「はぁ……はぁ……死ぬ……私死んじゃうであります」
「ビタミン剤逝っとくか?」
「それ、本当にビタミン剤でありますか?」
早朝から狩り続け、そろそろ空が夕焼け色になりつつある。今日は52個魔石が手に入った。
ノールも狩りで疲れているみたいだ。ビタミン剤と言い、雑貨屋で売っていたポーションを渡す。これで少しは元気になるだろう。
3日目。
リポップ場所を順番に回りながらの狩り。俺もゴブリンやオークを処理し、ドロップアイテムを拾っていく。
初日に5箇所のリポップ地点を見つけ、今は近い3箇所を順番に回っている。3つ目を狩り終えたら丁度1つ目が湧いているので効率はかなり良い。
「同じ魔物ばかりだと、気が滅入るのでありますな……」
「そうか? 楽でいいじゃんか」
湧いてすぐにノールは倒すが、若干元気が無いような気がする。俺はガチャ欲のおかげでやる気が有るが、彼女にはきつかったか?
「うー、しばらくはオーク肉食べたくないのであります……。最近夢にまでオークとゴブリンが出てくるでありますよ」
「あとたった7日だ。頑張ってくれよ」
7日と聞き、ノールはうぅーと唸る。本当にすまないと思っている。これが終わったら何か美味い物でも……食事は微妙かな?
本日も無事52個回収し、今日までに162個回収することができた。順調だ。
5日目。
早朝からまた狩りに来ている。が、俺達に会話はない。
俺が地図アプリで敵の位置を知らせ、ノールが無言で淡々と処理していく。
「大丈夫か?」
「私は大丈夫であります」
「そ、そうか」
「はい。私は元気であります」
まるで感情が無い返事に、少し背筋がゾクッとした。俺後ろからザクッと刺されるんじゃないかな。そんな考えが過る程だ。
本日までの成果は246個。ノールの反応が少し鈍くなっているかもしれない。俺も可能な限り狩ってはいるが、ドロップアイテムを拾うのを止め狩りに気を回すか。
8日目
「ブラックオーク、ブラックオークはよぉぉでありまずぅ。あっ、オークがいるでありますぅぅぅ!」
「おい、しっかりしろ! もうここは街だぞ! あとあれは人間だ、失礼だから止めなさい!」
「えへへ~、ノールお肉大好きなのでありますよぉ~」
今日は途中で切り上げて戻ってきた。魔石は今総数396個。元々の38個合わせての数字。少ない、予定より少ないぞ。
本来の予定ならばここで438個。今日は50個も回収出来ずに引き上げた。
ノールの挙動が途中で完全におかしくなったからだ。狩りの途中で笑いながら泣き始めてしまった。ヘルムを外しても正気に戻らず、仕方なくビーコンで帰ってきたのだ。
街に帰ってきても、太った人を見つけて指差してオークだと笑っている。失礼過ぎる。急いで抱き締めて押さえ付け、引きずりながらなんとか宿まで帰った。
「うぅ……オーク……オークがぁ……くっ、殺すでありまずぅ……」
「こりゃもう限界か?」
ベッドに寝かせると、すぐに彼女は寝てしまう。やはり精神的にきつかったかのだろうか。
夢の中でまでオークと戦闘しているようだ。あと2日しか時間は残されていない。
●ノール・ファニャ
レベル 16→24
HP 1940→2260
MP 230→310
攻撃力 450→530
防御力 315→355
敏捷 73→81
魔法耐性 30
コスト 15
●【団長】大倉平八
レベル 15→23
HP 810→890
MP 115→155
攻撃力 275→315
防御力 215→255
敏捷 39→47
魔法耐性 10