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リスタリア学院の護衛

「護衛依頼……ですか?」


「はい、大倉さん達に是非お願いしたいんですよ」


 最初にクリスティアさんに魔光石を渡してから十数日後。

 いつものようマタンゴの討伐証明をした後、クェレスの協会で俺達に護衛依頼を頼みたいと言われた。

 依頼主はリスタリア学院。日数は4日で報酬は50万G。ランク指名はCランク2パーティかBランク。

 護衛対象は生徒30名ほどで、町の外で授業の一環である採取をする為に護衛を頼みたいらしい。


「正直そんな大人数を護衛をするとなると、私達でやれるのか不安です」


 今のレベルは俺が73まで上がり、魔石の数は500個を超えた。

 あれからアルデの森も飽きたというのと、ペースを少し上げる為にレムリ山にも通っている。

 これなら次のガチャが来ても少し余裕があるから、依頼を受けても平気だ。

 だけど、いきなり30人以上の護衛なんて不安しかないんだけど……。

 

 それにリスタリア学院となると、マイラって子もいるかもしれない。

 会ってもいないエステルにあの反応だし、2人を直接会わせたくはないな。

 まあ、学院の中で30人ならいない可能性の方が高いだろうし、会うことはないと思うけど。


「大倉さん達はBランクじゃないですか。今この協会で大倉さん達は上から数えた方が早いぐらい実力のある冒険者なんですよ? 不安だなんて言わずに、どうかお願いします!」


 受付嬢さんは俺に依頼を受けてくれと頼み込んでくる。

 グランディスの発見報告から、トレントが異常発生していないか情報を集めているみたいだが、今のところそのような兆候はないらしい。

 だけどまだ終わったかわからないので、可能な限り強い冒険者に護衛をしてもらいたいと言う。


 うーむ、俺達が依頼主に指名された訳じゃないから断ってもいいんだけど、こう頼りにされるとなぁ。

 大人数の護衛は不安だけど、ガチャも余裕があるしここは受けておくか。


「という訳で、護衛依頼をすることになった。エステルも一緒に来てもらうけど、今回はあまり魔法は使わないでくれ」


「ええ、言われなくてもわかっているわよ。それより、お兄さんって相変わらず押しに弱いのね」


「まあ実際私達はBランクでありますし、頼りにされるのは当たり前だと思うのでありますよ」


 さっそく帰宅して、護衛依頼をすることになったとエステル達に伝えた。

 今回はリスタリア学院の生徒の護衛だから、エステルにはあまり派手な魔法を使わないようにも頼んでおく。

 アンネリーちゃんの護衛の時のような魔法を使ったら、大騒ぎになるかもしれないからな。


 しかし最近はなんだか依頼が多いな。

 そう考えると、これがBランクなんだと実感が湧いてくる。

 Aランクは見かけもしないけど、Bでこれなんだから依頼が多過ぎて町に居る暇がないのか?

 そう思うとBのままでいた方が良いような気がしてきた。


「大倉さん、ノールさん、エステルさん、頑張ってくださいね」


「おい、何待機する気まんまんなこと言ってやがるんだ」


「だって私はEランクですし、ルーナさんと一緒にいないといけませんから」


 俺達の話を聞いていたシスハは、膝の上にルーナを乗せてお茶を飲みながらそんなことを言い出した。

 また前みたいに行くつもりはないという発言をしていやがる……。

 護衛依頼だからルーナを連れて行く訳にはいかない。

 ルーナが留守番をするのは確定だ。

 だからってシスハまで留守番されるのは困るんだけど。


「ルーナさんだって、私といたいですよね?」


「そうだな。だけどちゃんと平八達と行ってこい」


「なっ!? ど、どうしてですか!」


「当たり前だろ。自分の役割を放棄してどうする」


「うぐっ……」


 俺が何か言う前に、ルーナがシスハに何言ってるんだと怒った。

 和解してからはいつも傍にいるけど、こういう時にちゃんと言ってくれるから助かるな。

 俺達の中でも、ルーナはまだ常識的な方だ。


「私はちゃんと自宅警備をしているから安心しろ。……久しぶりにたっぷり寝れそうだ」


「本音が漏れてるぞ……」


 これさえなければな……。



 そして護衛依頼の日がやってきた。


「あー、行きたくないです。休日が終わった次の日の感じがしますよ」


「神官が言うような言葉じゃないのでありますよ……」


「神官だって人間なんです。時には布団から出ないで1日過ごしたくもなります」


「お前……なんていうか、もう色々駄目だな……」


「シスハだもの。仕方ないわよ」


 シスハがうな垂れながら、ブツブツと呟きながら歩いている。

 ルーナと仲良くなったせいで、シスハにまで怠惰な性質が移ったのか?

 どこまで残念属性を付加されたら気が済むんだよ……。


 そんなシスハに呆れつつも、俺達は集合場所であるリスタリア学院の校門へ到着した。


「あのー、リスタリア学院の方でしょうか?」


 そこにはこないだ見たリスタリア学院の生徒と同じような服装をした、とても短い髪型の中年ほどの男性がいたので声をかけてみた。

 驚かさないように、今回はちゃんとヘルムを外してだ。


「そうですが……。あなた方は……冒険者ですかな?」


「はい、リスタリア学院から依頼があるというのでやってきました」


「おぉ、そうでしたか! 今回はよろしくお願いしますぞ!」


 クイクイと指で眼鏡を動かしながら、男性は返事をした。

 うーん、この人は先生なのかな?


「いやぁ、Bランクの方々に来ていただけるとは。これで安心して生徒達を連れていけますぞ」


「あはは……生徒さん達に危害の及ばないよう、尽力いたします」


「ははは、そう言ってもらえると頼もしいですな!」


 軽く挨拶をした後、生徒達が集まるまでまだ時間が掛かるから待っていてほしいと言われた。

 遅れたら悪いと思って早めに来たけど、先生が既にいるとは思わなかったな。

 早く来て正解だったわ。


「そちらのお嬢さんは魔導師……ですかな?」


「ええ、そうよ。何か気になることでもあるのかしら?」


「いやいや、冒険者をしている魔導師は珍しいのでつい」


「ふふ、そう。ならいいのだけど」


 男性は俺の後ろにいたエステルに気が付き、驚いた表情をして魔導師かと尋ねてきた。

 エステルが微笑みながらどうしてかと聞くと、少し慌てた様子で彼は返事をする。

 やっぱり魔導師が冒険者をしているのは珍しいんだな。


 それから少しして、ちらほらと生徒さん達が校門の前に集まってきた。

 エステルと同じぐらいの歳の子から、2、3歳年上に見える男女までいる。

 教師の男性に聞いてみると、リスタリア学院は入れる最低年齢は決まっているけど、その歳さえ超えていれば入学に制限はないそうだ。

 例えば俺だって入学することは可能だという……しないけどね。


 そろそろ全員集まったかと眺めていると、なんだか妙に生徒の集まりの中から視線を感じ始めた。

 なんだろうとそっちに視線を移すとそこには――マイラちゃんが。


「うげぇ……マ、マイラって子がいるぞ……」


「へぇー、どの子?」


「こっち見ているから、あんまり見ない方がいいぞ」


「あら、どうして私がこそこそしないといけないの?」


 マジか、マジかよ……いないだろうって考えていたけど、まさかの遭遇だと……。

 エステルに見るなと言ってマイラちゃんの視線に入らないようにしようとしたが、逆にエステルはつま先立ちをしてぴょんぴょうと体を伸ばして見ようとしている。

 こないだのことはちゃんと話しておいたのに……ああ、エステルが勝気な性格なの忘れてたよ。


「あのずっとこっちを見ている子? 手でも振ってみようかしら」


「おい! 刺激するようなことするな!」


「だってアンネリーの知り合いなんでしょう? よそよそしくしている方がおかしいわよ」


 エステルと目が合ったからか、マイラちゃんの視線は鋭さを増した。

 それでも何事もなかったかのように、エステルはニコニコと微笑んで見つめ返している。

 仕舞いには手を振ろうとしたので、さすがにそれは止めさせた。

 確かにエステルの言うことも一理あるけど、事情も知らずに刺激するようなことをさせるのはまずいだろ。


「エステルは怖い物知らずでありますね」


「あはは、エステルさんが何かを怖がるなんて、槍でも降って――ひぃ!? す、すみません……言い過ぎました……」


 シスハが笑いながら何か言い掛けると、マイラちゃんを見ていた視線をシスハに移してエステルは無言のまま見続けている。

 すぐにシスハは腰を90度に曲げ深々と頭を下げて謝罪をした。

 全く……相変わらずいらないことを言って怒らせる奴だな。


 シスハのおかげで微妙に場が和んだところで、ようやく生徒が全員集まったのか男性教師が確認をし始めた。


「全員集まっておりますな! それでは出発いたしますぞ! それと今回はこちらの冒険者の方々に護衛を頼んだので、失礼のないように!」


「あっ、ど、どうも」


 確認を終えたところで、急に俺達に手を向けて紹介をされた。

 そして全員の視線が一斉にこっちを向く。


 うっ、こう注目されるのは勘弁してほしいな……。

 まあ紹介される前からちらほらと見られていたけど。


「今回は脅威になる魔物が居るような場所ではないので、お力を借りることがあるかわかりませんが、どうぞよろしく頼みますぞ!」


「はい、お任せください」


 今回向かう場所は、そんなに強い魔物がいるところではないらしい。

 そこに向かう間に出てくる魔物は俺達だけじゃなくて、教師の男性も相手をするという。

 実戦がどんなものか見せるというのも授業に含まれているのか。

 

 生徒にそんな物を見せるのはどうなのかと思うけど、そこは異世界の学校だから俺の常識とは違うよな。

 魔物がいるような世界で、将来は軍に入る子だっているだろうし、このぐらいは当たり前のことなのかもしれない。



 クェレスの町から出発してから半日ほど経った。

 教師を先頭に目的地へと徒歩で向かい、俺達はその最後尾に付いている。

 俺はいつも通りモニターグラスで地図アプリを見ながら、魔物がこないか注意しつつだ。


「こんなことまでやるなんて、魔導師って大変なんだな」


「逞しい子達でありますね。この世界に来たばかりの大倉殿より体力ありそうなのであります」


「……情けなくて悪かったな」


 生徒達は皆少し大きめのバッグを背負っている。

 魔導師って皆エステルみたいに動くのが苦手なのかと思っていたけど、どうやらそうでもないらしい。

 中には疲れている女の子もいるみたいだが、そこは男の子が代わりに荷物を持ったりと微笑ましい光景も見られた。

 

 いやー、本当に逞しいな。

 最初歩くのがしんどくてノールにおんぶしてくれと言った俺とは大違いじゃあないか!

 ……自分でそう思うと悲しくなってくるけど。


「それにしても、生徒さん達エステルさんに興味津々みたいですよ。何人もちらちらとこっちを見ています」


「あら、シスハのことを見ている子達も多いみたいよ?」


「私は視線を全く感じないのであります……なんだか負けた気分であります」


「顔隠しているし当然だろ」


 最後尾を歩いている俺達のことを、前を歩いている生徒達がちらちらと見てくる。

 特に男の子からのシスハとエステルに向けられた視線が多いような気がするぞ。

 まあ確かにエステルは控え目に言ってかなり可愛いし、気になるのも仕方ない。

 シスハも見た目だけなら美人だし、年頃の男なら目を惹かれるだろう。中身があれだけど。


「エステルもあの子達みたいに学校に通ってみたいか?」


 楽しそうに会話している生徒達を見て、ふと俺はそんなことを言った。

 同じ魔導師で歳も近い子達を見ていたら、エステルだって通いたいと思うかもしれない。

 もしそうしたいって言うなら、俺としては叶えてあげたいな。


「興味がない訳じゃないけど、遠慮しておくわ」


「どうしてだ?」


「だって学園に入ったらお兄さん達と一緒に居る時間が減るじゃない? 私はノール達と一緒に居る時間が多い方が楽しいもの」


「お、大倉殿だけじゃなくて私達もでありますか……。嬉しいこと言ってくれるでありますね、エステルは! ぎゅっとしてあげるのでありますよ!」


「むぅ、ぐぅ……く、苦しいわノール……」


 頬に手を添えながら、エステルは頬を赤く染めて少し恥ずかしそうに言った。

 それを聞いたノールは彼女のことを抱き締めて頭を撫でている。

 いつもは俺ばかりに言ってくるけど、ノール達も含めてか……本当に嬉しいこと言ってくれるな。


「いやー、エステルさんは本当にこう、心にグッと来るようなこと言ってくれますね。惚れちゃいそうですよ」


「シスハに好かれたらめんどうなことになりそうだから嫌だわ」


「ひ、酷いですよ……」


「ふふ、冗談よ冗談。ごめんなさいね」


 シスハも嬉しかったのか体をクネクネさせていたが、エステルが好かれたくないと言うと地面に手を付いて落ち込んでいる。

 それを見てエステルは笑いながら冗談だと謝った。


 護衛依頼中だっていうのに、緊張感がまるでないな……まあ、仲が良いのは悪いことじゃないけどさ。

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2024/10/11 15:13 第六天魔王
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