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アルデの森

 グリンさん、ディウス達に協力をお願いしてから数日後。


「そろそろ狩りをしないといけないと思うんだ」


「えっ、いきなり何を言ってるのでありますか?」


 居間の椅子に座っていた俺はふと呟いた。

 そんな俺の言葉に、近くでモフットを撫でくつろいでいたノールが反応する。


「最近依頼やグループ作りに集中していただろう? そのせいで俺達自身の狩りが疎かになっていた。これはとても問題じゃないか?」


「確かにそうでありますけど……」


 コンプガチャを終えて以来、普通に狩りをするということがほぼなくなっていた。

 途中でステップアップガチャがあったけど、あれは迷宮報酬のおかげだ。

 

 これはいけない、ガチャに対する意識が低い、低過ぎるぞ!

 一応ステップアップの余りと迷宮や護衛中に倒した稀少種、さらにここ数日に入った魔石を合わせて100個近くは手持ちにある。

 だけど、この程度じゃまるでお話にならない。


「そうね。最近自分達で魔石集めもしていないし、少し狩りに集中した方がいいかもしれないわ。狩りをしなくても魔石が入ってくるとはいえ、それを当てにできるほどじゃないものね」


「うんうん、さすがエステルだ。よくわかっているじゃあないか」


「ふふ、褒めてくれてもいいのよ?」


 聞いていたエステルも話に加わり、俺の意見に賛成という感じだ。

 全く、エステルは最高だぜ!

 

 実際ここ数日で、ディウス達が倒してくれたのか数個は手に入ったのだが、このペースだと当てにできるほどじゃない。

 まだ始めたばかりだし、元々おまけ程度に入ればいいやって考えだったから問題はないんだけど。


 その話は別として、一応目的も達成して落ち着いてきたから、今の内に一旦原点回帰の狩りに戻り魔石を一気に貯めてしまいたい。

 コンプガチャという脅威のガチャを乗り越えた俺達にとって、もはや怖いガチャなんてないとは思うけど、魔石は多くあった方がいいはずだ。

 これから毎日ガチャをしようぜ、ってぐらい稼げたら最高なんだけどねー。


「まあ、魔石以外にも一応理由があるんだけどな」


「大倉さんが魔石以外にも理由があるなんて、珍しいこともあるんですね」


「俺を何だと思っているんだ!」


 家事を終えたシスハも会話に入ってくる。

 魔石を集めるというのが大きな目標なのだが、ここに来て1つ重大な問題が発生していた。


「で、理由なんだけど……そろそろレベル上げをしておこうと思うんだ」


「おぉ! ついにやる気になったのでありますか!」


「ああ、コストが足りないからな」


「……えっ?」


 そう、パーティの総コストに問題が発生していたのだ。


「ルーナの時もコストダウン使ったものね。あれからまともに狩りもしていないから、レベルが上がっていないってこと?」


「そういうことだ」


 ルーナの時はギリギリ回避したけど、今の使用コストは76。

 そして俺のレベルが現在63だから、コスト上限は77。

 コンプガチャからろくに狩りしなかったせいで、1しか上がっていない。

 これでは新しく召喚石が排出されたとしても出すことは不可能だ。


「なら、これからの狩りは経験値目当てになるのであります?」


「そうなると……レムリ山に行くことになるのでしょうか?」


 今の適正からすると、レムリ山でリザードマンを相手するのがちょうどいい。

 北の洞窟だとレベル差があるせいか、レベルを上げようとしても非常に遅くなっている。

 なのでシスハの言うとおりレムリ山に行くのが1番なのだが……。


「今のところレベル上げしやすそうなのはそこだな。でも、せっかくクェレスまで行けるんだから、新しい狩場を探すっていうのも有りだと思うんだ。もしかしたら北の洞窟並みに魔石を稼げて、経験値も入る場所があるかもしれない」


 新天地であるクェレス周辺の狩場にはまだ顔を出していない。

 だから、この機会に新しい狩場を探すのもいいと思うんだ。

 ……それにリザードマン相手にすると、ひたすら湧いて走ってくるからしんどい。

 強行軍中ならどんどん来い! って感じだけど、そうじゃない時はゆとりを持った狩りをしたいからな。



 クェレスの冒険者協会でBランク推奨の狩場を教えてもらい、アルデの森と呼ばれる場所へやってきた。

 俺、ノール、エステルの3人で2日掛けて移動し、到着した後ビーコンを使いシスハとルーナも現地へと呼んだ。


「ルーナ、こんな時間に呼び出して悪いな」


「構わない。最近早起きしているから平気だ」


 今は昼過ぎぐらいだから、ルーナが外に出るような時間ではない。

 しかし最近は夕方前に起きる生活をしていたおかげで、この時間でも十分活動できるようにはなっているようだ。

 いやー、ルーナも早起きするようになってくれてよかったよ。

 シスハと仲良くさせたことが、こんなところで良い方向に働くとは思わなかったぞ。


 全員揃ったので、さっそくアルデの森へ足を踏み入れた。

 森の中は背の高い木々が隙間なく生い茂っていて、若干視界が悪い。

 ランプを使うほどじゃないけど暗く、湿気が高いのかジメジメとしている。

 なんだか薄気味悪い場所だな……。


「それで、この辺りはどんな魔物が出るんですか?」


「冒険者協会で聞いた話だと、マタンゴっていう魔物がいるみたいだ。それとトレントも出るらしい。トレントが擬態しているかもしれないから、周りの木には注意しておいてくれ」


 この場所に出てくるのは、マタンゴと呼ばれる魔物みたいだ。

 どんな魔物かと聞いたところ、でっかいキノコだと言われたけど……一体どんな魔物なんだよ。

 マタンゴを倒すとキノコが出てくるみたいで、クェレスで魔法薬の素材として扱われているらしい。

 食用として好む人もいて需要がそこそこあるとか。

 

 あと、ここにはトレントも出るそうだ。

 魔物のランク的にはマタンゴの方が上みたいだけど、擬態があるから不意打ちに注意しないとな。


「おっ、反応があるぞ」


「トレントは攻撃をするまで反応しなかったから、マタンゴの方でありますかね?」


「たぶんな。こいつは動いているみたいだな……そろそろ見えて――」


 地図アプリで確認をしながら進んでいると、ようやく赤い点が表示された。

 トレントは接触するまで動かないから、この森にいるというマタンゴに違いない。

 反応がある方へ進んでいき、ようやく魔物の姿を確認できたのだが……。


「本当にキノコの化け物かよ……」


「倒したらキノコを落とすのでありますよね? 今夜は焼きキノコでありますよ!」


「えっ……」


 ようやく見つけたマタンゴは、俺の背丈より若干低い大きさの、帽子のような傘をしたキノコに足が生えているものだった。

 スマイターのキノコ版みたい感じで、そんな物体が俺達の前をゆっくりと歩いている。


 その魔物を見て、ノールが焼きキノコとか言い始めた。

 マジか、マジか……コイツが落としたキノコを食べるつもりかよ……。

 と、とりあえずステータスを確認しておこう。


 ――――――

●種族:マタンゴ

 レベル:55

 HP:1万

 MP:600

 攻撃力:600

 防御力:900

 敏捷:25

 魔法耐性:30

 固有能力 養分吸収

 スキル 胞子散布

――――――


 リザードマンに比べると若干弱いか?

 でも固有能力とスキル持ちなのが厄介かもしれない。

 養分吸収っていうのがよくわからないけど、胞子も撒くみたいだから近寄る時は注意するか。


「お兄さん、あれは魔法耐性高いの?」


「いや、それほど高くないぞ」


「そう、それならいいわね。えい」


 俺から確認を取ったエステルは、鞄から水色のグリモワールを取り出した。

 そして掛け声と共に杖を振り下ろすと、細く伸びた水がキノコの頭頂から股を真っ二つに切り裂く。

 体が左右に分かれたマタンゴは、そのまま倒れて光の粒子へと変化する。

 

 あ、相変わらず恐ろしい魔法を使うな……でも、火の魔法を使わない辺りちゃんと周りのことは考えているみたいだな。

 森の中で火の魔法なんて使われたら、森林火災になっちゃうよ。


「おっ、キノコでありますよキノコ!」


 マタンゴが消えた場所にノールが駆け足で向かい、ドロップアイテムを持って嬉しそうに戻ってきた。

 その手に握られていたのは、真っ青に染まった半球形の傘の付いた細長いキノコ。


「こ、これ本当に食べられるのか? 色がやばいぞ」


「明らかに毒あります、って色ですね」


 これが食用とか嘘だろ?

 完全に真っ青で毒があるとしか思えないんだけど……。

 

 そんなキノコを食べようとしているノールに引きながらも、また1体マタンゴを発見した。

 そしてまたエステルが土魔法を使い、岩でキノコを粉砕する。


「あれ、今度は色が違うキノコが落ちたのでありますよ?」


「……あら? ちょっと見せてもらってもいいかしら?」


「どーぞどーぞであります」


 またノールが回収してくると、今度は真っ黄色に染まったキノコだった。

 そのキノコを見て、エステルが何かに気がついたのか首を傾げながら手に取り確認し始める。


「このキノコ、どうやら魔素が多く含まれているみたいよ」


「へぇー、つまり魔法のキノコ、って感じか?」


「そう言ってもいいけど……わかりやすく言えば、MPが含まれたキノコみたいなものね」


 明らかに普通のキノコじゃないのはわかるけど、MPが含まれたキノコか……。

 だから魔法薬の素材になるのかもな。


「ということは、それを食べたらMPが回復するのか?」


「どうかしらね。でも回復するとして、これを食べようだなんて思わないけど……」


 これさえ食べれば魔力回復! なんてこの世界の魔導師がやってるところを想像しちまったぞ。

 実際はMPポーションとかにして飲んでそうだけど……これが入っていると思うと嫌だな。

 そんな微妙な雰囲気に包まれる中、エステルがジッとノールを見つめ始めた。


「な、なんで私を見るのでありますか?」


「食べる?」


「う、うーん……そう言われると迷うでありますね」


「迷うのか……」


 手に持っていたキノコをエステルは、差し出しながらノールに食べるか尋ねた。

 すると彼女は腕を組み合わせて、唸りながら考えている。

 

 普通こんなキノコ食べるか聞かれたら、即答で食わないって言うだろ。

 それなのに迷うなんて……ノールみたいな人が、1番最初に食べ物とは思えない物でも口にするのかもな。

 とても真似できるようなことじゃないよ。


 それからも次々とマタンゴを発見して、俺達は狩りを続けた。


「なんか凄いことになっちゃってるな」


「そうね。倒し方や誰が倒したのかで色が変わるなんて、ちょっと面白いかも」


「むふふ、私のキノコは銀色なのでありますよ! レア度が高そうなのであります!」


 キノコを回収し続け、袋の中には様々な色をしたキノコが入っている。

 どうやらこのキノコ、倒した人や倒し方で色が変化するみたいだ。

 エステルが魔法で倒すと、水は青、風は緑、土は黄色に変化した。火で倒したら恐らく赤になるだろう。

 

 そして今嬉しそうにノールが持っている銀色のキノコは、彼女が倒して落ちた物だ。

 食べたらメタル化しそうだぞ。


「大倉さんのは……なんとも言えない色をしていますね」


「はは、白と黒が混ざって最強に見えるだろ?」


「なんだか自暴自棄になりつつあるな」


 そして俺が倒して落ちたキノコは……灰色だった。

 シスハは真っ白なキノコで、ルーナは鮮やかな赤いキノコだ。

 なんか俺だけ凄く中途半端じゃないか? なんだか悔しい。


「って、楽しんでる場合じゃないだろ! 目的を見失いかけてるぞ!」


「あっ、そういえば魔石集めの為でもあったでありますね」


「そろそろ稀少種が出てきてもいいはずだけど……」


 もう結構倒しているので、稀少種が出てくる頃合だ。

 そう思っていると、ガサガサと木を揺らしながら何かが俺達の方へと近づいてくる。

 何が来るのか警戒して構えていると、俺達の目の前に現れたのは――キノコだった。


 マタンゴと同じキノコなのだが、大きさが倍以上はある。

 これが稀少種か……ステータスの確認だな。


 ――――――

●マダンゴ 種族:マタンゴ

 レベル:65

 HP:3万5000

 MP:1500

 攻撃力:500

 防御力:1500

 敏捷:25

 魔法耐性:40

 固有能力 養分吸収

 スキル 胞子射出

――――――


 なんだこれ? マダンゴ? ややこしい名前だな。

 稀少種だけあってやっぱりステータスが高い。

 それにスキルもなんだか強そうだ。

 

 さっそく戦おうと俺は構えようとした。

 だが、その前に頭上を赤い物体が高速で飛んでいきマダンゴに突き刺さる。

 それに続くように岩が飛んでいき次々とマダンゴの体を抉り飛ばしていく。


 突き刺さった物はルーナの槍で、少しすると光の粒子になって彼女の手元へと戻ってくる。

 そしてすぐにまたそれを投げて、マダンゴに風穴が増えていく。

 エステルとルーナによる遠距離からの集中砲火……魔物がかわいそうになってきたぞ。

 魔法耐性があるとはいえ、動きを止められている間に槍が次々と飛んでくるとか悲惨過ぎる。


「なんだ、稀少種だというのに手応えないな」


「動きも遅いし大きいから良い的ね」


 時間にして数十秒程度で、最後にルーナの槍が突き刺さりマダンゴは光の粒子へと変わった。

 落ちた物は通常サイズの倍以上ある鮮やかな赤色に染まったキノコだ。

 凄いあっさり倒しちまったな……ルーナ達相手じゃ仕方ないか。


 最初の希少種を倒してから、そんな感じでどんどん倒していき、今日のところは30体倒したところで狩りを終わらせた。

 あ~、たまらねぇぜ! やっぱり魔石が貯まっていく狩りをしていると、心が洗われていくようだ。

活動報告で書籍の特典に関する情報を載せました。

よろしければ目を通してくださると幸いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 全くエステルは最高だぜ そろそろ首輪の伏線回収ですね
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