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魔石の回収グループ

 シスハのお願いごとを聞いてから数日後。

 あれから馬を返して王都の冒険者協会でディウスの予定、さらに日を空けてグリンさんの予定を聞いた。

 ビーコンですぐ移動はできるけど、連続して違う協会に行くとクリストフにバレそうだからこんな手間のかかる方法を取っている。

 前はあんまり気にしてなかったけど、クリストフさんに会ってからはさらに慎重になったぞ。


「ようやく待ちに待った日がやってきたな!」


「おー! やっと私達の悲願が成就するのでありますね!」


 そんな訳で、今日はようやくグリンさん達と話をする日がやってきた。

 ディウスよりもグリンさんの方が戻ってくるのが早いので、今日はグリンさんと話し合い後日ディウスと話す予定だ。

 マーナさんに伝言を頼んだから協会で待ってくれているはずだけど、早めに行って来るのを先に待っておかないと。

 頼んでおいて待たせるのは悪いし。


「お兄さん達はしゃいでいるけど、絶対承諾してくれる訳じゃないのよ?」


「うっ、そ、そこは希望的観測ということで……」


 騒ぐ俺達とは違い、エステルが冷静に突っ込みを入れてきた。

 い、言われてみれば断られる可能性もあるんだった……で、でも、グリンさん達なら引き受けてくれるはず!


「それで、もし引き受けてくれると仮定して、どの装備を渡すのかちゃんと決めたの?」


「ああ、これを渡そうと思っている」


 さらに何を渡すのか聞かれたので、俺は候補にした装備を取り出した。

 今回渡す予定なのは守護の指輪、幸福の指輪、慈愛の指輪の3種類。

 全員合わせて7人いるから、これを1人1個ずつ渡すつもりだ。


「あら、指輪系だけなの?」


「今回はお誘いが目的だし、軽い挨拶程度で魔導具だけにしようと思ってな」


 武器が必要そうなアルミロさん達には、前にR品の武器を渡している。

 グリンさんやディウス達は既にある程度の装備は揃えているだろうから、今回は指輪だけにした。

 今残ってる武器や防具はSRばかりなので、下手に渡すと強力過ぎたりするかもしれないからな。

 

 武器や防具ならスティンガーの甲殻のような魔物の素材を渡し、自分達の装備を強化してもらうという方法もできる。

 そう焦ってあれもこれもと渡すべきじゃない。

 1番手に入りにくそうな魔導具を渡すだけでも、今は十分だろう。


「うっふふー、あっ、大倉さん達もう行ってしまうのですか?」


「おう、今日はグリンさんと話す予定だからな」


 鼻歌交じりにスキップをしながらシスハが居間へとやってきた。

 ルーナと仲良くなってからというもの、ずっとこの調子が続いている。

 あれから噛み付かれる回数も極端に減り、噛み付かれたとしても甘噛み程度しかされていないようだ。


 ルーナは相変わらず口数が少なく表情もあまり変わらないが、シスハの後ろを付いて回ったり、膝の上に座ってくつろいでいたりと以前は想像もできないようなことをしていた。

 落とすのに苦労しただけあって、シスハに対してかなり心を許しているみたいだな。


「シスハはやっぱり留守番するのかしら?」


「はい! ルーナさんとせっかく仲良くなれたんです! しばらくは私も外には出ませんよ!」


「それはさすがに困るんだが……」


 仲良くなったのは大変よろしいのだが、そのせいでシスハまで半引きこもり化し始めているのがよろしくない。

 今まで以上に構いたくなったようで、ルーナが起きて来た時の為に外に出たくないとか言い始めている。

 代わりにルーナは日が落ちてから起きていたのが、今は夕方前に起きるようになっていた。

 いつも遅くまで付き合ってくれていたシスハの為に、早起きをするようになったみたいだ。


「今のシスハ相手に何を言っても無駄なのでありますよ。ガチャのことで頭がいっぱいになった大倉殿と同じであります」


「えっ」


 そんなシスハの様子を見て、ノールがまるで俺がガチャのことを考えている時みたいだと言い出した。

 おいおい、なんて失礼なことを言うんだ!

 もうちょっとぐらい、理性的でクールだぞ俺は!



 魔物を狩る予定もないから、シスハを家に残したまま俺達は協会へと足を運んだ。

 そしてしばらく待つと、グリンさん、アルミロ、カミッラちゃん達が来たので、食事をしながら雑談ができる店で話をすることに。


 店に向かう途中、俺達のプレートを見てBに昇格したことを知ったグリンさんは、早過ぎると驚いていた。

 そうだよなぁ……冒険者になってからそれほど経っていないのに、もうBランクだもんな。

 ついこの前まで冒険者になる前の俺達を知っているグリンさんからしたら、そりゃ驚くよね。


「で、話ってなんなんだ?」


 食事を終えて一息ついた頃、グリンさんが口を開いた。

 よし、さっそく本題に入るとしようか。


「ちょっと事情があって、これを装備して希少種の狩りをお願いしたいんです」


「お、おい。それって魔導具だよな?」


「はい、そうですよ」


 指輪を取り出してグリンさんに見せた。

 色々と建前を考えたのだが、どうもいい考えが浮かばなかった。

 なのでここは素直にやってほしいことを伝え、そのお礼として俺達ができることを言って協力関係に持ち込もうと思う。

 ちょっとした契約みたいなものだな。


「この前も同じようなことしたが、もしかしてその続きみたいな話か?」


「あー、確かにそうなりますね」


「で、俺達にそれを頼みたいと?」


「そういうことです」


 俺の話を聞いたグリンさんは顎に手を当て、うーんと唸りながら考え込んでいる。


「俺達だけで希少種狩りなんて無理だ。俺達が積極的に狩りに行ける魔物じゃないんだぞ」


「ぼ、僕もブラックオークを相手にするのはちょっと……」


「無理だよねー」


 しばらく黙り込んでいたグリンさんが、無理だと口を開く。

 それに続いてアルミロとカミッラちゃんも無理だと言う。


「その点についてはちゃんと考えていますよ。受けてくれるのならこちらのスティンガーの甲殻も合わせてお譲りしますよ」


 しかしこの反応は想定済みだ。

 今のままのグリンさん達だと、狩れたとしても危険なのはわかっていた。

 なのでバッグからスティンガーの甲殻を取り出して、机の上に置いて見せる。


「うおっ、これがスティンガーの甲殻なのか。これさえあったら、かなり防具の質が上がるな……」


「ま、魔導具に加えて素材までもらえるんですか!?」


「グリンさん、アルミロ、この話受けようよ!」


 魔導具にスティンガーの甲殻まで渡すと言うと、グリンさん達は驚いていた。

 アルミロとカミッラちゃんは少し興奮気味で、この話を受ける気満々な様子。

 しかし、グリンさんだけは浮かれた様子もなく真面目な表情でまた考え込んでいる。


「大倉、どうして俺達なんだ? そこまでして俺達に頼むより、他の冒険者に依頼した方が確実に希少種を狩れるぞ?」


「これは一時的じゃなくて、継続してやってもらいたいものなんです。それに依頼と言えるほど強制するつもりもありません」


「あー、つまり大倉としては、普段狩りをしているついでに狩ってもらえたら程度の話ってことか?」


「そうですそうです! ですから、グリンさん達にこの魔導具をお渡しして狩りをしていただけたらなー、と思いまして。その代わり私達も何かあれば優先してお力になりますよ」


 確かに冒険者協会で依頼をし、ガチャ産の装備をしての希少種狩りを頼めばやってくれる人もいたかもしれない。

 だが、それでパーティとして認識されるかどうか怪しいところだ。

 グリンさん達は前からの顔見知りだから、こうやって頼めば認識されると思って今回話をしたんだしな。

 それにガチャ産の装備も信用できる人にしか渡したくないし。


「優先的に協力してもらえて、魔導具や貴重な素材まで貰える、か。それに強制する訳でもないと……本当に希少種を狩るだけでいいのか? 倒した後の素材や討伐報酬はどうなるんだ?」


「はい、本当にそれだけですよ。報酬などに関してはグリンさん達の自由にしてください」


「う、うーん……それだと俺達が得をしているだけな気がするんだが……」


「私達も十分得があるんですよ。魔導具に関しては、協力関係の証とでも思ってください」


 本当にただ倒すだけでいいと言われて、グリンさんはよくわからないという表情をしている。

 ガチャのことを知らなければ、これで俺達に何の得があるのか想像もできないだろうな。


「まあいい、わかった。その話引き受ける」


「本当ですか!」


「ただ、すぐに希少種を狩るのは無理だから勘弁してくれ。魔導具や素材を貰ったとしても狩れるかわからないからな」


「はい! 勿論そんな無茶は言いませんよ!」


 悩んだ末に、グリンさんは首を縦に振ってくれた。

 稀少種をすぐに狩れないというが、それは当然わかっていたことだ。

 引き受けてくれただけでも、今回の目的は十分達成しているから問題もない。


 引き受けてくれるということなので、さっそく指輪3種を並べてそれぞれ効果を言い、どれにするか選んでもらう。

 結果3人とも選んだものは守護の指輪だ。

 まあ皆近接だから当然それを選ぶよね。


「わぁー、凄い! 綺麗だよアルミロー」


「う、うん……そうだね。こ、こんな高価な物貰えるなんて、ちょっと体が震えてきたよ……」


 カミッラちゃんは受け取った指輪を見て凄くはしゃいでいる。

 アルミロは高級だと言われている魔導具を受け取ったせいか、若干体を震わせてはいるが、嬉しそうな雰囲気だ。


「それにしてもこれを付けて狩ってくれだなんて、変な話だな。一体何の為にそんなことするんだ?」


「えっと、ですね……その魔導具を付けて希少種を倒すと、それを通してある物が回収できるんです」


「うーん、よくわからないけど、魔導師関連の物って感じか?」


「はい、そんな物だと思っていただければと……」


「はぁ、俺達が聞いたところでよくわからなそうだな」


 ちょっと嘘が混じっているけど、ガチャ関連の話だから正直には言えない。

 グリンさんは魔導師関連ということでエステルの方をチラッと見ている。


 俺達のパーティーに魔導師がいるし、詳しい人以外は追求してくる人もいないだろう。

 ……クリスティアさんとかだったらめんどうなことになりそう。


「なんとか上手く話がまとまったな……」


「グループというより同業仲間って感じにしたのね」


「それで、パーティとして認識されているでありますか?」


 あの後スティンガーの甲殻も渡して話も終わったので、グリンさん達と別れ今日は自宅へ戻ることに。

 最初想定していたのと違った感じにはなったけど、ガチャ装備を渡して協力関係にもなれた。

 これでちゃんとパーティーとして判別されていれば、今回の目標達成なのだが……。


 頼む、頼むぅ! と念じながら、スマホを取り出しビーコン画面を表示する。

 結果は――。


「おぉ、成功だぞ!」


 無事に画面にはグリンさん達の名前が追加されていた。


「あれだけ協力するアピールをしたおかげかしら?」


「とりあえず上手くいってよかったのでありますよ~」


 ちょっと繋がりが薄いかなって不安だったけど、どうやらあれで成功したみたいだ。

 やはり協力の証だと言って指輪を渡したからかな?

 

 よし、これで成功するってわかったんだ。

 ディウス達にも同じように協力してもらえないかお願いしに行くぞ!



 グリンさんに頼みごとをしてから数日後。

 今日は王都へ行きディウス達と話をする日だ。

 さっそく協会へと向かい前回と同じように合流後、適当な店で雑談をすることになった。


「希少種を狩ってほしい?」


「ああ、この魔導具を付けて希少種を狩ってくれるだけでいい」


「ま、魔導具!? ちょ、ちょっと見せてもらえないか?」


 俺は稀少種は狩ってほしいことを伝え、指輪を見せた。

 魔導具と聞いて驚いたディウスが見せてくれというので手渡すと、指先で摘まんで色々な角度から指輪を確認し始める。


「これは俺達も使っているものだ。これは協力の証でもあるから、引き受けてくれるのなら受け取ってほしい。ちゃんと魔導具として効果があるから安心してくれ」


「ってことは、エステルちゃんもこれ付けてるの?」


「ええ。ほら、これよ」


「本当だ! やる、私やります!」


「おい!」


 俺達も付けていると言うと、ミグルちゃんが食いついてきた。

 それに返事をするように、俺の隣にいたエステルが付けている幸福の指輪を彼女へと見せる。

 するとミグルちゃんは興奮しながら、この話を受けると言い出す。

 それを慌ててディウスが止めるよう突込みを入れた。

 

「えー、だってエステルちゃん達とお揃いだよ? しかも指輪だよ? こんなの貰えるならやるしかないって!」


「確かに魅力的だけど、それに釣られて決めちゃ駄目だろ!」


 前からエステルのことを可愛いと言って好意を示していたけどここまでか……。

 それで引き受けてくれる気になってくれるのは都合がいいけど、ちょっと怖い。


「あの、その魔導具ってどんな効果があるんですか?」


 騒ぐディウス達を無視して、スミカちゃんがおずおずと手を挙げてどんな効果なのかを聞いてきた。

 守護、幸福、慈愛の3種類を机の上に置いて、各効果を説明していく。


「という感じでそれぞれ効果が違います」


「ディウス、やろう」


「ふむ、その耐久力が上がるという指輪が気になるな」


「スミカやガウスさんまで……」


 スミカちゃんは慈愛の回復魔法の効果と魔力の上昇を聞いて目を輝かせていた。

 ガウスさんも守護の指輪の効果を聞いて興味深そうにしている。


「そういうあんただって実は欲しいんじゃないの?」


「うっ……そ、それはそうだけど……で、でも、確認しないといけないことが色々あるだろう?」


 ディウス以外は乗り気だけど、さすがリーダーをしているだけあって彼はそう簡単に頷かないみたいだ。


「狩るって言ってもどんな希少種でもいいのかい? それにどのぐらい狩ってほしいんだい? わざわざ倒してもらいたいってことは素材目当てとかなんだろう?」


「希少種だったら何でもいい。別に素材とか欲しい訳じゃなくて、ただそれを付けて狩ってほしい。数や期間は決まってなくて、依頼や狩りのついでにそれを付けたまま希少種が狩れたらいいな程度なんだ」


「指輪型の魔導具で効果は凄いみたいだから、依頼や狩りの時はずっと付けることにはなりそうだけど……狩るだけでいいなんて、妙な話だね」


「疑うのはわかるけど、頼むよ! 引き受けてくれたら、俺達もディウスが困った時優先して力になるから! スティンガーの甲殻みたいな欲しい素材があったら、それも渡すからさ!」


 素材が欲しい訳ではなく、ただ希少種を狩ってほしいという部分でディウスは疑問を抱いているみたいだ。

 グリンさんにも疑われたけど、やっぱり怪しいよな……。

 でも、素材が欲しいとかいう理由にしたら、他の冒険者から買い取るか店に行って買えばいいって言われそうだし。

 だから希少種を狩ってほしいことを、ちゃんと言うことにしたんだよなぁ。


「う、うーん……そこまで言われると引き受けてもいいけど……僕達の方が得をするような条件を出してまで頼んでくるなんて、一体何の目的があるんだい?」


「ああ、実はな……」


 グリンさん達に説明した時と同じく、希少種を倒すと魔導具を通してある物が手に入ると説明をする。

 ディウス達も魔法に関しては詳しくないから、なるほどー程度で一応納得はしてくれた。

 エステルがいるお陰でそれで納得してもらえるけど、いつも誤魔化す口実にするのは申し訳ないな。


「わかった、その話引き受けてもいいよ。大倉には申し訳ないこともしたし、助けられたこともあるからね。条件も良いし、これじゃ断る訳にもいかないよ」


「おぉ! ありがとう!」


 色々と説明をして、ようやくディウスは首を縦に振ってくれた。

 そういう訳でさっそく指輪を選んで貰うと、ディウスとガウスさんが守護、ミグルちゃんが幸福、スミカちゃんが慈愛を選んだ。

 

 ようやく、ようやくこれで魔石自動回収の準備が整ったという訳だ!

 ふふふ、これからはさらに魔石回収が捗るぞ!

 また平八カーニバルの開幕は近い! ……かもしれない。

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