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魔導研究者

 冒険者協会の前で捕獲された俺達は、女性の後に付いてクェレスの町を歩いていた。


「大倉殿、本当によかったのでありますか?」


「まあ仕方ない。エステルを連れてくるのは断れたし、俺達が話して満足してもらえばいいさ」


「すぐに帰るって言ってたのに、遅くなったらエステルさんが怒りそうですけどね」


「うっ、ま、まあエステルなら事情を話せばわかってくれるはずだ……たぶん」


 女性のあまりの熱意に折れて、とりあえず俺達だけで話を聞くことに。

 エステルを連れてきてくれと何度も懇願されたけど、それ以上ごねるなら話自体しないぞと言うと、女性は不満そうにしていたが了承してくれた。

 勧誘するつもりはないとか言われても信用できないしな。


 女性の後に続いてしばらく歩いていると、ようやく目的の場所へと辿り着いた。

 住宅街から少し離れた場所にあり、全体が白い石で造られた二階建ての家。

 その隣には大きな工場に見える建物がくっ付いている。

 玄関は両開きの扉なのだが、片方なくなっており木質ボードをテープのような物で固定してあった。

 たぶん昨日暴走した人形があそこから飛び出したんだな……。


 中へ入ると物がそこら中に散乱していて、壁はあっちこっち穴が空いている。

 その光景に俺もノール達も絶句したが、女性は気にしないでくださいと奥へと俺達を案内していく。

 こんなの気にするなって言う方が無理だろ!


「ホント申し訳ありませんね、お時間取らせてしまって。私は魔導研究をしている、クリスティアっていいます。クリスとでも呼んでください」


「あっ、どうも。私は大倉平八です」


 荒れ果てた室内の様子に動揺しながらも客間へ案内され、クリスティアさんと対面するようにソファーに腰をかけた。

 ノール達も俺の両脇に座って、俺に続いて自己紹介をする。


「お礼が遅れましたが、昨日は助けていただきありがとうございました。いやー、昨日は本当に危なかったです」


「いえいえ。それより昨日のあれはなんだったんですか? 魔導研究をしているってことですから、魔導具みたいなものだってことはわかりますけど」


「よくぞ聞いてくれました! あれは今この研究所で開発中の魔導人形なんですよ!」


 昨日のあれは魔導人形っていうのか……まんまだな。

 ああいうのってゴーレムって言う奴なんだろうけど、俺のイメージだと岩とか鉄で作られたゴツイ物って思っていた。

 でも昨日見たのはスマートで人間に近い形をしていて、ロボットって感じだったな。

 魔法を重視している国っぽいし、魔導都市にはかなり力が入っているのかも。


「と言っても、あれは私が個人的に趣味で作っていたものなんですけどね。他の魔導具作る合間を縫ってコツコツ作り上げたんです」


「個人で作ったんですか!?」


「す、凄いのであります!」


「趣味の範囲であんなのを作るなんて……クリスティアさんは凄い研究者なんですね」


 趣味であれを作っただと……しかも個人で。

 この人ちょっとおかしい人だけど、かなり凄い人なのか?


「あはは、ありがとうございます。……まあ、暴走させてしまってあの有様なんですけどね」


 照れくさそうに頭をかきながらクリスさんは笑ったが、その後顔を下に向けて肩を落とした。

 趣味で作った物をいざ起動させたら、家の中がめちゃくちゃになりました、って感じだもんな。


「そ、そういえば、どうして私達があそこに戻ってくるってわかったんですか? それと一体どこから見張っていたんですか?」


 なんだか部屋の空気が暗くなったから、話を変える為にどうしてこの人は俺達が冒険者協会に来るとわかったのか聞いてみた。

 なんで地図アプリで確認できなかったのかも気になるし、どこから見ていたのか尋ねる。

 もし今後同じようなことがあった時に備えて、これは確認しておきたい。


「大倉さん達の格好を見れば、冒険者だって見当がつきますからね。プレートも見ていたので確実にそうだってわかりましたし。あの後冒険者協会で大倉さん達のことを聞いたんですけど、詳しく教えてもらえなかったんですよ。なので、ずっと冒険者協会が見える場所からこれで見張っていたんです!」


 むぅ……確かに見れば一目瞭然。それにプレートまで見られていたのか。

 そして冒険者協会で話まで聞いていたと……ちゃんと情報の保護はしてくれるんだな。

 いやぁ、わからなかったからずっと監視するって発想がぶっ飛んでるわ。

 逆に数日来ない方がよかったということか。

 今回の敗因は相手が狂人だったせいだな、うん。


 さらにどこから見ていたのかと聞くと、クリスさんは長細い筒を取り出して見せてくれた。

 ……望遠鏡ですわ、これ。くぅ、俺と同じことしてやがったのか。

 地図アプリの範囲外からこれで見てたのね……そりゃわからないわ。


「それにしても大倉さんのパーティにいる魔導師の子は本当に凄いです。あんなに若いのに私の魔導人形を一瞬で止めるなんて……」


「あれだけでどのぐらいの魔導師かわかったんですか?」


 エステルの話に変わり、クリスさんは若干興奮気味に話し始めた。

 今回は魔法で攻撃した訳じゃなく、魔導人形を止めただけのはずだ。

 何がどう凄いのか聞いておいて、これはやったらマズイってエステルに教えないと。


「あの魔導人形は中に魔素を循環させる経路がありまして、それによって入力信号を送り制御する仕組みなんですよ。それであの暴走は経路が乱れていたせいで、制御がめちゃくちゃになってしまいまして……」


「はぁ、そうですか」


 どうしてエステルが凄い魔導師だってわかるのか聞いたら、突然人形について説明をし始めた。

 うーん、俺には難しい話はよくわからんが、元の世界の電子機器みたいなもんかね?

 回路とかそういうので制御しているって話だと思う。


「それであの後研究所に戻ってから、どうやって止めたのか確認したんですよ。そしたら経路が変化していて、ちゃんと制御できるようになっていたんです!」


 あー、そういえば魔力が乱れているとか言って杖当ててたな。

 あの一瞬でそんなことしていたのか。


「で、その経路に手を加えるには通常この施設にある魔導具を使って行うんですよ。それに普通の魔導師は経路なんて魔導具無しでは見られません。なのに、大倉さん達と一緒にいた女の子はあの一瞬で直したんです! これがどれだけ異常なことか……わかりますか! わかりますよね!」


「わ、わかりましたから落ち着いてください」


「夢中になると凄い早口になるのでありますね。まるでシスハなのでありますよ」


「えっ、わ、私こんな風になっているんですか?」


 話をする内にまた熱が入ってきたのか、拳を握り締めてクリスさんは俺に熱く語り始めた。

 まるでルーナを相手しているシスハみたいな迫力だ。

 ノールがそれを言うと当の本人は自覚がないのか、クリスさんを見て戸惑っている。


「でも、それができる人ぐらいこの町なら多少はいるんじゃないんですか?」


 とりあえず普通なら専用の魔導具を使ってやるものだっていうことはわかった。

 だけど、その程度は他にもできる人いるんじゃないのかな?

 

「……いないです。あんなことできるのは、賢者と呼ばれるイグナルト様か王国騎士団の方々ぐらいだと思います」


「それはまたなんとも……」


 うへぇ、なんか話が飛躍したぞ。

 賢者に王国騎士団? そんな人達と同列扱いか。

 これからも同じ事をしていたら、エステルは王国自体に目を付けられる可能性があるかもな……。


 まあ、散々魔法ぶっぱしていたし、既に知られていそうだけど。

 普段から人の目がある時は控え目にしてくれと頼んでいたけど、今後はもっと注意しないと。


「思っていたよりずっと凄いことしていたんですね」


「シスハは同じことできないのでありますか?」


「ふふ、私をなんだと思っているんですか? 神官ですよ? 無理です」


「それ自信満々に言う事じゃないでありますよ……」


 シスハも魔法が使えるんだし同じことができるかと思ったけど、どうやらできないらしい。

 やはり魔導師であるエステルは別格なんだろうな……天才じゃったか。



 クリスさんとの話を終えて、俺達は馬を連れ自宅へ戻ることにした。

 彼女の目的はエステルと会うことだったから、今回は俺達と面識ができただけでも満足してくれたみたいだ。

 クェレスに知り合いができたのはいいけど、ちょっと危なそうな人なのがね……悪い人ではないんだろうけどさ。

 

 協会へ行き馬を返してもらい、外に出てからビーコンの画面を開く。

 馬に繋がれている紐を持つノールとシスハの名前の横に、馬のマークが追加されていた。

 どうやら馬も紐を掴んでいればパーティとして認識されてるみたいだ。

 そして、さっそくビーコンで移動したのだが……。


「おにーさん、遅かったわね」


 移動を終えると、すぐにエステルの声が聞こえた。

 ビーコンの少し前に椅子を置いて、彼女そこでジッと座って待っていたみたいだ。

 頬を膨らませながらジト目で俺を見つめ、ご機嫌斜めだというオーラを周囲に漂わせている。


「あっ、その……すまん」


「もう、早く帰ってくるって言ったじゃない。失敗したのね?」


「おっしゃるとおりです。本当に申し訳ない」


 下手な言い訳をすると余計怒りそうだから、俺は素直に頭を下げておく。

 早く帰るって言って家にいさせたのに、随分と遅くなっちゃったもんな……。


「それで、どうして遅くなったのかしら?」


「えっと、昨日の女の人に捕まってな……それで今まで話をしていたんだ」


「あら、お兄さん、私を放っておいて女の人と話をしていたの? ずっと待っていたのに、酷いわ……」


「えっ、いや、そういう訳じゃ!」


 エステルは頬に手を当てて、斜め下を見て俺から顔を逸らして本当に悲しそうにしている。

 な、なんだ? 怒られるよりもなんか嫌なんだけど……。

 どうしたらいいのかわからず、俺はあたふたとその場で慌てた。


「ふふ、冗談よ。お兄さんって本当によく反応してくれるのね」


「ぐっ……し、仕方ないだろ。エステルが言うと冗談に聞こえないし……」


「半分は本気だもの」


「えっ」


 下を向いていた顔を上げて、エステルは微笑んでいた。

 なんだ、前みたいにからかってきただけか……と、安心した直後、真顔になって半分は本気だと言いながら彼女は俺を見つめる。

 え、え? じょ、冗談じゃないの?


「ふふふ、それも冗談よ」


 エステルはまたすぐに微笑んでそれも冗談だと言った。

 ほ、本当に冗談なんだろうか……どっちなのか判断がつかないぞ。


「エステル、そろそろ止めてあげてほしいのでありますよ。失敗はしたでありますけど、違う収穫があったのであります」


「そうですね。エステルさんがどのぐらいの魔導師なのかもわかりましたし、ある意味よかったかもしれません」


「そんな話をしたの? ちょっと気になるわね」


 ノールが俺に助け舟を出して、シスハも会話に参加してきた。

 自分の話題が出たことでエステルもいつもの雰囲気に戻り、俺は胸を撫で下ろす。

 場も落ち着いたので、とりあえず今日クリスさんから聞いた話をエステルに話すことにした。


「と言う訳だから、今後はもうちょっと魔法を控え目にしてくれ。エステルが誰かに目を付けられたら困るからな」


「あら、もしそうなったら、お兄さんは私を守ってくれるかしら?」


「当然だろ」


 エステルが冗談を言うみたいに笑いながら聞いてきたので、俺は即答した

 もしこれでエステルが誰かに連れて行かれそうになったら、例え国相手だって退かない覚悟で立ち向かうぞ!

 ……いやぁ、国はちょっと勘弁してもらいたいかな。

 まあ、連れて行かれそうになったら何がなんでも阻止はするつもりだけどさ。


「もう……お兄さん、これ以上私に好きになってほしいの?」


「えっ、あっ……な、仲間として守るのは当然だって意味だからな!」


 それを聞いたエステルは目を見開いた後、顔を赤くして頬に手を添え体をモジモジと動かしている。

 あれ、また冗談で返されるかと思ったのになんか違う……。


「おぉ、なら私が同じ状況でも助けてくれるのでありますか!」


「も、勿論だ」


「それじゃあ私は、私はどうですか!」


「当たり前だろ。なんだ、言わないと俺がエステル以外は守らないとでも思ってるのか?」


 ノールとシスハまでその話に乗っかってきて、私も私もと迫ってきた。

 急にどうしたんだ? まさか俺がエステルだけしかそうしないとでも思っていたのか?

 誰が同じような状況になったって、俺は全力で阻止するつもりだぞ。


「むふふ、違うのであります。大倉殿にちゃんと、言葉で言ってもらえるのが嬉しいのでありますよ!」


「そ、そうか?」


「そうですよね。確かに普段は頼りなくてどうしようもない人ですけど、こういうところがあるから私としては好感度高いですよ!」


「お前、褒める振りして喧嘩売ってんだろ?」


 ノールが本当に嬉しそうに言うので照れくさくなったけど、シスハのせいでずっこけそうになった。

 褒めてるのか貶してるのかどっちだよ!


 その後もふざけたような会話が続いてから、すっかり忘れ去られていた馬の対応をすることになった。


「本当にこの馬をモフットの小屋に入れるのでありますか?」


「ああ、数日ここで面倒を見て、それから王都の冒険者協会に返すつもりだ」


「了解なのであります……。うぅ、モフットが怒りそうなのでありますよ」


 事前にノールの部屋から居間へと運んでおいたペット小屋の扉を、ノールは開いた。

 するとその中は、小屋とは思えない程広い草原が広がっていて、昼間の外のように明るい。

 ペットに最適な環境を再現するとか説明文にあったように、異次元空間になっていて広く常に適温に保たれた環境みたいだ。


「モフットー! おいでなのでありますよー!」


 中を覗いてノールが叫ぶと、モフットはピョンピョン跳ねながら小屋から出てきた。

 そしてノールに近づいてプウプウと鳴いている。


「へぇー、その小屋の中ってこうなっているのね」


「凄い広さですね。これ、ちょっと入りたくなりますね」


「ノールが実際に入ろうとしていたけどな。それでし――」


「わ、わー! 言わないでほしいのでありますぅー!」


「んごっ!?」


 エステルとシスハは、小屋の中を覗いて興味深そうにしていた。

 過ごしやすそうに見えるから、中に入りたくなる気持ちもわかる。

 ノールが前に入ろうとしたのもそのせいだろうな。

 

 うっかり俺があの時のことを口走ろうとしたら、ノールが慌てて俺の口を手で塞いできた。

 どうやら恥ずかしい思い出なのか、知られたくないみたいだ。

 

 とりあえず準備は整ったので、ペット小屋のサイズを小から大に切り替える。

 すると俺の膝下ぐらいだった小屋が、俺の背丈より大きなものへと変化した。

 さっそく大きくなった小屋に、連れてきた馬2頭を入れ、ようやく一安心と思ったのだが……。

 

 馬が入った瞬間、モフットが床を蹴ってダンダンと音を鳴らす。

 そしてノールを見ながらブーブーと鳴いて何かを訴えかけている。


「あぁ……やっぱり怒っているのであります……。モフット、ごめんなさいでありますよ。少しの間でありますから、貸してもらいたいのであります」


 ノールは足元で鳴いているモフットを抱き上げて、よしよしと頭を撫でている。

 そのおかげか少し鳴き声が小さくなったが、まだ不満なのかブーと鳴きながら今度は俺を見つめて不満そうにしていた。

 

 ……そうか。グッドアイディアかと思ったけど、モフットからしたら突然巣を奪われた感覚になったのかもしれない。

 仕方なかったとはいえ、悪いことしちまったな。

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