表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/405

クェレスの小さな騒動

「それで大倉殿、今回は本当にすぐ帰ってしまうのでありますか?」


「ん? ああ、すぐ帰るぞ。だけど冒険者協会に報告だけさせてくれ。馬返さないといけないし」


 護衛依頼も終わり後は帰るだけなのだが、その前にクェレスの冒険者協会で登録と依頼報酬を受け取っておこう。

 それに今連れている2頭の馬も一旦預けないと。

 王都の冒険者協会に顔出す時、この馬達も返却しないといけないから後日王都まで連れて帰らないと……ビーコンで運べないかな。


「あぁ、やっとルーナさんと会えるんですね」


「相変わらず、復活するのが早いのね」


「はい、なんたって丈夫なのが取り柄ですから」


 俺のせいで息が止まりダウンしていたシスハは、元気良くガッツポーズをしている。

 護衛依頼が終わって、やっと帰れるからかハイテンションだ。


「神官って凄いでありますね……」


「シスハはまた別だと思うが……」


 丈夫だとかいう範囲を超えている気がするのだが……。

 ノールの発言が、まるで神官は皆あんな感じだとでも言ってるように聞こえた。

 俺達の中で神官像がおかしくなりつつあるぞ。


「ねぇ、お兄さん。なんだか凄い見られている気がするのだけど……」


「うーん、やっぱりそうだよな? 俺か? また俺のせいか?」


「大倉殿のせいもあると思うでありますけど……」


「エステルさんに向けられているのが多いようですね」


 冒険者協会の場所を人に聞いて向かっていると、エステルが声をかけてきた。

 町に入った時から、他の魔導師っぽい格好の人達が俺達を見ていることが多い気がする。

 いつも通り俺のせいかと思ったけど、その視線の多くはエステルを見ているみたいだ。

 そして俺の方を見て慌てて視線を外しているような……。


 うーん、何かエステルが注目されるようなことがあるのか?

 やはり魔導師の総本山的な場所だから、他の魔導師に興味がある、とかその辺りかな?

 

 そんな感じで頭を悩ませ、視線を浴びつつも、俺達は冒険者協会へと向かった。



 冒険者協会へ到着し、隣にあった小屋で馬を預けてから中へと入った。

 魔導都市と言われているんだから、魔導師の冒険者だって多いはず。

 そう思い期待していたのだが、中にいた冒険者達を見ても魔導師っぽい人はいない。

 むしろ冒険者達がエステルのことを見て、驚いた顔をしているぐらいだ。


 あれれ? まさか魔導都市なのに、冒険者をしている魔導師は全然いないのか?

 ……考えてみたら、軍以外にも魔導具を作ったりもできるし、冒険者やるより稼ぎが良い仕事なんて多そうだもんな。

 

「すみませんー」


「はいはーい、少々お待ちをー」


 受付に行くと誰もいなかったから、叫んで人を呼んでみる。

 すると奥の方から声がして、小走りで短い茶髪の若い女性が出てきた。


「はい、お待た……どちら様でしょうか?」


「えっと、シュティングから今日初めてきたのですが……」


「あっ、冒険者様ですか。長旅お疲れ様でした」


 出てきた女性が俺のことを見ると、表情が硬くなった。

 そしてプレートを見せて冒険者だとアピールすると、ホッとしたように胸に手を当てて息を吐き出している。

 ……不審者とでも思われたか?


「初めてということなので、まずプレートをお渡しください」


「はい、お願いします」


「おぉ、Bランクですか! って、後ろにいるその子、魔導師じゃないですか! あっ、いけないいけない……それじゃあこちらの書類にご記入してお待ちくださいー」


 いつも通り最初のプレートを渡すと、銀のプレートを見て声を漏らした。

 そしてエステルのことを見て驚いている。

 うーむ、魔導都市の冒険者協会でも魔導師を見て驚くのか。

 どんだけ冒険者やる魔導師少ないんだよ……。


 受付嬢は書類を俺達に渡した後、プレートを持って奥へ行った。

 書類を書き終える頃に丁度戻ってきて、プレートを返却してもらい俺達も書類を手渡す。


「はい、大丈夫ですね」


「すみません。今回は護衛依頼をしながらクェレスまできたので、こちらもお願いします」


「はーい、承知いたしました」


 ついでに今回の護衛依頼の証明書を渡して、報酬である60万Gを受け取る。


「いやー、こんなお若い魔導師の方が冒険者をしているなんて、初めて見ましたよ」


「あはは……たまたま縁がありまして……」


 受付嬢さんがエステルを見て、興味深そうにしている。

 アンネリーちゃんも言っていたけど、珍しいどころか見たことがないだと……。


「あの、冒険者をしている魔導師って少ないんですか?」


「あー、そうですね……あまり多くはありません。クェレス自体にはかなりいるんですけどね」


 うーん、もしかして町の魔導師達が見ていたのは、見るからに魔導師の少女が冒険者と一緒にいたからってことなのか?

 そして俺を見て、コイツはやべぇ!? って目を合わせないようにしていた、と。



 どうして見られていたのかも分かり用事も終えたので、冒険者協会から出た。


「せっかく来たんだし、ちょっと散策してみたかったけど……止めておきましょうか」


「うーん……そうだな。散策するには俺とエステルが少し注目され過ぎるな」


 どうやらいつもの格好をしていると、エステルがかなり目立つみたいだ。

 今日まで護衛依頼をしていて疲れているだろうし、クェレスの散策は後日私服で来ればいいだろう。

 それに早く帰らないとシスハが騒ぎ出しそうだ。


「大倉殿もようやく自覚が芽生えたのでありますね。せめてその帽子は取るでありますよ」


「聖骸布でちゃんと体を隠せば、それほど目立たないと思いますけどね」


 ノールだけには言われたくないって言いたいところだが、流石に帽子はやり過ぎたか。

 大人しく被っていたペタソスをしまって、聖骸布を巻いて体も見えなくした。

 やばい……こうなるとアダマントヘルムに黒い衣が合わさって、強者感がある!

 バールも見えていないし、客観的に見たら凄い強そう。


「帰る前にルーナにお土産だけでも買っていくか? じっくり見回ることはできないけどさ」


「賛成です!」


「そうでありますね。何か食べ物でも買っていくでありますよ」


「それ、ノールがお腹空いてるからじゃないの?」


「そ、そんなことないでありますよ?」


 じっくり選ぶことはできないけど、ルーナに何か買っていってやろう。

 1人でずっと留守番させちゃったからな……本人は寝ていて何も思っていないかもしれないけど。


 ビーコンで帰るのも人がいないところでやらないといけないので、何か探しつつ移動した。

 するとその途中、なんだか遠くの方で人が騒ぐ声が聞こえる。

 気になってそっちを見てみると、白いポージング人形みたいな物がこっちに向かって走ってきていた。

 背中には白衣を着た眼鏡の女性がしがみ付いていて、今にも死にそうな青い顔をしている。


 な、なんだあれ……魔物か?

 というか、こっち来てる!?


「きゃぁぁ! どいて! どいてぇぇ!」


 泣き叫ぶ女性と一緒に、凄い勢いでこっちに近づいてくる白い人形。

 避けようかと思ったが、後ろには人もいるしこのまま避けたら怪我人が出るかもしれない。

 ノールがすぐに剣を引き抜こうとしたが、それを制止して俺は1歩前に出た。

 壊したら後でめんどくさい事になるかもしれないからな……ここは――。


「ああぁぁ――あぐっ!?」


 人形が俺の目の前に迫る。

 背中にしがみ付いている女性は、顔をさらに強張らせて、もう駄目だぁ……おしまいだぁ……と言いたそうな表情だ。


 もう数秒でぶつかるという距離で、俺は前に片手を突き出した。

 そしてタイミングよく人形の頭を鷲づかみにする。

 少し衝撃が俺の腕に伝わるけど、全く痛くも痒くもない。

 

 掴んで止めたというのに、それでも人形は止まらない。

 進まないというのに走るように両手を振って、足も地面を蹴っている。

 掴んだ瞬間、その衝撃で背中にいた女性は落ちていたので、とりあえずこれ以上動かないよう人形の頭を掴んだまま持ち上げた。


 いやぁ……自分でやっておいて思うけど、よくこんなことできるな。

 これもレベルが上がったのと装備のおかげか。

 スマイターの突撃とか経験していたせいで、この程度なら平気だろってやってしまった。

 前だったら人形を受け止めようだなんて思わなかっただろうな。


「大倉殿、大丈夫でありますか?」


「ああ、それよりその人大丈夫か?」


 宙ぶらりんのままわしゃわしゃと動く人形を放置して、地面に落ちた女性の安否を確認した。

 背中から落ちたのか、苦しそうな顔をして起き上がらない。


「お姉さん、大丈夫?」


「いたた……だ、大丈夫――うぇっ、か、片手で持ち上げてる!?」


 エステルがしゃがんでツンツンと指先で叩くと、ようやく女性は上半身を起き上がらせる。

 長い茶髪をノールのように後ろでまとめた眼鏡の女性だ。

 痛そうに腰を擦りながら、眼鏡の位置をクイッと指先で直す。

 そしてようやく前を向いて、人形を持ち上げている俺を見て驚いた声を出した。


「あっ、怪我しているじゃないですか。ちょっとお体に触りますね」


「あっ……け、怪我が一瞬で……」


 女性の手は擦り剥いたのか血が出ていた。

 よく見ると服のあっちこっちが破れていて、かなりボロボロだ。

 たぶん人形にしがみ付いている時、体がぶつかったりしたんだろうな……打撲とかもしていそう。

 

 シスハがそれに気が付いて肩に触れながら回復魔法を施す。

 瞬く間に彼女に傷が癒えていく。

 おぉ、シスハがちゃんと神官している!


「これ、どうしたらいいですか?」


「あら、それ人形みたいね。魔力が乱れているじゃない。えーと……えい」


 傷も癒えて、騒ぎも一応収まったところで手に持っていた人形をどうしたらいいか聞いてみた。

 だが、彼女がそれに答える前に、エステルが人形を見て頬に手を添えながら考える素振りをする。

 そしてすぐにコツンと軽く杖を当てると、動いていた人形は手を下ろして大人しくなった。


「これで止まったわね」


「えっ、ぼ、暴走が止まった……」


 それを見て女性は唖然としている。

 あっ、これ不味いパターンじゃないか?


「そ、それじゃあこれ、ここに置いておきますね。さっ、行くぞ」


 止まった人形を女性の前に置いて、ノール達に行くぞと手で合図し足早にその場から逃げた。


「あっぶね……」


「急に慌ててどうしたのでありますか?」


「いやぁ、なんだか厄介ごとの臭いがしてな……さっさと逃げちまおうと」


「そうですね。ルーナさんとの再会を、これ以上遅らせる訳にはいきません!」


 人形も止めたし、女性の怪我も治したんだから、あのまま放置でも大丈夫はず。

 あの場に留まったら、絶対めんどくさいことになっていた。

 エステルが魔力が乱れてるとか言ってたし、あれ魔法関係のものだと思う。

 それを簡単に止めたとなると、エステルが質問攻めにされていたはずだ。

 唖然としている間に逃げられてよかった……。


「魔導都市って言われているだけはあるのね。あんなものがあるなんて」


「それな。まあ暴走していたみたいだけどさ……俺達じゃなかったら大怪我してたかもしれないぞ」


 あんな物があるなんて……魔導都市というだけはある。

 魔法で動くゴーレムみたいなものなのかな?

 暴走するようなものなら、せめて外に出てこないようにしてもらいたいものだ……。

 他にも色々ありそうだし興味深いけど、今日のところは早く帰ろう。

 



「ルーナさん! 愛しのシスハが戻りましたよ!」


 クェレスから帰宅すると、シスハは叫び声を上げて奥まで駆けていく。

 愛しのシスハって……どんだけテンション上がってるんだよ。


「ったく……興奮し過ぎだろ」


「久々だから仕方ないじゃない。それほど嬉しいってことよ」


「あっ、私もモフットを連れてくるのでありますよ!」


 ノールもモフットと会えるのが嬉しいのか、浮かれた様子で自分部屋へ戻っていく。

 だが、すぐに彼女は肩を落として戻ってきた。


「大倉殿ぉ……モフットがいないのでありますよ……」


「えっ、マジで?」


「シスハもさっきから戻ってこないわね? ルーナもいないのかしら」


 どうやら部屋にモフットがいなかったらしい。

 シスハもいの一番に駆けていったというのに、未だに戻ってこない。

 どういうことだ……とりあえずシスハの方も確認しに行くか。

 

 ルーナの部屋がある拡張された廊下に入ると、彼女の部屋の扉を開けたシスハが両手を口の前で合わせて立ち止まっていた。


「おい、何しているんだ」


「しっ! ルーナさんが起きちゃうじゃないですか!」


 俺が声を掛けると、人差し指を立てて静かにしろと言われる。

 何事かと部屋の中を覗くと前に見た時と違い明かりが付いていた。

 そしてベッドを見ると、そこにはモフットとルーナが一緒に寝ている。

 ルーナの頭の隣にはタオルが置いてあり、その上でモフットが体を横にして足を伸ばし寝ていた。


「あら、一緒に寝ていたのね」


「うぅ……羨ましいでありますよぉ」


 その様子を見て、ノールが体をウズウズさせている。

 なんだ、ノールはモフットと一緒に寝たりしていないのか。


「むぅ、誰だ……」


「あっ、起こしてしまいましたか……」


 俺達が寝ているルーナを見守っていると、気配に気が付いたのかムクリと起き上がった。

 擦りながら、眠そうにこっちを見ている。


「……シスハ?」


「はい、シスハですよぉ」


「そうか……」


 立ち上がってこっちに来ると、一番前にいたシスハの所で立ち止まり、彼女を見上げてボケッとしている。

 そしてシスハに尋ねた後、突然ガバっと腹の辺りに顔を埋めて抱き付いた。


「ル、ルーナさんが! ルーナさんが私に抱き、抱き付い……ぐっ、がぁ……」


「お、おい?」


 抱き付かれたことが嬉しかったのか、シスハは大はしゃぎしている。

 だが、徐々に背中からくの字に曲がっていき、苦痛の声を漏らしながら笑顔のまま顔が引きつっていく。

 おいおい……あれどんな力で抱き締められているんだ……。


「ルーナ、起きるでありますよ!」


「むっ……ん? ノール?」


 このままだとヤバイと、ノールが慌ててルーナの肩を掴んで揺らした。

 するとようやく意識がはっきりしてきたのか、シスハの体に埋めていた顔を上げる。


「な、何で私が貴様に抱き付いている!」


「ル、ルーナさんから抱き付いてきたんじゃありませんか……」


 意識が戻ったルーナがシスハに抱き付いていることに気が付き、慌ててその場から飛び退いた。

 解放されたシスハはそのまま床に崩れ落ちる。

 いやぁ……あまりにもこれは悲惨過ぎるだろ……。


「大丈夫か?」


「うふふ……ルーナさんに抱き付かれたんです、本望です」


「凄く安らかな顔をしているわね……」


 心配になって近づいてみると、シスハは口を歪めて凄く嬉しそうに笑っていた。

 シスハ……お前凄いよ。これが真実の愛って奴なのだろうか。

 ああ、そう思うとなんだか神官っぽいかもしれない……。

活動報告にキャラデザを掲載いたしました。

よかったら目を通していただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ