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ヘルムの理由

「ノール、その、平気か?」


「もう平気でありますよ……」


 泣いてしまったノールをなんとか立たせ、俺達はあの場から移動した。ビストロス森林はそこまで長い森ではなかったので、数時間程で抜けることができた。

 彼女はいつまでも泣いていた、ということはなくすぐ泣き止んだ。しかし、いつもの元気は全く無くて声を掛けても暗い返事しかしない。

 今日は日も落ち暗かったので野営をしているが、今はノールと2人っきりにさせてもらった。

 

「そう落ち込むなって、な?」


「落ち込んでなんていないのであります……」


 こっちを見ず、体育座りでそっぽを向いている。完全にへそを曲げちゃってるなこいつ。


「それにしても、ずっと気になっていたんだが、なんでそんな素顔晒すのが嫌なんだ?」


「うぅ、大倉殿が気を使ってスルーしてくれていたのはわかっていたのであります。実は……私は素顔の状態だと駄目になるんでありますよ」


 なるほど、全くわからんぞ。素顔を見せたくないっていうのはわかっていたが、駄目になるってなんだよ。

 

「いや、もう少し詳しく」


「素顔を見られているって自覚すると、体が思うように動かなくなるのでありますよ。恥ずかしいのであります。口調も素に戻ってしまいますし」


 ……あがり症って事なのか? 確かに素顔を見られただけで、あんなに取り乱すのはやばいよな。

 口調まで変わるって、それもう自己暗示の領域にまで進んでるだろ。バイクに乗ると性格が変わるとかそういう類か?

 

「口調は素で良いんじゃないか?」


「駄目でありますよ! 騎士としてのアイデンティティが無くなってしまうのであります!」


 やっとこっちを向いていつもの調子で返事をしてきた。

 しかし、口調がアイデンティティなのもどうかと思うぞ。素の話し方も新鮮でよかったんだがな。

 それにしても一体どこが恥ずかしいって言うんだ。GCの設定でそんなのは書いてなかったはずだが……内部設定だったのか? 素顔が見れないのは勿体ない。


「……可愛かったんだがな」


「か、可愛い?」


「あっ、いや、なんでもない」


 やっべ、思わず声に出ちまった。それにしてもホント可愛かったんだがなぁ。

 あれで実装されるのだったら、俺は全貯金を投入する覚悟を決めるレベルだ。好み過ぎてやばかった。


「でも、見られたのが大倉殿でよかったでありますよ」


「ん? それはどういう意味だ」


 なんだろう。なんか凄く意味有り気な発言に期待しちまうぞ。


「だ、だってあんな私変でありましょ? でも、大倉殿だったらあまり気にしないと言うか……笑って流してもらえそうでありますし」


 変だとは……思わなかったとは言えない。ぶっちゃけ一瞬誰だコイツって思ったし。でも、あれはあれで良かった。

 あります口調じゃない状態で話してるの見て、前は腹抱えて笑っていたけどな。しかし、素顔状態の素の話し方だと恥じらいが有ってグッド。あれなら乙女だと言っても納得する。


「んー、そうだな。むしろもっと見たくなったぞ」


「そ、それはちょっと……」


 ノールは困ったような声を出して、身を捩じらせもじもじとしている。


「あぁ、心配するなって。嫌がっているし、無理に見せろなんて言わないよ」


「お、大倉殿ぉ~」


「うわっ!? いってぇ! おい、馬鹿! 鼻水と涙が付くだろうが!?」


 彼女は目の前で立っていた俺に飛び付いてきた。丁度腹の辺りに顔を埋めるように抱き付き、ヘルムの下から何か液体が流れている。

 こいつ鼻水や涙垂れ流しているだろ!? てかヘルムがめり込んで痛いんだが。


「私、あなたに一生づいでいぐでありまずよぉ~」



「もう落ち着いたのか?」


「あっ、はい、どうにか。ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」


「申し訳ありませんでした、であります」


 うおぉぉぉ! と大声で泣くノールを落ち着かせグリンさん達の所へ戻った。ノールのせいで服がぐしょぐしょなんだが……焚き火で乾かすか。


「あぁ、いいっていいって。むしろお礼言いたいぐらいだ。あんた達やっぱり凄いわ。あのサイクロプスを2人で倒すなんてよ」


 サイクロプスを倒した後、依頼主も連れ戻して馬車も無事に運んでこれた。これには依頼主にもグリンさんにも散々お礼を言われてなんだかムズ痒い。


「ファニャちゃんだけじゃなくて、お前さんもかなりのやり手だったんだな。俺の目も曇ったもんだ」


「正直あまり自覚はなかったんですけどね……」


 比較対象がノールだったので、俺が実際どれぐらいなのか全くわからなかった。

 ステータスを見れたおかげで、ようやく俺も異常だと気が付いたんだしな。


「あんた達もやっぱり、その内シュティングの冒険者協会に行っちまうのか?」


 王都の冒険者協会か。正直興味があんまり無いんだけどなー。むしろ目先のガチャにしか興味無くて、ブルンネの街以外全く調べていない。

 魔物を倒しただけでドロップアイテムに変わる時点で、まともな世界じゃないことだけはわかるけどね。ここがGCの世界なのか、それとも別の世界なのかは調べておいた方がよさそうだ。

 もしGCの世界だったのなら、イベントキャラとかも存在するかもしれないし。


「うーん、なんとも言えませんね。一度シュティングに足を運んだりはするかもしれませんが、拠点とするかはわからないです」


「あー、まあそうだよな。出来ればブルンネに残ってくれたりしねーかって思ったんだがな」


 ブルンネには高ランク冒険者が全然居ないって話だ。確か最高でBランクだって聞いたな。

 街に住む人ならば、戦力的に欲しいとかあるのかもしれない。


「あんた達だったら、間違いなくAランク冒険者になれるわ。話を聞いた感じ、ファニャちゃんの方は奥の手もあるんだろう? それなら俺が昔見たAランクと同等かもしれない」


「いや、大袈裟ですって」


「まあいいさ。いつかあんた達が有名になったら自慢話にでもさせてもらうぜ。助けてもらった情けねー話だけどな」


 ははは、と笑いながらグリンさんは酒を飲む。

 Aランクか。目立ちたくないとか、そういうのは特に考えてはいない。だからといって目立とうと思う気もしない。

 俺はガチャを引いてユニットや装備を引くことで頭がいっぱいだ。しかし高ランクになれば情報とかも色々教えて貰えるだろうし、なるのも有りなのか……?



 ルベルグ村まで馬車を届けて、2日程歩き俺達はブルンネへと戻ってきた。帰りはオークなどに襲われたが、問題無くすんなりと帰れた。


「俺まで報酬分けてもらってよかったのか?」


「構いませんよ。グリンさんがいなかったら依頼自体受けてなかったかもしれませんしね」


 依頼達成報酬の10万G、そしてサイクロプスのドロップアイテムであるサイクロプスの角が2万Gで売れた。3人で4万Gずつ分けることが出来て安心だ。今までノールとしかパーティ狩りしていなかったので、取り分の分け方でちょっと困るところだった。


「今回は同行してくれてありがとよ。あんた達がいなかったら依頼失敗だったところだ」


「いえ、お役に立てたのならよかったですよ」


「それとだ、あんた達早くランク上がった方が良いと思うぜ」


「どうしてですか?」


「いざって時にめんどくさい事にならないからだ。あんた達は目立つんだよ。他の冒険者に絡まれた時とかに、冒険者ランクは良い脅しになるぜ? まあ俺の戯言だって聞き流してくれてもいいけどよ」


 冒険者に絡まれるか……そんな事があるのだろうか。確かにノールとか居るだけでめっちゃ目立っているしな。

 年配者であるグリンさんの言うことだ、ちゃんと心に留めておいた方が良さそうだな。


「いえ、ご忠告ありがとうございます」


 俺がお礼を言うと、グリンさんはじゃあなと言い残し歩いていく。うむ、なんだかあの帰り方カッコいいな。


「さてと、ノール。帰るか」


「はいであります~」


 帰って来たのはいいが、もう日が沈んでいる。往復で4日も歩いていたから疲れたぞ。早くふかふかのベッドで寝たいんじゃ。

 いつもの宿へ向かい、俺達は歩きだす。もうあの宿が家みたいになってるな。


「ん? バイブレーションだと? ……こ、これは!?」


「どうしたでありますか?」


 帰ろうと歩き出した瞬間、ポッケのスマホが振動した。今は特に何にもしていないはずだが、一体なんの通知だ?

 取り出して画面を見てみる。すると、GCの画面のトップにでかでかと【URユニット排出率2倍キャンペーン】と表示されていた。

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