異世界への招待状
「はぁー、今回追加の娘可愛いなぁ」
手に持つスマートフォンを眺めながらため息をついた。
画面に映っているのは、今オタク界隈で話題になっている美少女育成型ソーシャルゲームアプリ『Girls Corps』。略してGCと呼ばれるゲームだ。
半年前に始まり、今ではダウンロード数50万人を突破しそこそこ人気がある。
内容は美少女を集めて軍団を作ろう、というシンプルなもの。
作った軍団はイベントで魔物の軍団と戦ったり、ユーザー同士の軍団でバトルなどができる。
シナリオもあり、世界観は中世ヨーロッパ風。
出てくるキャラは勿論ほぼ全員女の子。
しかも、ただの女の子ではなく騎士や騎兵などの戦う女の子達だ。
「むぅー、でも今月厳しいしなぁ……」
そして俺は、猛烈にこのゲームで悩んでいる。
何に悩んでいるかというとガチャだ。
このゲームではキャラを取得するのに、大きく別けて2通りある。
イベントでの配布キャラか、課金をしてガチャを回して手に入れるか。
1回500円、11連で5000円。正直思うにこれは馬鹿げた値段だ。
しかもキャラだけではなく、武器やアイテムなども混入しているという珍しいもの。
しかし、これを回してしまう人は後を絶たない。
人気イラストレーターと、人気声優のコンボを使うこのゲームの魅力は半端ない。
俺も既に3桁近い諭吉が異次元へと消えている。
それでだ。今回このガチャに追加されたキャラ、URルーナ・ヴァラドちゃん。
ロングのパツキン、ロリ幼女の吸血鬼属性の持ち主。
これを見た瞬間に、こりゃ地獄になるなって思ったよ。
実際某掲示板では、爆死者達の怨嗟の声で満ち溢れている。
ある者は爆死したことを嘆き、ある者は運営の低確率ガチャに怒りの声を上げ、ある者はまさかとは思うけど、ルーナちゃん持ってない奴おりゅの? と煽る。
「一体何諭吉使えばこの娘手に入るんだよ……」
現在の時刻は23時58分。
0時になると当たる確率が上がると信じる、0時教の信仰者である俺はその時を待ち続けていた。
俺はこの0時教オカルト理論で、今まで10回中0回の成功率だ。
まさにただのオカルト。
しかし今月厳しい俺には、このオカルトにも頼らずにはいられない。
ガチャも引かずにはいられない。
もうアプリの再起動も済ませ、PCがある机の上にスマホを置いて祈り準備万全だ。
「うひゃー、それにしても確率ひっでぇな」
待つ間もPCで某掲示板を見ながら、増え続けるレスを辿っていく。
10万ドブった、1100連突破とか草生える……死にたい、などなど続々と爆死報告が増え続ける。
この惨状を見てもなお引こうと思う俺は、相当毒に侵されてしまっているのだと自覚するが回さずにはいられないな。
「おっと、危ない危ない」
そんな怨嗟の声を見ているうちに、時刻は23時59分50秒になっていた。
慌ててスマホを触り、画面をガチャ画面へと切り替える。
漢、大倉平八 いくぜ!
「……3、2、1! いっけぇぇぇ! 僕の想い! ルーナちゃんに届けぇぇ!」
時計は0時の針を指した。自分でも気持ちが悪いと思いながら、声を張上げスマホをタップする。
画面には光り輝く宝箱が映し出された。勿論俺の選んだガチャは11連。
この一押しで5000円が吹っ飛んだのかと思うと武者震いがしてくるぜ。
宝箱は、銀、金、白、そして虹色へと変化していく。
「おっ、おっ、ふぉおー! UR確定きたー! これは勝ったわ!」
虹色に輝く宝箱はURの証。
そして、俺の狙いも最上級レア、ルーナちゃんだ。
URの確率は1%程なのでこれはとても運が良い。
こりゃ流れきてる、たとえルーナちゃんじゃなくても倍プッシュせざるを得ない。
そう考えていると宝箱が開き中からアイテムが放出される。
【R鉄の剣、R鉄の短剣、回復薬、R鉄の鎧、SRエクスカリバール、R銅の蹄、Rナックル、SR鍋の蓋、Rブーツ、食料、UR異世界への招待状】
見ての通りこのゲームのガチャは、キャラの排出率が非常に偏っている。
食料とかはユニットの疲労度回復用アイテムだ。
……酷い、これは酷過ぎる。URがあるけどさ、他がほぼRとかふっざけんなよ!
このゲームは、R、SR、SSR、URとレア度がわかれている。
なので、今回はUR以外はSR以下という最低な結果だ……まあ、全部Rとかよりはマシだけど。
「はは、まぁガチャなんてこんな物だよなぁ……さて、もう1回……あ、1回分しか金入れてなかった」
あまりにルーナちゃんに気を取られていて、うっかり11連1回分しか金額を入れてなかったみたいだ。俺ってばうっかりさんね。
課金するべく魔法のカードを取り出そうとするが、ふとあることに気がついた。
さっき出たUR、聞いたことも見たこともないことを。
「えーと、アイテム欄か? ……おっ、あった」
――
【UR異世界への招待状】
異世界へ招待された証。使用すると、異世界へと旅立つことが出来る。
――
……なにこれぇ? この異世界への招待って一体何について言ってるんだ?
詳細欄を見てもこれ以上のことは書いていない。
もしかしたらこれ当たったの俺だけじゃね? と思い萎えた気持ちが少しだけ立ち直ってきた。
ネットで調べてもこのアイテムに関しての情報は一切ない。
つまり、この世界中で俺だけが入手している可能性があるのだ!
ぐふー、こりゃ気分がとても良いぞ。
さっそくアイテムを使う為にタップしようとしたが、踏みとどまってスクリーンショットを保存しておく。
後で持ってない奴おりゅする為の証拠を残しておくのだ。
せっかく当たったんだし、自慢したいじゃん?
保存し終えた俺は、ガチャのことも忘れて招待状をタップする。
すると、本当に使いますか? Yes、Noと表示され最後の選択確認が現れる。
このワクワク感、久しく忘れていた子供の頃を思い出すようだ。
俺は迷わずYesを押すと、画面が白く輝き始めた。
「おっ、何だこの演出。すっげー……え?」
光凄いなーっと眺めていたが、徐々に凄いどころかスマホが震え直視出来ない程に輝きだす。
流石にやばいんじゃないかとスマホを手放そうとしたが、その前に俺の視界が全て白く染まった。