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その8話(最終話):王様「は」私

「光平!」

二人は抱き合った。白銀色の鎧を身にまとった公平とは抱き合う時にゴツっという鈍い金属音がしたが気にしなかった。

「ずっと長い間眠っていたんだ。今日目が覚めてからいろいろとゲイブさんから教わったり、ここにいるみんなを紹介されたりしてたんだ。」


ゲイブは二人に席に戻るように告げると哲平に尋ねた。

「陛下はみなさんを当然ご存知ですね?」

当然も当然だ。この10人こそ、ラストピース、人類に翼を与えてくれた恩人たち。脳の提供者たちだった。


「この皆さんはまあ今でもつながれているのですが、『オモイカネの」一部として機能しているうちに大脳皮質が変質しましてね。独立したスーパーコンピューターとして稼働できるのですよ。これこそまさに創造主のお導き。」


ゲイブが言い終えないうちに哲平が怒鳴り声を上げる。

「神なんぞいない!」


「こいつらはなあ、神様とやらが目を離したすきに不幸な目にあったやつらばかりなんだ。」

口角泡を飛ばしてまくしたてる哲平に、ゲイブは微笑んでいる。


「自分が死んでも世のため人のためになりたいと、自分の大事なものをプレゼントしてくれたんだ。ここまで俺たちを連れてきてくれたのは神様じゃねえ、こいつらなんだよ。」

そのとき、大きな振動が「円卓の間」を襲った。


「あまり時間が残されていないようですよ。陛下。早速国王即位の儀を執り行いましょう。」

ゲイブが澄ました顔で哲平をせかす。

「国王?」


「聞いていなかったのですか?陛下はわたくしと契約されましたよね。わたくし共が持つこの惑星のすべての権利をあなたに譲ると。つまりあなたが王様です。陛下はよく条項を読まないで契約するタイプですね。いけません。これからはおやめ下さいませ。」


ゲイブは楽しそうだ。ゲイブは全移民宇宙船に通信を発する。ジョージ・ハミルトン博士が顔を真っ赤にしている。ゲイブが送った契約書のコピーと、国王に忠誠を誓うようにという命令書が届けられていたのだ。


「どういうことかね鞍馬博士。我々が死ぬか生きるかの時にハロウィンかね?まだ早いと思うが。」

ハミルトン博士の迫力に哲平は頭をかいて

「そうですよねえ。」

と愛想笑いを浮かべる。


「では親愛なる臣民諸君。私はここにスフィア王国の建国と国王の即位を宣言いたします。」

ゲイブが厳かに宣言書を読み上げる。


「私は認めない。時代錯誤も甚だしい。」

ハミルトン博士が怒る。そう、科学者は「出し抜かれること」が大嫌いなのだ。


「お黙りなさい。ジョン・ブル(英国人のこと)。陛下は貴様の顔を立てて貴様の国のやり方で統治をなさる御心である。それとも、反逆者としてその塔ごと大気圏へとパージされたいのですか?」

ゲイブの恫喝にハミルトン博士も黙る。もとはといえば、この危機はハミルトン博士が責任を問われても仕方がないところから始まったのだ。


「では陛下お願いいたします。」

ゲイブに振られて哲平は肚をくくった。


「わたしは…余は創造主の恩寵により、天使の加護のもと国王となった。余の名はアーサー。キングアーサーである。余はこの惑星スフィアをしろしめす主権者である。」

映像の視点が下がると、玉座の下にずらりと並んだ騎士たちが一斉に抜刀し、国王に忠誠を誓う。


「茶番だ。無効だ!」

ハミルトン博士が叫ぶ。

「全システム回復しました。オールグリーンです。」

「よし、まずはあの反逆者から始末する。メインコンピュータ室へ急げ。」

ハミルトン博士もしなければならないことが残っていた。そう、あのジェームズ・ハリスを排除しなければならない。


しかし、ハリスの脳はどこにもなかった。透明な強化炭素繊維で作られた収納カプセルが何者かによって破られ、いずこへと持ち出されていたのである。非常脱出口の減圧室が開放されており何者かがそこから出たのは明らかであった。不思議なことに船外作業着もクルーの数も減っておらず、不思議な幕切れとなった…はずであった。


イザナギのモニターに突然ジム・ハリスが現れる。そう、ジムにジャックされたのだ。


「これはこれは国王陛下、ご機嫌麗しゅう。私めはジェームズ・ハリスと申します。この界隈では『モリアーティ教授』の方が通りますかな? 皆さまだけで、こんな面白いコトを始めるなんて、私めを除け者にするとはあんまりじゃございませんか。」


滔々と語るジムに、皆沸々と怒りが湧くのを感じていた。先の先まで、皆殺しを企んでいたのにである。


「さて、光には影、全には悪、男には女がつきものでございます。皆さんがこの世を創ると仰るのであれば、これよりわたくしはみなさんの敵に回ります。ともに新たな恐怖と混沌の世界を作りましょう。そちらがアーサーを名乗られるなら、このわたくしめはモルドレッドを名乗りましょう。これからわたくしめのことはモルドレッド・モリアーティとおよびくださいますよう。あと、そこのうっかり天使さん。私の新しい体をありがとう。では、またお会いしましょう。……そう、近いうちに。」


高笑いをしながらモルドレッドは去って行った。宇宙空間にである。


「何がモルドレッド・モリアーティだ。長いわ、長過ぎる。そうだな、モルドレッドの『ド』とモリアーティの頭文字の『M』で『ドM』で十分だ。これからあいつをそう呼んでやれ。この変態野が。」

アーサーの品のない命名にみな苦笑いしていた。


「ゲイブ、君なんか失くしものでもした?」

アーサーの問いにゲイブは蒼ざめる。

「ええ、まあ。」


歯切れが悪いゲイブは珍しい。よほど大事なものをやらかされたのであろう。

「ちょっと『皮』を一枚。」

『皮』とは現在ゲイブが身に着けているもので、重力子生命体が電子世界で生きていくのに必要なスーツのことである。本物の天使は「意思」だけで、化肉(それ)ができるのだそうである。


「無茶苦茶、大事(おおごと)じゃないか。で、ゲイブはいつまでここにいるの?」

アーサーの問いに

「ずっとここにいますよ、陛下。私は陛下の最高顧問にして宮廷魔導士マーリンでございますから。」

しれっと答える。


「円卓の騎士ごっこか。大の大人がもう。」


あきれるアーサーにゲイブ改めマーリン は、

「みんな、みんなの分も考えてきたよ」

円卓の面々に手を振る。

「中二かよ。」

アーサーは完全に投げ出した。

「高2だよ。」

ランスロットの号をもらった光平が突っ込みをいれた。


ここに西暦は廃され、新たに星暦(Astral Days)が制定された。


アーサーは光平と並び、窓の外の瞬かない星をみつめていた。

 これから彼らに、スフィアと新たな人類社会に何が待ち受けているのか、まだ、だれも知らない。彼らの歩みこそが歴史となるからだ。


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