ラミアの魔法2
最近友達は私をないがしろにした。私たちは五人グループを作っている。彼女たちは私に挨拶こそするのだけど、昼食になると同じテーブルにいながら私に背を向けて食べた。
とある男の子が隣のテーブルから話しかけているためだった。彼らの話の中に私は加わることができなかった。
「私があなたを呼んでしまったみたいね」
ラミアは言った。明るい口調から、ちっとも悪びれていないことがわかった。きっと楽しんでいるに違いない。
「あなた名前は?」
「川上セロリ」
「触れると匂いのつきそうな名前だわ」
私はちょっと唇を曲げてみせた。
「冗談よ」
ラミアの弁解に私たちは笑いあった。
「お詫びに魔法を一つ教えてあげるわ」
ラミアがいった。私はありがとう、と答えた。
「じゃあ初級の炎の魔法ね」
「どうやるの」
「頭を使うのよ」
「頭?」
私は疑問に思った。ラミアはどこからか木の杖を取り出して掲げると、目を閉じて、杖に集中力をこめた。
「セロリ準備はいい? 頭の中で真っ赤な炎を想像するのよ。一体どんな大きさで、どこにあって、何色なのか。それが決まったら炎は自ずと現れるわ。ほら」
アスファルトの道路上に橙の炎が燃え上がった。火の粉がパチパチ飛んでいて、アスファルトに映る炎の影は揺れ動いた。真っ赤、といいながら、橙色の炎を出すところはおそらく彼女の茶目っ気だろう。
「呪文を唱えたりはしない?」
私は尋ねてみた。彼女は子供のような笑顔で答える。
「必要な人は唱えるわね。言葉を口にするとイメージがはっきりするのよ」
「呪文ってたったそれだけのものなの?」
「気を落とした?」
「別にいいけど、じゃあ」
杖をもらうため手を差し出すと、ラミアは拒んだ。
「杖もいらない。より複雑な魔法を叶えるときや、スピードが必要なときに杖を使うの。ほら、気持ちが不安定になって、何かにすがりつきたいときってあるじゃない。杖もその程度のものなのよ」
私は気を取り直して炎をイメージしようとしてみた。こんなことくらいで魔法が使えるのか。疑問を持つと、ポーズをしていないことに体がむずかゆくなってきた。ボーっと立ったまま魔法を使うだなんて話は聞いたことがなかった。私はあれこれと考えた挙句、合掌をした。せっかく魔法を使うっていうのに、格好がつかなかった。
私は炎を想像した。
大きさは白のポールくらい。だから、自分の身長より少し小さくなる。場所はラミアが炎を作り出したアスファルト。今そこには黒いこげ跡があって、プスプス蒸気を発している。色は赤。
―炎は黒いこげ跡の上に現れた。大きさも色も私の想像に忠実だった。私は友達を思い浮かべた。魔法の炎が彼女たちをすこし驚かせてくれればいいのに、と思った。
「動かない」
私は思わず叫んだ。確かに炎はそこにあった。けれど、ラミアの炎のように火の粉を飛ばしていないし、影にゆれてもいなかった。
「誰もが一度は起こす失敗ね」
ラミアはゆらゆらと宙を浮くように、私の作り出した炎の方へ向かって行った。ラミアは右腕を炎の中に突っ込んでいれた。私ははらはら見守っていたのだけど、彼女はまったく動じないようだった。
「厳しいようだけど、あなたの炎は死んでいるわ。つまり形だけの冷めた炎。いいセロリ? もう一度やってみて。今度は炎の温度まで想像するのよ。それで初めて魔法は命を得ることになる」
ラミアは気兼ねなく言った。私の頭は真っ白になった。炎の温度まで自分で考えないといけないだって? 私は指をほどき、肩を落とした。
「あらどうしたの?」
「魔法ってもっと簡単なものだと思っていた」
私は白状をした。
「でも、違った」
ラミアは私の隣にたち、私の肩に手を置いた。
「そうね、魔法は身勝手なものじゃないのよ。魔法を叶えるには常に責任がいる」
「私、魔法を使って、炎が出て、後は炎が勝手に何かをするものだと思っていた。それで友達を驚かせたらどんなにいいだろうって思っていた」
ラミアは私のおでこに額をあわせ、それからやさしく語りかけてくれた。
「えらいわ、あなたは飲み込みが早いのね。つまりそうなの。生きている炎を想像することは、人を火傷させる熱を想像すること。時に火事を起こしてしまう恐怖を想像することよ。炎があれば、誰だって傷つくことになる。キャベツもセロリも、人参だって傷つけられる。生きているからアスファルトはこげたのよ」
「あなたは私を全部知ってて、それで魔法を教えてくれたのね」
私は足元の石ころを蹴った。石ころはブロックにぶつかって、転がった。
「私があなたを呼び出した。あなたも私を望んだ。時空の魔法はとっても高度なのよ。そこにはまったく別々の人間がどこか重なり合わないといけないの。私はあなたを全部知っていたとは思わないわ。でもちょっとくらいは知っていたかもしれないわね」
私は黙って石ころを見つめた。石ころが思いのまま動かせたならいいのに、と思った。
「また会える?」
「思いが重なればいつでも会えるわ」
ラミアは笑った。彼女は不自然なほど始終笑ってばかりだった。私は手を振った。ラミアも手を振ってくれた。
「私、もう少し頑張ってみる」
「頑張って」
冗談としか思えない魔法級のガッツポーズに私の顔がほころんだ。
「ダメになったときにまた来るから」
「元気でね」
「バイバイ」
私は魔法使の世界を後にした。
抽象的であるという指摘をいただき、読みやすくするために改稿させていただきました。ご指摘ありがとうございます。




