ラミアの魔法1
ラミアさんというキャラクターはとても思入れのあるものです。
ラミアの魔法
蒼都
友達との間に距離を感じていたときだった。
私は始終お腹の中に怒りをこらえていて、悶々としていた。帰り道を一人で歩くのは楽しいものではなかった。
高い塀から見える咲き頃の銀杏。行き止まりのカラーコーンに止まった雀。足元のブロックから顔を出すタンポポの花。
普段はその雀にだってはしゃいでしまうのだけど、今はそういう気分ではない。ちょっとした変化を楽しむ余裕がなかった。
タンポポの根は強い。ただの気まぐれに、タンポポを根っこごと引っこ抜いてしまおうか、という黒い感情すら覚えた。
そんな時、どこからか、薔薇のいい香りが漂ってきた。
真っ白な看板を掲げる標識の裏に細い路地がある。私はその香りのする裏道の方を振り返った。
きっと、薔薇の香りにつつまれたので、魔法使いの世界に迷い込んだのだと思う。美味しい匂いに釣られて異世界に入り込む、どこかの絵本の物語のように。
魔法使たちの世界は私のいた世界とまったく同じ姿をしていた。
標識もタンポポも、カラーコーンも、足元のブロックも、道も空も草木も皆元々の世界と変わりなかった。初めのうち、私は魔法使たちの世界に来たことをまったく気づかずにいた。
今考えてみると、いったいどうして魔法使たちの世界にカラーコーンや、標識が必要になるのか不思議だった。
タンポポの葉から手を離すと、声をかけられた。白い三角帽を被った30歳ほどの女性だった。
三角帽はディズニー映画で登場しそうなアニメチックなゴーストの姿をしていて、目と鼻穴だとわかる黒い縫い目が四つあった。伸ばした前髪は彼女の左目を隠してしまっている。
彼女はラミアと名乗った。
「私のタンポポをどうするつもりだったのかしら」
魅力のあるアルト・キーだった。
「私の? 本当ですか?」
ふと、私はラミアの身体に目がいった。なるべく見つめないようにと思いながら、それでも目を離すことができなかった。
「冗談よ。ここは魔法の国。でも、みたところあなたは魔法使ではないわね。私の責任だわ。つい魔法を叶えてしまったのよ」
ラミアは微笑んで、気持ちのいい日だったから、と言い訳した。
「いい香りだったでしょう?」
「あー、あー」
私は返答に窮してしまった。彼女の姿に目を奪われ、言葉を失ってしまった。
彼女には左腕と左足がなかった。
私はラミアに目移りして、落ち着かなかった。どこに視点を置いていいものか、少しの間判断がつかめずにいた。
「どうしたの?」
「ええと」
「なんでも自由に言ってごらんなさい」
ラミアは右目で私を熱心に見つめた。何か間違った夢のようなものを見ているのではないか、と私は思った。
「その、うまくいえないけど、事故ですか?」
「違うわ」
彼女はしどろもどろな私の反応を楽しんでいるみたいだった。
「もしかして魔法?」
「そう、これが私の魔法。私は空間を司る魔女よ」
「空間魔法?」
「魔法で、身体の要らない部位を切り離して、別の空間に置いてきたの。仲間外れにするわけではないけれど、散歩だけなら腕は一本だけで事足るものよ。そういう風に身軽な状態を保っておくのが私のポリシーなの」
身体を軽くするために。
ラミアはそのことを強く強調した。
「もっとも空間といってもただの私のお家なんだけどね」
ラミアは朗らかに口を横に伸ばして見せた。
「あの子たち、いまごろ仲良くベッドの中よ。寝そべることしかできないもんだから。困ったもんだわ」
私は笑みを浮かべ、ほんのちょっとだけ萎縮した。
4:59 2008/11/29




