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洗脳者

作者: 高梨ひかる

この国には引きこもりの王族がいる。

名前すらあまり知られていない彼は、今日も引きこもった室内で怪しげな音を立てている。

彼の容姿すらほとんど知らないハミルは、そんな彼が大嫌いだった。

なので王である父の言葉に絶叫を返した。


「嫌です!!」

「しかしなぁ」

「絶対に嫌です!」


事の始まりは、数日前に起因する。

王の一人娘であるハミルは、当然ながら婚約者がいた。

そしてハミルが20歳になる来年、結婚する事すら決まっていたのである。


この国の王族は現在4人。王である父、その一人娘であるハミル、既に臣下に下っている王弟殿下とその息子のファルン。

本来ならハミルではなく男児であるファルンが王になってもおかしくないが、後継者争いなどはまったくなくハミルが王位を継ぐ事が早々に決まっていた。

ファルンはそれほど悪評のある男だったのである。

王は早々に公爵の息子と娘の婚約を決め既に女王として後を継がすと宣言し、ファルン本人も了承したため王位継承は滞りなく進んでいた。


ところが、である。


「駆け落ちってどういう事よ…ッ」


よりによって公爵家の次男、王になるなんて無理ですと乳母の娘と駆け落ちしてしまったのである。

元々線の細い、繊細な男ではあった。男勝りの女王に全く逆らえないという意味で。

だが、それほど苦手だからと言ってよりによって結婚の日取りを各国に伝えてから逃げなくてもよいではないか。これで結婚できなければ末代まで恥になるのは確定というものだ。

それが分からない男でもあるまいに、最後の最後でろくでもない土産を彼女に残して行ったのであった。


……ちなみにこの婚約者、学者としては有能なため遥か遠くの国外へ当に逃亡しており捕まえる事はほぼ不可能。


ハミルと王は慌てた。

慌てて相手を見繕うにも、王女の結婚にかこつけて最近の国内は結婚ブームであり、釣り合う年頃の男は既にほぼ売約済みだったのである。

まさか女王の婿にバツイチを持ってくるわけにもいかないし、大体にして外聞も物すごい悪い。


かくして王は言った。

「仕方ない、ファルンにしよう」、と。

そして冒頭に戻るのである。


「何故そこまでファルンが嫌なんじゃ? あれでも王族だぞ」

「そもそもここ10年あえてない人間とどうやって結婚するというのですか―――!!」


王弟の息子、ファルン。

彼は『引きこもり王子』であった。

王族であるため、成人するまでは国からの資金が出ている。

確かにだれと会わなくても、ある程度の生活は出来る。

限られた数人だけが彼の宮にはいるのだが、彼の様子は何も伝わって来ず(忠義心があるのも考えものである)、本当に何をしているかもわからない魔境状態である。


そしてこのファルン、人に会わないだけである。

王族としての仕事、視察等は行っていないが寄付などはしており民の評判はさほど悪いわけではない。

特に慈善事業関係には多大な寄付を行っている事で有名であり、本人には会えなくてもいろんな援助に関してはもらっている資金でやっているらしい。

その部分ではハミルも評価はしている。


しかしである。

この王子、本当に……本当に人に会わないのである。

王が命令しても出てこない。

命令違反じゃないか、と言われそうだがそもそも彼はまだ未成人であり、具合が悪いのですと言い張ればそこまで無理を通す事も出来ない。


何も悪い事はしていない。

でも、出てこないからどんな人かもわからずただの不気味な存在。

そんなものすごく頭の痛い、王族の問題児であったのだ。


「さすがのファルンでも国の窮地には出てくるんじゃないかのう」

「『王になるくらいなら死にます』といった人間が、でてくるとお思いなんですが父上ッ!」


そしてハミルが継ぐ事になって、ファルンがまったく問題視されなかったのはこの言葉のせいでもある。

傀儡にしようと、有力貴族がこぞって押しかけたのも有名な話なのだがそこに返した言葉もものすごく有名であった。


「『王になったら引きこもれないじゃないか!』って言ったんでしょうがあの馬鹿従兄弟!」

「これ。年頃の娘が馬鹿等と言っては……」

「引きこもれないなら死ぬとかどこのお子様なのですかぁぁぁぁ!!」

「しかしなぁー…結構優秀じゃから、あの才を手放す気にもなれんしなー」

「は? 才?」


ハミルが首を傾げると、王はおおらかに頷く。


「ハミルにはそろそろ言っておかんと思ったし、いい機会だから言っとくとな」

「はい」

「ここ10年の新規魔道具案を作っておるの、ファルンじゃ」

「ふぁ!?」


魔道具とは、この国の名産品でもある。

魔力を使える貴族と違い、魔力を持たない平民が使用する画期的な道具として開発されたそれは、殺傷能力等はないが生活には便利で手放せないものとしてこの国に浸透している。

その魔道具開発は国家機密のため確かに創作者は開示されていないが――それがよりによって引きこもり王子。

茫然とするハミルに、王は苦笑した。


「さすがにそれくらいの才がなければ表舞台に出しておるよ」

「はあ……」


何故誰もあの王子をいさめないのかと思っていたが、そんな裏があったとは。

ハミルがぽかーんとしていると、王はさらに続けた。


「『魔道具作成それなら出来そうなので、引きこもり認めて下さい』と言われた時には正直頭痛がしたけどの」

「目的は結局引き籠りそれなのですかッ!」

「うむ。出なければ国を出ると脅された故、能力的に国外放出とかありえなさすぎて認めざるを得んかったんじゃ」


王を脅してでも引きこもりたいのか。

すでに狂気レベルの引き籠り度にハミルはどんびきだった。


「とりあえずハミルよ」

「なんですか、父上」

「結婚式の一度でいい。その時だけでてきてくれんかと伝えてくれんか」

「馬鹿な事を言わないで下さい! 世継ぎはどうするのですか!」

「それはまあ、そのなー。お前たちのどっちの子供でも問題ないのでな…その辺はなんとかしてくれんかの。ある程度の身分があれば目をつぶる」

「生々しすぎます!!!」


かくして。

王女ハミルはファルンの元へ訪れる事になったのである。




―――――――――――そして。




「やあ」

「……し、下着!? どんだけ変態なのですか貴方はッ!?」



――――――――――邂逅一瞬で文武両道のハミル姫はファルンを一撃で沈め、その後事情を聴く事になる。



「何故引きこもるのですか貴方はそしていい加減服を着て!?」

「着てる着てる。これ、普通に隣国の最先端だし」

「はァ??」



――――――――――そうして彼女は知るのだ、彼の最大の引き籠り理由を。



「なんでこの国、王だけかぼちゃパンツ着てんの? 絶対無理!!」

「か、かぼちゃぱんつ?」

「王だけは絶対無理! 貴族の服も無理! あれ着るくらいなら俺は魔道具でこの国で意識操作する!」

「ちょ!? 貴方は何を危険な事言ってらっしゃるのですか! やめてください本当にやめて下さい!」

「大丈夫! 変えるのは美意識だけだしもうやってるから! 並行して服とか大量流通させてるしゆっくりやったから人体に影響ないない。大体やり終わってるし変え終わったらちゃんと式するしもうちょい待って」

「それを認めろというのですか!?」

「えー。じゃあ俺をひたすら王として認めるようにしてもいいけど?」

「美意識改造のがマシです! 頼みますから本当にやめて下さい!」



―――――――――――天才と何とかは紙一重であるという事を。



のちにこの国の女王となったハミルは語る。

今はちゃんと横にいる伴侶が、何故引き籠っていたかの質問について、疲れたように。



『理由に気付く人はこの国にはもういないでしょう』



これは転生した国の(美)意識に染まれなかったチート能力者が、ひたすらに自国を改造したお話である。

お粗末様でした。あっ、石投げないで!


尚、式に出さなければいけないので交換条件として美意識改造は飲みました、という話です。

あらすじ詐欺じゃないよね!


要望があれば王子視点も書きます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ストーリーが面白そう [一言] はじめまして。 ストーリーが気に入りました! お気に入り登録、しますね。 私の方にも来ていただけると嬉しいです。
[一言] 粗筋もタグもタイトルも、何一つ間違ってはいませんねwww 魔術師の方が終わったら、これの連載版も見てみたい気がします。 これ以上に話を膨らませるのは難しそうですがw ところで終盤で王女が…
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