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狼探偵  作者: lyuvan
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「匂い女」、「嗅ぎ男」に遭遇す。

 「お願い!!私の研究、手伝って」

 そう言ってきたのは、幼馴染で学友の『山岸 真由』だった。

 人文学部に所属している彼女の言う研究とは、おそらく、卒業研究のことだろう。

 「急にどうしたのよ、それに研究って?」

 彼女は、確か…重度のオカルトマニアだった。

 卒研の内容もその手のものを選んだのだろう。

 しかし、資料は腐るほどあるので、厳選するのは難しいだろうが、私に頼るほどでもない。

 それなのに、私に頼るのはどうしてだろうか。

 いやな予感がする。

 「卒研に町の七不思議、選んじゃってさ資料ないから、聞き込み手伝って」

 「えぇ!!なに選んでるのよ」

 「仕方ないじゃん、やりたかったんだもん」

 「あんた、卒業できないとヤバいんじゃないの?」 

彼女は、すでにカストリ誌に内定をもらっており後は卒業するだけなのだ。

それだけに、卒業できないなんてことは、この時勢では、許されない。

 「だから、頼んでるんじゃン!!」

 しかし、彼女はそんなことは、どこ吹く風、やりたいことを優先する。

 それで、吹き飛ばされそうになってから慌てだす。

 そのたびに私が助けるのだが…。

 「あのねぇ、私だって研究があるのよ」

 「まだ、題材も決まってないのに?」

 四年生にもなって題材が決まっていないのは私だけだ。

 「もしかしたら、あなたの研究課題のヒントにもなるかもだからぁ」

 おねがいっ、と頭を下げる彼女の頼みを断ることなど私はできなかった。


 「はぁ、面倒だなぁ」

 頼みを引き受けた後、私は電車に乗って自宅に向かっている。

 地元限定の都市伝説なんてものに資料なんてものはない。

 となると、インターネットか聞き込みで探すしかないのだが…。 

「はい、これがその情報ね」

と、笑顔で渡されたプリントは百枚もあり、地域別にホチキスで留めてあった。

私はそのうちの、半分くらいを渡されて、真由に「よろしくね」と、送り出された。

暇つぶしにさっと見た資料には、都市伝説の概要とその目撃地域、それからその情報を書き込んだ人のコメントが書かれており電子情報は調べきられているようだった。

「もう、インターネットは使えそうにないか」

 ネットカフェで適当に調べるという計画は潰えた。

 おそらく、類似品や元ネタも調べ切っているだろう。

 となると、残された手段は、聞き込み以外にない。

 「いやだなぁ」

 別に人見知りというわけではない。

 女は、話好きだから、聞けば何かしらの情報は得られるだろう。

 男から情報を得る方法もあるのだが…。

 「面倒くさいんだよな」

 どんなに寡黙な男も、饒舌にさせる秘策を私は持っている。

 別に色仕付けをするわけではない。しかし、

最も原始的な手段でもある。

 「香水、落とさなきゃ」

 体臭、その中に含まれるフェロモン、私のそれは特別上等らしく、幼いころから、母親に香水を付けさせられていた。

 「あんたの匂いは男を惑わすからね」

 そう言いながら、香水をこれでもかと、吹きかけてくる母親はトラウマである。

 中学の頃、反抗期で香水をつけるのを一日止めたら、学校中の男子と一部の女子から熱い視線を送られた。

 「あの時は、視線だけで火傷するかと思ったな」

 実際、粗野な奴に絡まれたし。

 「ま、合気で何とかなったけどな」

 それ以来、自分でもこの体臭が不味いと自覚し、毎日、出かける時は欠かさずに香水を付けるようになった。

 父曰く、体臭を嗅ぐと飛び切り上等な酒に酔ったみたいになる。二日酔いはないけどな。

とのこと。


 その言葉通り、翌日からは、いつも通りの日常が待っていた。

「犬上 犬上 お出口は左側です」

社内アナウンスが目的の駅に着いたことを知らせる。

 「まっ、友人のために一肌脱ぎますか」

 そう言って立ち上がり、一路、家へ。

 シャワーで香水を落とし、シャツにジーンズという動きやすい服装に着替える。

部屋干しのパジャマの乾き具合を見てから家を出る。

 時刻は昼過ぎ、人が多い時間帯だ。

 「聞き込みには、うってつけだな」

 資料のなかで、唯一の公園にやってきた。

 ベンチに座り、ここで聞き込む都市伝説を確認するために、資料を読む。

 すでに、視線が集まり出しているが無視しておく。

 ここで目撃されているのは、三つ。

一つ目、「見えない野良犬」

 見えないのに目撃という矛盾があるが気にしてはいけない。

 満月の夜に、公園に遠吠えが響く、そしてそれを聞いたものは行方不明になる。

 説には、池に身投げする。旅に出たくなる。

野良犬に食べられる。等々、様々な説がある。

 「初っ端から、信憑性の薄い都市伝説がきたな」

 次はなんだ、とページをめくる。

 二つ目、「半獣半人の怪」

 エジプト神話の神、アヌビスのように狗頭人身の生き物が半透明な人間を追う姿が稀に目撃される。

 目撃地域が一番多い都市伝説。

 アヌビス神が冥界から逃げた裁く前の魂を追っているという説がある。

ちなみに、魂が日本にきたのは、エジプトオタクの執念という噂や、真なる神はエジプトにいた説等がある。

「ブリーチか!!」

思わず資料を地面に投げつけてしまった。

 こちらを見ていた連中の大半がビックリして、視線をそらす。

 ウップス、やっちゃった。

 私は急いで資料を拾い、顔を隠すようにしながら、最後の都市伝説を確認する。

 三つ目「匂い女」

 今から七年前、この町は一人の女に支配されかけた。

 しかし、国家の特殊部隊がそれを鎮圧、夢であったと住人一人一人に催眠をかけたことで事件は終了した。

 説によると、鎮圧された女は、国際スパイとして活躍している。研究所でホルマリン漬けにされている。留置所にいる等々、女のその後に関する話ばかり。

 「へぇ~、って、私の事じゃないか!!」

 再び資料を地面に投げつける。

 心なしか先ほどよりも大きな音がした気がする。

「いつの間に都市伝説になっていたんだ」

拾い上げた資料に目を通すと、匂い女を探している人物がいるという。

ページをめくってみると、探している人物のリストがのっていた。

「うわ~、なんだこれ」

単純に匂い女をさがしている人や、さる研究施設が懸賞金をかけて探していたりと、結構な大事になっている。

その中でも、一際異色だったのは…。

「嗅ぎ男が探しているのは彼女だ」

という一文。

これだけが、仮名でも代名詞でもなく、固有名詞で書かれている。

「嗅ぎ男って、だれなんだ?」

おそらく、都市伝説の一種なのだろう。

目録を見ると、すぐに見つかった。

「嗅ぎ男」

目撃地域は市内全域、浮浪者のような姿で古びた小さな皮袋を持ち歩いている。

幽霊のように、背後に現れては匂いを嗅いで、「コレじゃない」と言って、去っていく。

説によれば、「匂い女を探している」らしい。

現れだしたのは、ここ数年であり、匂い女との関係は深そうだ。

「これって、ストーカー?」

感想はそれくらいだった。

顔をあげて周囲を見回すと、公園中の男性が私をみている。

それも、老若の区別なくだ。

「うん、わからん」

浮浪者風の男だけでも十人くらいいる。

こんな状態では、誰が嗅ぎ男かなんてわからない。

「これって、結構不味くないか?」

護身術はいくらか知っているが、襲われたらただじゃすまないだろう。

「なんだか、怖くなってきたな」

ついさっきまでは、ちょと便利な能力としか考えていなかったが、客観的にみるとかなり不味い。

中学の時は撃退できたが、当時は男女の身体能力に大きな差はなかった。

しかし、この年になると、大きな差ができる。

「う~し、帰るか」

うん、これ以上はいけない。

こんな状態で男に聞き込みなんてしたら、拉致されてピンクのお城に連れ込まれる。

真由には悪いが、友人の卒研より私の貞操のほうが重要だ。

ベンチから立ち上がり、速足で公園をでる。

すると、後ろから幾つか足音が聞こえてくる。

(ヤバイ、やばい、やばい)

必死にポーカーフェイス。

けれど内心は冷や汗が止まらない。

少し足を速めれば、後ろの足音も同じくらいに速くなる。

間違いなく複数人につけられている。

幸いにも、公園の近くに自宅がある。

走れば、いけるか?

路地裏を通れば、自宅前の通りには出られる。

しかし、そこで捕まれば……。

けれど、このままでは、あの集団が自宅前まで来てしまう。

しばし、迷ったが、走ることにした。

(ええい、ままよ)

早歩きで路地裏に入りダッシュ。

気付いた何人かのダッシュ音が聞こえたが。

ガラスの砕ける音とともに、聞こえなくなった。

おそらく、転んでガラスに突っ込んだのだろう。

(ラッキー、これで逃げきれる)

路地裏を抜けるとそこには私の家が…。

「あれ、無い」

無かった。

正確に言うと、舗装された道が真っ直ぐと、絵具を混ぜている最中の様な空間にぽつん、と残っている。

「……どこだ、ここ」

とりあえず元の路地裏に引き返そう、訳のわからん空間よりかは、人間の方が対処しやすそうだ。

クルリと振り返ると、今度は視界が真っ暗になった。

「にゃっ、にゃに~」

反射的にバックステップ、距離をとると、なんだ、真っ黒いボロボロの外套を着た浮浪者風で長身の男だ。

「ん、浮浪者風?」

男の手元に目を向けるとところどころに染みのついた古びた小さな皮袋が目に入る。

(浮浪者のような姿に古びた小さな皮袋を持った男)

嗅ぎ男だ。

「マジかよ」

空想だと思っていた。

ただの都市伝説だと、ただの変人だと。

しかし、対峙するとわかる。

これは人間じゃない。

幽霊とか亡霊とか、そういったホラーな存在だ。

嗅ぎ男は、私がいた場所の匂いを嗅いでいる。

帽子で目元は隠れているが、真剣に嗅いでいるのがわかる。

そして最後は、深呼吸のように一息に匂いを嗅ぐと。

ニタリとわらった。

「見~つけた」

おもちゃのスライムみたいに粘り気のある声だった。

「ヒっ」

恐怖で座り込みそうになる、それになんとか耐えて嗅ぎ男がいない方へと走り出す。 


続きは後で書く

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