(7)
担任が入ってくると同時に教室は静かになった。
元々騒いでいたのは俺らぐらいだったんだが。
担任は副担任と転校生を教卓の横まで連れてきて、口を開いた。
「あー、知っている者もいると思うが、今日からこのクラスに副担任と転校生がやってくる。 まずは転校生、挨拶をしてくれ」
なんて適当な。
こんなんで教師になれんのか。
転校生は担任を一度睨み(担任は面白いほどビビってる、真面目に働け)自己紹介を始めた。
フードを被りっぱなしで。
「秋時千刃って言う。 小六まではこっちにいたが中学時代はアメリカで過ごした。 親がハーフで髪の毛の色が赤だからフードをさせてもらってる。 これからよろしく頼む」
女子が歓声をあげてる。
見た目はマトモだからな。
ミステリアスだし。
「えー、自己紹介ありがとう。 とりあえず、窓側の一番奥に座っててくれ」
時は一度俺の方を睨み(俺の席は廊下側の最前列)指示された席へと向かった。
戦う準備だけは常時しておくか。
授業中に飛び掛ってくるとも思わないが。
「全員、仲良く。 では次に神藤先生、お願いします」
次に担任は新たに副担任としてやってきた人に自己紹介を促した。
「は、はい!」
肝心の副担任は緊張しているんだが。
「こ、このたびこのクラスに配属されることになった、し、しんどうひょひょりでふ!」
しかも名前噛むし。
神藤表梨。
天才射撃手、近接戦闘のプロフェッショナルという二つの戦闘スタイル。 あがり症。 拳銃乱射。
天壌市治安維持室の変人の中でも灯裏さんより遥かにイカれてる人だとは思う。
担任も困ってる。
今だけは同情してやる。
「えー、神藤先生は世界史を受け持つし、HRもたまに変わって貰う予定なのでよろしくお願いします」
この人にHRやらせるつもりなのか。
銃もたねぇと安定しねぇぞ、おい。
クラスが凄く居た堪れない雰囲気じゃねぇか。
気づけよ担任。
「では一時間目はLHRなので、学級委員の夏霧さん、お願いします」
丸投げかよ、裕也にお願いしてあの担任の社会的地位を下げよう。
もっとも、一時間目はもともとLHRだし、色々と決めないといけないこともあるから間違ってるわけじゃないんだけどな。
「では、LHRの時間に校内合宿の班を決めようと思います」
夏霧が早速やらないといけない事を言い始めた。
校内合宿。
異常が多すぎる土地、天壌市の中高で行われる防災訓練。
ありとあらゆる人災、天災を予測し校内で二泊三日過ごすという行事。
まあ、ほとんど新学年の親睦会みたいな感じだけどな。
「自由に班を決めたいと思うので、男女混合義務で五人一組作ってください」
クラスは元々二十九人。
それに転校生を足して三十人。
しかし、
「五人かぁ……」
自由部メンバー+一人って。
「裕也、あと一人誰を誘う?」
裕也は凄く不思議そうな顔で答えた。
「え、なんで僕と君が同じ班って決まってるの?」
「まさかの展開!?」
嘘だろ、俺はぶられてるの!?
「とりあえず決まっているのは、僕、亜織、姫美ちゃんだけだよね」
「いいじゃん、自由部メンバーで! 俺も考慮に入れて置けよ!」
「お願いするのに、その態度ってどうなのかしら?」
今までせっせに妄想に励んでいた亜織が会話に入ってきた。
「いいだろ、同じ部活の仲間だろ!?」
「親しき仲にも礼儀あり、よ?」
ヤバイ、凄く傷つきそうな気がしてきた。
「じゃあどうすればいいんだよ!」
「誠意をみしてくれればいいと思うわよ?」
…………くっそ。
「どうか、俺を校内合宿で同じ班にしてください」
腰を九十度に曲げた。
しかし
「無理よ、元々入っているもの」
全てをおじゃんにするような一言。
「今までの件はなんだったんだよ!」
「「嫌がらせ」」
「てめぇら表出ろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」
こいつら殺す。
「そこ、静かにしてください」
と思ったら姫に注意された、見逃せや。
「まあ、本題に戻るぞ。 もう一人誰にするんだ? 正直俺は誰でもいいんだが」
言ってから気づいた、今は誰でもよくないって事を。
一人以外誰でもいいって事を。
しかし、この二人を前に失言を取り戻す暇なんてある筈もなく。
「じゃあ、あと一人はあそこで凄く女子から勧誘を受けている転校生にしようか」
とてつもない班が出来上がってしまった。