8話:紫炎の魔法使い―出会い
翌日、すっかりユキネも治り、学校に登校していた。
それにしても、ここ最近を振り返ると、
「それにしても、よく襲われるよな。何か、悪い霊ででも憑いてんのかな?」
「そうかも……。昨日はどうやって、敵を追い払ったの?魔法使ったんでしょ?」
俺としては、ユキネにも俺の魔法を知られることを避けたいんだが。
「敵が逃げたって言ってるだろ」
そもそも、俺の本来の魔法は対軍隊向き魔法であって、対人向きではないのだ。あまり、使いすぎて弱点が露見しても困るしな。
「まあいい。助かったから」
「まあ、いずれ教えてやるよ」
そんな話をしながら教室に入る。
教室に入るといつものように影久が……って、あれ、影久がいない?
「なあ、影久は?」
クラスの女子、確か栗原さん、に聞いた。
「えっ。た、たぶん、佐薙さんと向こうで話してると思う、けど……。結構楽しそうだったよ……」
へ~、影久が珍しい。モテないことで有名なのに。
「お、ちょうど、本人いるから、本人に聞いたらどうです?」
ん?廊下から、少し、苛立った影久の声が聞こえた。またまた珍しい。女にはとことん甘い、影久が怒ってるなんて。
「ゴメン、本人に聞けないから君に聞いたんだけど」
「はぁ、でも、もう話せることないっスよ」
「うん、アリガト。じゃ、はい、これ、あたしからのお礼」
「え!?マジっスか!?」
何の会話かはよく分からない。しかし、影久が誰かのことを聞かれていたようだ。
それからすぐ、うきうき気分の影久が教室に入ってきた。
「よお、お前のおかげで、貰えたぜ。ありがとな」
どう言う意味だ?よく分からないことを言う奴だ。
「いや、佐薙さんがね、『篠宮くんのこと教えて』とか言ってきたからさ」
「俺のこと?」
「そうそう。滅茶興味深々だったぜ。相当好かれてるんじゃねぇの、お前」
そんなまさか。あんま話したことないし、それは無いだろ。
一つ心当たりがあるとすれば、昨日の件だろう。昨日、俺はいくつか気配を感じていた。しかし、襲ってきたのは一人だけ。だとしたら、あの複数の気配の中の一人だろうか。
佐薙が男の仲間かは、さておき佐薙に接触する必要がありそうだな。昼休みあたりに、探りを入れる事にしよう。
昼休み。俺は、佐薙に声をかけた。
「佐薙、ちょっと良いか?」
「えっ!?良いけど、何?」
いかにも、怪しい奴を見るような目で、俺を見る。だが、俺は臆することなく、目的を言う。
「いや、一緒にメシでもどうかと思って」
「え?……う~ん。まあ、いいけど……」
たっぷり、間があったが、どうやら、了承を得たようだ。
「じゃあ、屋上行くか」
二人で、屋上に来た。いつもは、人が数人いる屋上だが、あらかじめ人払いをしておいた(人払いと言っても魔法ではなく、入り口に『本日使用厳禁』と言う紙を貼っただけだが)。俺は、弁当を用意すると、早速本題に入る事にした。
「それで、何故、俺のことを調べているんだ?」
「え!?いや、それは、別に何でもないって言うか……」
慌てて水筒を落としそうになった佐薙だが、何とかキャッチした。
「じゃあ、聞く内容を変えよう。お前は魔法使いだな」
「えっ?なっ、何のこと?篠宮君、魔法使いなんて信じてるの?」
如何にも動揺した様子で、適当にごまかそうとしている。だから、俺は、鎌をかける事にした。慌てている精神状況で、まともに反論できる余裕があるはずないからだ。
「実は、知っているんだ。お前が、炎熱系の魔法を使うってことを。昨日も陽炎を使っていただろ?」
「え?何でわかったの!」
よし、かかった。予想だけで、根拠はなかったんだが、こうも見事に罠にかかるとは。間抜けだな。
「さて、じゃあ、お前に関する情報を洗いざらい吐いてもらおうか」
「ちっ。分かった。あたしは、紫炎の魔法使いよ。師匠は、炎魔」
俺は、意外な師匠の名に驚く。
「ほう、炎魔とは、有名どころじゃないか」
師匠とは、魔法を自分に受け継がせた人だ。いない人が多いが、中には俺や佐薙のように、いる場合もある。中でも、「木也」、「土御門」、「水素」、「風塵」、「雷帝」、「炎魔」、「黒減」などの有名どころがある。特に火、水、木、土、風の五属性の師は強い。つまり彼女は滅茶苦茶エリートだ。
「昨日は、あたしらのターゲットの気配感じて追ったら、あんたが魔法使ってるところに出くわしたのよ。だから、あんたについて調べてたの」
「なるほど。敵の調査か。ふぅん。馬鹿っぽく見えたから無鉄砲に突っ込むタイプだと思ったが、意外と慎重だな」
佐薙は、頬をピクピクと引きつらせている。
「あんた、あたしのことを馬鹿にしすぎよ。そもそも、あんた以外にも調べる対象がいるのに、あんま時間掛けられないんだから、あんたについても教えなさい」
俺は心の中で「そもそもの使い方違うくねぇか?」と思ったが、声には出さず、別のことを言う。
「分かったよ。俺についても話してやるよ」
しぶしぶ、と言う表情と仕草で話す。
「俺の魔法は【夜】だ」
俺の言葉に、佐薙は、
「夜?」
と首をかしげた。どうやら知らないらしい。やはり馬鹿か。
「【夜】は闇系の魔法の派生だ」
「闇系の?へ~」
派生と言うものは、元の魔法から、分かれた別の魔法のこと。魔法は、原則として、一人一つまでなのだ。だが、火の魔法が埋まっていても、炎の魔法があれば、似たようなものが使えるという原理になっている。そのため、火から炎や熱と言うような派生系が生まれる。
「ってことは影とか闇とかの魔法なんでしょ」
「まあな」
少し違うが一応頷く。
「お前の紫炎の魔法は、その名の通り、紫色の魔法。しかも、普通の炎の魔法よりも一撃の威力が大きい。ただし、魔力の消費量は、倍くらいになるらしいが」
「詳しいのね」
頬を膨らませながら佐薙が言った。
どうやら自分は、他の魔法についてよく知らないのに、俺がよく知っているのが気に食わないらしい。
「あんた、あたしのパートナーっぽくてうっとおしいところもあるけど、それ以外は、なかなかいいわね」
それだけ言ってたいらげた弁当を持って屋上から去った。
……あっ、あいつ水筒忘れて行きやがった。
「ったく、しかたねぇ」
俺は、佐薙の水筒も持って、教室に帰ることにした。